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理想気体の断熱自由膨張について -

目次

理想気体の断熱自由膨張について

理想気体の場合、断熱自由膨張では、 という関係が成り立つ。この数式を文章に直すと「理想気体断熱自由膨張する際には(理想気体でない場合はそうならない。クーラーはそのせいで冷える)、 その理想気体の体積が微小に変化しても、内部エネルギーは変化しない・内部エネルギーは温度のみによって決まる」ということになる。このことを熱力学の関係と、理想気体の状態方程式から示すことができる。 北先生の本(第一版) の 10〜11 ページに書かれている。北先生の本には、最初の部分に復習として基本的な熱力学、統計力学に関する簡潔で要を得たわかりやすい解説が書かれており大変ためになる。 また、井上先生(工学博士)が優れた解説を書かれている。   http://hr-inoue.net/index.html   「雑科学ノート」の「熱の話」

「現代の熱力学」を書かれている白井先生が、理想気体の断熱自由膨張・透熱自由膨張に関して解説を書かれている。  「理想気体の自由膨張ではなぜ温度は変わらないのか?」 http://www.cmp.sanken.osaka-u.ac.jp/~koun/therm/therm.html  単なる断熱自由膨張については熱力学第一法則に基づいて考えるべきと書かれている。


下の方で自分で書いたように、ここに書いてあることには問題点があるように思えた。 それは私が「微小な変化の際に成り立つ論理」を、大きな変化に適用できるものと勘違いしていたせいだった。 北先生の解説をよく読み返してみると、「微小変化」ということが明示されていた。だからここに書いたことには、自由膨張といっても「平衡状態からずれないようにきわめてゆっくりほんの少しだけ膨張することを繰り返す」という制限がついていることになる。

また、様々な先生方によるそれぞれの解説で前提条件が異なっていることが多いので、勉強する際にはよく注意して読まないといけない。物理の理論の先生が「物理では理論を考える際の前提条件は様々に変化させてもよい。「この理論の、この前提条件をこう変えてみるとどうなるだろうか」と考えて試してみることで、その理論を拡張したり新しい理論を作るきっかけにできる」というようなことを書かれていた。


北先生の解説を自分にとってわかりやすくなるように長ったらしく書き直してみる。

まず、PV = nRT を使いやすい形に直すことを考える。 の形にして、n, R だけでなく V も一定ということにしてみる。そうすると両辺を T で偏微分できる。すると  となる。左辺の偏微分の形は、熱力学の関係に当てはめることができる。 だから熱力学の関係に  が出てくるようにする必要がある。

そのために、マックスウェルの関係式(偏微分同士の置き換え)を用いる。これについては、この文章 だと F (自由エネルギーの一種)に関するところで出てくる。dF = -SdT - PdV という関係から、F を二つの引数を持つ関数 F(T, V) と考える。 V 一定だと dF = -SdT これから  これをさらに V で偏微分すると左辺は

これを全く同じように、T と V を入れ替えて行うと左辺は   うまい具合にこれらの二つの操作(二変数の関数を二回偏微分する操作を、変数を入れ替えて行う)で出てくる左辺は一致することが数学でわかっている。だから   という関係になる。 だから  の代わりに  が出てくる式でもよい。

次に dS を表現する式が出てくる。素人的には  について考えるのだから dU を考えたくなるが、そうではなくて一度 dS を出してくる。こういうところはパズルのようでなるほどと思わされる。 単に dS を出すだけでなく、S(T, V) という形で考える必要がある。 このことで、  を式に取り込むことができてその後がうまくいくようになる。

その場合の dS をまず数学的な関係で表すと  この形を全微分という。これは数学的な操作で、状態量の場合熱力学と関係ないところでも常に成り立つ。

上に書いた関係式から  を使って  と取り替えることができる。そうすると  

ここで、dU = TdS - PdV という熱力学の可逆過程における関係を持ち出してきて、上の dS の式を代入して書き換える。すると

 で、dV の部分をくくると

ここでさらに、最初の方で書いたように、理想気体の状態方程式 PV = nRT を偏微分の関係を表す式にしてみる。

 で n, R は定数である。ついでに V も一定ということにすると、 両辺を T で偏微分する(V は一定)ことができて、 という偏微分の関係を作れる。

この関係は、うまい具合に上の dU を表す式の右辺の二番目の項に入っているものと同じである。そこで代入して書き換えると、この二番目の項は

 で、 PV = nRT だからうまく消えて dV には常に 0 をかけ算することになる。 このことは、dU を表す式に dV は入ってこない = 理想気体の場合、内部エネルギーは、断熱自由膨張による体積の変化によって影響を受けない ということを示す。


上に書いたことには一カ所問題点があるように思えた。それは、

「断熱自由膨張は不可逆過程である。しかし、上の論法の途中で「dU = TdS - PdV という熱力学の可逆過程における関係を持ち出してきて」という部分があり、そこでは可逆過程を考えていることになってしまうのではないか。これはいったいどういうことか」という問題点である。 自由膨張では仕事を −PdV では表せない。上で対象にしている断熱自由膨張では気体は仕事をしない。

断熱自由膨張が開始する前の状態は平衡状態でないといけないし、断熱自由膨張が終了した状態も平衡状態でないといけない。 TdS - PdV は自由膨張による変化を表わす式ではなく、その気体が熱平衡状態にあることを示す式として存在していると考えるとどうか。 ここで使っている dU = TdS - PdV に入っている dV は、「断熱自由膨張が開始する前の平衡状態」からの、微小な体積変化に対応していると解釈すれば言い訳ができるのではないだろうか。

それだと

「開始する前の状態からほんの少しだけきわめてゆっくりと、平衡状態を維持したままきわめて小さく体積が変化する場合」

以外については考慮していない(できない)ことになる。カルノーサイクルのように、平衡状態を維持したままできわめて小さく状態(この場合は体積)が変化することを何回も何回も積み重ねていくことを想定しているのだろう。「理想気体は理想的だからそれが通じるんだ」ということでよいのだろうか。

解説を読み直してみると確かに「微小変化」と言う語句が何回もきちんと書いてあった。文章はよく読まないといけないと言うことがよくわかった。また「微小な変化の際に成り立つ論理」を、大きな変化に適用してはいけないこともわかり、勉強になった。

理想気体は、断熱状態で (Q = 0) 自由膨張をする(そのとき仕事を行わない W = 0)ならば、熱力学第一法則から体積が一気に大きく変化しても内部エネルギーは変化しない。内部エネルギーは状態量であることから、最初と最後の状態だけを考えればその間の状態が平衡状態でもそうでなくても関係がないが、上の方に長々と書いた理屈だと一気に大きく体積が変化することで平衡状態が崩れる場合については考察できない。

「理想気体は理想的だからものすごく急速で大きな体積変化に対しても平衡状態が崩れることなく保たれる」ということにすれば一応よいのかもしれない。しかしその場合でも dU = TdS - PdV の意味は「平衡状態からの微小なずれ」と考えないといけない。

断熱自由膨張のエントロピー変化について:焼き直し法による計算

断熱自由膨張のエントロピー変化

実在の気体と理想気体の違い

実在の気体と理想気体の違いについて参考になることが、白井先生による「現代の熱力学」の 77-78 ページに書かれている。一気に大きくピストン(壁)が動いて体積が変化する過程は急変過程と呼ばれる。実在の気体、粘性のある液体は体積の変化に全体が追従するのに時間がかかるので、移動する壁の近くでは、壁から離れた場所と異なる不均一な圧力になる。壁が移動を停止しても、全体が一様な平衡状態に落ち着くまでに時間がかかる。 理想気体はそういうことがないので、気体のどこを取っても常に均一で一様な状態になる。または「理想気体について考える際は、気体全体が一様な平衡状態に落ち着くまでの過渡的な状態は考えに入れない・過渡的な状態はない」という大前提があると考えてもよい。

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