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バイオ燃料 -

目次

バイオ燃料、植物工場について調べた、考えたことをまとめる 

日本経済新聞 2011年4月3日 論説委員 滝順一氏が「いま科学者の役割は何か」と言う題で論説を書かれている。科学者は、2011年3月11日からの国家的危機を克服するためにどんな形でもよいから貢献することが求められている。 「何が多くの人、社会から求められているか」を考えなければならない。私に関係ある こととして、バイオ燃料がある。植物工場も関係があるかもしれない。そこでこれまで 調べてきた、考えたことをここにまとめて書き付けてみる。さらに新しく考えたことを 書き足している。

「バイオ燃料 実結ばず」「バイオ燃料 負の循環」「植物工場 厳しい経営実態」

日経産業新聞 2014/5/26 21面に、「バイオ燃料 実結ばず」という見出しの記事があった。複数の企業の共同でバイオ燃料(非食料植物由来のエタノール)の実用化を目指すプロジェクトが行われたが、とりあえずこのプロジェクトは終了と言うことになった。日経産業新聞 2015/5/13 には、1面カラーで「バイオ燃料 負の循環」という記事が掲載された。 

企業は儲からない事業をするわけにはいかないが、大学はそうではない。大学で細々と一見役に立たない研究を続けていれば、その成果がバイオ燃料の実用化につながるヒント、きっかけを企業の研究陣に与えるかもしれない。成果がプロジェクト打ち切りのきっかけを与えることもあるかもしれないが、それにも無駄なことをせずに済むということで価値があるだろう。この理屈だと「大学に大金を与えてはいかん。大金をつぎ込むなら技術力のある企業へ」ということになりかねないが、そうかもしれない。 英国で影響力増す「イノベートUK」

日本経済新聞2016/11/07 23面に産学連携について書かれていた。大学は「企業が思いつかないことを考え、言い出す」ことが使命であり、求められているらしい。

最近様々な企業が植物工場に進出するというニュースを多く見かける。もしかしたら植物工場が利益につながる可能性が見えてきたのかもしれない。それは私のような植物生理学者にとって嬉しい、有難い、長い間待ち望んでいたことである。

日本経済新聞 2015/08/19 5面 に、「植物工場 厳しい経営実態」という記事が掲載されていた。「黒字化 3割どまり」という見出しがつけられていた。しかし私のよくいくスーパーマーケットにも工場野菜(フリルレタス)が売られるようになった。スプレッドという会社のものだった。もちろん買って食べた。レタスは切り口がすぐに茶色になるが、工場野菜はその現象がほとんどなかった。普通生のレタスにはドレッシングを付けるが、工場野菜は苦みが全くなく何も付けなくても食べられるくらいだった。また冷蔵庫に入れておくと普通のレタスよりもずっと長持ちした。その後NKアグリという会社のものも、並べて売られていた。ついでだが同じ面には「企業ニーズと理工系教育にずれ」という記事もあった。その記事の元になったらしい報告書   http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/koutou/068/gijiroku/1360513.htm   理工系人材育成に関する産学官円卓会議(第1回) 議事録   

バイオ燃料は、当然だが燃料として燃やし熱源にするのが用途である。燃料の値段はできるだけ低いことが強く求められる。その問題に打ち勝つことは難しい。また、原油の値段は産油国の首脳たちの都合次第でいくらでも変えられると言うことが 2014 年後半から明らかになった。2020 年 3 月にも同じようなことが起きた。その後もそんなことばかりである。

科学技術・学術審議会 総合政策特別委員会  http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/gijyutu/gijyutu22/index.htm    野依先生が主査となって、今後の日本全体の科学技術政策について審議が行われている。材料科学で優れた成果を上げている細野秀雄先生も忌憚のない意見を述べられている。 議事録を読むと、今後しばらくは材料科学が重点分野になるように思える。 材料=マテリアル科学は工学、化学、物理の広い範囲にまたがる重要分野である。ソフトマテリアルも含めれば生物学もその範疇に入る。生物でもカルシウムとシュウ酸で微細な結晶が細胞内で生成することもある。珪藻はシリカを主成分にしたとても強度が高い殻を細胞の周りに作る。珪藻土として様々な分野で使われている。それらには材料科学から見た有用性があるかもしれない。 バイオ燃料ではなく、もっと高い付加価値を付けた生物由来マテリアルの創成を目標にしたらよいのかもしれない。またバイオ燃料を作成した残渣でそういうマテリアルを作れればもっとよいだろう。

生物由来材料科学

もちろんすでにこの分野でも優れた研究が多数行われている。

日本経済新聞 2019/5月6日(月) 第4面に「原料危機に挑む花王」という記事があった。界面活性剤には様々な種類があるが、洗剤の洗浄成分として使われる界面活性剤はヤシの実に含まれる脂質から作られる。ヤシの実の脂質のうちで洗浄力が高い界面活性剤の製造に使えるものは限られていて、今まで残りの成分は活用できなかった。また今後ヤシの実の供給が不足する可能性が指摘されている。技術革新によって今まで使えていなかった成分からも洗浄力が高い界面活性剤を製造できるようになったと紹介されていた。花王の Web ページで紹介されている。  https://www.kao.com/jp/corporate/research-development/fundamental/material-science/bio-ios/  日経新聞の記事ではさらに今後の目標として、藻類を培養して得た脂質から界面活性剤を製造することを試みていると書かれていた。

日本経済新聞 2022年3月21日(月) 第5面に「ホンダ、藻類の外販検討」−今秋にも大規模施設− という記事があった。

日本経済新聞 2023年6月16日(金) 第16面に「藻類から燃料 CO2 実質ゼロ」というタイトルの記事が掲載されていた。

「有用藻類を高塩濃度、酸性下で増やせ!」 https://www.nig.ac.jp/nig/ja/2020/08/research-highlights_ja/pr20200824.html 国立遺伝学研究所 宮城島先生のグループの研究紹介   宮城島先生が成果を上げてきた藻類に関する純正基礎研究・学術的な見地からの優れた成果が、企業による物質生産などの応用研究の基盤・きっかけとして活用され始めている。

https://www.harima.co.jp/pine_chemicals/   ハリマ化成「パインケミカルの基礎知識」  ハリマ化成でも藻類を用いた有用物質生産の研究が行われている。  https://www.harima.co.jp/hq/one_hour_interview/118/index.html  大阪大学大学院 村中俊哉教授との共同研究の紹介   松ヤニだけでなく、松の木から得られるトール油も植物由来樹脂の材料などになり用途が広い。

微生物は様々な低分子、高分子を作り商品化されているものが多数ある。酢酸菌が作るバクテリアセルロースはスピーカーの振動板として使われた。  株式会社ケンシュー「古くて新しいセルロース」  セルロース以外にも、生物由来高分子材料などに関してとても勉強になることがコラムとして連載されている。

日本経済新聞 2021/05/25 第16面に「住友化学、スマホ用フィルム AI駆使し微生物から」という記事があった。ヒアリンという商品名の、透明性や耐久性に優れた特性を持つフィルムを、微生物が作った原料から製造することに成功したと書かれている。それだけなら以前からありそうなことだが、微生物をゲノム編集で改変してそれによる影響をデータベースにまとめて AI で分析したという、今はやりのキーワードがたくさん入っているところが魅力的で資金を引きつけるらしい。

日本経済新聞 2022/01/10 第5面に「王子HD、木材からプラスチック」という見出しの記事があった。食用植物を原料にしてプラスチックを作ることは、食料価格の高騰につながる可能性があり望ましくない。木材を原料にすることでこの問題を解決できる。他の化学会社も様々な生物由来原料からのプラスチックの生産を試みていることが紹介されている。松の木から得られるトール油も植物由来樹脂の原料になる。問題点として製造コストがある。「バイオプラ 価格の壁なお」と書かれている。

日本経済新聞 2021/4月5日(月) 11面に「飲む核酸医薬に道 果汁の微粒子活用」という記事があった。東京医科大学の黒田、梅津先生のグループの研究で、アセロラの果汁を濾過して取り出した微粒子をカプセルとして内部に核酸医薬を取り込ませる。それによって安定になり、経口投与しても消化されにくくなり体内に効率よく運ばれて強い医薬作用を示すようにできた。

化学と生物(日本農芸化学会会誌)Vol.61 (2023) No.2 に「食品中のナノ粒子に関する機能性研究」 / 山粼 正夫, 山粼 有美, 大島 達也 各先生による解説が掲載されていた。植物組織からナノ粒子を取り出すことができ、その内部には miRNA などの機能性分子が含まれていること、それらのナノ粒子は食品として摂取することで生体調節機能を果たすことが示された。

カイガラムシが作る天然樹脂で様々な用途がある。日本シェラック工業という会社もある。

分子よけ:コレステロールの動きがトビムシに汚れが付かない皮膚を与える  2023年6月22日 Nature 618, 7966  という記事があった。皮膚に存在する多数のコレステロール分子の向きが揃うと汚れが吸着しやすい。しかし分子の向きが全部揃った状態はエントロピーが低いので、その状態には熱力学的になりにくい。そのためコレステロールの向きはランダムになり皮膚に汚れを付きにくくする。「著者たちは、この知見は、吸着を抑制する材料の開発に役立つ可能性があると示唆している」と書かれている。

大気中の CO2 を固定して CO2 濃度を下げることは社会的、経済的にとても重要な問題になっている。バイオマスから炭を製造し、それを農地などで土壌改良材にすることで CO2 を地中に長期間貯蔵できる。日本経済新聞 2022/8/9 15面に、総合商社の丸紅がこの方法で削減した大気中 CO2 の権利(カーボンクレジット)を販売する事業を始めたと書かれていた。

炭には植物の生育を改善する効果もある。Biochar potentially enhances maize tolerance to arsenic toxicity by improving physiological and biochemical responses to excessive arsenate  https://link.springer.com/article/10.1007/s42773-023-00270-6  という論文が公開されている。

第63回リグニン討論会ホームページ:   http://web.tuat.ac.jp/~lignin63/index.html

リグニンは細胞壁の主要成分として重要な高分子である。とくに二次壁において力学的強度を与える役割を果たす。親水性が強い多糖類とは異なり、疎水性も持ち合わせる。リグニンは材料科学の見地からも重要な高分子であり、優れた研究が進んでいる。

このことに関するすばらしい研究成果が解説されている。植物は毒針で昆虫を撃退する? シュウ酸カルシウム針状結晶とシステインプロテアーゼの劇的な相乗的殺虫効果   今野浩太郎先生 (農業・食品産業技術総合研究機構生物機能利用研究部門昆虫制御研究領域昆虫植物相互作用ユニット) による解説   化学と生物(日本農芸化学会会誌)2016 年 11 月号

植物が作るシュウ酸カルシウムの結晶は様々な形をしているが、鋭くとがった針状のものが多い。それによってシステインプロテアーゼなどがもつ殺虫効果を相乗的に強くすることが示されている。 単なるシュウ酸カルシウムの結晶はプリズム状で、鋭くとがった針状にはならない。 とがった針状の結晶を形成するには、植物が作るタンパク質・何らかの他の分子が働いていると考えられている。研究が進んでいるが、まだ十分には解明されていないと書かれている。 バイオプラスチックの場合、細胞内に形成されたポリマーの顆粒表面に、いくつかのタンパク質が付着している。バイオ燃料の油滴も表面を様々な分子が取り囲んでいる。細胞内のシュウ酸カルシウムの結晶にも付着した分子があるだろう。

人間の場合、尿酸が針状結晶を形成して痛み(痛風)を引き起こすと、ある病院の Web ページで紹介されていた。尿酸が生体内で結晶を作る際も、何らかの別の分子が作用することで針状の結晶を作るのかもしれない。もし本当にそうなら生体内での針状結晶生成について研究することで、そういう分野にも役立つかもしれない。日本経済新聞2019/03/01 29面に、「尿路結石治療、隕石研究も活用」という丸山氏のインタビュー記事が掲載されていた。結石はシュウ酸カルシウムが主成分で形状や性質は多様である。隕石を分析する手法を生かして内部を調べることで様々な情報を得られると書かれていた。

結晶の形成は熱力学の観点から研究することができる。熱力学の研究で優れた成果を上げている佐々先生が、「非平衡環境下で結晶にならずに準安定状態を保っているが、環境の変化で結晶化する」と痛風について考察されていた。外界と熱のやりとりがない容器内と、外部から継続してエネルギーが供給、放出される生体、血流、細胞内では異なることが起きうる。 植物でも細胞内で原形質流動が起きて細胞質が攪拌され流れを生じている。根から吸い上げた水分は茎の維管束を流れ、葉の気孔から蒸発する。気孔が閉じれば流れも停止することになる。「生体内の結晶形成と流れ」の関係にどんな関係があるのか、生物学的にも調べることは可能かもしれない。生物の細胞内には代謝の流れがある。電子伝達系では電子が流れ、それと共役して水素イオンが流れて濃度差を形成する。熱力学は流れを取り入れたものに進歩している。生物でも研究が進んでいる。

http://www.jst.go.jp/pr/announce/20131112/   「植物の大きさを制御する新たな手法を発見〜植物の原形質流動の本質的な役割を解明〜」理化学研究所 光量子工学研究領域の富永 基樹 専任研究員らのすばらしい研究成果

化学と生物 2017 年 10 月号に、ヒザラガイの磁鉄鉱形成メカニズム 根本先生による解説が掲載されていた。化学と生物 2023 年 9 月号には、 オミクス解析に基づく生体鉱物形成関連タンパク質の同定環境調和型の機能性材料合成法の開発を目指して  根本先生による解説が掲載されていた。

化学と生物 Vol. 55, No. 3, 2017 に、アコヤガイ貝殻の蝶番部靭帯の微細構造形成メカニズム - バイオミネラリゼーションによって炭酸カルシウムナノファイバーができるしくみ 鈴木道生先生による解説が掲載されていた。二枚貝の蝶番部に存在する靭帯は繊維状の炭酸カルシウム結晶(アラゴナイトと呼ばれる多型)を成分としている。結晶は有機物で覆われており、結晶自体も有機物を含んでいる。その分析から、結晶形成に必要な新規ペプチドを発見し繊維の形成メカニズム(短い結晶を並べることで繊維を作る)を解明するという優れた成果が得られている。

http://www.applc.keio.ac.jp/research/material.html   慶應義塾大学理工学部マテリアルデザイン分野の研究紹介 「バイオミネラルがナノサイズの微小な結晶ブロックの集積体である」ということが紹介されている。

日本経済新聞 2023年7月7日 14面に、「王子HD、樹脂の新素材 木の成分配合、地中で分解」という見出しの記事が掲載されていた。生分解性プラスチックにセルロースを混ぜることで生分解性と耐久性を両立できる。また射出成型ができる。石油由来のポリプロピレンやポリエチレンよりは高価になると書かれている。

植物が生産するセルロース繊維の太さは数十マイクロメートルである。これはセルロースのナノファイバー(ミクロフィブリル)が集合してできている。これを微細なナノファイバーに分離する。 そうすると様々な有用な性質を持ったバイオマス素材になる。

紙パ技協誌 2013年6月号 木材パルプから得られるセルロースナノファイバーの特性と応用展開 磯貝 明先生による解説  J-stage で公開されている。セルロースナノファイバーを作るにはいろいろな方法がある。磯貝先生のグループは化学修飾によってナノファイバーを解離しやすくする、独自のすぐれた方法を開発している。

セルロースは様々な化学修飾をすることができる。化学修飾の種類を変えると、生成するセルロースナノファイバーの物性も変化して、より機能性が高いものを用途に合わせて作れるらしい。

日本経済新聞 2015/08/14 11面に、「植物から新素材 量産へ」というタイトルで、セルロースナノファイバーに関する記事が掲載された。今のところ製造コストが高く、今後の改善が見込まれているらしい。2016/08/08, 8/18, 10/25, 12/5 にも記事が掲載された。2017/09/26 に、「Biz Frontier 新素材」という特集でセルロースナノファイバーが取り上げられた。金属イオンを吸着させることで消臭効果を持たせられる。 2022/03/29 に、「エコ素材新潮流」という特集でセルロースナノファイバーが取り上げられた。やはり「課題はコストだ」と書かれている。

https://www.nedo.go.jp/content/100941420.pdf NEDO海外技術情報(2022 年 1 月 21 日号) に、セルロースナノファイバーやリグニンを活用した電池などに関して紹介されていた。

三菱鉛筆から「セルロースナノファイバー配合インク」を採用したボールペンが発売されていたので購入した。書き心地は非常によい。実験ノートを書くのに適している。

バイオ燃料を製造した残渣でセルロースナノファイバーを作れると都合がよいだろう。しかしコストが低くないと意味がないのだろう。 「ナノファイバーを作りやすいように植物、藻類の細胞壁を改変する」ということも考えられる。ナノファイバーはセルロースから作られるだけでなく、キチン、キトサンからも作られたものが販売されている。藻類の細胞壁は人類にとって役に立ったという話はあまり聞かない。藻類の細胞壁をナノファイバーを作れるような有用なものに改変し、その藻類を培養してまずバイオ燃料を作り、残りかすからナノファイバーを作ることができればよいが、難しいだろう。

日本経済新聞 2023/4/8 第15面に、「JAMSTEC と IHI の研究グループは、ラン藻(シアノバクテリア)が金属を吸着する性質を生かして温泉水からの効率のよい金の回収に成功した」という記事があった。

昔からエクスパンシンや Swollenin といったタンパク質が知られている。これらはセルロース繊維の水素結合をほぐすという活性がある。低濃度のセルラーゼでセルロースを分解しようとする反応条件では、活性を補助することができるらしい。しかし実用化されたという話は聞いたことはない。

セルロースナノファイバーをうまく処理してカーボンナノチューブやカーボンナノファイバーに変換することは可能だろうか。セルロースナノファイバーを植物に与えると生育にどんな影響があるだろうか。  https://www.tsukuba-sci.com/?p=9612  ダイズのさび病被害半減も ― バイオマス素材が有効:筑波大学  筑波大の石賀康博助教らによるすばらしい研究成果  つくばサイエンスニュースで紹介されていた。   https://www.tsukuba.ac.jp/journal/biology-environment/20210907140000.html   プレスリリースでは、「中越パルプ工業株式会社・丸紅株式会社との共同研究」と紹介されていた。

日本経済新聞 2020 年3月18日(水) 20面に明治大学の広告が掲載されていた。小山田先生による「ミドリムシを使って、二酸化炭素から"ちょっと高いもの"を作る」という講演が紹介されていた。コハク酸はバイオプラスチックの原料になり社会的意味が大きい。

http://gei.co.jp/ja/   Green Earth Institute 株式会社

炭素量子ドット

カーボンドットは中央に炭素のコアがあり、その表面にアミノ基、カルボキシ基、ヒドロキシ基、塩化カリウムなどが露出した構造をしている。  https://www.yokohama-cu.ac.jp/news/2021/202111tachibana_acp.html  「天然物由来のカーボン量子ドットの光デバイス化に成功」 横浜市立大学大学院生命ナノシステム科学研究科の橘 勝 教授、鈴木 凌 助教らの研究グループによるすばらしい成果    リン脂質は自発的にミセルや二重層などの構造を形成する。カーボン量子ドットの、中心に炭素が集合していて表面に親水性が高い官能基が集まっている様子はリン脂質のミセルと少し似ている。しかしリン脂質が形成するミセルの内部にはすきまがあるが、カーボンドットの内部の炭素原子は強く結合してコアを形成している。 https://www.s.u-tokyo.ac.jp/ja/press/2022/8127/   「純青色発光量子ドット(QD)の精密合成と電子顕微鏡による原子レベル構造決定」 これはコアが鉛原子などでできている量子ドットだが 図4 にコアと表層を示した図面がある。総説もあった。 https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fchem.2019.00671/full 

カーボンドットはセルロースの水酸基と水素結合する。それを利用してセルロース粒子とカーボンドットが結合した複合材料を作れる。複合体になることで安定化し蛍光の量子収率が高くなる。化学繊維に蛍光を発する分子、結晶を結合させることで機能を持たせる研究も行われている。   https://ir.lib.hiroshima-u.ac.jp/files/public/4/40321/2016060913394637040/k7020_3.pdf   岩崎博士の博士論文 この博士論文の表 4.6では、オレンジジュースを原料としてカーボンドットを合成した例が紹介されている。クエン酸や尿素を主原料として蛍光を発するカーボン材料が合成されている。植物の葉を原料としてカーボンドットを作成したという論文もあった。 https://pubs.rsc.org/en/content/articlehtml/2013/tc/c3tc30701h   バイオ燃料を製造した残渣も原料になるかもしれない。

https://pubs.rsc.org/en/content/articlehtml/2017/nr/c7nr03217j   Multifunctional carbon dots for highly luminescent orange-emissive cellulose based composite phosphor construction and plant tissue imaging

生きた植物にカーボンドットを与えると、細胞壁のセルロースと結合して蛍光ラベルできる。633 nm の蛍光を発する。励起光は広い範囲の波長が有効に働く。水に分散した溶液に浸すだけで植物体内に吸い上げられ、粒子が小さいので組織の中心部まで拡散しやすい。重金属を用いた量子ドットと比べると生物に対する毒性が低いという利点がある。普通の蛍光色素とは異なり退色しにくい。

「作物の地中の根の動きを見える化する装置を開発」つくばサイエンスニュース https://www.tsukuba-sci.com/?p=9430  根の様子を観察することは植物の生育を改善するために役立つが、地中に埋まっているので観察しにくい。透明なアクリル板で薄い箱を作り、土を入れて育成する方法がある。カーボンドットで蛍光ラベルすれば少し見やすくできるかもしれない。

カーボンドットを用いた分子センサー

カーボンドットを高分子と結合させることによって、その高分子にかかった力に応じて蛍光が変化するセンサー機能を持たせるという研究もあった。   http://mzaidan.mazda.co.jp/results/science_serach/2017.html

カーボンドットを農薬に対するセンサーにできたという論文があった。   Carbon dots derived from water hyacinth and their application as a sensor for pretilachlor.   Deka MJ, Dutta P, Sarma S, Medhi OK, Talukdar NC, Chowdhury D. Heliyon. 2019 Jun 29;5(6):e01985. doi: 10.1016/j.heliyon.2019.e01985. PMID: 31338457    

同様な分子センサー機能をもつカーボンドットの研究例が多数発表されている。

サリチル酸のセンサー:  A novel ratiometric fluorescent probe based on dual-emission carbon dots for highly sensitive detection of salicylic acid   Spectrochim Acta A Mol Biomol Spectrosc.   2023 Dec 15:303:123232. doi: 10.1016/j.saa.2023.123232. Epub 2023 Aug 4.   Lizhen Liu など   PMID: 37562209

A novel ratiometric fluorescent probe for detection of l-glutamic acid based on dual-emission carbon dots   Talanta. 2022 Aug 1:245:123416. doi: 10.1016/j.talanta.2022.123416. Epub 2022 Apr 10.   Lin Yuan など   PMID: 35427947

カーボン量子ドットは炭素だけでなく表面にアミノ基、カルボキシ基、水酸基などが露出している。そのことによって選択性を持ったセンサーとして使うことが可能になるらしい。

グラフェン量子ドットというものもあり、赤外線で励起され、可視光を蛍光として放出すると書かれている。   https://www.atpress.ne.jp/news/103457   (株)富士色素 のプレスリリース   バイオイメージングへの応用が試みられている。この粒子に、網膜と結合しやすい性質を持つ分子を結合させてネズミの目に投与したら、そのネズミの目は赤外線を感知するようになったという科学記事があった。  https://www.nature.com/articles/d41586-019-00735-4  「Night-vision ‘super-mice’ created using light-converting nanoparticles」 植物なら葉の細胞にこの粒子を押し込めれば、赤外線で光合成できることになる。

カーボンドットは比較的最近発見された素材である。炭素、窒素を主な成分とする。尿素とクエン酸がよく用いられる。尿素は肥料の成分として植物に与えられる。クエン酸は植物が合成し、細胞外に分泌することもある。合成には今のところ高温、またはプラズマのエネルギーを用い反応させる必要がある。カーボンドットの研究がもっと進んで、カーボンドットを生成する反応に対する触媒が開発できれば植物細胞にカーボンドットを作らせると言うことも夢ではなくなるかもしれない。植物が根から分泌するクエン酸は不溶性の無機化合物を溶解する働きがあると考えられている。もしかしたら植物が細胞外に分泌したクエン酸を元にしてカーボンドットのようなものが生成しているかもしれない。

植物や動物の遺体は土壌中で分解され、さらに高分子化して腐植物質 Humic substance というものになる。腐植物質は不均一性の高い高分子混合物の総称で、土壌に含まれることで植物の生育を促進する。  https://www.denka.co.jp/product/detail_00066/  デンカ株式会社は独自の処理方法で生育促進効果を高めた製品を開発している。  腐植物質も炭素と窒素を含んでいる。蛍光を発する性質もある。カーボン量子ドットが蛍光を発するメカニズムについては、上で引用した岩崎博士の博士論文で考察されている。腐植物質が蛍光を発するメカニズムについてはあまり研究されていないらしい。

https://www.sigmaaldrich.com/JP/ja/technical-documents/technical-article/materials-science-and-engineering/biosensors-and-imaging/graphene-quantum-dots   「グラフェン量子ドット特性、合成および用途」シグマアルドリッチによる解説  腐植物質と石炭には関係があるが、石炭からグラフェン量子ドットが製造されていると書かれている。

http://wps.itc.kansai-u.ac.jp/colloid/research/sub03   関西大学化学生命工学部  界面化学研究室

https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2020.05.22.110171v1.full.pdf  Effect of nanocarbon molecules on the Arabidopsis thaliana transcriptome   Norihito Nakamichi など   ナノカーボン分子を植物に与えたことによる遺伝子発現の変化を調べた結果  

カーボン量子ドットは炭素だけでなく表面にアミノ基、カルボキシ基、水酸基などが露出している。そのことによって炭素だけの粒子よりも多様な反応性、生体への作用などが期待できる。

紫外線を可視光に変換するナノ粒子はバイオスティミュラントとして働く?

Biostimulants はヨーロッパを中心に世界中で注目を浴びている新しい農業資材の総称であり、植物や土壌により良い生理状態をもたらす(特にストレス耐性の向上)様々な物質や微生物のことを指す。日本でも実用化が進められている。  https://www.japanbsa.com/index.html  日本バイオスティミュラント協議会

バイオスティミュラントには様々な種類がありそれぞれ作用機構が異なると考えられている。

植物の種子を原料としてカーボン量子ドットを作成したすばらしい研究が発表されている。   https://www.yokohama-cu.ac.jp/news/2020/202007tachibana_SR.html   「天然物からの蛍光性炭素量子ドットの高効率合成に成功 〜蛍光タンパク質結晶の作製に応用〜」 横浜市立大学 橘教授らの研究グループの成果  紫外線で励起されると青い蛍光を発生する。ビニールハウスの周囲に量子ドットを含有するフィルムを貼り付けることで紫外線を光合成に有効な光に変えるという方法がすでに行われているという一般向けニュースがあった。 https://gigazine.net/news/20200609-quantum-dots-speed-plant-growth/   https://foodtech-japan.com/2020/12/31/ubiqd/   屋内で蛍光灯を使って栽培するなら、ランプの回りにこのフィルムを巻き付ければ紫外線を減らしながら有効な光をより多く当てられて効果があるかもしれない。

2022年にも同様な論文が出ている。  Plant growth acceleration using a transparent Eu3+-painted UV-to-red conversion film   Sci Rep. 2022 Oct 26;12(1):17155. doi: 10.1038/s41598-022-21427-6.  Sunao Shoji  など   PMID: 36289255   PMCID: PMC9605945

上に書いた例のように、紫外線を可視光に変換するナノ粒子は紫外線によるダメージを低下させ光合成を促進することでバイオスティミュラントとして働くのかもしれない。

カーボンドットによる植物の生育促進

Sustainable agronomic response of carbon quantum dots on Allium sativum: Translocation, physiological responses and alternations in chromosomal aberrations   Environ Res. 2022 Sep;212(Pt E):113559.   doi: 10.1016/j.envres.2022.113559. Epub 2022 Jun 1.   Anjali Vijeata など  PMID: 35660407    P-CQD と名付けられた、パルプを原料にしたカーボン量子ドットは植物によく取り込まれ、成長が少しよくなる。

Regulation Mechanisms of Carbon Dots in the Development of Lettuce and Tomato   Erfeng Kou など   Cite this: ACS Sustainable Chem. Eng. 2021, 9, 2, 944–953  https://doi.org/10.1021/acssuschemeng.0c08308

http://www.okayama-u.ac.jp/tp/release/release_id74.html   岡山大学大学院自然科学研究科の高田潤特任教授、橋本英樹助教らのグループのすばらしい研究成果

ナノ粒子に関するこういう論文もあった。    Secondary Metabolites in the Green Synthesis of Metallic Nanoparticles.    Marslin G, Siram K, Maqbool Q, Selvakesavan RK, Kruszka D, Kachlicki P, Franklin G.   Materials (Basel). 2018 Jun 3;11(6). pii: E940. doi: 10.3390/ma11060940. Review.   PMID: 29865278

Nature Volume 554 Number 7691 pp145-264 に、「密度と強度がより高くなった木材 Wood made denser and stronger 」という記事があった。植物を生き物として研究するだけでなく、 材料として研究することも盛んに行われ、産業にも結びついている。

細胞壁エンジニアリングによる、持続可能な構造物質としての軽量、丈夫、かつ成形可能な木材   Shaoliang Xiao, Chaoji Chen, Qinqin Xia and more   https://www.science.org/doi/10.1126/science.abg9556  という記事があった。木材の構造(導管 vessel 維管束組織 vascular bundle, vascular tissue があり、その周りに厚い細胞壁が発達している)をうまく利用している。リグニンを部分的に分解し乾燥させて全体をシュリンク 縮んだ状態にする。その後に急速に水分を導入すると導管の部分は水を吸って空間ができるが細胞壁は縮んだままになる。それによって強度が増し、しかも導管の構造と空間があることで方向性・異方性を持ち軽量で変形しやすく成形可能な使いやすい生分解性材料になる。

たくさんの薬用植物が輸入され、胃腸薬などの薬の原料になっている。最近購入コストがどんどん高騰しているそうである。薬用植物を植物工場で生産するという試みも始まっているらしい。 この場合いくら効率よく生長しても目的の薬用成分が十分な量生産されなければ意味がなくなる。 むしろ生育が悪い方が薬用成分が増えそうな気もする。わざと植物にストレスを与えることで薬用成分を増量するという手法が開発されている。薬用成分の効率的な生産を達成するためには植物生理学の研究から得られているたくさんの知見が役に立つだろう。 大きなプロジェクトが進行している。   http://www.nedo.go.jp/events/report/ZZEF_100005.html   「植物等の生物を用いた高機能品生産技術の開発プロジェクト」

日本経済新聞 2016/11/17 14 面に、「甘草 栽培期間 半分に」という、王子製紙HD の成果に関する記事があった。甘草が作るグリチルリチン酸に関する研究は、植物生理学者によってすばらしい成果がいくつも発表されている。この研究は順調に進んでいるらしく、日本経済新聞 2023/10/25 17 面に、「王子HD、国内で漢方原料」という見出しで甘草の大規模栽培事業に関して記事が掲載されていた。この間購入したシャンプーにも原材料の一つにグリチルリチン酸と書かれていた。記事でもそのことが紹介されている。

バイオ燃料をおちょこ一杯分作っても何の役にも立たない。しかし薬ならおちょこ一杯でも十分役に立つことがある。その点から言うと薬成分を作らせる研究をした方がよいに決まっている。

日本経済新聞 2023年6月19日(月) 第7面に「植物由来プラ原料 量産へ」という見出しの記事があった。「バイオエタノールは世界で年 1000 億リットル作られる」と書かれている。バイオエタノールを原料としてプラスチックの基礎原料を作ると書かれている。

植物からバイオエタノールを製造するには植物を育成する必要がある。植物を育成するには肥料が必要になる。大量のバイオエタノールを製造する際に、どれくらいの肥料が必要になるのだろうか。バイオエタノールを製造した残りかすを肥料として再利用できるのだろうか。特に重要な肥料成分であるリンはそのうち枯渇する可能性があると問題になっている。大丈夫なのだろうか。

・「微生物が作る世界最強の透明バイオプラスチック」 http://scienceportal.jst.go.jp/clip/20160519_01.html   金子達雄(かねこ たつお)北陸先端科学技術大学院大学教授ら、高谷直樹(たかや なおき)筑波大学生命環境系教授らによる素晴らしい成果

4アミノケイ皮酸という化合物を微生物に作らせモノマーとして、ポリマーにしている。植物でケイ皮酸の4位に水酸基が付くことはあるが、アミノ基が付くことはない。

・ BS1 の海外ニュースで「ゴムの木以外の植物から天然ゴムのようなポリマーを取り出す」という研究が紹介されていた。ロシアタンポポという植物の根をすりつぶして簡単な処理をすると、ゴムができあがっていた。検索すると様々なサイトで紹介されている。また科学的な研究も進んでいる。オハイオ州立大 PENRA プロジェクトのページ http://u.osu.edu/penra/

学名は Taraxacum kok-saghyz というらしい。こんな論文がある。

Altered levels of the Taraxacum kok-saghyz (Russian dandelion) small rubber particle protein, TkSRPP3, result in qualitative and quantitative changes in rubber metabolism.   Collins-Silva J, Nural AT, Skaggs A, Scott D, Hathwaik U, Woolsey R, Schegg K, McMahan C, Whalen M, Cornish K, Shintani D.   Phytochemistry. 2012 Jul;79:46-56. doi: 10.1016/j.phytochem.2012.04.015. Epub 2012 May 19.   PMID: 22609069

https://car.watch.impress.co.jp/docs/news/533624.html   「ブリヂストン、新たな天然ゴム資源「ロシアタンポポ」の研究を加速 2020年以降の製品化を目指す」 2012年5月17日発表   その後の進展が期待される。生産性が低いという課題があるそうである。物事にはトレードオフというものがついて回る。その根底には熱力学がある。 「天然ゴムより高性能の合成ゴム、ブリヂストンがバイオマスから生産」http://monoist.atmarkit.co.jp/mn/articles/1612/14/news055.html   植物にゴムを作らせなくても、その原料となるイソプレンを作らせてその後は人間がうまく合成すればよいということらしい。イソプレンの合成を効率よく行えればよいことになる。「日本ゼオン、横浜ゴム、理化学研究所 バイオマスを原料とした合成ゴム(ポリイソプレンゴム)の新技術を開発」http://www.zeon.co.jp/press/150903.html

この研究はその後も発展を続けている。 https://bzp.riken.jp/futurenavi/20210707/   「持続可能な社会を目指して - 長い時間を積み重ねてきたバイオ生産の技術」   https://bzp.riken.jp/   https://algae-tech.jp/

「トマト酵素 ゴムの強度高く 住友ゴム、品種改良で分子構造変更」 2022/08/05 日経産業新聞  長いイソプレン鎖を作ることができるように酵素を改変する研究が成功している。反応速度を高めること、天然ゴムと異なる分子構造を持たせることもできている。

木材の粉末からレブリン酸という化学品原料を効率的に作る技術が開発されたことが報道されていた。「木粉から化学品原料」日本経済新聞 2018年8月27日(月) 産総研富永健一チーム長グループと宇部興産の研究 同じ面には植物のゲノム編集の記事がある。しかし元々植物というものは極めてうまくできているものである。それをさらに改良しようとしても改良の余地は少ないかもしれない。改良するなら植物工場のように育成環境を自然界とは異なる人工的な状態にして、それに合わせた機構にする必要がある。それよりも植物はそのまま原料にして、その後の処理を効率よくする方が合理的なのかもしれない。

ポリアミンによる未知の光合成促進 *坂田剛(北里大), 安元剛(北里大), 中野隆志(富士山科学研), 佐藤駿一(北里大), 末弘宗滉(北里大), 杉村尚倫(北里大), 松山 秦(北里大), 神保 充(北里大), 渡部終五(北里大)   http://www.esj.ne.jp/meeting/abst/62/PA2-075.html   日本生態学会第62回全国大会 (2015年3月、鹿児島)

「平成23年度 二酸化炭素回収技術高度化事業 」http://www.meti.go.jp/meti_lib/report/2012fy/E002128.pdf ポリアミンは二酸化炭素を吸収する能力が高い。実験と計算化学を組み合わせて効率よく、確かな基盤を元に解析している。

日本経済新聞 2021年12月24日 第16面に、「空気中 CO2 直接「大回収」へ」という見出しの記事があった。「IHI は22年8月から、DAC(ダイレクトエアキャプチャー)で回収した CO2 を植物工場で活用する試験を始める」と書かれていた。固体のアミンで一日に 3 キログラムの CO2 を回収できる。「並行して魚の養殖も行う」と書かれていた。

http://www.spiber.jp/   スパイバー   2024年4月12日(金)の日本経済新聞 第17面に、「環境負荷が低い新素材を開発するスパイバーは植物由来のバイオマス原料を使った繊維を大幅増産する」と書かれていた。

NEDO 海外レポート NO.1123, 2018.11.09. に「生合成スパイダーシルク」の記事が掲載されていた。

クモは空中を飛ぶことによって遠距離を移動できる。その際には、大気中の電場の勾配を利用して飛翔のエネルギーに使っているということが Science 誌に紹介されていた。

Up through the atmosphere   Caroline Ash    Science 17 Aug 2018: Vol. 361, Issue 6403, pp. 658-659   DOI: 10.1126/science.361.6403.658-e

静電気で小さな粒子が飛び上がるようなものなのだろう。植物の葉の鋭くとがった先端は、強い電場を発生する電極のように働くと書いてある。

植物自体も電場の影響を受けるかもしれない。植物工場なら試せるかもしれない。菌類に対する電場の効果はすでに実用化され、紹介する資料がいくつも見つかる。

NEDO 海外技術情報平成29年12月28日号 www.nedo.go.jp/content/100872139.pdf で、「「海の至宝」で太陽エネルギーを強化 」という記事があった。珪藻をナノ構造のシリカ(ガラス)の殻として用い、光を捕獲拡散するナノ構造を有機太陽電池に付加して効率向上に役立てる。

http://www.hucc.hokudai.ac.jp/~c20323/index.html 北海道大学水産科学院生物有機化学研究室で、海綿の骨片に関する化学的研究が行われている。海綿の骨片もシリカを成分にしている。シリカがナノ構造を取る際に、ポリアミンが働いていることが解明されている。骨片などの生物由来のシリカ素材がナノ構造を持った有用な生物由来材料になる可能性が考えられている。

Nature ダイジェスト 2018年3月号 に、「大きさも量も大規模化したDNA自己集合」という記事が掲載された。これまでDNAを自己集合させることで人為的に設計、形成できる構造はとても小さいものだけだった。その問題を解決できたと見出しに書いてある。

DNA, RNA は高次構造を取ることによって何らかの分子と特異的に結合する分子になることがある。そういう分子を aptamer アプタマーと呼ぶ。

Detection by protection   Michael A. Funk   Science 17 Aug 2018: Vol. 361, Issue 6403, pp. 658   DOI: 10.1126/science.361.6403.658-c

DNA アプタマーを用いて、ATP や麻薬成分を、様々な分子が混在する試料から特異的に感度良く素早く検出する方法が開発された。この論文を紹介している。

J. Am. Chem. Soc. 140, 9961 (2018).

タンパク質を用いてもナノ構造を作れる。細胞内では微小管、アクチン繊維などが構造を形成している。人為的に設計して作成した例が発表されている。  生体材料:タンパク質で作られた二次元材料  2021年1月21日 Nature 589, 7842

ペルオキシダーゼは過酸化水素を利用して様々な基質を酸化する酵素の総称である。広い用途があり産業界でも使われている。DNA とヘムの複合体は強いペルオキシダーゼ活性を示すことがわかっており、応用のための研究が進んでいる。ヘムは鉄を含む錯体で細胞内で必須の役割を果たしている生体分子である。ヘム自体も条件によってペルオキシダーゼ活性を示す。ヘムが DNA と複合体を形成して適当な構造を取ると、ペルオキシダーゼ活性が高くなる。

DNA-enhanced peroxidase activity of a DNA aptamer-hemin complex    P Travascio, Y Li, D Sen - Chemistry & biology, 1998 - Elsevier

The peroxidase activity of a hemin− DNA oligonucleotide complex: free radical damage to specific guanine bases of the DNA   P Travascio, PK Witting, AG Mauk… Journal of the American …, 2001 ACS Publications

お互いに相補的な塩基配列を持つ二本の DNA が二本鎖を形成することを利用して、DNA とヘムの複合体を論理デバイスにする研究が進んでいる。

Cascade DNA logic device programmed ratiometric DNA analysis and logic devices based on a fluorescent dual-signal probe of a G-quadruplex DNAzyme    Daoqing Fan, Jinbo Zhu, Qingfeng Zhai, Erkang Wang and Shaojun Dong

Nature 2015年5月14日号に、「壁に阻まれる真菌」というタイトルの記事が紹介されていた。バイオ燃料を製造した残渣(植物細胞壁成分)に含まれる物質に、真菌の生育を抑える作用があることが発見された。Poacic acid という、聞いたことのない名前の化合物だった。β1,3グルカンと結合することで作用する。大矢 禎一教授(東京大学大学院新領域創成科学研究科 先端生命科学専攻・(兼)サスティナビリティ学グローバルリーダー養成大学院プログラム)らの研究グループを含むすばらしい国際共同研究である。   http://www.k.u-tokyo.ac.jp/info/entry/22_entry383/ で紹介されている。

Poacic acid は蛍光を発する。excitation wavelength, 340-390 nm; emission wavelength, 517.5-552.5 nm

水素に火を付けて燃やす(酸素と結合させる)と水が生成して熱を放出する。これは不可逆過程で、熱力学的に見ると大変効率が悪い。同じように水素と酸素を反応させることを電気化学的に行うと可逆過程にでき、熱力学的にエントロピーを低下させないためのエネルギーはどうしても必要だが、残りのエネルギーを可逆仕事に使えるようになり効率がよくなる。そういう仕組みを燃料電池という。 白井先生による教科書「現代の熱力学」251 ページから解説されている。 燃料電池を生物由来の酵素を用いて構成したものをバイオ燃料電池という。

Mitochondrial biofuel cells: expanding fuel diversity to amino acids.   Bhatnagar D, Xu S, Fischer C, Arechederra RL, Minteer SD.   Phys Chem Chem Phys. 2011 Jan 7;13(1):86-92. doi: 10.1039/c0cp01362e. Epub 2010 Nov 10.   PMID: 21069214

Nitroaromatic actuation of mitochondrial bioelectrocatalysis for self-powered explosive sensors.   Germain MN, Arechederra RL, Minteer SD.   J Am Chem Soc. 2008 Nov 19;130(46):15272-3. doi: 10.1021/ja807250b. Epub 2008 Oct 25.   PMID: 18950156

ジャガイモ塊茎からミトコンドリアを単離し、電極に固定する。ピルビン酸やコハク酸を与えて、電子伝達系に電子を流す。本来はその電子は最終的に酸素に受容され水が生成するが、 電極にミトコンドリアを固定すると、その電子が電極の方に流れていき、電池として使えるということらしい。

使い道はあまりないようだが、一応バイオセンサーの電源を生体から作り出すことが考えられている。 しかしミトコンドリアの機能はそれほど長持ちしないだろうから、あまり使いやすくないだろう。 しかし、普通のバイオ燃料電池はグルコースを電子の供給源とするが、ミトコンドリア燃料電池ではグルコース以外の分子も電子の供給源とすることができるというメリットはある。 「ミトコンドリアを、ピルビン酸等を NADH に変換するデバイスとして取り出して使う」というアイデアは、生物学者では考えつきにくいよいアイデアである。

https://www.google.com/patents/US20090305089

論文を見ると、ジャガイモ塊茎からのミトコンドリアの単離法が書かれている。 植物生理学者から見ると、ずいぶん荒っぽい方法に見える。ミトコンドリア以外の色素体や、小胞体の断片などが混ざっているだろう。ミトコンドリア自体も無傷でないものが混ざっているだろう。 かえってその方がこのシステムには向いているのだろう。完全に無傷なミトコンドリアでは、 外膜が存在するせいで電子が電極の方へ流れていきにくいような気がする。 また小胞体の断片なども電子伝達タンパク質を含んでいるので、電子の電極への輸送に役立っているかもしれない。

バイオマス生成効率の上昇を目指す

エネルギーによる律速

バイオマスというものはエネルギーの塊ととらえることができる。光合成生物なら、光合成によるエネルギーの取り入れ効率を上げないといけない。また基礎代謝、呼吸による ATP 合成の効率、細胞内の様々な機構の効率を高めないといけない。これは生命を基盤から改良しようとするようなものなので難しい。また熱力学の第二法則に違反する(カルノーサイクルより効率のよい超能機関を作ろうとする)ことを追求することになってしまうかもしれない。どこかの効率を悪くして、その代わりに特定の化合物の生産量を増やすというような方向ならばやりやすい。こういう考え方は、ストレスに強い植物の作出でも行われているという話を 2015年の植物生理学会で聞かせていただいた(ストレス耐性にはトレードオフがあって、どんなストレスにも強くなると言うことは起こりにくい。あるストレスに強くなると、他のストレスにはやや弱くなることが起こりやすい。生物に多様性があることは、多様なストレスに対応する多様な種類が存在することにつながる)。植物工場に向いた植物を作出するなら理想的な環境ではきわめて成長がよいがストレスには弱いものを目指すことになる。

トレードオフについて論じた論文:     Growth-defense trade-offs and yield loss in plants with engineered cell walls.    Ha CM, Rao X, Saxena G, Dixon RA.   New Phytol. 2021 Apr 2. doi: 10.1111/nph.17383.    PMID: 33811329    

Thermodynamic favorability and pathway yield as evolutionary tradeoffs in biosynthetic pathway choice.   Du B, Zielinski DC, Monk JM, Palsson BO.   Proc Natl Acad Sci U S A. 2018 Oct 11. pii: 201805367.    doi:10.1073/pnas.1805367115.   PMID: 30309961

Trade-off between synthesis of salicylates and growth of micropropagated Salix pentandra.   Ruuhola T, Julkunen-Titto R.   J Chem Ecol. 2003 Jul;29(7):1565-88.   PMID: 12921436


すでに、気孔の開口を促進することで植物の成長が促進できることが明らかにされている。   Overexpression of plasma membrane H+-ATPase in guard cells promotes light-induced stomatal opening and enhances plant growth.   Wang Y, Noguchi K, Ono N, Inoue S, Terashima I, Kinoshita T. Proc Natl Acad Sci U S A. 2014 Jan 7;111(1):533-8. doi: 10.1073/pnas.1305438111. Epub 2013 Dec 23.   PMID: 24367097   しかし気孔は病原菌が侵入する入り口にもなるので自然界では菌に弱くなるかもしれない。植物工場なら病原菌の少ない環境を作れるだろうから、気孔が大きく開口する植物は植物工場向きかもしれない。

AtHsc70‐1 negatively regulates the basal heat tolerance in Arabidopsis thaliana through affecting the activity of HsfAs and Hsp101   Lalit D. Tiwari, Lisha Khungar, Anil Grover   Pages: 2069-2083 | First Published: 23 June 2020    Tiwari et al. provide genetic evidence showing that Hsc70‐1 is a negative regulator of heat shock transcription factors, and its absence leads to enhanced Hsp101 expression resulting in plants with high basal thermotolerance.   人工照明は副産物として熱を発生するので人工照明型の植物工場は温度が高くなりやすいだろう。高温に強い植物は役立つかもしれない。その代わり低温に弱くなるかもしれないが、植物工場ならそれは問題にならない。

タンパク質合成は細胞内の最大のエネルギー消費過程であるらしい。そうならば、細胞内のエネルギー生産効率が低下する条件ではタンパク質合成を抑制するように制御がかかりやすいだろう。そういう仕組みで、ストレスなどによる基礎的な代謝能力の低下がタンパク質合成の低下を通じてバイオマス生産に影響を与えうるかもしれない。 ヘムは生物のエネルギー代謝に必須の分子である。ヘムの生合成の最初の反応では、tRNA-Glu が基質になっている。tRNA-Glu はタンパク質合成にも使用されるので、ヘムの生合成とタンパク質合成に関連性が生じるのかもしれない。 植物ならヘムだけでなくクロロフィルも tRNA-Glu から生合成が始まる。生命を基盤から改良するのは難しいが、生命の基盤を構成しているヘム、クロロフィルの生合成、分解は注目すべき課題かもしれない。

二酸化炭素濃度

当たり前だが、大気中の二酸化炭素の濃度は光合成によるバイオマス生産量を含む植物の代謝に大きく影響を与える。

Nature 2014年6月5日号で、「CO2濃度の上昇は人類の栄養摂取を脅かす」という記事があった。植物の鉄と亜鉛の含量が減ってきているらしい。しかし、それ以外の成分だと逆に増える物もあるだろう。もしかしたらバイオマスが増えることで相対的に鉄や亜鉛の濃度が減ったように見えているのかもしれない。

生物の微細構造とバイオミメティクス: バイオミメティクスの成果で生物を改良する(例えば昆虫→バイオミメティックス→植物、人間の爪)

2012 年植物生理学会年会において、「微細藻類による燃料生産:実現への課題と生物学からの解決策」というシンポジウムを聞かせていただいた。園池先生のお話に、「藻類と高等植物の大きな違いの一つは、光合成を効率化するための構造を持つか、持たないかである」という指摘があった。高等植物の葉は表皮細胞、柵状組織、葉肉細胞が規則性のある構造を形成し光を効率よく吸収することに役立っている(例外もあって、水生植物のオオカナダモはそういう構造がないらしい)。藻類ではそんなことはできない。藻類の光合成効率を高めるには、そういう部分を人間が補ってやることが有効だろうというお話だった。

植物の葉は、太陽光に合わせて構造が進化して最適化されている。人工的な栽培ではそれが最適とは限らないかもしれない。人工光型の植物工場では主に蛍光灯を使う。蛍光灯の光を最もよく利用できるように葉の構造を設計し、その通りに葉を構築できれば面白いだろう。または変異体ライブラリーから、蛍光灯の光をうまく利用できる変異体を、うまい条件を考えて探すことになる。

昆虫などの生物が持つ微細構造などの優れた性質を模倣し、様々な技術に生かすための研究はバイオミメティクスと呼ばれ優れた成果が上げられている。

太陽電池の研究で、セルの表面に規則性のあるナノ構造を形成し効率を上げる研究がされている。大気圧プラズマ処理という方法が用いられている。   http://www.nedo.go.jp/content/100149411.pdf   NEDO海外レポート NO.1074, 2011.6.15  プラズマ処理で「殺菌性を持つ表面構造」を形成することも試みられていると書かれている。 

日本のグループによって、ハスの葉の表面凹凸構造を人工的に模倣し、超撥水性表面を創製するというすばらしい成果が上げられている。   http://www.nistep.go.jp/achiev/ftx/jpn/rep139j/pdf/rep139j.pdf

植物の葉の表面、葉肉細胞の表面の微細構造を人為的に改良して、照射光が弱いときの光合成活性を上げることも可能かもしれない。朝日、夕日は光強度が弱く、斜めから日が差す。真昼の光は強く、垂直に近い方向から光が当たる。葉の表面の構造に規則性を持たせることで、斜めから照らす弱い光はよく吸収し、葉上から照らす強い光はある程度反射するようにできるかもしれない。強すぎる光は活性酸素の発生などでストレスとなり得るので、それを回避するのに役立つかもしれない。

バイオミメティックスの成果を生かし、植物細胞や藻類細胞の表層微細構造をデザインするのは面白いと思うが、難しいだろう。また植物の生育自体に悪影響が出るのでは意味がなくなる。しかしハスはそれを既に成功させているわけだから、ハスやその他の植物から学ぶことで手がかりが得られるかもしれない。

水に沈んでも生きられるタイプの水生植物は、水中に存在するわずかな栄養分を葉から吸収している可能性がある。もちろん根から吸収する割合が多いだろうが、根が切れても一応生きることができる。この場合、ハスとは反対で親水性、吸着性をもたせなければならない。いろいろな植物を調べると、表層の微細構造には様々な物があってハス以外にも有用な物があるかもしれない。ハスも水生植物なので、水生植物は特に細胞表層構造の形成に関する進化が著しいのかもしれない。植物の葉の親水性、撥水性を指標として変異体をスクリーニングすることは既に成功例がある。それは表層に存在するcuticleの合成を見るため、表皮の分化を見るために行われていた。もしかしたら表層の微細構造の変化も、その方法で見ることができるかもしれない。または、無処理で観察できるタイプのSEMで見ればよい。

植物は様々な色素を作る。それによって美しい花の色や、赤ワインの色などが生じる。しかし昆虫などの他の生物では色素ではなく、微細構造による光学的な効果によって体表に色をつけている例がある。   http://www.op.titech.ac.jp/lab/Take-Ishi/html/ki/hg/et/sb/goldbug/goldbug.html   東京工業大学理工学研究科有機・高分子物質専攻 石川先生による解説

平成24年度科学研究費 新技術領域研究 「生物多様性を規範とする革新的材料技術」のホームページ   http://biomimetics.es.hokudai.ac.jp/

植物でも、2012年にそのような例が発見された。現代化学2013年1月号に、「鳥を欺く果実の青色」と言う記事で紹介されていた。PNAS 誌に論文が発表されている。

Pointillist structural color in Pollia fruit.   Vignolini S, Rudall PJ, Rowland AV, Reed A, Moyroud E, Faden RB, Baumberg JJ, Glover BJ, Steiner U.   Proc Natl Acad Sci U S A. 2012 Sep 25;109(39):15712-5. Epub 2012 Sep 10.   PMID: 23019355

「structural color」とタイトルにある。新しい色を持つ花を作ることには価値があるが、こういう知見も役に立つかもしれない。植物を育成し花を咲かせる。咲いたら大気圧プラズマ処理をうまく適用して花弁の表面に微細構造を形成する。それによって花の色に、構造色によるバラエティーを持たせられる? そんなにうまくはいかないだろうが、アイデア的にはありうる。

Structural colour from helicoidal cell-wall architecture in fruits of Margaritaria nobilis    Publisher: Royal Society   Year: 2017   DOI identifier: 10.1098/rsif.2016.0645

という論文も公開されている。   https://core.ac.uk/display/79655655

元々花弁の表面には規則的な構造があることが多く、構造色と関連する研究もされている。 http://kaken.nii.ac.jp/d/p/13876005.ja.html http://kaken.nii.ac.jp/d/p/16380026.ja.html   林先生の研究成果 花弁の表面に微細構造があり、それによって光沢や質感によい影響があることは周知の事実であるようである。それには、花器官から細胞表面に分泌されるクチンという脂質性のポリマーが鍵になっているそうである。

2013年植物生理学会 2aC02「シロイヌナズナMIXTA様MYB転写因子は花器官のクチクラ形成を制御する」大島博士らの発表 「分泌されたクチンはナノリッジと呼ばれる規則的な表面構造を形成する」そうである。

Physical interaction of floral organs controls petal morphogenesis in Arabidopsis.   Takeda S, Iwasaki A, Matsumoto N, Uemura T, Tatematsu K, Okada K.   Plant Physiol. 2013 Mar;161(3):1242-50. doi: 10.1104/pp.112.212084. Epub 2013 Jan 11.   PMID: 23314942   武田博士らの研究によって、花弁表面のワックス合成の変化によって、ナノリッジ構造に変化が生じることが示された。   http://www.kpu.ac.jp/cmsfiles/contents/0000003/3011/20130121kishahappyou.doc プレスリリースとそこに掲載されている写真を見ると、ワックスが花弁とつぼみの間の摩擦を減らし滑りをよくするように書いてある。

もしかしたらナノリッジ構造自体も、滑りをよくするために役立っているかもしれない。摩擦抵抗を減らすことは様々なことに役立ち研究が進んでいる。生物の仕組みそのままでは耐久性がよくないだろうが、バイオミメティックスの手法でそれを改善できるかもしれない。 「ナノリッジ構造 摩擦」で検索すると、「ナノストライブ構造による摩擦低減技術」「表面微細構造による 摩擦の制御」「生物に学ぶ表面微細構造とトライボロジーの関係」という研究紹介が見つかる。

表面技術 2013年1月号に、「バイオミメティックスと表面技術」という小特集が掲載されている。これは J-STAGE で読むことができる。とても勉強になる。   https://www.jstage.jst.go.jp/browse/sfj/-char/ja/

ナノスケール材料:あらゆる長さスケールにわたる、構造に基づく超潤滑性と超低摩擦    Nature 563, 7732 | Published: 2018年11月22日 | doi: 10.1038/s41586-018-0704-z

http://bsj.or.jp/jpn/general/BSJ_Review6B_102-111.pdf   「葉の表面構造と撥水性の発現機構 ―イネの葉における微細構造とロータス効果―」  東京大学大学院 農学生命科学研究科 育種学研究室 相賀彩織・伊藤純一 両先生による解説   イネという有用な作物かつモデル植物がバイオミメティックスの研究につながり、それが実際の育種に役立てばとても高い評価を受けるだろう。

材料科学:コブゴミムシダマシから得られた靭性に関する教訓   2020年10月22日 Nature 586, 7830 doi: 10.1038/d41586-020-02840-1

NEDO海外技術情報 平成30年9月7日号に「クッキングオイルのコーティングが食品加工器具のバクテリアの繁殖を防ぐ」という記事があった。そこで 『Slippery Liquid-Infused Porous Surfaces (SLIPS)』(表面の微細構造に潤滑層を閉じ込めて超疎水性の滑り易い表面を作る技術 ) というものが紹介されていた。花弁の表面の微細構造とワックスが相乗的に働いて摩擦を低減しているのかもしれない。

「産業技術総合研究所(産総研),物質計測標準研究部門,浜松医科大学,名古屋工業大学,東京農業大学らは共同で,トンボ由来の紫外線反射物質を同定した」という記事が多数の新聞に掲載されていた。   http://www.optronics-media.com/news/20190116/55066/  、朝日新聞、日本経済新聞など   トンボの雄が体表面に分泌するワックスに撥水性と紫外線を反射する性質があること、それらを合成して結晶化した分子が微細構造を形成して水滴をはじき紫外線をよく反射することが確かめられている。

http://research.wpi-aimr.tohoku.ac.jp/jpn/research/539   東北大学原子分子材料科学高等研究機構 石井大佑博士らの研究 バラの花びらの表面構造を模倣することによって興味深い性質を持つ表面を創成できる。花びらの表面構造形成にはクチンやワックスが重要であるそうであるから、大島博士らが行っているような、クチンの構造や量、分泌パターンを決定している遺伝子の解明は分子材料科学にも貢献する成果になるかもしれない。たとえば花弁に存在する微細構造を効率よく観察しスクリーニングができればよいかもしれない。レーザー顕微鏡や SEM が役立つかもしれない。しかし同じ野生型でも花びらごとに微細構造の変化が大きかったり、生育条件のわずかな違いで構造が大きく変わったりすればそういうことはできない。

AFM を簡単にしたような機械を作製して、植物の葉や花びらの凹凸を定量化、可視化できるようにする。それを用いて変異体のスクリーニングを行うということが考えられる。3D プリンターはヘッドをかなり高精度で動かすことができるし、改造もできるものが多い。 しかし精度が足りない。 凹凸に規則性・微細構造があるかどうかを見るなら、光学的な方法が使えるかもしれない。

2014年6月24日の日本経済新聞に、「花びらの微細構造(凹凸の大きさが均一)による光学特性を模倣して肌を美しく見せる微粒子を開発」というような内容の記事があった。「サクラのような透明感を肌に・富士フイルム、化粧用パウダー開発」  

2022年3月24日の日本経済新聞第18面に「玉虫色 印刷で再現 富士フイルムが開発」という記事が掲載されていた。「透明なインク内にナノ単位で微細構造を作る技術を開発した」と書かれていた。インクジェット技術を使っている。すでに腕時計の文字盤に採用されている。

NEDO海外技術情報 平成28年9月9日号 で、フラワーパワー:バラの花びらを模した太陽電池 (“Flower Power”: Photovoltaic Cells Replicate Rose Petals) という研究が紹介されていた。花びらは光を反射しにくい構造を取っている。花びらの表面に樹脂を押しつけて、表皮の構造の型を取る。その型から透明な樹脂でレプリカを作る。その透明なレプリカを太陽電池の上にセットすると、光が反射せずに太陽電池へ効率よく届けられる。表皮の構造がレンズとして働いて効率上昇に役立つと書いてある。

研究グループのページ http://www.kit.edu/kit/english/pi_2016_097_flower-power-photovoltaic-cells-replicate-rose-petals.php を見ると、円錐が密集して並んだような写真がある。この部分を光が通過すると光が凸レンズを通過したようになり、その下の細胞または太陽電池へ届く。

植物の光合成は膨大な研究があるが、表皮のレンズとしての役割はあまり注目されていないような気がする。理屈的には、表皮の構造を光学的に最適にすると、本物の光合成も効率化されるかもしれない(光が弱い条件で)。とても暗いところでも育つ植物はそういう仕組みがあるかもしれない?。普通の光が十分な環境で育つことに適応している植物は、そんな必要はない。

NEDO 海外技術情報平成29年12月28日号 www.nedo.go.jp/content/100872139.pdf で、「「海の至宝」で太陽エネルギーを強化 」という記事があった。珪藻をナノ構造のシリカ(ガラス)の殻として用い、光を捕獲拡散するナノ構造を有機太陽電池に付加して効率向上に役立てる。

花びらの表面構造については、数理科学的な分析を行った論文が出ている。

Buckling as an origin of ordered cuticular patterns in flower petals.   Antoniou Kourounioti RL, Band LR, Fozard JA, Hampstead A, Lovrics A, Moyroud E, Vignolini S, King JR, Jensen OE, Glover BJ.   J R Soc Interface. 2012 Dec 26;10(80):20120847. doi: 10.1098/rsif.2012.0847. Print 2013 Mar 6.   PMID: 23269848

Nature の2017年 10 月 19 日号に、このような紹介記事が掲載された。「花は、花粉媒介生物を引き寄せるために、構造色効果を巧みに利用して視覚信号を発している」 Blue is in the eye of the bee-holder p302   Flowers have evolved an ingenious way to attract pollinators.   doi: 10.1038/550302a

http://www.nature.com/nature/journal/vaop/ncurrent/fig_tab/nature24285_F1.html   Figure 1: Floral grating-like structures in angiosperms.

Disorder in convergent floral nanostructures enhances signalling to bees   Edwige Moyroud, Tobias Wenzel, Rox Middleton, Paula J. Rudall, Hannah Banks, Alison Reed, Greg Mellers, Patrick Killoran, M. Murphy Westwood, Ullrich Steiner, Silvia Vignolini & Beverley J. Glover    Nature (2017) doi:10.1038/nature24285

「ハチを誘引するために花が編み出した「青色光の輪」の正体」    Nature ダイジェスト Vol. 15 No. 1 | doi : 10.1038/ndigest.2018.180132    原文:Nature (2017-10-18) | doi: 10.1038/nature24155 | How flowers get the blues to lure bees    Dimitri D. Deheyn


http://www10.jun-sekiguchi.com/2009_7_EJ0907-P.109-110.pdf   リソテックジャパン� プロセス開発グループ 関口淳氏による、モスアイ型無反射フィルムの紹介   モスアイというのは、蛾の目である。表面形状のSEM写真がある。規則正しく、微細な突起が並んでいる。こういう構造があると、真上からの光は通過するが、斜めからの光は遮られやすいだろう。

http://biomimetics.es.hokudai.ac.jp/news/%E3%80%902014-10-24%E3%80%91techbizexpo-2014%E3%80%80%E6%B4%BB%E5%8B%95%E5%A0%B1%E5%91%8A/     「生物多様性を規範とする革新的材料技術」のホームページで、モスアイ型フィルムは虫がその表面に付着できないことが紹介されている。植物の表面にそういう構造を持たせることができれば、病害虫がつきにくくなる可能性もある。 

http://www.astem.or.jp/kyo-nano/category/memo   「京都環境ナノクラスター」一口メモ No.100 でも紹介されている。

2011年6月9日の日経産業新聞に、東京理科大の遠藤博士らが、「表面座屈現象」を用い、微細な、規則的な構造を持った表面を思い通りに作ることに成功したという記事があった。   http://www.sut.ac.jp/news/news.php?20110609085542   「ゴム状素材を特定の方向に伸ばし、酸素プラズマで処理してからすこしずつゆっくりともとの形に戻すと、硬さの差によって縮んだときに模様ができます。」と紹介されている。想像すると、ゴムの板を用意する。引っ張って伸ばす。プラズマで表面処理する。表面層だけがプラズマによって分子構造が変化する。処理した後、引っ張っていたのをゆっくりと戻す。内部は変化していないので可逆的に元の状態に戻る。しかし表面層は伸びた状態から、完全に元に戻ることができない。表面層は内部よりも長さが長いままになる。その分、盛り上がって立体的な構造を取ろうとする(うまくやれば)。その構造に規則性が出てくる。

遠藤博士らによる、わかりやすい解説が公開されている。   http://www.adcom-media.co.jp/pic/2011/08/25/2121/   引っ張るのではなく、ピンで押して三次元的に山頂のような形に変形させ、その状態でプラズマ処理して、その後元に戻すそうである。すばらしい着想である。植物の茎頂は外衣・内体構造を取っているが、それと同じように堅い外層と柔らかい内層が密着した立体構造が人工的にできる。そこにどういう模様ができるか、理論的に予測できるのだろうか。予測される模様に、生物の形態形成で生じる模様とそっくりのものが出てくるかもしれない。 「表面座屈現象」は、生物の表層でも起きていて、表層によく出現するパターン形成に関与している可能性が大いにある。植物の組織は、水を十分に吸うと細胞が拡大し引き延ばされる。乾燥してくると縮む。ゴムを引き伸ばして縮めるのと似たことが起きているかもしれない。遠藤博士らも、生物の組織に見られるパターン形成からヒントを得たらしい。   http://www.tus.ac.jp/news/news.php?20110523141810   「柔らかい物体と硬い物体とが密着している界面」が重要らしい。植物の組織は、表皮(L1層)に、内部構造(L2, L3層)が密着している。細胞一つでも、膨圧が高いよく成長する細胞では細胞壁に細胞膜が密着している。密着しなくなると表面座屈現象が起きなくなるのかもしれない。「表面座屈現象」の研究は、今後様々な分野で盛んになるかもしれない。

遠藤博士らのグループは、さらに成果を挙げている。   https://www.tus.ac.jp/tlo/new/pdf/121005.pdf  ワンプッシュの微細シワ加工技術で 2 つの超撥水性を同一基板に実現   http://www.tus.ac.jp/tlo/new/pdf/130311.pdf   超高感度脳型パッチフィルムセンサー 超高感度脳型パッチフィルムセンサー パッチフィルムセンサーの開発に成功

産総研の研究紹介 表面に“しわ”を作って特性を変化させる https://www.aist.go.jp/aist_j/magazine/20200102.html  力を加えると瞬時に凹凸ができる“しわゴム” 等の研究が発展している。理論的な解明も進み、しわの大きさを設計することができる。 大園、寺岡 両先生による解説

「表面座屈現象」で作成した規則性のある構造体の表面に藻類を生やすことで細胞を規則正しく並べたら、なにかいいことがあるだろうか。微細な溝が規則正しく並んだ構造は分光器として働く。生物にとって有害な紫外線を取り除くことができたりしないだろうか。少し関連しそうなことが紹介されていた。   http://www.astem.or.jp/kyo-nano/memo/no255.htm   京都環境ナノクラスター 一口メモ No255    他にもある。  http://research.wpi-aimr.tohoku.ac.jp/jpn/research/700  東北大学原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)のXuetao Shi、Hongkai Wu 両博士 「微細パターンが、骨組織の修復における幹細胞の増殖と分化を促進する」と書かれている。

生物物理(生物物理学会の機関誌)2017年 5 号に、「卵管のヒダのパターン形成における機械的な力の役割」という、小山 宏史,石 東博,藤森 俊彦 各先生による優れた解説が掲載されていた。座屈現象がパターン形成を引き起こす。

正常な細胞とがん細胞を、マイクロメートルのオーダーの規則性のある構造体で区別するというすばらしい成果について解説されている。「ミクロな凹凸を用いた細胞選別を目指す研究者」理研ニュース2015年3月号 三好先生のインタビュー

圧縮座屈により、ミクロ/ナノ物質から複雑3次元構造を合成する Sheng Xu, Zheng Yan, Kyung-In Jang, Wen Huang, Haoran Fu, et al.   http://www.sciencemag.org/content/347/6218/154.abstract

という論文があった。これも表面座屈現象と似ているかもしれない。

微細藻類は細胞表層に細胞壁を持つ。植物細胞の細胞壁はセルロースを含みバイオ資源になるが、微細藻類の細胞壁は人類にとって役に立ったという話は聞かない。微細藻類の細胞壁形成に使われるエネルギーはできるだけ減らしたい。

そこで「表面座屈現象」などの方法で作成した規則性のある構造体に微細藻類を封入し機械的に安定化する(人工的な細胞壁として用いる)。藻類の細胞の並びかたは、お互いに光をできるだけさえきらないような規則性を持たせる。構造体を光をよく透過させる材質にしておけば、細胞を立体的に高密度に並べることもできるかもしれない。さらにうまい具合にそれぞれの細胞に培地成分が供給されるような微細構造も作っておく(毛細血管のような感じ)。または薄い、細胞を高密度に封入したシートにする。 その状態で細胞壁合成を阻害する薬剤を培地に添加し、細胞壁合成に使われるエネルギーをできるだけ減らす。それによって余ったエネルギーをバイオ燃料に振り向けることができるようにする。  こんなことを考えるだけなら簡単だが、実際にうまくいくようにするのはとても難しいだろう。微細藻類には水素を作るものがある。細胞が、垂直に保持されたパイプ状の構造体に封入されていれば、水素は上に向けて移動していくだろう。その動きを利用して、新しい培地成分をパイプの下部から取り込む。そんなことができれば培地、薬剤を供給しながら水素を回収できるかもしれない。

NEDO 海外レポート 2013年9月号で、「ブラック金属」というものが紹介されていた。ブラックシリコンというものもある。 シリコンや金属は、平滑な表面を持つようにすると光をよく反射する。しかしナノスケールの微細構造を表面に持たせると、光が反射されずに吸収される割合が大きくなる(具体的な機構は後で勉強する)。光が反射しにくくなるので、表面が黒く見えるようになる。そういうものをブラック金属やブラックシリコンというらしい。太陽光をよく吸収するので、効率よくエネルギーに変換することが可能になる。

この理屈を植物の葉に導入すれば、「ブラック葉」を形成することができるかもしれない。もともと葉は多種類の細胞が規則正しく構造を作り光の吸収をよくしている。さらに表面にナノ構造を大気圧プラズマなどで付加することで、さらに効率をよくすることもできなくはないかもしれない。そうすれば弱い人工光でもよく生育できるようになるかもしれない。

と思ったが、植物には葉が複数ついていることを考えないといけない。上についている葉が光を全部吸収すると、その下についている葉には光が届かなくなる。また光が強すぎるときに困る。それでは結局植物全体では効率が悪くなる。 葉は緑色の光を反射・透過しやすいが、その光は何回も反射や透過を繰り返している間に下の方の葉、また葉の裏側の葉緑体(どちらも光が届きにくい部位)に届いて光合成に用いられる。だから自然界では「ブラック葉」になっていない。「ブラック葉」にするなら、人工光をすべての葉に均等に必要な分だけ当てるように光の当て方を制御しないといけない。 このことについては、

「植物の生態: 生理機能を中心に (新・生命科学シリーズ) 」寺島 一郎 (著)

という、寺島先生が書かれた本の 156 ページに詳しく解説されている。

http://www.roisum.com/documents/T96Wrink.pdf   The Mechanics of Wrinkling

生きている植物を大気圧プラズマ処理したら表面にこびりついた病原菌を殺菌できる。水耕栽培の培養液の殺菌にプラズマが利用され高い効果を上げている。培養液のプラズマ処理によって硝酸イオンが生成し栄養となり植物の生育を促進する。種子を処理したら細胞表層の性質が変わり(表面を削り落とすエッチング効果)、何かよい効果があるかもしれない。種子の表層に含まれる発芽阻害ホルモンを分解する効果があるかもしれない。種子には発芽に光を必要とするものがある。光を受容するのは表層の細胞だろうから、表層の細胞が削れると何か効果があるかもしれない。    http://www.pc-tokyo.co.jp/   東工大発ベンチャー プラズマコンセプト東京    http://www.aees.kyushu-u.ac.jp/img/hayashi_ken.pdf   九州大学プラズマ応用理工学研究グループ   

https://www.plasma.nagoya-u.ac.jp/   名古屋大学 低温プラズマ科学研究センター

プラズマの効果はとても高いらしく、検索すると数多くの研究者からのすばらしい研究成果が次々と報告されている。プラズマの効果によって、生きた葉の細胞に蛋白質を導入することが可能になっている。   

ストライガという寄生植物が大きな問題になっており、日本でも優れた研究が植物生理学者によって進められている。ストライガは宿主から分泌されるストリゴラクトンというホルモンを感知して発芽し寄生を開始する。宿主がいない状態で発芽させることで防除ができる。 プラズマによって畑に埋まっている寄生植物の発芽を効率よく促進することができれば、農業上の大問題を解決する一つの方法になるかもしれない。ストライガの種子はとても小さい。プラズマで埋まっている種子の表面を削ることができればストライガの種子が優先的にダメージを受けるかもしれない。「水中プラズマの衛生分野,農業分野への応用 - J-Stage」  https://www.jstage.jst.go.jp/article/sfj/67/6/67_302/_pdf/-char/ja   という解説があった。硝酸イオンや活性酸素種を含むプラズマ処理水の農業分野へ応用が試みられている。

植物工場なら、植物を回転寿司の回転台のようなものの上で育成しておいて、定期的に大気圧プラズマ装置のところに移動させて表面を殺菌することも可能かもしれない。「プラズマで表面殺菌済み」のレタスなどができたら、セールスポイントになるかもしれない。植物科学研究でも、ベルトコンベアーなどを使って栽培をしている例が外国の研究拠点であった。

http://www.jst.go.jp/pr/announce/20130416/   で、浜松医科大学の針山 孝彦 教授、東北大学 原子分子材料科学高等研究機構の下村 政嗣 教授らによって、「生きた状態での生物の高解像度電子顕微鏡観察に成功 高真空中でも気体と液体の放出を防ぐ「ナノスーツ」を発明」 という素晴らしい研究成果が発表されている。 昆虫の体表面に Tween 20 を塗布し、電子線またはプラズマを照射すると表面に重合膜が形成される。それによって昆虫は真空、電子線に耐えられるようになり生きたまま SEM 観察が可能になる。昆虫だけでなく、金属でもナノスーツでコートでき、腐食を防ぐなどの優れた効果を発揮することが既に紹介されている。   main.spsj.or.jp/koho/63t/63t_6.pdf   表面保護薄膜「ナノスーツ」の医学・工学応用   浜松医科大学の針山孝彦教授ら、名古屋工業大学の石井大佑博士ら、千歳科学技術大学の下村政嗣教授による研究

かなり多くの種類の植物は、細胞表層にシリカの微粒子を含んでいる。珪藻ではシリカと結合するシラフィンというタンパク質も知られている。

植物生体力学:高い耐久性を持つ海藻   Emily Carrington Nature 503, 345-346 Published online 20 November 2013 海藻は、強い波で衝撃を受けてもできる限りちぎれたりしない、丈夫な機械的構造を作り上げている。それを単に構造物を分厚くするとかではなく、もっと巧妙な、エネルギーをできるだけ使わない方法で実現している。

植物の葉においても、そのしくみを解き明かす(効率的なサンドイッチ構造)すばらしい成果が日本の研究者によって発表された。 日本経済新聞2015/02/17 に、「京都大学森林生態学研究室の小野田雄介博士が葉を曲げたり引っ張ったりしたときの弾力から表皮や葉肉の硬さを測る方法を考案した」という記事があった。プレスリリース: http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2014/150212_1.html   http://hdl.handle.net/2433/193675   バイオミメティクスの分野にも役立つ優れた成果である。葉でなくても組織、構造の最外面に薄いポリマーをつけると強度を上げられるかもしれない。

葉細胞の浸透圧調節や細胞壁弾性率の調節は水ストレス回避戦略において重要である。それらの戦略には多様性があり、様々な環境に適応する多様な生物が生きていくことに役立っている。

セミの翅が細菌をばらばらにする  Insect wings shred bacteria to pieces   Trevor Quirk   doi: 10.1038/ndigest.2013.130505   Original source: Nature (2013-03-04) | doi: 10.1038/nature.2013.12533   セミの翅の表面の微細な柱状の構造体「ナノピラー」が、 細菌の細胞膜を引き裂く。   と言う記事が、Nature Digest 2013年5月号に掲載された。

ナノピラーに関しては、理化学研究所のグループによるすばらしい研究が行われている。   http://www.riken.go.jp/pr/press/2010/20101213/   「ナノギャップ構造の「金二重ナノピラー配列」をウェハーサイズで初作製 −高感度フレキシブルプラズモンセンサーへの展開に期待−」   理研イノベーション推進センター(齋藤茂和センター長)界面ナノ構造研究チームの藤川茂紀副チームリーダーと、久保若奈JST-CREST研究員(現・基幹研究所田中メタマテリアル研究室特別研究員)らによる研究成果

ナノピラーは、ストローのような構造をした微小な中空円筒構造体である。生物の体の表面にはよく毛が生えている。それによって虫が表面にとりつくことを防いでいる。それをもっとナノ構造にするとバクテリアに対する防御に働くらしい。「ナノピラー形成に働く遺伝子」は、まだ見つかっていないだろう。そういう研究をするよりも、大気圧プラズマ処理などで生物の表面構造をうまく作り替える方が早いかもしれない。 龍谷大学理工学部物質科学科内田研究室では、紫外光を当てると微細な針状の構造が可逆的に生じる光応答性機能膜を開発されている。   http://www.chem.ryukoku.ac.jp/uchida/

ナノピラー構造によってバクテリアを押しつぶす際の変形の様子、力学的な変動を観測する方法を開発して結果を得た論文が出版された。

Mechanism Study of Bacteria Killed on Nanostructures.   Liu T, Cui Q, Wu Q, Li X, Song K, Ge D, Guan S.   J Phys Chem B. 2019 Oct 17;123(41):8686-8696. doi: 10.1021/acs.jpcb.9b07732.    PMID: 31553191

www.biomimetics.or.jp/BNJ/Biomimetica201801_compressed.pdf   新学術領域「生物規範工学」終了講演会要旨集   森先生の講演 20 ページに、「微細な表面構造であるナノパイル構造を持つシートに昆虫を歩かせると、ナノパイル構造の効果で昆虫の脚先との接触性が低下するため滑り落ちる」と書かれていた。

「ナノテクスチャーがステンレス鋼表面に殺菌する突起を作る」 という記事が、NEDO 海外技術情報平成30年2月23日号に掲載された。   www.nedo.go.jp/content/100874798.pdf

歯ブラシの毛の表面にナノピラー構造を作れば、それによって口腔内の菌を殺菌することができるようになって「機能性ナノピラー歯ブラシ」という名前で高く売れるかもしれない。ナノ構造によって磨いた際の感触が良くなるかもしれない。

日本経済新聞2016/04/24 第5面に、「糸の断面 形状自在 東レが機能性化学繊維」という記事が掲載されていた。歯ブラシへの応用が検討されている。

「ナノピラー構造をうまく用いて偏光を画像化」という記事が、NEDO 海外レポートに掲載されていた。   https://www.nedo.go.jp/content/100898940.pdf 生物の表面のナノ構造が偏光の検出に生かせないだろうか。  

生物の表面に有用なナノ構造を人為的に形成する:どうやって?

ナノ構造の形成については素晴らしい研究が数え切れないくらい存在する。それらは金属や堅い結晶、またはゴムや両親媒性分子を基板に用いている。例えば花びらの表面には最初から微細構造があるが、それにさらに構造色などを持たせるような構造を人為的に形成できないだろうか。 どうすれば可能になるだろうか。

日本経済新聞 2019年9月5日(木) 13面に「人工皮膚x保湿剤 肌での効果 花王が確認」という記事があった。極細繊維(ファインファイバー)を肌表面に吹き付けて着生させる。保湿剤などを併用して効果を高められる。ナノ構造については書かれていない。ファインファイバーなどの層を足場にして、その上にナノ構造を形成することはできないだろうか。

応用物理 2016年 8 月号に、昆虫の羽をうまく使ったナノ構造の形成に関する紹介記事があった。

昆虫の翅(はね)を基板に用いたものづくり 棚橋 一郎先生 2016 年 8 月号 昆虫の羽は堅くて丈夫なので、材料科学の手法をそのまま適用できる。花びらは柔らかく熱にも弱いのでそのままではうまくいきそうにない。柔らかく熱に弱い材料を用いた材料科学は難しいだろうか。

生物物理(生物物理学会の機関誌)2017年 5 号に、「卵管のヒダのパターン形成における機械的な力の役割」という、小山 宏史,石 東博,藤森 俊彦 各先生による優れた解説が掲載されていた。座屈現象がパターン形成を引き起こす。

人間の爪は昆虫の羽のように硬い。爪にマニキュアで装飾を施す人は多い。爪にナノ構造を形成して美しい構造色を出すようにできれば、よい美容サービスになるかもしれない。 爪の表面にマニキュアのような高分子 A を含む液体を塗布し乾燥する。その上に異なる種類の高分子 B を含む液体を塗布し乾燥して A 層と B 層を密着させる。 その部分に大気圧プラズマ処理などの人体に無害な処理をして、高分子 B を構造変化させる。それによって B 層は体積が増えるが A 層と密着しているので伸びることはできず上方向に盛り上がるしかなくなり、しわを作る。それによって微細構造を形成させ、構造色ができるようにする。そんなわけにはいかないだろうか。

生体認証に関する研究が盛んに行われている。爪にナノ構造を形成して、それを光学特性で認識してパスワードの代わりにできるかもしれない。爪が伸びたら自動的に期限切れになる。検索したらすでに爪の模様を使う生体認証の研究報告があった。

応用物理 2017 年 10 月号に、「植物の葉を鋳型にした光学メタマテリアル表面」梶川 浩太郎 先生による解説が掲載されていた。ハスの葉、里芋の葉の表面は超撥水性を示す微細構造を形成している。構造はそれぞれ異なっている。 ハスの種は買うことができて、双葉でも超撥水性を示すと書かれていた。 スパッタリングという方法で、微細構造を保ちながら金をコーティングすると、微細構造の光学的な効果で光を反射しなくなり黒く見えるようになる。 他の、微細構造がない植物の葉ではそうならない。コーティングする方法には様々なものがあるが、スパッタリングは生物を電子顕微鏡で観察する際にも使われているので構造を保ちやすいのだろう。

NEDO 海外技術情報(平成 29 年 2 月 3 日号)に、「鳥類に着想を得た構造的色彩の新技術」というタイトルで興味深い研究が紹介されていた。カザリドリ科の鳥類の羽の構造色は、無秩序なナノ構造に薄いコーティングが組み合わさることで生じると書かれている。 新しいタイプの構造色を持つ構造になるらしい。花びらの表面構造も無秩序なナノ構造に近いのではないか。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/gomu/87/6/87_226/_pdf   「青い色を示す鳥の羽を模倣した角度依存性の ない構造発色性材料」 竹岡先生による解説  羽を構成する構造タンパク質である βケラチンが、ナノ構造の自己組織化に関与している。生物が作るタンパク質がナノ構造の形成に役立つ例は微小管など多くの例があるが、それが構造色と結びついているのは興味深い。

タンパク質で人工的に構造色を形成したという例は、聞いたことがない。「DNA でナノ構造を作る」という研究がいくつかあるが、それらと構造色を結びつけた例は聞いたことがない(全然調べていないが)。 Nature ダイジェスト 2018年3月号 に、「大きさも量も大規模化したDNA自己集合」という記事が掲載された。これまでDNAを自己集合させることで人為的に設計、形成できる構造はとても小さいものだけだった。その問題を解決できたと見出しに書いてある。その成果を使えば構造色も出せるかもしれない。

理化学研究所のプレスリリース   http://www.riken.jp/pr/press/2017/20170426_1/   アルミニウムのナノ構造体で「色」を作る−半永久的に失われず塗料より軽い「メタマテリアル・カラー」− 2017年4月 理化学研究所 田中メタマテリアル研究室の田中拓男主任研究員(光量子工学研究領域フォトン操作機能研究チーム チームリーダー)、レニルクマール・ムダチャディ国際特別研究員の研究チーム によるすばらしい成果が紹介されている。 シリコンの基板に規則的なナノ構造を作成し、アルミニウムの薄膜を蒸着する。花びらのようなものには適用しにくい方法が使われている。

ナノ粒子化することで植物への取り込み効率を上げる(バイオスティミュラント効果)

粒子を微細化してナノスケールにすることで、普通の粒子には存在しない有用な性質が出現することがよく知られている。 リンは植物にとってとても重要な栄養成分だが鉄と結合すると不溶化して取り込まれにくい。これをナノ粒子化することで改善できるらしい。

Front. Plant Sci., 30 September 2020   https://doi.org/10.3389/fpls.2020.586470   FePO4 NPs Are an Efficient Nutritional Source for Plants: Combination of Nano-Material Properties and Metabolic Responses to Nutritional Deficiencies   Davide Sega, Barbara Baldan, Anita Zamboni1* and Zeno Varanini

ナノ粒子がバイオスティミュラントとして働くことを示す論文は増加している。

The comparative effects of manganese nanoparticles and their counterparts (bulk and ionic) in Artemisia annua plants via seed priming and foliar application.   Salehi H, Cheheregani Rad A, Raza A, Djalovic I, Prasad PVV.   Front Plant Sci. 2023 Jan 19;13:1098772. doi: 10.3389/fpls.2022.1098772. eCollection 2022. PMID: 36743542


サリチル酸は、酸化チタン粒子の表面を修飾するために使われている。

Surface modification of anatase nanoparticles with fused ring salicylate-type ligands (3-hydroxy-2-naphthoic acids): a combined DFT and experimental study of optical properties.   Savić TD, Šaponjić ZV, Čomor MI, Nedeljković JM, Dramićanin MD, Nikolić MG, Veljković DŽ, Zarić SD, Janković IA.   Nanoscale. 2013 Aug 21;5(16):7601-12. doi: 10.1039/c3nr01277h. Epub 2013 Jul 11.   PMID: 23842592   生物にとっても、薬として働いたり防御反応を誘導したり多彩な働きを動物、植物に対して示す。調べてみると不思議なくらい様々な作用をしている。   サリチル酸_salicylate_について 

柳の葉、樹皮は多量のサリシン(サリチル酸の誘導体)を含む。サリシンの合成を阻害すると、成長がよくなるそうである(「サリチル酸の生合成とシグナル伝達」瀬尾、光原,大橋、各博士による解説)。   Trade-off between synthesis of salicylates and growth of micropropagated Salix pentandra.   Ruuhola T, Julkunen-Titto R.   J Chem Ecol. 2003 Jul;29(7):1565-88.   PMID: 12921436

植物は病害虫抵抗性を獲得するため、ストレス耐性を高めるためにエネルギー、資源を投入している。そのエネルギーはとても大きなものになるらしい。 それを止めさせることでバイオマスの合成効率を上げられる可能性がある。しかしその分不都合なことも、もちろん出てくるだろう。「私が作った植物工場は完全に無菌状態が保たれ、病害虫が入り込んでくる可能性は全くない」というような植物工場ができれば、それに適した、病原菌抵抗性に関する遺伝子を無効にした植物を育成することで生産性が高くなるだろう。

そういうことはとても難しいのではないかと思っていたが、すでに最近の人工光型の植物工場は、非常に生菌数が少ない清潔なレタスなどを生産しているそうである。

http://www.nikkeibp.co.jp/article/tk/20130912/365020/   「野菜栽培の切り札となる植物工場、ルーツは戦後GHQの「清浄野菜」農場にあり」   千葉大学大学院 丸尾教授のインタビュー

植物工場を研究している先生方には、清浄化のための様々な独自の優れた技術があるのだろう。外食産業では大量の食材を処理しないといけないので、清潔な野菜は少し高くても十分に元が取れるらしい。それならば、植物の方もそれに合わせて改良することが必要かもしれない。いままで「病害に対する抵抗性を研究して、虫や菌に強い植物を作る!!」という研究が多かったが、考え方を変えることも必要かもしれない。

すべての抵抗性を無効にするのはまずいだろうが、部分的に無効にすることで、ある程度の抵抗性を残して成長を良くすることが考えられる。植物には病原菌に対する抵抗性を発揮するための仕組みが複数ある。それらの仕組みが、バイオマスの生成効率に与える影響をそれぞれ精査し、バイオマスの生成に影響を与えにくいメカニズムの抵抗性は強化して、そうでない抵抗性は押さえつける。植物工場でも残りやすいタイプの病原菌に対する抵抗性を残し、フィルターなどで十分抑えられるタイプのものに対する抵抗性は無効にする。そういうことが可能だったらよいかもしれない。瀬尾博士らの解説で、「サリチル酸の内生量は植物の種類によって大きく異なる」と記載されている。サリチル酸による抵抗性は、他の仕組みの抵抗性で置き換えが可能なのかもしれない。

Jasmonate controls leaf growth by repressing cell proliferation and the onset of endoreduplication while maintaining a potential stand-by mode. Noir S, Bomer M, Takahashi N, Ishida T, Tsui TL, Balbi V, Shanahan H, Sugimoto K, Devoto A. Plant Physiol. 2013 Apr;161(4):1930-51. doi: 10.1104/pp.113.214908. Epub 2013 Feb 25. PMID: 23439917

という論文があった。ジャスモン酸は生育を抑えるが、単に細胞全体の活性を抑えるのではなく、ribosomal genes の発現は高く保たれた状態になる。その状態を「スタンバイモード」と名付けている。ストレス状態はいつまでも続くとは限らない。それが解除されれば、すぐさま急速な成長に切り替えることができなければ生存競争に負けてしまう。ribosomal genes の発現を高く保つことで、ストレス状態から解放された際の成長に備えている。こういうことは植物だけでなく人間の生き方にも必要かもしれない。

シロイヌナズナなどで、サリチル酸の効果を調べるために NahG という、サリチル酸を分解するバクテリア由来の酵素遺伝子を導入した植物がよく使われている。そうすると、シロイヌナズナの成長が良くなる場合があるらしい。その例:   ABA hypersensitive germination2-1 causes the activation of both abscisic acid and salicylic acid responses in Arabidopsis.   Nishimura N, Okamoto M, Narusaka M, Yasuda M, Nakashita H, Shinozaki K, Narusaka Y, Hirayama T.   Plant Cell Physiol. 2009 Dec;50(12):2112-22.    この論文の Fig.3 にロゼットの写真、葉面積のグラフが並んでいる。有意な差があるかどうか微妙だが、NahG 導入植物の葉面積は大きい。

この NahG の効果は、特にシロイヌナズナを低温で育成した場合に顕著になると言うことがずっと以前から報告されていた。   Salicylate accumulation inhibits growth at chilling temperature in Arabidopsis.   Scott IM, Clarke SM, Wood JE, Mur LA. Plant Physiol. 2004 Jun;135(2):1040-9. Epub 2004 Jun 1.   PMID: 15173571

しかしキュウリではサリチル酸が低温耐性にプラスに働くことを示した論文がある。

Endogenous salicylic acid accumulation is required for chilling tolerance in cucumber (Cucumis sativus L.) seedlings.   Dong CJ, Li L, Shang QM, Liu XY, Zhang ZG.   Planta. 2014 Oct;240(4):687-700. doi: 10.1007/s00425-014-2115-1. Epub 2014 Jul 18.   PMID: 25034826

熱力学とバイオ燃料

生物も熱力学の法則から逃れることはできない。特にバイオマスとかバイオエネルギーなどと言い出すと、そのことが露わになってしまう。

バイオ燃料の原料であるセルロース、デンプン、トリアシルグリセロール、ショ糖、リグニンについて、それぞれエネルギーやエントロピーを考えてどれが効率がよいか、考えることができるかもしれない。リグニンは高分子だが構造の規則性が小さいので、規則正しく原子が並んでいる高分子よりもエントロピーが相対的に高くなりやすいだろう。リグニンはすでに製紙工場で燃料として使われている。リグニンを植物に本来必要な量以上に大量生産させることは難しいらしい。

このことについては、

「植物の生態: 生理機能を中心に (新・生命科学シリーズ) 」寺島 一郎 (著)

という、寺島先生が書かれた本の 173~174 ページに詳しく解説されている。

それによると、脂質、タンパク質、リグニンを生産するには大量の資源を必要とするとのことである。 対照的に、有機酸を作るのに必要な資源は少なくて済む。 有機酸を還元するとアルコールになるので、それを効率よくできればバイオ燃料の効率的な生産につながる。また、有機酸から化学原料として有用なエチレンを作る酵素があり、研究されている。

2-オキソグルタル酸からエチレンを切りだす鉄オキシゲナーゼの複合型ラジカル-極性経路   Rachelle A. Copeland, Shengbin Zhou, Irene Schaperdoth and more   https://www.science.org/doi/10.1126/science.abj4290

エネルギーとエントロピーを制するものは世界を制する

もちろんバイオ燃料とバイオマスはエネルギーの塊として考えることができる。学問として考えても、「エネルギー」は生物学、化学、物理学すべての分野で共通してとても重要な因子である。エントロピーもエネルギーと不可分のものであるからこれを忘れてはいけない。エネルギーとエントロピーという観点から、いろいろなことを見直してみるとよいのかもしれない。

植物は光合成で得たエネルギーを用い様々な物質を合成する。それらは「一次代謝産物」と、「二次代謝産物」に分けられる。 二次代謝産物は色素や抗菌性物質などが含まれ、生育に必須ではなく合成される量は比較的少ない。しかしそれらの合成に費やされるエネルギーは案外多いらしい。

Metabolic and evolutionary costs of herbivory defense: systems biology of glucosinolate synthesis.   Bekaert M, Edger PP, Hudson CM, Pires JC, Conant GC.   New Phytol. 2012 Oct;196(2):596-605. doi: 10.1111/j.1469-8137.2012.04302.x. Epub 2012 Sep 4.   PMID: 22943527

一次代謝産物は生育に必須なエネルギーを得るための代謝から生成し量が多い。細胞が保持するエネルギー量と深い関係がある。一次代謝産物は、さらにデンプン、脂質のような貯蔵バイオマスに変化する。またはセルロースのような骨格を構築するためのバイオマスになる。これらの物質の蓄積量は、細胞内のエネルギー量から律速される可能性がある。

グルコースから始まる、細胞内の基礎代謝経路を考える。解糖系によって、グルコースのエネルギーがピルビン酸のエネルギー、ATPのエネルギー、NADHのエネルギーに変換される。ピルビン酸はさらにミトコンドリアに移行し、そのエネルギーが NADHのエネルギーに変換される。酸化還元電位が低い(マイナス方向に大きい値)NADH から供給される電子が電子伝達複合体を移動して、酸化還元電位が高い(正、プラス方向に大きい)酸素に受容される。その結果水が生じる。このしくみは空気電池と相同であることがよく指摘されている。

電子が移動するエネルギーを用い、電子伝達複合体はプロトンポンプとしても働く。その結果水素イオンの濃度差という形のエネルギーに変換される。水素イオンの濃度差が、ATP 合成酵素を働かせるエネルギーとなり、高エネルギー化合物(細胞のエネルギー通貨)である ATP が生成する。グルコースから始まる基礎代謝は、グルコースが持つ化学結合のエネルギーが様々な形に変換され ATP として使いやすい形に貯蔵される過程と考えることができる。ATP が保持するエネルギーを用いて、セルロースなどのバイオマスが作られる。

エネルギーを使いやすい形で貯蔵することはとても重要でリチウムイオン電池など優れたものが開発されている。しかしまだ改良の余地が大きいらしい。生物は優れたエネルギーの貯蔵システムを持っている。ATP によって効率よくエネルギーを使いやすい形で貯蔵する。余ったエネルギーはデンプンなどの分解可能な、大容量の貯蔵のためのバイオマスにする。セルロースは植物自身によって分解できず(成長のためのバイオマス)、一度作るとそのままである点がデンプンや貯蔵脂質と異なる。 現在の技術では、余った電力を貯蔵する蓄電池などの容量は比較的小さい。 その点では、余ったエネルギーを効率よくデンプンなどにできる生物の能力に負けている。微生物の培養槽に電気を流して、そのエネルギーで貯蔵物質を作らせると言うことも考えられる。実際にできるらしいが植物が行っていることよりも効率はよくないだろう。   (株)タイテック 社から製品が発売されている。   http://taitec.net/images/download/Denki-baiyou090330.pdf 植物工場を、「植物によるエネルギー貯蔵」のために活用すると言うことも理屈の上では考えられる。電力の消費量が少ない季節に、暗い照明でも効率よく生育しイモのような貯蔵器官がよく発達する植物を植物工場で栽培する。イモを収穫し保存する。電力消費量が高くなる時期に、そのイモを原料にしてエネルギー生産する。離島ではガソリンなどの燃料費が高い。イモを栽培し乾燥したものを燃料にすることで、燃料の自給自足を目指す研究がニュースで紹介されていた。

太陽電池パネルを据え付けると、その下は日陰になる。しかし宇宙空間とは異なり光は散乱、反射するので真っ暗になるわけではない。またパネルとパネルの間に隙間を作っておけば昼間の内、何時間かは直射日光が当たるだろう。それくらいの光条件でもよく生える植物は存在する。 太陽電池パネルを隙間を作るように並べて、その下にサツマイモを育てて太陽電池とサツマイモで一挙両得を図るという、優れたアイデアを実践しているというニュースをネットで見た。この方法は各地で様々な作物を用いて試されているらしい。

植物は光合成を行う。この場合光のエネルギーが電子伝達を引き起こし、電子を過剰にもつ(還元力をもつ) NADPH という形で細胞内のエネルギーとなる。同時にこの場合もエネルギーが水素イオンの濃度差という形になる。水素イオンの濃度差は、ここでも ATP 合成を引き起こすエネルギーとなる。光合成は量子科学との関係もあり、今後さらに研究が発展する有望な分野である。   http://www.photosynthesis.jp/   園池先生による、光合成に関するすばらしいページ

植物をできるだけ効率よく育成するためには、植物がその細胞内でエネルギー通貨である ATP をできる限り効率よく作ることができるように、植物を改良しなければならない。 そんなに単純に考えてよいかは検討の余地がある。しかし、人工照明で電気代節約のためできるだけ少ない光量で育成しようとする、しかもできるだけ少ない肥料や水で育成しようとするなら、そういうことになるだろう。

もちろん光合成に注目するのが第一に考えられる。しかし、植物も夜になれば光合成はできない。呼吸を行う。呼吸によるATP合成の効率を上げれば、その分バイオマスの損失を減らせるはずである。植物の呼吸によるATP合成は、必ずしも最大の効率では起きていない。AOX のような、効率を落とすためにあるようなしくみが備わっている。その意味について、研究が進んでいる。ストレス適応、過剰な還元力の消費との関係が考えられている。

自然界で強い光を浴びる場合は、ATP 合成効率よりもストレス、活性酸素、過剰な還元力に対応する方が重要になる場合が出てくる。

また自然界ではリンなどの栄養源が取り込みにくい形で存在することが多い。それに対応するために植物はシュウ酸やリンゴ酸などの有機酸を作ったりする。その場合ミトコンドリアで有機酸を合成する代謝経路である TCA 回路が効率よく働く必要がある。 しかしその場合 ATP の必要量は増えない。また ATP を合成するにはリンが必要なのでリンが欠乏している場合 ATP合成を必要以上に行うことはかえってよくない。そういう場合、AOX などの代替経路が働くことによって TCA回路で生じた NADH (過剰な還元力)を消去するようになっている。 それによって呼吸速度は高まるが ATP 合成は増えないので ATP 合成効率は低下する。ストレス下では ATP 合成効率が低くなる方が都合がよい場合があることになる。

動物には変温動物と恒温動物がある。人間の場合体温は約37度に保たれている。これにはミトコンドリアで働く脱共役タンパク質 (UCP) が働いている。脱共役タンパク質が働くことで、ミトコンドリア内膜の内部・外部の間のプロトンの濃度の差(濃度勾配)が減少する。その際に濃度勾配として示現していたエネルギーが熱エネルギーに変化する。要するに熱が発生する。それによって恒温動物は体温を高くしている。しかし、エネルギーを熱に変えた分、ATP が合成される効率は低下する。この場合も、ATP合成は最大の効率では起きていない。 このことに関するすばらしい説明   http://www.sci.toho-u.ac.jp/bio/column/017691.html   「体温はなぜ37℃なのか」 東邦大学 地理生態学研究室 長谷川先生

細胞内で重要な補酵素として ATP 以外に NADH, NADPH がある。NADH, NADPH は酸化還元電位が負の方向に高い。様々な酵素反応の進行に必須の因子である。細胞によるバイオマス生産、有用物質生産においても律速となることがある。好気呼吸を行う器官であるミトコンドリアは、NADH から電子を受け取り酸素に渡す電子伝達系を持ち、それがうまく働く・働かないということはバイオ燃料の生産性にも大きな影響を与えうる。

「エネルギーを効率よく使う、あるいは生産するシステム」は、工学の分野で研究が進んでいる。内燃機関がその代表である。原油の値上がりにより車の燃費を上げる技術が必要とされ開発されている。植物になぞらえると、光合成はエンジンでガソリンを燃焼し走行している状態、夜間の呼吸はアイドリング状態に相当する(無理矢理だが)。

エンジンの効率を上げることも重要だが、アイドリング、減速中の無駄な燃料消費を抑える技術が開発され有効であることが示されている。植物の光合成の効率は、長年の進化により極めて高い。それをさらに改良することは難しいかもしれない。植物の呼吸効率は改良の余地があるのではないか。車のアイドリングストップで燃費がかなり改良されたように、植物でも呼吸で無駄に費やされるエネルギーを減らすことでバイオマス生産効率が上がるかもしれない。その場合、「暗い光でも十分生育できる」という形になるだろう。そういう植物が存在し「陰生植物」と呼ばれている。すでに陰生植物の呼吸の研究が、野口先生のグループにより行われている。 http://www.biol.s.u-tokyo.ac.jp/users/seitaipl/personal/noguchi/noguchi_j.html   しかし陰生植物に強い光を与えるとダメージを受けやすかったり、強い光を効率よく使えない可能性がある。クワズイモは丈夫で育てやすい観葉植物として用いられている。   http://www.kuwazuimo.com/index.html

動物の脱共役タンパク質の場合、エネルギーを ATP にせずに熱に変えている。それによって得られる利益として、体温を高くすること以外に、活性酸素の生成を抑制するという働きが指摘されている。活性酸素との関連は、植物の AOX の場合も指摘されている。 ATP 合成効率をむやみに高くすると、細胞にとって都合の悪いことが起きることがある。そうならないような育成条件を見つけて、その状態を常に保つようにして育成できればよい。植物工場はそれに適している。

植物生理生態学の分野では呼吸量の推定、呼吸の生態学的な意義に関する優れた研究が進んでいる。呼吸量は温度が上がると指数関数的に高まる。その主な要因はバイオマス維持に関わるエネルギー消費が温度が上がると増加することだそうである。    http://d.hatena.ne.jp/physiolecol/   植物生理生態自由集会Website   温度が高いと葉から水が急速に蒸散する。それに対応するには根が水を大量に吸い上げなければならない。それにはエネルギーが大量に必要になる。根には植物全体のエネルギー需要に応じて呼吸速度を上昇させる仕組みが備わっていることが解明されている。   「葉っぱと根っこはつながっている!: 根の呼吸速度の日中低下とその要因」  別宮(坂田)博士の講演の要旨

藻類の場合、蒸散は関係ない。別の要因で呼吸量は温度が上がると指数関数的に高まるとして、光合成量の方はどうだろうか。直線的にしか上がらないのなら、高い温度では呼吸量の方が大きくなりやすいだろう。もしそうなら、ある程度育成温度を下げたほうが損失が少ないだろう。しかしそれを安上がりに実現するのは難しい。時間あたりの細胞増殖、バイオマス生産量も小さくなるだろう。

温度などの条件と、光合成量、呼吸量の変化の関係を定量的に測定できればバイオマス生産に最適な条件がわかるかもしれない。常にその条件を保つように温度などを制御できればいっそうよいだろう。植物生理生態学の研究成果、測定技術はそういうことに役立つだろう。私も入門書を読んだりして勉強させてもらっている。

光合成と呼吸は、どちらも電子伝達がきわめて重要である。電子が移動する向きが異なっている。電子伝達の効率を少しでも上げる、電子伝達による有害な副産物(活性酸素など)を少しでも発生しないようにすることで、植物によるバイオマスの生産効率を上げられるかもしれない。私もミトコンドリアの電子伝達系と関係ある研究をしているが、今後もっと研究されなければならない分野かもしれない。「人工光合成」の研究が進んでいるが、これも光のエネルギーをうまく使うと言うことで、電子伝達や酸化還元電位と関係があるだろう。

既に植物は、葉緑体に様々な仕組みを設けて、電子伝達を最適化している。

日本の研究者によるすばらしい成果   Cyclic electron flow around photosystem I via chloroplast NAD(P)H dehydrogenase (NDH) complex performs a significant physiological role during photosynthesis and plant growth at low temperature in rice   Wataru Yamori1, Naoki Sakata1, Yuji Suzuki1, Toshiharu Shikanai2, Amane Makino1   DOI: 10.1111/j.1365-313X.2011.04747.x

http://www.bapc.kais.kyoto-u.ac.jp/lab/Reseach_J.html   電子やイオンの流れをたくみに利用する生物の高度な仕組みについて研究されている、池田研究室の研究紹介

どんな物体にも表面、界面があり「界面エネルギー」を考えることができる。東京大学物性研究所物性理論研究部門 加藤先生が、「ビールの泡」の界面エネルギーを解説する文章を公開されている。「界面エネルギーは界面の面積に比例する」と書いてある。「体積を一定としたとき、表面積が最小となるのは球の時である」と書かれている。細胞表層を界面と考えると、生物の細胞にも「細胞表層エネルギー」を考えることができる。

体積が一定の植物細胞を考える。その形が球である場合に表面積は最小になる。球状になった細胞は、直方体や長く伸びた状態でいる場合よりも細胞表層の界面エネルギーが低くなる。その分、細胞形態を維持するために必要なエネルギーが少なくなる可能性がある

微細藻類の細胞形態を観察し形が球状に近いものを選び出す。その細胞は、細胞形態を維持するために必要なエネルギーが、球状でない細胞よりも少なくてすむ可能性がある。もしそうなら、その分のエネルギーをバイオ燃料の生産に割り当てることができるかもしれない。表面積が小さいと、そのぶん細胞表層を構築するために必要な高分子の量、その原料になるアミノ酸や糖の量を節約できるかもしれない。微細藻類というものはどれも形が球状に近く細胞もとても小さいようなので、元からこういう方向に進化しているのかもしれない。

しかし表面積が減ると培養液から栄養分を輸送するときに不利になる。高等植物の葉肉細胞は複雑な形をして表面積を大きくしている。細胞間間隙が大きくなる。それによって CO2 を細胞内に拡散しやすくしている。植物生理生態学の成果によって、CO2 の細胞内、葉緑体内への拡散はとても重要な因子であることが明らかにされている。細胞の表面積が大きい方が、二酸化炭素の濃度が低い大気中から炭素を固定するには有利だろう。細胞が大きければ、光合成で作り出した糖をデンプンとして貯蔵する際に一つの細胞に多量にため込んでも光合成に影響が出にくく有利かもしれない。

微細藻類は細胞が球状で小さいなら、培養液に二酸化炭素を吹き込んで濃度を高くすれば、細胞の表面積が小さいことによる不利を解消できるかもしれない。しかしそれを安上がりに実現できないと困る。http://www.cocn.jp/common/pdf/thema38-L.pdf    で公開されている資料によると、実際のバイオ燃料生産プロセスでは二酸化炭素のエアレーションで多くのエネルギーが費やされるそうである。

それだけエネルギーを費やしても二酸化炭素を吹き込む必要があると言うことは、「微細藻類は二酸化炭素を取り込む効率が低い」ことを示しているのかもしれない。

「二酸化炭素を空気中から濃縮して効率よく培養液に溶解させる装置」を開発するとよいのだろう。バイオ燃料そのものより、そういう「周辺技術」を研究する方がビジネス的には有効かもしれない。植物を改良するよりも手っ取り早くて有効かもしれない。すでに様々なものがあるらしい。水草を育成するマニアの間で研究が進んでいるらしい。しかしバイオ燃料では濃縮にかかるコストが問題になる。一部の植物や藻類は、自前で二酸化炭素を濃縮する仕組みを作り出している。

二酸化炭素は、細胞内に拡散によって取り込まれる。植物生理生態学の成果によって、植物の葉の場合、どんな要因が二酸化炭素の取り込みに影響を与えるかが解明されている。微細藻類は、植物の葉と異なり、気孔はない。葉では二酸化炭素は空気中から細胞表層の水に溶解する過程があるが、微細藻類では培養液にすでに溶解している。細胞壁の構造が全く違う。二酸化炭素の拡散係数が大きい組成を持つ細胞壁、細胞膜に作り替えれば有利かもしれない。植物では細胞膜に、二酸化炭素を通過させるアクアポリンがあることが知られている。微細藻類ではどうなのか、二酸化炭素を通過させるアクアポリンをたくさん発現させるとどうなるか、すでに研究されているのかもしれない。

また細胞内にデンプンや油滴をため込むと光合成に悪い影響があるだろうから、固定した炭素はすぐに細胞外に油として放出するようにしないといけない。

二酸化炭素を効率よく細胞に取り込ませるのに、ビールの泡の話が参考になるかもしれない。せっかくの二酸化炭素が培養容器の壁で泡になってしまうと細胞が取り込みにくいのではないか。または細胞の表面で二酸化炭素が泡に変化しやすくして、細胞が常に二酸化炭素の泡に取り囲まれた状態になるようにすると言うのはどうだろうか(単なる思いつきだが)。そうなれば細胞が泡によって浮かび上がりやすいので、集めやすくなるかもしれない。ビール会社はこういうことに関してよく知っているだろう。

細胞にはたくさんの種類の界面がある。分子が界面に吸着することで、その分子のエネルギーが低下することが吸着現象の基本になっている。 加藤先生のビールの泡の話の場合(二酸化炭素が気体・溶液の二つの状態をとることによる体積エネルギー、泡の表面積による表層エネルギー)のように、細胞と関係するエントロピー、エネルギーをいろいろと考えてみないといけない。ビールの泡よりも複雑だろう。

合成生物学とバイオ燃料: 制御因子を高性能化する

最近「合成生物学 Synthetic biology」「合理的ラショナルゲノム設計 Rational Genome Design」 という概念が注目されている。細胞内に新しい代謝経路が構築されるように、遺伝子を設計しバクテリアや植物に導入する。 それによって有用代謝産物の増産などの機能改良を人為的、設計通りに引き起こす。電子機器を作るために電子回路を設計するように、新規の代謝回路を設計する。設計した結果細胞内代謝がどう変化するかを、コンピュータ内にモデルを組みシミュレートすることができる。 参考になる資料   http://crds.jst.go.jp/output/pdf/09sp11.pdf   「環境適応型作物のゲノム設計技術」

植物では、ストレス応答を制御する転写因子の発現を人為的に改変することでストレス耐性を改良することが成功している。 バクテリアでも転写因子に注目し、代謝中間産物に対するセンサー機能をもつ転写因子をさらに改良することでバイオ燃料の生産性を高めることに成功した論文が発表された。 「NEDO 海外レポート」2012年4月号で紹介されていた。「新たな合成生物技術により微生物によるディーゼル燃料生産量が増加」    Design of a dynamic sensor-regulator system for production of chemicals and fuels derived from fatty acids.   Zhang F, Carothers JM, Keasling JD.   Nat Biotechnol. 2012 Mar 25;30(4):354-9. doi: 10.1038/nbt.2149.   PMID: 22446695

転写因子の低分子化合物に対する感受性をプロモーター配列の改良によって高め、ダイナミックレンジを大きくしている(転写を抑えたいときは転写量が0になり、強く転写させたいときは高発現する)。それによって制御因子としての性能が高くなる。 植物でもストレス応答を制御する転写因子それ自体のプロモーターをストレス応答性のものにすることで、ダイナミックレンジを大きくすることができている。それによってストレスがないときはストレス応答を十分に抑え、ストレス条件では耐性遺伝子を高発現することが実現されている。 「制御因子のダイナミックレンジを大きくする」ことが生物を改良する一つの目標、方法論として有効なのかもしれない。 もしそうなら合成生物学がうまく適用できるだろう。単に「細胞に遺伝子を入れて新しい合成経路を作りました」というのでは面白みがない。 制御因子の性能を改良することの方が案外有効かもしれない。 Zhang F らの論文は、その手本としてとてもよい成果だろう。

「合成生物学:生きている細胞における合成アナログ演算」   http://www.nature.com/nature/journal/v497/n7451/fp/nature12148_ja.html?lang=ja    と言う記事がNature に掲載されていた。「広いダイナミックレンジで動作し、調節可能な伝達関数を持つように設計できる。」と書かれている。

植物の葉には気孔がある。気孔は環境条件に応じて開閉するので、バルブやスイッチのように見立てることができる。PATROL1 という遺伝子を操作することで、気孔が環境条件に応じて的確に開閉する性能を高めることに成功し、バイオマスの増産に成功したというすばらしい成果が発表された。   http://plant.biology.kyushu-u.ac.jp/Kenkyu_Topics.html   九州大学 橋本博士、射場教授のグループのすばらしい成果   

さらに考えを進めれば、優れた植物工場システムを作ることによって環境条件を常に最適に保ち、植物が保持する制御因子、ストレス応答システム、気孔開閉機構が働く必要をなくしてしまうことも有効かもしれない(植物が環境変化に適応するのではなく、環境の方を人間が常に最適に保つ)。気孔が常に最大限開いていても問題ないなら、二酸化炭素を効率よく取り込めて成長が早くなるだろう。 「常に気孔が最大限開いても問題ないように環境を保つ」ことができれば、バイオマス生産の増大によい影響があるだろう。植物は気孔を開閉するために水やイオンを出入りさせたり細胞膜、細胞壁を変形させたりすることでエネルギーを使っている。そのエネルギーは無視できないくらい大きいのかもしれない。しかし出荷する際に気孔が開いたままだと販売時には萎れてしまって売り物にならなくなる可能性がある。発芽から初期成長の間は気孔がずっと開いたままで二酸化炭素をよく取り込み(その状態でも環境が最適に保たれていれば問題はない)、出荷に適した大きさになったら正常に気孔が動作する・または気孔が閉じたままにするようにできたらよい。あまり簡単ではないかもしれない。ABA に対する感受性をうまく切り替えられればよいかもしれない。日本が世界に誇る多くの優れた成果を上げている植物ホルモン研究は、そのために役立つだろう。

フシコキン という化合物は、気孔を開いたままにする作用がある。しかしこういう化合物を万遍なく散布するだけでも大変だろう。消費者に与える印象も悪いし、少しでも残留してしまっては困る。植物工場には向かないだろう。

植物の成長を調節する気体、揮発性化合物を用いる

二酸化炭素濃度は植物に大きく影響を与えることが研究からわかっている。それ以外にも植物に影響を与える気体、揮発性の有機化合物は植物ホルモンであるエチレンなどいくつかある。植物工場では気体濃度を制御しやすい。その利点を生かして、気孔などを制御する気体や揮発性化合物を見つければ、うまい方法につなげられるかもしれない。

Hydrogen sulfide is a novel gasotransmitter with pivotal role in regulating lateral root formation in plants.   Li YJ, Shi ZQ, Gan LJ, Chen J.   Plant Signal Behav. 2014 May 15;9. pii: e29127. PMID: 24832131

Nitric oxide and phytohormone interactions: current status and perspectives.   Freschi L.   Front Plant Sci. 2013 Oct 9;4:398. eCollection 2013. Review.   PMID: 24130567

Carbon monoxide: A novel and pivotal signal molecule in plants?   Xuan W, Xu S, Yuan X, Shen W.   Plant Signal Behav. 2008 Jun;3(6):381-2.   PMID: 19704571

Molecular hydrogen is involved in phytohormone signaling and stress responses in plants.   Zeng J, Zhang M, Sun X.   PLoS One. 2013 Aug 12;8(8):e71038. doi: 10.1371/journal.pone.0071038. eCollection 2013.   PMID: 23951075

Reactive Oxygen Species-Dependent Nitric Oxide Production Contributes to Hydrogen-Promoted Stomatal Closure in Arabidopsis.   Xie Y, Mao Y, Zhang W, Lai D, Wang Q, Shen W.   Plant Physiol. 2014 Apr 14;165(2):759-773. PMID: 24733882

最近この分野の論文が多くなっている。 複数の気体、揮発性化合物を組み合わせれば、様々な条件を設定できる。

http://www.nikkei-science.com/?p=42798   「大気を汚す樹木」日経サイエンス2014年8月号の記事   樹木には揮発性化合物を多量に放出するものがある。

*微生物由来の揮発性有機化合物の作用で、植物の成長が良くなることがある

Plant Growth Promotion by Volatile Organic Compounds Produced by Bacillus subtilis SYST2.   Tahir HA, Gu Q, Wu H, Raza W, Hanif A, Wu L, Colman MV, Gao X.   Front Microbiol. 2017 Feb 7;8:171. doi: 10.3389/fmicb.2017.00171. eCollection 2017.   PMID: 28223976

他にも多数、微生物由来の揮発性有機化合物が植物の生育を促進するという報告があり、注目されている。


こういうことを調べるなら気体濃度を精度良く測定する方法、機械が必要になる。

http://www.atsumitec.co.jp/products/hydrogen   アツミテック社が、「水素チェックシート」を開発している。販売もされている。

http://www.pttco.co.jp/product2.html?works_id=23   PTT社が「溶存成分マイクロセンサー」を販売している。一酸化窒素、酸素、硫化水素、水素などがある。

しかし環境条件を常に最適に保つために必要なコストが大きければかえって悪い。植物がストレス応答システムを動かすのに使っているコストの方が安いのなら、それを使う方がよくなる。クーラーで冷房すると電気代がかさむ。計算機を大量に集めたデータセンターでは熱を処理することが大きな問題になる。新聞に、「NEC が冷媒を重力に沿ってうまく循環させることで安いコストで冷房する方法を開発した」という記事が掲載されていた。   http://jpn.nec.com/rd/innovation/feature/201207/   「節電に最適なデータセンタ向け省エネ冷却技術」 植物を育成するのにも有用かもしれない。

完全人工光型の植物工場の技術はすばらしい勢いで進んでいるらしい。クリーンルームに近い、菌が非常に少ない環境で植物を育成している例がある。半導体工場を植物工場に変えた例もある。温度、湿度管理も低コストで高度にできるのなら、植物もそれに合わせたものに改良するべきである。日本が世界に誇る多くの優れた成果を上げている植物ホルモン研究は、そのために役立つだろう。

燃料を作る化学工場でもセンサーやバルブなどの制御装置がたくさんある。たとえばバルブが完全に閉まらなくなったりセンサーが返す値が不安定になったりしたら生産性に悪い影響があるだろう。全く動かなくなれば気づきやすいが、一応閉まっているが少しずつ漏れていたりすると気がつかなかったりするかもしれない。実際にそういうことはよくあるらしい。

「細胞を増殖させるフェーズでは、バイオ燃料合成のための経路は完全に遮断し増殖に専念させる。十分に増殖したら、増殖を完全に止め、すべての資源をバイオ燃料の生産経路に流すように細胞内の制御因子(バルブ、センサー)を切り替える」ことができればよいのかもしれない。細胞内で代謝の制御因子として重要な因子を確定しなければならない。

私が見つけて研究しているcss1変異体は、ミトコンドリア遺伝子のスプライシングを行う因子に変異が起きている。この因子が働かなくなると電子伝達系複合体?の機能が変化し基礎代謝などが変化する。これ以外にもミトコンドリアを制御する核コード遺伝子が多数植物に存在する。これらの因子の制御因子としての性能を改良することも何かの役に立つかもしれない。    私の2006年の論文  しかし遺伝子組み換えを使うと封じ込めなど気を付けなければならないことが多い。実用に使う生物で望んだような変異体を取ることは難しいことがある。遺伝子変異や、遺伝子組み換えで起きることと同等なことを、実用に使う生物において薬品を与えるなどの方法で、安いコストで引き起こす方法を考える必要がある。そういう状態をスイッチのようにON, OFF できればもっと都合がよい。

研究の段階では遺伝子組み換えや変異体の単離と分析など様々な手法を用いることができる。それによってわかった、できるようになったことを実用に生かす際は、研究で行ったことをコストが安く世の中に受け入れられやすい方法で代用する方法を改めて開発しないといけないのだろう。

原核生物にはミトコンドリアはないが、細胞膜上に電子伝達系を構成する複合体がミトコンドリアの内膜と同様に存在している。それらを改変することで、大腸菌でも基礎的なグルコース代謝を改変できることが明らかにされた。

Alterations of glucose metabolism in Escherichia coli mutants defective in respiratory-chain enzymes.   Kihira C, Hayashi Y, Azuma N, Noda S, Maeda S, Fukiya S, Wada M, Matsushita K, Yokota A.   J Biotechnol. 2012 Apr 30;158(4):215-23. PMID: 21740932   北海道大学農学研究院 横田教授のグループの成果   http://www.agr.hokudai.ac.jp/biseibutsu/ja/info.html

基礎代謝の重要性(特にイソクエン酸デヒドロゲナーゼ、ピルビン酸キナーゼ)

「解糖系」や「ミトコンドリア」は、きわめて基本的な研究課題で長年の蓄積があるが、まだよく知られていない現象や知見がたくさんある。それらの未知の現象は細胞、生物にとって、とても重要な因子であるだろう。 「解糖系」や「電子伝達系」の研究が見直される、再注目されつつある。基礎生物学的な意義だけでなく、バイオマス生産効率の改善という応用においても解糖系、電子伝達系、さらに植物では炭素固定系が重要である。

がん細胞とバイオマスでは何の関係もないようにも思える。しかし、がん細胞の増殖は基礎代謝の大きな変動による「効率的なバイオマス生産」を伴なうことが明らかになってきた。その例が、サイエンス誌からのメールマガジンで紹介されていた。

Evidence for an Alternative Glycolytic Pathway in Rapidly Proliferating Cells   http://www.sciencemag.org/cgi/content/abstract/329/5998/1492

 急激に増殖する細胞において解糖系の別経路の存在が明らかになった    がん細胞をはじめ増殖する細胞は、栄養素を
 効率よく取り込んでバイオマスにするために代謝を変化させる必要がある。今回、ホスホエノールピルビン酸(細胞内の
 ピルビン酸キナーゼの基質)が哺乳類の細胞内でリン酸供与体として働きうることが示された。   Matthew G. Vander 
 Heiden, Jason W. Locasale, Kenneth D. Swanson, Hadar Sharfi, Greg J. Heffron, Daniel Amador-Noguez, Heather R. 
 Christofk, Gerhard Wagner, Joshua D. Rabinowitz, John M. Asara, and Lewis C. Cantley   

細胞:セリンはピルビン酸キナーゼM2の天然のリガンドで、アロステリック活性化因子である Barbara Chaneton など Nature 491, 458–462 (15 November 2012) doi:10.1038/nature11540    http://www.nature.com/nature/journal/v491/n7424/fp/nature11540_ja.html?lang=ja   セリンがヒトPKM2に結合してこれを活性化する。

グリシン代謝が増殖と関係することが、以下の論文で示された。なぜグリシンが重要なのかと言うことは興味深い。グリシンとセリンは代謝経路において近い。

Metabolite profiling identifies a key role for glycine in rapid cancer cell proliferation.   Jain M, Nilsson R, Sharma S, Madhusudhan N, Kitami T, Souza AL, Kafri R, Kirschner MW, Clish CB, Mootha VK.   Science. 2012 May 25;336(6084):1040-4.   PMID: 22628656

「バイオマスの効率的な生産」は、植物、微細藻類の遺伝的改良において非常に重要である。解糖系などの基礎代謝の研究、効率化が植物でも必要かもしれない。がん細胞の研究が植物の解糖系の効率上昇に役立ったりすれば、さらにそれによって植物、ラン藻由来のバイオ燃料、水素の生産効率を高めることができたりすればとても興味深い。

イソクエン酸デヒドロゲナーゼ IDH という代謝酵素がある。基盤的な代謝機能を果たしている地味な酵素と思われてきたが、この酵素の変異といくつかの種類のがんに深い関係があることが発見され注目されている。変異によって R-2-hydroxyglutarate (R-2HG) を作るようになった酵素が生じ、R-2HG は DNA メチル化を何らかの仕組みで変化させる。このがん研究で見つけられた遺伝子変異が、化学原料となる化合物の生産性向上に有効に用いることができるという論文が Nature chemical biology に発表された。効率上昇だけでなく、新しい代謝経路の作成にも役立つのだろう。

Enzyme redesign guided by cancer-derived IDH1 mutations   Zachary J Reitman, Bryan D Choi, Ivan Spasojevic, Darell D Bigner, John H Sampson & Hai Yan   Nature chemical biology Published online: 23 September 2012 | doi:10.1038/nchembio.1065

「A new approach for rational enzyme design uses gain-of-function cancer mutations to guide homologous mutations in homoisocitrate dehydrogenase, yielding a biocatalytic path to (R)-2-hydroxyadipate, a precursor for the major commodity chemical adipic acid.」と書かれている。

イソクエン酸デヒドロゲナーゼ IDH に関してはさらに研究が進んでいる。

「基礎代謝の異常 → 異常な代謝産物 R-2HG などの生成、または正常な代謝産物の異常な蓄積 → それによる直接・間接的な、エピゲノム状態などの様々な変化」

というメカニズムがあるらしい。エピゲノムと関係する酵素にヒストンデアセチラーゼがある。脂質が分解する過程で合成される酪酸にはこの酵素を阻害する働きがあることがよく知られている。   http://syodokukai.exblog.jp/17603919/   このことについて解説されたすばらしい文章

バイオ燃料を大量に作る細胞は基礎代謝のレベルから普通の細胞とは違う物になるはずである。そういう細胞ではエピゲノム状態がどう変化するのか、そういうことも生産性と関係する可能性もなくはない。代謝の変化で生じた化合物がエピゲノムに働く酵素を阻害または活性化し、それがさらに代謝を変化させるという正のフィードバックができたりすることもあるかもしれない。基礎的な代謝とエピゲノム状態の関係は病気だけでなく様々な分野で重要かもしれない。

An inhibitor of mutant IDH1 delays growth and promotes differentiation of glioma cells.   Rohle D, など多数   Science. 2013 May 3;340(6132):626-30. doi: 10.1126/science.1236062. Epub 2013 Apr 4.   PMID: 23558169

Targeted inhibition of mutant IDH2 in leukemia cells induces cellular differentiation. Wang F, など多数 Science. 2013 May 3;340(6132):622-6. doi: 10.1126/science.1234769. Epub 2013 Apr 4.   PMID: 23558173

イソクエン酸デヒドロゲナーゼは、油脂を蓄積する微生物でも重要な役割を果たしている。   http://www.spc.jst.go.jp/hottopics/1107bioenergy/r1107_zhao.html   のイソクエン酸デヒドロゲナーゼはミトコンドリアに局在する。窒素欠乏条件でこの酵素活性が阻害され、クエン酸が蓄積する。そのクエン酸は細胞質でアセチル CoA となり油脂の原料になる。理屈上では、An inhibitor of IDH1 で処理すると窒素欠乏条件の代わりになることが推測できる。しかし窒素欠乏の効果は他にも様々なことを起こしているだろうから、そうなるとは限らない。

クエン酸とバイオ油脂の生産効率に関連があることは、Human Metabolome Technologies 社のホームページでも紹介されていた。   http://humanmetabolome.com/05/10161   メタボロミクスの油生産への応用   Differential Metabolite Profiles during Fruit Development in High-Yielding Oil Palm Mesocarp.   Teh HF, Neoh BK, Hong MP, Low JY, Ng TL, Ithnin N, Thang YM, Mohamed M, Chew FT, Yusof HM, Kulaveerasingam H, Appleton DR.   PLoS One. 2013 Apr 11;8(4):e61344. doi: 10.1371/journal.pone.0061344. Print 2013.   PMID: 23593468 と言う論文が紹介されている。油脂生産性が高いアブラヤシ品種では、リンゴ酸/クエン酸 の比率が高い。クエン酸が効率よく油脂生産へ流れているのだろう。    

がん特異的酢酸産生代謝を標的とした分子イメージングに関する基礎研究 Study on molecular imaging for tumor-specific acetate metabolism Research Project Number:19790864 FY2007〜FY2008 吉井 幸恵 YOSHII, Yukie 福井大学・高エネルギー医学研究センター・助教 Researcher Number:10397242 という研究が進められている。アセチルCoA 生産に変化があるらしい。


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