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Ancymidol -

ancymidol アンシミドール 

Pubchem へのリンク http://pubchem.ncbi.nlm.nih.gov/summary/summary.cgi?cid=25572&loc=ec_rcs

ジベレリン生合成阻害剤だが、高濃度 (100μM)ではタバコBY2細胞のセルロース合成にも作用することが2008年に報告された。シロイヌナズナに対してもそれくらいの濃度で同様な「形態変化作用」を示す。

その論文
A novel, cellulose synthesis inhibitory action of ancymidol impairs plant cell expansion.   Hofmannova J, Schwarzerova K, Havelkova L, Borikova P, Petrasek J, Opatrny Z.   J Exp Bot. 2008;59(14):3963-74. Epub 2008 Oct 1.

しかし、セルロース合成阻害剤と同様な効果を引き起こすためには、高濃度 (100μM)を必要とする。その濃度で起きる効果は、ジベレリンを同時に処理しても回復されない。ジベレリン生合成阻害を介した成長阻害効果は、1〜10μMで引き起こされジベレリンを与えることで回復する。

アンシミドールやウニコナゾールなど、ジベレリン生合成阻害剤として知られている一群の化合物がある。和光純薬で売っている。それらは シトクロームP450 の阻害剤であることが知られている。P450は細胞内に多種類存在する。それぞれの化合物によって、どのP450を強く阻害するか(選択性)が少しずつ異なる。ジベレリンの生合成だけでなく、他のホルモンなどの生合成にも同時に影響を与えるものもある。

ウニコナゾールは副作用としてブラシノライドの生合成を阻害する作用、ABAの代謝を阻害する作用がある。アンシミドールよりも、ウニコナゾールの方が低濃度でシロイヌナズナの発芽を阻害することが知られている。

Structure-activity relationship of uniconazole, a potent inhibitor of ABA 8’-hydroxylase, with a focus on hydrophilic functional groups and conformation.   Todoroki Y, Kobayashi K, Yoneyama H, Hiramatsu S, Jin MH, Watanabe B, Mizutani M, Hirai N.   Bioorg Med Chem. 2008 Mar 15;16(6):3141-52. Epub 2008 Mar 4.   ウニコナゾールではアンシミドールのような「根の形態変化作用」は見られない。

高濃度のアンシミドールは、副作用で何らかのセルロース合成と関連する物質の生合成を阻害している可能性がある。セルロース合成阻害剤は、その物質の生合成を阻害するのが主な作用であると考えることもできる。しかしそうではないかもしれない。

アンシミドールをステロール合成阻害剤として使用している例がある。   http://repository.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/dspace/bitstream/2261/22585/1/esrh116007.pdf

しかし、ステロールに関する効果はないという報告もある。

Effects of Ancymidol (a Growth Retardant) and Triarimol (a Fungicide) on the Growth, Sterols, and Gibberellins of Phaseolus vulgaris (L.).   Shive JB, Sisler HD.   Plant Physiol. 1976 Apr;57(4):640-4.   PMID: 16659542   Triarimol には下胚軸の肥大を起こす作用があると書かれている。

ウニコナゾールをステロール合成の中間の重要な酵素  obtusifoliol-14α-demethylase (OBT 14DM)の阻害に使用した例もある。

Higher sterol content regulated by CYP51 with concomitant lower phospholipid content in membranes is a common strategy for aluminium tolerance in several plant species.   Wagatsuma T, Khan MS, Watanabe T, Maejima E, Sekimoto H, Yokota T, Nakano T, Toyomasu T, Tawaraya K, Koyama H, Uemura M, Ishikawa S, Ikka T, Ishikawa A, Kawamura T, Murakami S, Ueki N, Umetsu A, Kannari T.   J Exp Bot. 2015 Feb;66(3):907-18. doi: 10.1093/jxb/eru455. Epub 2014 Nov 21.   PMID: 25416794

セルロース合成阻害剤も何らかのシトクロームP450に阻害作用を持つ可能性もあるが、調べられていない。植物には非常に多種類のシトクロームP450があるので研究が難しい。網羅的解析が必要になる。脂溶性化合物の網羅的解析が有効かもしれない。「低濃度のアンシミドール存在下でも、根の肥大効果(セルロース合成阻害による)が強く出るようになった変異体」を拾うのも有効かもしれない。 Hofmannova J らはシロイヌナズナでも副作用が出ると書いている(3970ページ:結果は示していない)。しかし植物種によって副作用に違いがある可能性は高い。シロイヌナズナには様々なアクセッション(系統)がある。副作用が出る系統、出ない系統が見つかればそれを利用して遺伝学的な解析ができるかもしれない。医薬でも、それぞれの人の遺伝的な違いから副作用の出方に違いが見られることが注目されている。

植物の根にジベレリンを処理しても通常伸長の促進は観察されない。しかしアンシミドールで処理したエンドウ豆の根では、非常に低濃度(ナノモルのレベル)のジベレリンで伸長促進がみられることが報告されている。

Interaction of Gibberellin A3 and Ancymidol in the Growth and Cell-Wall Extensibility of Dwarf Pea Roots   Eiichi Tanimoto   Plant Cell Physiol. 1994 35: 1019-1028.

谷本先生の論文では、アンシミドール(10μM)単独の処理で、根の伸長阻害と肥大が観察されている。その効果は低濃度のジベレリンで回復される。マメとタバコの間でも効き方に違いがあるのかもしれない。P450はダイバーソザイム、diversozyme と呼ばれる。

PubChem で見ることができるデータによると、この化合物はトリパノソーマに生育阻害効果があるそうである。 

IC50 = 20.94    Inhibition of Chagas Disease parasite Trypanosoma cruzi (Tulahuen LacZ, Clone C4), in vitro. [AID:623858]

マラリア原虫はアピコプラストという葉緑体に起源を持つ細胞内小器官を保持している。マラリア原虫にジベレリン生合成阻害剤が作用するという論文があった。

Gibberellin biosynthetic inhibitors make human malaria parasite Plasmodium falciparum cells swell and rupture to death.   Toyama T, Tahara M, Nagamune K, Arimitsu K, Hamashima Y, Palacpac NM, Kawaide H, Horii T, Tanabe K.   PLoS One. 2012;7(3):e32246. doi: 10.1371/journal.pone.0032246. Epub 2012 Mar 7.   PMID: 22412858

アンシミドールも、高濃度を必要とするが一応効果がある。

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