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ハミルトニアンとラグランジアンについて -

目次

ラグランジアン L について

L は、運動方程式をもっと一般化した形(オイラー(ラグランジュ)方程式)で表現するために使われる。ある解明したい物事からまず L を作る。L を使うと、その物事をうまく表現するオイラー(ラグランジュ)方程式(L の偏微分を組み合わせた式)を作ることができる。それを解くことで、その物事に適用できる運動方程式を微分方程式として導ける。導いた運動方程式を解くことで、その物事をより深く理解することが可能になる。 https://www.kitasato-u.ac.jp/sci/resea/buturi/hisenkei/sogo/physics.pdf で、十河 清先生が「力学の問題とは、運動方程式を立てること、そしてそれを解くことである。運動方程式を解くとは「力を知って、運動を求める」あるいは逆に「運動を知って、力を求める」ということに他ならない。」と書かれている。なぞらえると L や H の場合は「エネルギーを知って、力、運動、様々な物事を求める」ということになる。 

L は、   は x を何か(普通時間または位置)で一回微分

という形の、二つの引数を取る関数という形をとる。この二つの引数は何でもよいわけではなく、一つが  なら、もう一つは、それを何か(普通時間または位置)で微分した値  でないといけない。 二つの引数にこの関係があると、オイラー方程式をうまく利用できて様々な問題がうまく解けるようになっている。

運動を決定する(何か)があり、その(何か)を積分した値が最小になるように、運動は決定される

運動に関する原理として、こういう原理がある。「運動を決定する(何か)があり、その(何か)を積分した値が最小になるように、運動は決定される」  このことをまず「そういうものだ」と受け入れる。

これを変分原理という。(何か)は、考えている対象に合わせて具体的な数式としてよく考えて作る・書き下ろす必要があるが「こういうものでなければならない」という制限はない。そのためこの考え方はきわめて広い範囲の問題・分野に適用できる。

とは言っても、ある程度制限を付けたほうが使いやすくなる。上に書いたように L を    は x を(時間または位置)で一回微分   という形に決めると、変分原理に基づいて運動を表現する式をうまく作ることができる。

ラグランジアン L の場合、L を時間などで積分した関数を考える。それを S 作用積分という。 上に書いた文章と対応させると「運動を決定する(何か)」が L になる。

「運動を決定する L があり、その L を積分した値である S 作用積分が最小になるように、運動は決定される」ということになる。

一方、L の形をした関数について、変分法という方法で L を積分した値である作用積分 S が最大・最小になる条件を計算すると、オイラー(ラグランジュ)方程式が出てくる。このことは数学で示される。とても都合のよいことに、この数学で示される事実が物理的な運動にぴったりと当てはまるので、オイラー方程式を物体の運動を表現する方程式として使うことができる。

オイラー方程式については、この文章では後の方で考えてみる。

ラグランジアン L (=運動を決定する(何か))は、考えている対象に合わせてよく考えて、具体的な数式として作る・書き下ろす必要がある。どうやってそれを実現するのか。

まず考えている対象をよく調べて、「L はこういう性質を持たなければならない」という縛り、満たしていないといけない性質をできるだけ多く見つける必要がある。物理の本ではこのことをよく「〜ということが要請される」と書いている。それらの、絶対に満たしていないといけない性質、条件を元にして方程式の形を決めていくことができる。

要請=絶対に満たしていないといけない性質、条件  満たしていない考え方、数式、モデルは反則になり除外される。

まず、一番単純なごく普通の物体の運動について、L をどう構成すればよいか考えてみたい。しかしこれだけでも難しい。そこでまず安直で品格がないが単純な考え方を勉強して、その結果から考えてみる。

格調が低い・安直で品格がないが単純な考え方

理論というものは制限やパラメータ数ができるだけ少なく、きわめて広い範囲の問題・分野に適用できるほど価値が高い。だから上に書いたような考え方で L について考える方が格調が高く本来は望ましい。しかし素人が理解するのは難しくなる。だからもっと単純な考え方が紹介されている本を読んでみる。

村田憲治先生による、「高校物理 雑記帳」(工学社)という本の110ページからに、「ラグランジュ方程式で遊ぶ」という、とてもわかりやすい解説があった。また「物理数学の直観的方法 第2版」(長沼伸一郎著)では第10章、159ページから解説されている。

単純なごく普通の物体の運動の場合、L = 運動エネルギー K  - 位置エネルギー U という関係が成り立つように L は決められる。他分野に適用する際にはその分野に適合するように決める必要がある。長沼氏の「経済数学の直観的方法(マクロ経済学編)」という本では、L = 最小化・最大化すべき量 +(または−) (未定乗数 * 制約条件)という形にすることが紹介されている。経済学分野の場合は何か目的の量を最小・最大にする関数(曲線)を見つけるために L を使う。

「高校物理 雑記帳」では、ニュートンの運動方程式を L を用いて表現する例が一番最初に紹介されている。この場合、運動エネルギーは 、位置エネルギーは 

上に書いたことから  これで  を決めることができた。

L は二つの引数をもつ関数なので、二通りの偏微分をすることができる。それぞれをやってみると、

   は一定  これは運動量 p になる。

   は一定  これは力 F になる。マイナスがついているが、力というものには必ず方向があり、このマイナスは方向に相当する。だから力の大きさだけを考えるとただの F になる。位置エネルギーは、「対象となる物体を、その位置に移動させるために必要な仕事(=距離 x 力)」と考えられる。重力加速度 g が働くのと反対の方向に物体を持ち上げるのをプラスの方向とするので、反対の方向ということでマイナスをつける。

ニュートンの運動方程式は  で、これを上に書いた関係を使い L の偏微分で表してみる。

(上の  についていたマイナスは、この運動方程式の力の方向に合わせるために取り去る。 しかし、マイナスがついていないとつじつまが合わない場合はマイナスを残す。)

          

と、L の偏微分を使って書き直せるようになった。 この書き直した式のことをラグランジュ方程式ということが、「高校物理 雑記帳」に書かれている。ラグランジュ方程式は、オイラー方程式という名前がついていることもある。この式はとても重要である。

オイラー方程式は、変分法という数学の方法を用いて導かれる。そのことについては、この文章の後半の方で勉強してみる。

上の例では L と「ニュートンの運動方程式」からラグランジュ(オイラー)方程式を導いたが、その反対に L とラグランジュ(オイラー)方程式から運動方程式(微分方程式)を導くことができる。その例が「高校物理 雑記帳」に書かれている。ばねがついた振動するおもりなどについて、その系の K, U から  を作り、ラグランジュ(オイラー)方程式に代入すると、その系に当てはまる運動方程式(微分方程式)を得ることができる。得られた運動方程式(微分方程式)を解くことでその系の性質を理解できるようになる。

「高校物理 雑記帳」には、バネにくっついたおもりの運動方程式を L とラグランジュ(オイラー)方程式から導く一番簡単な例が解説されている。

バネにくっついたおもりの運動方程式を普通に導く方法については、「微分方程式で数学モデルを作ろう」という本の 110 ページから書かれている。力学については山本義隆先生の「新・物理入門」を参考にする。「力が加速度を生じさせる」という因果関係に基づいて、

左辺は     は、バネについているおもりの質量  は、加速度(位置を時間で二回微分)

右辺は、バネの張力、おもりと台の間の摩擦力、おもりに作用する外力で、力というものには必ず方向があるのでそれぞれの向きを考えないといけない。 自然長から引っ張って長くする方向をプラスとする。バネの張力は引っ張る方向と反対の方向に働くのでマイナスをつける。摩擦力は速度にのみ依存するが、引っ張りによる変位を阻害するように働くのでマイナスにする。外力は引っ張る方向をプラスとする。 これらの力を合計したのが右辺になり、左辺 = 右辺で運動方程式ができる。

一番簡単な「摩擦力、外力はない」状態だと、    はバネ定数  はおもりの位置  はバネの自然長 バネが全く伸びていないと x = 0


これとおなじ式を、L とラグランジュ(オイラー)方程式から求められる。そのために、バネにくっついたおもりの運動の運動エネルギーと位置(ポテンシャル)エネルギーを考える。

運動エネルギーの元は仕事で、「対象に仕事が加えられることで運動エネルギーが生じる」という因果関係になっている。力学の仕事は 力 x 距離(熱力学の仕事と同じ)で、これは積分を用いて    で、F を運動方程式で書き直して  になる。 これを計算する。

 だから  ということを利用すると、t で微分したものをそのまま t で積分する(微分して積分すると元に戻る)ことになり、t は打ち消せて v を v で積分するだけになる。

すると  になり、これが運動エネルギーの変化になる。だから  が運動エネルギー

バネにくっついたおもりの運動エネルギーは、おもりの m 質量と v 速度を使えば上に書いたことそのままで  になる。

次にポテンシャル(位置)エネルギーを考える。この場合のポテンシャルエネルギーは、「おもりを位置 x へ動かすために必要な仕事」と考える。「おもりに仕事が加えられることで位置 x へ移動できる」という因果関係になる。

この場合の仕事も 力 x 距離 で、この場合の力 F はバネの張力  で書き直す。それも積分すると  k はバネ定数 a はバネの自然長 x は位置 これがポテンシャル(位置)エネルギー

運動エネルギーとポテンシャルエネルギーが揃ったので、L を作ると

  これから

この二つを     に当てはめると、

 で、これは普通の方法で導いた運動方程式と一致する。

一番単純なごく普通の物体の運動について、L をどう構成すればよいかを、なぞってみる

ある運動について、手がかりがほとんどないところから「どうやって L を構成すればよいのか」と考えるのは難しい。たぶん専門家でもそうだろう。素人としては、上に書いた答えやよく似た問題の答えを知っておき、それがどう出てくるかをなぞる方が話が早い。そこでそうしてみる。

このことについては、長沼氏の「物理数学の直感的方法」第 2 版の、171 - 175 ページのあたりに書かれている。

一番単純なごく普通の物体の運動について、L をどう構成すればよいかを、なぞってみる 。この場合に、L はどういうものでなければならないか(要請)を書き出してみると、まず大前提として、

L をこういう形の関数にすることで、オイラー方程式をうまく使うことができる。

また、「一番単純な、ごく普通の物体の運動」ということからの要請が生じる。

この要請を作用積分で表現するために、何を積分すればよいかを考えてみる。考えるというより、「これではどうか? ダメなら今度はこれではどうか?」と試行錯誤して、当たりを引くまで繰り返すという方法をとる。どんな分野でも、学者というものはたいていこういうことをしている。はずれを引いたとしても単に札を引くのとは違い、何か得られることが少しでもあることが多い。それを次の試行に生かすことができる(そうできないといけない)。

考えやすくするために、これから考えてみる運動をいくつかのグラフで表現してみる。

まず、縦軸、横軸を位置を表す座標にして、「地点 A から地点 B へ物体が最短距離で移動する」という運動をグラフで表すと(グラフ1)、

最短距離という要請から経路はこれ以外にあり得ないので、経路についてはこれ以上考えなくてよい。

つぎにこの運動を、縦軸を位置、横軸を時間にして書き直すと(グラフ2)、

グラフ2の A と B を結ぶ線の傾きは速度になる。

まず単純に 「速度 v =  を積分すればいいのではないか?」と考えて試してみる。そうすると   が作用積分の候補になる。これでよいのだろうか試してみる。

この積分を考えるために、縦軸が速度 v = 、横軸が時間のグラフに書き直してみる(グラフ3)。

速度が一定(初速度)で最短距離を通る運動(要請に当てはまる運動)なら、縦軸が速度、横軸が時間で、

このグラフ3の、点 A、点 B、それぞれから垂直に下がって横軸(時間)と交わる二つの点、これら4つを頂点とする図形の面積が作用積分に相当することになる。 この場合、この面積は点 A から点 B までの距離になる(速度 x 時間に相当するから)。

もし、グラフ2(縦軸が位置、横軸が時間)で点 A から点 B までが直線以外の線でつながれていたら、この「作用積分の候補」の値はどうなるか。これを考えてみる。

まず、「直線以外の線でつなぐ」ということを数式で表すにはどうすればよいか。これには、下の方でオイラー方程式を導くときに出てくる変分法の方法を使う。 縦軸が速度だから直線を  として、「直線から変化した」関数 は  と記述できる。  は定数、 は速度の変化を表す関数

これが速度(時間の関数)になる。

この場合、速度(時間の関数)を時間で A から B まで積分すると点 A から点 B の距離になり、速度が時間的にどう変化してもこれは変化しない。ということは、どんな速度をとっても作用積分の値は変化しないことになってしまう。これでは作用積分としては使えない。だから、速度 v =  を積分した値は作用積分の値としてはふさわしくないことがわかる。 ついでに、 と言うこともわかる。

そこで次に 「速度 v の二乗 =  を積分すればいいのではないか?」と考えて試してみる。そうすると   が作用積分の候補になる。これでよいのだろうか試してみる。

最初の、速度を表す直線を  として、「直線から変化した」関数は  と記述できる。

今度はこの式を二乗する。 すると 

この式を積分して、それが作用積分としてふさわしいかどうかを見てみる。

右辺の二番目の項は関数の積になっている。関数の積を積分するときは、部分積分に当てはめられるように関数を読み替える。この場合、 f'(x) を 、 g(x) を  として、部分積分の公式を当てはめると、この部分は

   

となる。 は、上に書いたように  だから 0 になる。 また  は、時間に対して水平な一定の値を取る線(グラフ3)の傾きだから 0 になる。 だからこの部分の積分は 0 になる。

残る部分は  で、それぞれを積分して足し合わせればよい。すると

 で、二番目の項は二乗した値を積分するのでつねに正の数を積分することになりマイナスにはならない。だから、この積分の値は、 運動が  の一定速度であるときに最小の値  をとり、それから外れれば外れるほど大きい値を取るようになっていく。

このことから、速度 v の二乗 =  を積分した値   は、作用積分としてふさわしい性質を持つことがわかった。作用積分の値が最小の値では最短距離を一定の速度で運動するという要請を満たすことができ、満たさない場合は値が大きくなる。

だから L の成分として  を使ってもよいのだが、これに  をかけ算して  にすると運動エネルギーと一致するので何かと都合がよい。だから L の成分として 運動エネルギー K を使うことになっている。

つぎにポテンシャルエネルギー U = mgh を考慮してみる。 

この場合、こういう要請が生じる。

要請3: 最小作用の原理から、ポテンシャルエネルギー U の作用積分  と、運動エネルギー K の作用積分  との差は最小になるように運動は決定される

「最小作用の原理」というものについては、ネット上にいろいろ解説がある。後で勉強する。このことが成り立つと、そこから正しい運動方程式が導かれてつじつまが合うと言うことらしい。

そこでこのことを認めると  が重要ということになり、この場合のラグラジアン L は、L = K - U ということになる。   グラフを書いて考えてみる。一番簡単な設定として物体を真下に落とす運動を考えることにする。それならグラフ1は上に書いたものと同じになる。縦軸を位置 x、横軸を時間にしたグラフは(グラフ2)、

グラフ2の A と B を結ぶ線の傾きは速度になる。

ポテンシャルエネルギーを考えた場合 U = mgx で、A と B を結ぶ線が直線よりも上を通過して(上に凸)結ぶならば、直線で結ぶより  ポテンシャルエネルギーの作用積分が大きくなる。

一方、上で調べたように、結ぶ線が直線の場合に運動エネルギーの作用積分は最も小さくなる。 A と B を結ぶ線が直線よりも上を通過して(上に凸)結ぶならば、直線で結ぶよりも運動エネルギーを作用積分した値は大きくなる。

ここでポテンシャルエネルギーによる作用積分の増加が、運動エネルギーによる作用積分の増加よりも大きいなら、二つの作用積分の差は小さくなる。A と B を結ぶ線が直線から離れることによってポテンシャルエネルギーは直線的に変化し、運動エネルギーは2乗で変化するので、直線からほんの少し動いたあたりではポテンシャルエネルギーによる作用積分の方が増加しやすい。

最初の、速度を表す直線を  として、「直線から変化した」関数は  と記述できる。 が直線からのずれになる。

直線からのずれが 0 の状態から、ポテンシャルエネルギーが増加する方向に大きくなっていくとする。上で考えたように、ポテンシャルエネルギー mgh は  で上昇し、運動エネルギー  は  で上昇する。

両者が一致するポイントより手前(ずれが 0 の原点の近く)では、ポテンシャルエネルギーの上昇の方が大きいので K と U の作用積分の差が直線の場合よりも小さくなる。最小になるところの状態が、運動を表す時間経過として選ばれる。

それによって、グラフ2の A と B を結ぶ線が直線よりも上を通過した(上に凸)時間経過を辿る運動になる(最初は初速度で動き出し、だんだん速度が増していく)。

ラグランジアンとビリアル定理の関係

ラグランジアン L をごく簡単に解釈すると「運動エネルギーとポテンシャルの差」ということになる。このことは「ビリアル定理」というものと関連付けることができるということを勉強した。

ビリアル定理では、中心力があるという条件における運動を考える。その運動が正しい・本来あるべきものであれば、運動エネルギーとポテンシャルの時間平均がある比に落ち着く(釣り合う)ことを示すことができる。比の値は、一次元単振動や三次元空間での万有引力による運動など運動の仕方によって変わるが「運動エネルギーとポテンシャルが釣り合う」ということは常に変わらず成り立つ。

特に、比が 1 になる場合、運動エネルギーの時間平均とポテンシャルの時間平均は一致する。そのときラグラジアン L は 0 になる。「本来あるべき運動ではラグラジアンは 0 になる」ということは、「ラグラジアン L は、ある運動が本来あるべき運動から外れた異常なものであることを示すスコア・ペナルティー項である」と解釈することができる。

そのため、「ラグラジアン L が最小になる」ということに、正しい運動を導くという意味が生じる(変分原理)。 比が 1 でない場合でも「運動エネルギーとポテンシャルが一定の比で釣り合う」ことと「ラグラジアン L が最小になる」ということが対応する(どう説明するかは考え中)。

変分原理と「エントロピー最大」について

変分原理では「作用積分が最大・最小になるように運動(の経路)は決定される」ということを認める。基本的な熱力学では、外部から熱の出入りがない系ではエントロピーが最大になるように状態は変化して最後は平衡状態になる。基本的な熱力学では変化の途中でどうなるかは考えないので経路は出てこないが、極値(最大・最小)になるように決定されるという部分は似ている。

「変分原理とエントロピー」で検索すると、いくつも資料解説が出てくる。

数学における変分原理:  http://watanabe-www.math.dis.titech.ac.jp/users/swatanab/thermo-d-f.html   「変分原理と熱力学的定式化」 Watanabe 先生による解説

Watanabe 先生の書かれていることによれば、エントロピーの性質を元にして変分原理を数学的に定式化することができるらしい。

(つづく)

変分法によってオイラー方程式を導く

オイラー(ラグランジュ)方程式は、変分法という数学の方法を用いて導かれる。そのことについて、「物理のかぎしっぽ」http://hooktail.sub.jp/index.html  というページでわかりやすく説明されていた。https://ja.wikibooks.org/wiki/解析力学   http://www-het.phys.sci.osaka-u.ac.jp/~higashij/lecture/tomonaga/amlec1.pdf 東島先生  などにも参考になる解説資料がある。それらを見て勉強してみる。

「物理のかぎしっぽ」で説明されているように、変分法というものは、高校数学に出てくる「関数を微分することで、その関数が極値を取る条件を見つける」ことと似ている。 変分法では、関数の形を変えることによって、その関数を引数とする汎関数の値を最大値・最小値・停留値にする条件を見つけることになる。

上の方で L ラグランジアンについて、運動を決定する L があり、その L を積分した値である S 作用積分が最小になるように、運動は決定されると考えた。 これを変分法に適用すると S 作用積分が汎関数になる。L を正しく作り、変分法によって作用積分 S が最大・最小になる条件を計算すると、オイラー(ラグランジュ)方程式が出てくる。このことは数学で示される。

とても都合のよいことに、この数学で示される事実が物理的な運動にぴったりと当てはまるので、オイラー方程式を物体の運動を表現する方程式として使うことができる。 私の考えで言い換えると、「物体は L を積分した S 作用積分の値が最小になる経路、時間経過を運動するようになっている。L を正しく作れば、その経路、時間経過をオイラー方程式によって計算できる」というようになる。このことは変分原理に基づいている。

「物理のかぎしっぽ」で説明されているように、汎関数は  という形で定義されていると都合が良い。 そこでここでは L のことを   と書くことにする。q を t (時間)で微分するので、引数に t を付ける。引数の順番は変えても良い。q[t] は、時刻 t における物体の位置で、時刻を 0, 1, ・・・ と変化させれば物体が通過する経路になる。L は引数が決まっていればよく、どんな関数であるかはここでは考えなくてもよい。そのためオイラー方程式は広い範囲の問題・分野に適用できる。

S 作用積分は  と書かれる。「物理のかぎしっぽ」で解説されているのと同じタイプである。

元になる関数 q(t) の形をほんの少し変化させると、それに応じて S の値は変化する。変化量を  とする。この量が 0 であれば、そのとき S の値は最大・最小・停留値になり、関数 q(t) と物体の運動が対応するようになる。 また、「形をほんの少し変化させる」と言っても、何の制約もなく勝手に変化させてよいわけではない。今回の作用積分は、積分区間が a から b に設定されている。グラフで表現すると、t = a に左端の点、t = b に右端の点があり、その間を経路に相当する曲線がつないでいる。

今回は簡単にするために「経路に相当する曲線の形は小さい変化ならどのように変化してもよいが、左端、右端の点の位置は変えずに固定する」という制約条件(境界条件)をつける。 左端、右端の点はそれぞれ運動の始点と終点に相当する。それらを変えると別の運動になってしまうのでそれらは固定しておくという設定にする。

上に文章で書いたことを数式に書き直さないといけない。「q(t) の形をほんの少し変化させる」という文章はどんな数式に対応するのか。「物理のかぎしっぽ」の説明に従うと、

「関数 q(t) の形をほんの少し変化させる」これは最初の関数を  として、「ほんの少し変化した」関数 q(t) は  と記述できる。

「関数 q(t) の形をほんの少し変化させると、それに応じて S の値は変化する」ということは、 を 0 にきわめて近い値にした際の作用積分 S の変化=による S の微分で表現できて、

「経路に相当する曲線の形は小さい変化ならどのように変化してもよいが、左端、右端の点の位置は変えずに固定する」という文章は、数式にすると   ということだから、  と表現できる。

関数 q(t) の形をほんの少し変化させたことによる作用積分 S の変化   が 0 になるように q を決めれば、そのときの S の値は最大・最小・停留値になり、q(t) と物体の運動が対応するようになる。 そこで  という式を解く必要がある。 それについては、「物理のかぎしっぽ」で解説されている。その解説に基づいて、自分にとってわかりやすいように長ったらしく書き直してみる。

まず、積分の内側にある  を  で微分する。これは合成関数の微分で、チェーンルールという規則に従って微分すると書かれている。

熱力学でも多変数の関数の微分が出てきた。F 自由エネルギー の全微分を行う際に、F(T, V) と書かれることから  になった。ここでもそれをなぞってみると、

ここでは  で微分しているので、 は  になる。時刻 t は、 を変化させても何も影響を受けない。だから  は 0 になり、この項はなくてもよい。

 は  になる。 これは  という定義の式を  で微分すればよくて、  になる。

 は  になる。 これは、上に書いた  をもう一回  で微分することになるので、  になる。

これらを合わせると   で、「物理のかぎしっぽ」の 3 行目の式の括弧の内側の部分になる。

つぎにこの式を積分する。括弧の内側は二つの関数の和で、それら全体を積分するには、それぞれの関数を積分したものを足し合わせればよい。「積分 関数の和」で検索すると金沢工業大学による解説資料を見ることができる。

二番目の項の積分は、部分積分というパターンに一致しているのでその方法を使って積分できる。部分積分とはどういうものかというと、

この場合は  が  に相当し、 が  に相当する。 書き出してみると、

となる。 の部分は、 ということから 0 になるので   が残る。 この部分を一番目の項と合わせた積分は、

この式の値が常に 0 になるには、括弧の内側の部分の値が常に 0 でなければならないので、

 である必要がある。 このことによってオイラー方程式が求められる。とてもつごうがよいことに、このように「汎関数を微分した値が0」ということから数学で求められた方程式が、物体の運動にぴったりと当てはまる。このことを変分原理という。このことに基づいて、オイラー方程式を運動方程式に使うことができる。 運動方程式以外の物事でも同じように「変分原理」がうまく当てはまり、用いられることがある。

熱力学と変分原理

(化学の)熱力学では「ギブス自由エネルギー G が最小になるように状態は必ず変化する」という原理がある。

L ラグランジアンについて上で考えた際には、「運動を決定する L があり、その L を積分した値である S 作用積分が最小になるように、運動は決定される」というように考えた。この考え方を G ギブス自由エネルギーに適用すると、

「系のエネルギー、熱的な状態を決定する G があり、その値が最小になるように、その系の状態は変化する」

になると考えることができる。L の場合、L を積分した S 作用積分が最小になるように運動が決まった。G の場合、それ自体はエネルギーである。熱力学でのエネルギーは、可逆過程では仕事 力x距離 で、力を距離で積分することで計算することができる。だから G 自体が積分された値であり、作用積分に相当すると解釈できる。

H について

運動を決定する運動量と(ポテンシャルエネルギーの元になる)力があり、それぞれを積分した値の和 (H) が一定になるように、運動は決定される

L ラグランジアンについて上で考えた際には、「運動を決定する L があり、その L を積分した値である S 作用積分が最小になるように、運動は決定される」というように考えた。この考え方を H ハミルトニアンに適用して、

「運動を決定する運動量と(ポテンシャルエネルギーの元になる)力があり、それぞれを積分した値の和 (H) が一定になるように、運動は決定される」

になると考えてみる。 H ハミルトニアンは多くの場合全エネルギー(運動エネルギー+ポテンシャルエネルギー)と一致するように決められる。 運動量が基本になり、それを積分すると運動エネルギーになる。 ポテンシャルの元になる力(重力など)が基本になり、それを位置、距離で積分するとポテンシャルエネルギーになる。

物理学にはエネルギー保存則がある。 これがとても重要な要請になるので、「あるべき運動、正しい運動」を物体が行うとすれば、そのときの全エネルギーは一定になる。正しい運動と異なれば異なるほど H の値は一定でなくなる=エネルギー保存則に違反する ということになる。だから H は多くの場合 運動エネルギー+ポテンシャルエネルギー ということになる。

しかし、H は単に運動エネルギーとポテンシャルエネルギーを足したものだと考えてはいけない。「ハミルトニアンは演算子でもある」と様々な資料に書かれている。運動エネルギーを計算する式、演算と、ポテンシャルエネルギーを計算する式、演算を足し合わせたものになる。それによっていろいろな性質が生じる。

H とシュレーディンガーの式

私の分野の場合、H ハミルトニアンは電子の運動を表現するシュレーディンガーの式で登場する。

 はハミルトニアン。

「ハミルトニアンは、電子の全エネルギー = 運動エネルギー + ポテンシャルエネルギー」であり、「ハミルトニアンは演算子でもある」と様々な資料に書かれている。 しかし、単に運動エネルギーとポテンシャルエネルギーを足したものだと考えてはいけない。そのことが、井本稔先生の「有機電子論解説 第 4 版」の 199 ページに書かれている。

H が単に運動エネルギーとポテンシャルエネルギーを足したものであれば、それはエネルギーに相当する数値になる。数値を乗算する場合、A x B = B x A  順番を入れ替えても問題はない。

しかし、シュレーディンガーの式に出てくる H ハミルトニアンはただの数値ではない。運動エネルギーを計算する式と、ポテンシャルエネルギーを計算する式を足し合わせたものになる。この場合乗算の順番を入れ替えると値が全然別になってしまう。このことを「H ハミルトニアンは演算子である」と言うように書いてある。 私の考えで書き換えると、「シュレーディンガーの式に出てくる H ハミルトニアンは行列のようなもの・行列に相当するもので、乗算を行う際には行列と同じく順番が重要になる。行列のように扱う」ということになる。 シュレーディンガー方程式について

これ以外にも、ハミルトニアンというものが備えていなければならない性質がある。それらについて調べてみる。

ハミルトニアンというものは、対角化できなければならない:シュレーディンガーの式を解くこと=対角化すること

 と同じ形をした式は様々な分野に出てくる。

例えばデータ分析・多変量解析について少し勉強すると、行列の「固有値分解」というものが出てくる。その際には行列から固有値と固有ベクトルを求めてそれらを組み合わせることで元の行列を分解する。

行列を固有値分解するためには、まずその行列の固有値、固有ベクトルを計算しなければならない。行列 A があるとする。固有ベクトルを B、固有値を λ とすると、

 

という関係が成り立つように、それらの値が決められる (%*% は行列、ベクトルのかけ算)。手で計算するのはとても大変だが、R 言語などを使うと簡単に計算できる。 左辺では行列 A だったところが、右辺では固有値 λ に置き換わっている。 このことから、固有値は元の行列の性質を保持しながら縮約した、大切な部分を取り出したようなものと考えることもできる。

 の場合は、上の例になぞらえると、元の行列 A に相当するものがハミルトニアン H、固有ベクトル B に相当するのが波動関数 、固有値に相当するのが「正しい軌道を占有しそこを動いている、という条件を満たした電子」が保持する全エネルギー   。ハミルトニアン H は関数だが、電子の性質を表す式に出てくる H はとても都合の良い性質(エルミート性)を持っているので、行列で固有値と固有ベクトルを求められるように固有値と固有関数を求められる。求められなかったら電子の状態を計算できないと言うことで困ったことになる。

行列を分解するということはとても重要で、物事をわかりやすく分析しやすくするために有用である。 どんな物事も分解して小さな要素の組み合わせにした方がわかりやすくなる。自分が分析したい物事・データが、うまく行列の形で表現できるものならその行列を固有値分解などの方法で分解することがよく使われる方法になる。いろいろな分解法があるが、固有値分解は一番わかりやすい(しかし正方行列でないと分解できないという制限もある)。

電子に関するいろいろな解説を眺めていると「ハミルトニアンを対角化してみる」と書かれていることがある。対角化というのは、対象が行列の場合、固有値分解と同じものを示しているらしい。対象が行列でなく関数の場合は「固有値分解」とは言わず、「対角化」というらしい。

固有値分解は正方行列を固有値と固有ベクトルを組み合わせて表す(分解する)方法である。 そもそも固有値、固有ベクトルとはなにか。上にも書いたように、単純に考えるとこれらは、対象とする行列をうまく分解することを可能にする、「数値」と「ベクトル」の組み合わせというように考えられる。 行列 A があるとする。固有ベクトルを B、固有値を λ とすると、

 

という関係が成り立つように、それらの値が決められる (%*% は行列、ベクトルのかけ算)。 行列を対象とした場合、固有値は「値」というからただの数値かというとそうではなく、元の行列の列の数と同じだけの個数が計算で出てくる。 のようによく書かれている。

固有ベクトルは固有値とセットになり、固有値の個数と同じだけの個数がある。それらの縦のベクトルを左から 1 番、2 番・・と順番に並べて行列を作る。それを P とする。 固有値も、1 番、2 番・・と順番がある。それらを対角成分にした行列を作る。それを Λ とする。

そうすると、元の行列 A は、 という、三個の行列をかけ算した形に分解できる。  は、行列 P の逆行列である。これを固有値分解という。A は正方行列でないといけない。

「高校数学の美しい物語」というすばらしいページの「行列の対角化の意味と具体的な計算方法」というセクションの解説には、 ならば、 と  は相似:「ある意味で同じ」 であると書かれている。固有値を対角成分に並べて作った  は対角行列で、  の特性・大切な性質を一番簡単な形で表現した行列になると言うことができる。

「対角化できる」ということは、どんなことを示しているか?

このことについては、「高校数学の美しい物語」というすばらしいページの「行列の対角化の意味と具体的な計算方法」というセクションで少し解説されている。

行列の場合、ある行列が対角化(固有値分解)できるならば、その行列は正方行列でないといけない。 また、その行列の固有値はそれぞれ異なる値でなければならない。 その行列の固有ベクトルは、お互いに直交している。

「直交している」とはどういうことを示すのか? 一番簡単な「直交」の例を挙げると、二次元のグラフの X 軸、Y 軸が直交している。この場合、X 軸の値が変化しても Y 軸の値には全く影響がない。その逆も成り立つ。二つの軸が直交していると、お互いに影響を与えない二次元の空間を考えることができる。 このことと同じように、行列から得られた固有ベクトルは、それぞれを軸とした、状態を表す高次元空間を作るのに役立つ。

また「ベクトル A と B が直交している」なら、A と B の内積=0 という関係が成り立つ。これはベクトルでない場合にも拡張できて、

(つづく)

関数の対角化・固有関数

行列ではなく「関数が対角化できる」場合はどうなのか。これについては「微分方程式の固有関数」という言葉で検索すると、それらしい資料が出てくる。微分方程式はいくつかのグループに分類することができる。それらのグループそれぞれについて、固有関数になる関数がどんなものになるかが数学者によって解かれている。「スツリューム・リウビウ型の微分方程式の固有関数」について解説してある資料があった。  https://www.sci.hokudai.ac.jp/~inaz/doc/B/math/node20.html    Masaru Inatsu 先生による解説    それらの成果をありがたく使わせてもらうことで解決できる。行列の場合は自分で固有値、固有ベクトルを求めたりソフトウェアで計算させたりするが、関数の場合はパターンが決まっていて数学者が築いた土台に乗っかるだけでよいらしい。

「スツリューム・リウビウ型の微分方程式」については、Wikipadia に書いてある内容も参考になる。この型の微分方程式を一般的な形で書くと、

と書ける。p(x), q(x), w(x) は実数の係数で x の関数になる。p(x), w(x) は 0 より大きいという制限がついている。

「エルミート」という言葉は量子力学でよく出てくる。「スツリューム・リウビウ型の微分方程式」の具体例の一つがエルミート微分方程式になる。簡単な例としては     のようになる。 この式は一見「スツリューム・リウビウ型の微分方程式」には見えない。しかしうまい具合に処理すると Wikipedia に書いてある       という形に変形できる。

それには、まず最初の式の項全部に  を掛け算する。こんなことを自分の頭だけで思いつくのは難しいが、そんな必要はなくてすでに確立した方法に則って進めればよい。

すると   

左から2つの項は、よくある「合成関数の微分」で出てくる形になっていて、合成関数の微分と一致させることができる。         こうすると Wikipedia に書いてあるように     と一致する。  

「エルミート微分方程式      の固有関数はエルミート多項式である」と書いてあった。

エルミートとはどんなことを示しているのか。エルミートというのはただの人名である。 生物には必ず学名がついているが、多くの場合それらは古いラテン語や人名から来ていて意味は特になかったりする。それと同じようなもので名前自体には意味がない。 しかし「エルミート」とわざわざ書いてあるのは、この名前が付いた方程式は何か特別な性質を持っているということである。

とりあえず、「エルミートと名前が付いた微分方程式は、必ずその固有値と固有関数を求めることができるという性質を持っている。またそれらの固有値は実数になる」ということにしてみる。

(つづく)

ハミルトニアンというものは、分解できると都合がよい

数理科学という雑誌の 2016 年 9月号 「摂動論の現代的意義」坂井先生の解説に以下のようなことが書かれている。

計算しようとするハミルトニアン H が、その性質のせいで固有値を計算できない場合、それを計算できる主要な部分と、できない部分(小さい)の和に分解する。

 は H のうちで計算できる主要な部分、 は残りの計算できない小さな部分 g は結合定数

こうすると、摂動法によって計算ができるようになる。

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