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CK-12_BIOLOGY_1を自分の言葉で書き直してみる -

目次

2 Chemical Basis of Life 生命の化学的基礎

まず、第2章から始める。 

生物がどのように構成されているのか、その成り立ちを化学から考える。

生物はとても複雑である。複雑なものを分析したいと思っても、そのままでは難しい。そこでまず全体を幾つかの基本単位に分ける。さらにそれぞれの基本単位を細かく分ける。細かく分けていくことを繰り返す。例えば人体ならば、頭、胴体、手、足などに大きく分けられる。手をさらに分けると、皮膚、骨、筋肉、神経、血管などに分かれる。それぞれは何種類かの細胞に分けられる。細胞は様々な構成要素に分けることができる。

ある程度細かく分けらければ、それぞれの要素を構成する成分の種類が少なくなり単純でわかりやすくなるので、それらを研究し解き明かす。それぞれの要素を研究してわかったことをまとめていく(再構成する)ことで、複雑な生物の仕組みの全体を理解できるようになる。

生物をいくつかの基本単位に分けることを考えると、多細胞生物と単細胞生物では共通する部分と異なる部分がある。どちらの場合も、細胞が一つの基本単位になる。多細胞生物では、複数の細胞から形成される器官、臓器などの、細胞よりも上位の階層が存在する。器官や臓器などが巧妙に組み合わさることで最上位の階層である個体が形成される。単細胞生物では、細胞一つが最上位の階層になる。しかしどちらの場合も、細胞が一つの基本単位になることは共通している。「細胞は生命の基本である」と考えることができる。

それらの細胞は、様々な物質 matter から構成されている。それらの物質は、ほとんどの場合、複数の種類の化合物 Chemical substances が組み合わさって構成されている。そこで、まず化合物から学び直してみる。 (Matter, substance, material がどう使い分けられているのかわかりにくいが、階層に対応するらしい)

化合物は、「定まった化学的組成をもつ物質 material」と定義できる。同じ化合物なら、同じ化学組成を持ち均一である。化合物は元素の場合もあるし、複数の元素からなることもある。

元素

元素とはなにか。これは化学、物理の範疇である。元素は純粋、単一の物質であり、それ以上分割できないものである。

例: 食塩は、結晶化して純粋なものとして単離できる。NaCl という定まった化学的組成を持っている。ナトリウム、塩素という二種類の元素を構成成分としてもつ。ナトリウム、塩素に成分を分けられるので食塩は元素ではなく化合物である。ナトリウム、塩素それぞれは元素なのでそれ以上分けることはできない。

それぞれの元素の実体は、特定の種類の原子 atom である。原子の中心には原子核がある。原子核は陽子 proton と中性子 neutron を含む。それらの数は原子の種類ごとに異なる。陽子は正の電荷をもつ。同じ元素なら、陽子の数は一定である。陽子の数と中性子の数を足すと、その元素の質量数になる。同じ元素(陽子の数が同じ)でも中性子の数が異なるものが存在することがあり、同位体と呼ばれる。

原子核の周囲には電子が存在する。電子は負の電荷をもつ。電子が原子核の周囲に、どのように分布しているのか(存在する確率の分布の形)が決まっている。電子配置、軌道と呼ばれる。

このことに関するすばらしい説明がされているページ   http://hr-inoue.net/zscience/topics/chemicalbond/chemicalbond.html   「雑科学ノート」化学結合の話   井上氏(工学博士)による解説    吉田伸夫氏によるすばらしいページ   http://www005.upp.so-net.ne.jp/yoshida_n/index.htm   の「科学の回廊」に、「シュレディンガーはいかにして波動方程式を見い出したか?」 という解説がある。

電子軌道の形が決まる大本には、「電子の運動は波動関数 (波動関数といっても色々なものがありうるが、総称して Ψプサイという記号で表す) で表現される」という事実がある。世の中には様々な周期的な変動をする物事がある。 周期的な変動は、波に見立てることができる。波が動いている様子を波動という。それらの波動を数学的に表すのに波動方程式というタイプの方程式が用いられる。それらは波動関数を要素として含む。 波の様子、性質を表現する関数のことをまとめて波動関数という。波動方程式は、分析したい状況(例:パイプの中で共鳴する波を分析する)をうまく表現できるように、分析対象に合わせて波動関数を要素として用い組み立てる。 組み立てた方程式を解くことによって、その分析したい状況下における波動関数がどういうものであるかを決める。

電子は粒子としての性質と波動としての性質を兼ね備えている。そこで波動の性質を表現できる波動関数を電子の運動に適用することで、その実体を数式を用いて表現できる。

電子の運動を表現する波動関数は、観察する方法によって見えかたが異なってくる。ある場合は波として観察され、また別の見方をすると粒子に見える。原子核の周囲に存在する電子の波動関数がどんなものになるかということは、シュレディンガー方程式という、波動関数を含む波動方程式で表現される。このことは普通の物体が運動する様子が運動方程式で表現されることに対応させることができる。波動関数が、運動方程式での物体に相当するものになる。大学で習う方程式にはそういうたぐいのもの(関数が方程式の要素になっている)が多い。波動関数が求められると、それを元に、どのように電子が存在しているかがわかる。それを電子軌道という。電子がもつエネルギーもわかる。

シュレディンガー方程式にはいくつかタイプがあり、電子軌道を求める、電子のエネルギーを表す場合は「時間に依存しない波動方程式」を当てはめる。そのことは、「原子を構成する電子は特に何の作用も受けない場合、いつまでたってもその状態は変化しない(電子の状態を決めるしくみに、時間が全く関与していない)」という、実験によって確認された事実に相当する。「定常状態」という。

そういう状態が実現されるには、いくつか必要な条件がある。「正しい方程式はそれらの必要な条件をすべて満たさなければならない」ということをよりどころにして、シュレディンガー博士は方程式を組み立てた。   このことに関する、吉田伸夫氏によるすばらしいページ   http://www005.upp.so-net.ne.jp/yoshida_n/index.htm   の「科学の回廊」に、「シュレディンガーはいかにして波動方程式を見い出したか?」 という解説がある。

発見された式は必要な条件を満たすだけでなく、実験によって求められた結果もうまく説明できないといけない(試金石)。それがうまくできなければ、その式は間違いということになる。水素を詰めた放電管から発する光のスペクトルを説明することが試金石になった。

現在、およそ120種類の元素が存在することが知られている。それらは周期表にまとめられる。

化合物

複数の元素が相互作用して形成された物質を化合物と呼ぶ。同じ種類の化合物なら、それぞれの元素の比率は常に同じである。例: 水分子 H2O は、水素原子が2個、酸素原子が1個から形成されている。

元素同士、または化合物同士、または元素と化合物が相互作用して新しい化合物を形成することを化学反応 chemical reaction という。生物の細胞では、非常に多くの種類の化学反応が起きている。それらが正確に進行することが生命の維持に必須である。ゆえに、化学反応に関する知識を持たなければ生命のしくみを理解することはできない。

化学反応によって、化合物を構成する原子と原子の間に結合が形成される。それらの結合を化学結合 chemical bonds という。化学結合を形成している原子同士は、電子を共有している。化学結合にはいくつかの種類がある。それらは 、原子と原子をどれくらいの強さで結合させるかが異なる。 

原子と原子をとても強く結合するタイプの結合として、共有結合 covalent bonds とイオン結合 ionic bonds がある。共有結合では、電気陰性度がほとんど同じ、または全く同じ原子同士が結びついている。 電気陰性度 Electronegativity とは何か? 電気陰性度は、それぞれの原子が電子を引きつける、誘引する力の大きさである。 対照的に、イオン結合では電気陰性度が大きく異なる原子同士が結びついている。その時は電子の配置に偏りが生じるので +、ー が生じる。

原子は原子核の周囲に電子が存在している。どのように存在するかは、その原子における、電子の状態を表現する波動方程式から波動関数を計算し、それを元に電子軌道を求めることでわかる。それと同じことを、原子と原子が結合することによって生じた分子についても計算できる。その結果から、ある分子においてどんな電子の軌道が生じているのかがわかる。それを分子軌道という。すばらしい参考資料    http://hr-inoue.net/zscience/topics/chemicalbond/chemicalbond.html   「雑科学ノート」化学結合の話   井上氏(工学博士)による解説   http://bunshi.c.u-tokyo.ac.jp/~endolab/Jpn/lab/kisogendai/no3_web.pdf        http://www.chem.ous.ac.jp/~gsakane/fun/   岡山理科大学理学部化学科 坂根先生   分子軌道が二つの原子で共有されていて、そこに電子が入ると、それは「共有結合」となり二つの原子を強く結びつける。


どんな生物の細胞も水 H2O を含んでいる。水がなければ生命は維持できない。水分子は、細胞に含まれる様々な分子の代表と考えることができる。そこでまず水分子について見てみる。

Figure 2.3 に水分子を模式図で表した図面がある。酸素原子を中心として、両側に水素原子が共有結合を作っている。水素原子は酸素原子の真横に付いているのではなく、斜めの角度を形成している。このことによって、水分子は左右対称だが上下方向には対称ではなくなっている。そのため、水分子には極性が生じる(対称でない=区別できる この場合、酸素原子が出っ張っている方向と、水素原子が2個出っ張っている方向に区別できる。それを極性があるという)。このことは、水分子特有の様々な重要な性質の元になる。それらについては後の章で出てくる。

生物に含まれる分子の多くは、構成要素として炭素原子 carbon と水素原子 hydrogen を含んでいる。それらは有機化合物 organic compounds と呼ばれる。炭素原子、水素原子が共有結合を形成している。 生物と関係がある、代表的な有機化合物の例にグルコース Glucose C6H12O6 がある。ほとんどの細胞はグルコースをエネルギー源として使うことができる。グルコースは糖 sugar の代表である。有機化合物以外の化合物は無機化合物 inorganic compounds と呼ばれる。細胞は様々な種類の有機化合物、無機化合物が複雑に組み合わさって構成されている。

化合物 compounds と混合物 mixtures は異なるものである。混合物 mixtures は、いくつかの化学物質 chemical substance が単に混じり合ったものである。それぞれの化学物質は様々な性質がそれぞれ異なるので、混じり合った状態からそれぞれの化学物質を別々に取り出すことができる。そういう操作のことを「化学物質を精製する(純粋な、きれいな状態にする)」という。

例として、鉄と硫黄の場合があげられている。鉄の粉、硫黄の粉を混ぜただけでは混合物である。鉄の性質、硫黄の性質はそれぞれ保持されている。鉄の粉が磁石に引き寄せられる性質(強磁性体)を利用することで、鉄の粉と硫黄の粉に分離、精製することができる。

鉄の粉と硫黄を単に混ぜるだけでなく、適度な比率で混ぜたものを熱することで化学反応を起こすことができる。この場合硫化鉄 (FeS) が生成する。硫化鉄に変化してしまうと、磁石を用いて鉄と硫黄に分離、精製することはできない。鉄でも硫黄でもない別の種類の化合物に変化しているので、鉄の性質硫黄の性質とは別の性質を示すようになっている。

物質 Matter とエネルギー Energy

物質には様々な性質 property が付随している。色や比熱や密度など様々なものがある。そのひとつにエネルギーがある。エネルギーと一言に言っても様々な種類のエネルギーがある。このテキストでは、簡略化して「エネルギーとは、仕事をする能力のことである」ということにしている(熱力学を習うと、内部エネルギーとか、ギブスの自由エネルギーとか、エントロピーとかが出てきてそれらが重要であることがわかる)。 エネルギー、エネルギー変化を考えることで自然界の様々な化学反応、状態変化などを説明し予測することができる。もちろん生物の細胞で起きることもそれらに含まれる。エネルギー、エネルギー変化は生物においても基本になっている(本当は熱力学が基本になっているというのが正しいが、それを説明するとエントロピーなどについても説明しないといけないので大変になる)。 すべての生物は生きるため、繁殖するためにエネルギーを必要とする。それらのエネルギーは、何もないところから生じることはない。エネルギーを持った物質、粒子から供給されたエネルギーを外部環境から取り込んで使っている。またエネルギーが消失することはない。生物が取り込んだエネルギーは、様々な化学反応を引き起こすために使われる。その結果、新しく生じた化合物のもつエネルギーと外界へ放出される熱エネルギーという形に変化する。それらを合わせたエネルギー量は、取り込まれたエネルギー量と同じである。これをエネルギー保存の法則という(熱力学の第一法則)。最終的にすべてのエネルギーは必ず何らかの形(多くは熱)で外界に放出される。

エネルギーは、様々な形をとることができる。「エネルギーと一言に言っても、様々な種類のエネルギーがある」と言い換えることもできる。様々な粒子、化合物がエネルギーを保持している。光エネルギー、化学結合のエネルギー、熱エネルギー(これは物質を構成する原子の平均運動エネルギーと比例する)がある。さらに運動エネルギー、ポテンシャル(位置)エネルギーなどがある。

生物は、細胞活動を維持するために必要なエネルギーを外部環境から取り込む。取り込まれたエネルギーは、様々な形に変換される。例として、植物が行う光合成がある。太陽光(光子)が保持するエネルギーを取り込み、取り込んだエネルギーをグルコース、デンプンなどの、化学エネルギーを保持する化合物へ変換する。光エネルギーから化学エネルギーへの変換が起きている。化合物が保持する化学エネルギーは、化合物を構成する原子同士の結合エネルギーという形になっている。 他の生物は、光合成によって生じたデンプンなどの化合物を食べる(体内に取り込む)ことでエネルギーを得る。この場合、取り込んだ化合物が保持する化学エネルギーを、原子同士の結合を切断する(それにより結合エネルギーが解放される)ことで取り出している。取り出されたエネルギーは細胞を維持するために必要な様々な化学反応を引き起こすために使われる。しかしその効率は100%ではなく、化学反応に使われずに熱エネルギーとして外部環境に放出される分もある。

さらに 運動エネルギー Kinetic energy、位置エネルギー Potential energy が紹介されている。手に持ったボールを落とすと、ボールは落下し運動エネルギーをもつようになる。そのエネルギーは無から湧いてきたのではなく、ボールが手にある状態(位置)の時に保持されていた Potential energy ポテンシャルエネルギーが形を変えたものである。 ポテンシャルがある = 〜をする能力がある  この場合は「重力による落下運動をする能力がある」ということになる。ボールが落下して地面に衝突すると、今度は上向きに運動するポテンシャルエネルギーをもつ。実際に上向きに運動すると、ポテンシャルエネルギーが減った分、運動エネルギーに変換される。実際にボールを床に落とすとボールは何回かバウンドを繰り返すがそのうち動かなくなる。それは、ボールがもつエネルギーが空気分子を動かす(空気抵抗)仕事、床を構成する分子を動かす仕事などに使われて運動エネルギーになる分が減っていくことによる。

ボールが動くのと同じように、あなたが動く時は常にあなたは運動エネルギーを得ている。ジャンプしても、走っても、まばたきをしてもよい。あなたは「ポテンシャルエネルギーをどうやったら得られるか」考えてみたことがあるだろうか? 台の上に立つ、スキー場でスロープの上に立つ、バンジージャンプのジャンプ台に立つなどが考えられる。これらの条件において、何がポテンシャルエネルギーの起源、原因になっているだろうか? 答えは重力である。

物質の状態 State of Matter

物質を構成する分子が保持しているエネルギーの量は、物質の状態 State of matter を決定する。物質は様々な状態のうちの、どれか一つの状態を取っている。状態には気体 Gas, 液体 Liquid, 固体 Solid state などがある。 これらの状態は、それぞれ異なる性質を持っている。

気体 Gas は、それを構成する原子または分子が自由に運動するのに十分な、高いエネルギーを持っている状態である。気体が容器に入っている場合は、容器の壁と、気体を構成する原子または分子が衝突する。それによる、容器の壁に対する衝撃力が気体の圧力として測定される。気体を構成する原子または分子同士は時々衝突することがある。 気体を構成する原子または分子同士がひきつけあう力は小さいので、それぞれの原子または分子同士の間に結合はない。それぞれがバラバラに動いている。

液体 Liquid は、それを構成する原子または分子同士が常に接触・結合しているが、お互いの位置は自由に変化できる状態である。常に接触・結合した状態は、原子同士、または分子同士がひきつけあう力が存在することによって生じている。しかしそれぞれの原子または分子が保持するエネルギーも高いので、お互いの位置を自由に変化させることはできる。

固体 Solid は、それを構成する原子または分子がお互いに強くひきつけあい、お互いの相対的な位置が固定された(自由に動くことができない)状態である。

図 2.6 に、気体、液体、固体の状態を模式的に示してある。どの状態も、同じ数の分子が容器に入っているが状態が異なる。気体の状態では、分子が容器全体に均一に広がっている。気体が占める体積は、容器の体積と等しい。 液体の状態では、液体が占める体積は容器の体積よりも小さいが、容器の下半分をすきまなく満たしている。容器の形状と液体の形状は、液体が存在する容器の下半分において一致している。固体の状態では、体積がさらに小さくなる。また容器の形状と固体の形状は一致しない。

何が物質の状態を決定するのか? What determines a substance's state?

物質がどの状態を取るかは、主に温度と圧力によって決定される。例えば、普通の標高の大気圧の元では、水は0度から100度の間で液体の状態にある。100度を超えると、水は水蒸気(気体)の状態に変化する。0度未満では、水は氷(固体)の状態に変化する。水の場合0度が融点(固体から液体に状態が変化する温度)、100度が沸点(液体から気体に状態が変化する温度)ということになる。それぞれの物質は、固有の融点、沸点を持っている。 例えば、酸素分子はマイナス183度よりも高い温度では気体である。鉄は 2861度よりも高い温度で気体になる。生物が生きることができる常温常圧の状態では、酸素は気体であり鉄は固体である。

状態の変化・遷移 Changing states

地球上に存在する物質は様々な状態を取る。状態が次々と移り変わり、また元の物質に戻ることで一つのサイクル(一周)を形成する。水分子、また炭素原子や窒素原子は生物を構成する成分として重要である。それらは常に地球上で様々な物質の成分となり、それらの間で移り変わり、また元の状態に戻ることでサイクルを形成している(環境での物質循環という・このことは生態学で研究される)。元素や分子は様々な物質を移り変わる間に状態が何回も変化する。

例として水の循環を考える。水は大気中に水蒸気(気体)として存在する。それが雨になって地上に降る際は液体になる。海に流れ込み、再び蒸発して気体になる。どうしてこのように、固体・液体・気体と状態が移り変わることが起きるのか?

このことを正しく説明するには熱力学が必要になるが、この教科書にはそのことは書かれていない。

まず、教科書に書かれているように説明してみる。物質を構成する原子または分子にエネルギーを与えると、原子または分子は、それら同士を結び付けている力に対抗することができるようになる。例えば、氷の状態にある水分子は、お互いに強く結び付けられていて、お互いの位置の変化はとても小さい。それを加熱することでエネルギーを与えると、次第に水分子が大きく動くことができるようになっていく。ある温度(氷なら0度)を超えると、氷を形成している水分子同士の結びつきが崩れて、液体の状態に変化する。そういう単純な考え方もある。

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6 細胞の分裂と増殖 Cell division and reproduction

第6章に進む。

細胞周期と染色体 Chromosomes and the cell cycle

どんな人間でも、その体は様々な種類の細胞から成り立っている。種類としては神経細胞、皮膚の細胞、筋肉細胞、などたくさんの種類がある。これらの細胞はそれぞれ異なるもので、異なる役割を持つ。しかしどの細胞も、一番最初はたった一つの受精卵から発生し、それから増殖してきたものである。そこで次のような疑問が生じる。

1)どのようにして、一つの細胞が二つの細胞に増殖し、さらに増殖を繰り返していくことができるのか? 

2)増殖した結果生じる多数の細胞は、すべて同じ DNAのセットを、その核の内部に保持しているのか? それらの DNA にコードされる遺伝子は同じなのか?

3)何が細胞に対して「増殖を開始せよ」というシグナル、きっかけを伝えるのか?

これらの疑問に答えるには、一つの細胞が分裂し二つの細胞を生じる仕組みを知らなければならない。一つの細胞が分裂し二つの細胞を生じる(細胞の数が増える)ことを細胞増殖という。 細胞は、どのようにしてその数を増やすのだろうか。

その様子を観察すると、2つの過程に分けることができる。

細胞が増殖する際には、必ず 1) と 2) が順番に起きる。 このことは大切である。

細胞の増殖は、1) DNA(など)の成分を複製 (倍に増やす)→ 2) 成分を正しく分配し、2つの細胞に分裂する → 1) → 2) → 1) → 2) → 1) → ・・・  と、二つの過程が周期的に繰り返す、循環することで行われるということがわかった。 その様子を、Cell cycle (cell は細胞、cycle は循環)と言う。日本語では細胞周期という。 1) はDNA合成期(S期 synthesis)、2) は分裂期(M期mitosis)と呼ばれる。 実際にはDNA合成期と分裂期はすぐに移り変わるのではなく、間に準備期間が挟まっている。 これらの期間を間期(gap, G1期、G2期)と言う。

細胞周期は、細胞が増殖する際に起きる複数のイベント(event 出来事)をまとめたものであると言うこともできる。それらのイベントが起きる順序は上に述べたように厳密に定まっている。 分裂期が終了すると細胞は二つに増えている。それぞれの細胞は「第一間期 G1期」に戻り、「増殖を開始せよ」というシグナルが伝えられるのを待つ状態になる。

細胞周期の進行で生じた二つの細胞がそれぞれさらに細胞周期を繰り返すことで、一つの細胞から二つ、四つ、… というように多数の細胞が生じることが可能になる。

細胞周期はG1, S, G2, M に分けられる。それぞれの説明をすると、

G1期(第1間期): 増殖を休んでいる細胞で、多細胞生物では多くの細胞がこの段階にある。この段階から周期を外れて様々な種類の細胞に特殊化し、それぞれの役割を果たす(分化)こともある。G は gap の頭文字。

S期(DNA合成期): 遺伝情報を複製(新しい細胞のためのコピーを作る)ために DNA合成を行う。S は synthesis の頭文字。

G2期(第2間期): 複製した物質(DNA など)を分配する準備を行う期間。

M期(分裂期):  分配を行う期間。 その際に染色体が形成され、顕微鏡で観察可能な大きな変化が起きる 。M はmitosisの頭文字。 M期は、さらに前期、中期、後期、終期に分けることができる。M期の最後(終期)で、二つの新しい細胞に分かれる(細胞質分裂)。

染色体:膨大なDNAをうまく2つの細胞に分配するための構造

人間などの生物の細胞がもつ核DNAはとても大きく、長い分子である。それを2つの新しい細胞へ、正しく1コピーずつ分配するのは難しい。分配しやすい構造にする必要がある。 その仕組みとして、核内部のDNAは、ヒストンというタンパク質と結合してヌクレオソーム、クロマチンと呼ばれる構造を形成している。 クロマチンがさらに凝集して染色体になる。 凝集 = 高密度に集合すること

染色体は、膨大なDNAをうまく納めて、2つの細胞に分配しやすくした構造である。DNAとヒストンが高密度に集合しているので、染色して顕微鏡で見ることができる。

M期の前期、中期、後期、終期は、染色体の構造を見ることで区別できる。

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