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細胞骨格に作用する阻害剤 -

細胞骨格については、私などよりもずっと詳しい研究者がたくさんいるので省略する。

わたしは、微小管阻害剤としてオリザリン、アクチン阻害剤としてラトランクリンB, サイトカラシンを使ったことがある。根の伸長、形態に対する効果を見た。野生型と、自分で単離した変異体で行い効果を比較した。やり方は Baskin & Bivens (1995) の方法によった。

サイトカラシンを培地に入れてシロイヌナズナの芽生えを育成した。その際にプレートを縦にして、根が下方向に伸びるようにした。すると、根がまっすぐに伸びられずにくねくねと波を描くようになった。しかし基本的に下に向いて伸びていた。その仕組みはわからない。サイトカラシンの濃度を変えると根の経路の振幅、周期が変わるかもしれない。阻害剤を与えない普段の状態でも、一見まっすぐに伸びているようでも、微小な振幅のサインカーブを描きながら下向きに伸びているのかもしれない。こういうことは生物ではよくあるらしい。人間の指や腕も、動かさないようにしようと思っても少しずつ常に動いている。

オリザリンの場合、セルロース合成阻害剤を与えたときとよく似ている。根の長さが短くなると同時に、肥大して直径が大きくなる。Baskin&Bivens の論文にも書かれている。

阻害剤の作用機構と、それによる器官や細胞の形態変化には非常に強い関連性があるらしい。

酵母で網羅的な遺伝子破壊株の形態観察が行われている。ある機能カテゴリーに属する遺伝子の変異は、それに対応した形態変化をもたらす。機能カテゴリーごとに特有の形態変化が生じる。遺伝子破壊による形態変化を詳細に調べ、形態変化データベースと照合するることにより遺伝子の機能予測もできる。阻害剤の開発にも役立つ成果である。http://www.jst.go.jp/pr/announce/20051220/index.html   東大大学院新領域創成科学研究科 大矢 禎一 先生らのすばらしい成果

このような阻害剤の効果は育成条件によって変わりうる。培地成分が変われば、阻害剤の効果も変わるだろう。例えばセルロース合成阻害剤の場合、培地に糖を高濃度加えると根の肥大を引き起こしやすい。これはシロイヌナズナの芽生えの場合で、植物種が変わるとそうでないこともある。また植物種が変わると効果を持つ阻害剤濃度も変わる。

オーキシンの輸送阻害剤として、以前からいくつかの化合物が見いだされ実験に用いられてきた。しかし、それらの作用はオーキシンを標的にすると言うよりもアクチンを標的とするものであることが2008年に見いだされた。

Auxin transport inhibitors impair vesicle motility and actin cytoskeleton dynamics in diverse eukaryotes.   Dhonukshe P, Grigoriev I, Fischer R, Tominaga M, Robinson DG, Hasek J, Paciorek T, Petrasek J, Seifertova D, Tejos R, Meisel LA, Zazimalova E, Gadella TW Jr, Stierhof YD, Ueda T, Oiwa K, Akhmanova A, Brock R, Spang A, Friml J.   Proc Natl Acad Sci U S A. 2008 Mar 18;105(11):4489-94. Epub 2008 Mar 12.

2,3,5-triiodobenzoic acid (TIBA) and 2-(1-pyrenoyl) benzoic acid (PBA)  はアクチン繊維を安定化する。植物だけでなく酵母、動物細胞でも同様な効果があることが示されている。アクチン線維に対する効果が、植物細胞においてはオーキシンの輸送に特に強い影響を与えることがわかった。言い換えれば、オーキシンの輸送に対して、アクチン線維は極めて重要な役割を果たしているといえる。