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「系統樹思考の世界−すべてはツリーとともに」(講談社現代新書) -

著者 三中信宏博士 講談社現代新書 1849 2006年発行

「系統樹」というもの、系統樹の研究、それに伴う様々な考え方が単に生物の分類、進化の研究だけでなく、もっと広い様々な領域にも適用できるものであることが示されている。

系統樹の推定に関して、非常に興味深いことが書かれている。ある物事を考察する場合、「演繹 deduction」「帰納 induction」という二種類の推論法がある。しかし生物学、進化学では推論の元になるデータの数が少なく、しかもばらつきが大きく間違いを含んでいることが多い。データを同じ条件で反復して得ることが不可能なこともある。それならこれらの学問では推論という行為自体が不可能なのか。私も長い間生物に関する研究を行っているが、実験を行って出てきたデータを見て「生物学では真実を求めることは不可能なんじゃないか(大げさに書けば)」と思うこともよくある。

(とはいっても、そういうときは研究対象に対する理解が足りない・調べていることが本筋から外れている・実験のやり方が悪いなどの理由がある。理解が進むと、予想と異なる、バラツキが大きい結果が出てくることはなくなっていく。そのことが、研究の進展の度合いを示す指標にもなる。研究の価値を定量化する基準の一つになるかもしれない。ある研究を開始する前は全く予測できなかった物事が、研究の成果によって予測可能になる度合いが高ければ、その研究には価値があると考えることができる。)

実験の繰り返し回数を増やせばよいのだが、時間、コストがかかってしまう。せいぜい3回ということも多い(もちろんもっと繰り返し回数を増やせるように工夫することは必要で価値が高いが)。室内で行う実験でも、季節が変化して温度などが変化するので全く同じ状態で繰り返せるわけではない。実験結果を再現するには、条件を少し調節することが必要になることもある。

そこで「アブダクション abduction」という第三の推論様式が紹介されている(63ページ)。「データから絶対的な真実を求める、証明する(生物学では不可能なことが多い)」のではなく、「与えられたデータを元にして、一番尤もらしい最善の説明を導き出す」ことが解決策となる。

とはいっても、「おまえはこれが最善の説明だと言っているが、私にはとてもじゃないがそう思えない」と冷たくあしらわれることが多い。「せめてその説明から、何か役に立つことにつなげてみろ。それなら少しは考えなくもない」ということになる。証明もできず、役にも立たないのでは価値ある成果と認めてもらうことは難しい。

「実験計画法」の本はためになる。 「実験計画と分散分析のはなし―効率よい計画とデータ解析のコツ (単行本)」 大村 平 (著) 日科技連 という本がある。三中先生は実験計画法、分散分析に関することも書かれている。   http://cse.niaes.affrc.go.jp/minaka/R/ANOVA.html