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Sugar_糖応答の変異体について -

目次

植物の糖応答は、わかったようでわからないことが多い。新しいタイプの変異体も毎年見いだされている。そこでそれらのリスト(完全ではないが)を作ってみて、考えるための資料にする(作成中)。

これは年代順に並べてみる。

大きく分けると Hexokinase 系と、ABI4 系(ABA-mediated sugar signalling pathway)に分かれるような気がする。さらに ubiquitin, 14-3-3 タンパク質 と関係するものも見いだされ注目されている。ABI4 系はプラスチドシグナルとの関係が指摘されていたが、ABI4 とプラスチドシグナルは関係がないことが 2019 年に示された。   Plastid-to-Nucleus Retrograde Signalling during Chloroplast Biogenesis Does Not Require ABI4.   Kacprzak SM, Mochizuki N, Naranjo B, Xu D, Leister D, Kleine T, Okamoto H, Terry MJ.   Plant Physiol. 2019 Jan;179(1):18-23. doi: 10.1104/pp.18.01047. Epub 2018 Oct 30. No abstract available.   PMID: 30377235

勉強が足りないのでトレハロース6リン酸に関する論文を全く見ていなかった。それらを追加した。   「植物におけるトレハロース代謝とその機能」今井先生による解説 2011 年 https://ci.nii.ac.jp/naid/110009691175  その後 SnRK1 を調節する化合物としての Tre6P の機能がもっと詳細に解明されてきている。トレハロース6リン酸、トレハロースを生合成するにはグルコースをリン酸化して糖リン酸にする必要がある。ヘキソキナーゼの作用がトレハロース6リン酸と関係することも考えられる。

2021年

SnRK1, Tre6P

Impact of the SnRK1 protein kinase on sucrose homeostasis and the transcriptome during the diel cycle.   Peixoto B, Moraes TA, Mengin V, Margalha L, Vicente R, Feil R, Höhne M, Sousa AGG, Lilue J, Stitt M, Lunn JE, Baena-González E.    Plant Physiol. 2021 Nov 3;187(3):1357-1373. doi: 10.1093/plphys/kiab350.    PMID: 34618060

グルコース-TOR-EIN2 シグナル軸

TOR–EIN2軸は核内シグナル伝達を仲介して植物の成長を調節する   2021年3月11日 Nature 591, 7849 doi: 10.1038/s41586-021-03310-y

2013年に TOR とグルコースシグナルの関係が示されていた。その続編のような研究で、核と細胞質の間を移動する重要な制御因子 EIN2 の関与が示された。EIN2 はエチレンシグナルの伝達に重要な役割を果たすが、それとは独立してグルコース - TOR 軸の制御を受ける。

Light regulates alternative splicing outcomes via the TOR kinase pathway    Cell Rep. 2021 Sep 7;36(10):109676.   doi: 10.1016/j.celrep.2021.109676.   Stefan Riegler ら   PMID: 34496244

光をエネルギー源として光合成により糖が生成する。糖が Serine/arginine-rich splicing factor RS31 (RSP31 At3g61860) https://www.uniprot.org/uniprot/P92964 という遺伝子などの alternative splicing を制御する仕組みに TOR が必要である。糖がミトコンドリアで代謝され ATP が生成される。その ATP が TOR を制御するらしい。

RNA-seq データ GSE132249、GSE68560 が公開されている。Table 1. にスプライシングに関わる遺伝子のリストがある。

2019年

GUN1 の機能が明らかにされた

日本の研究者を中心としたグループによるすばらしい成果 The retrograde signaling protein GUN1 regulates tetrapyrrole biosynthesis    Takayuki Shimizu, Sylwia M. Kacprzak, Nobuyoshi Mochizuki, Akira Nagatani, Satoru Watanabe, Tomohiro Shimada, Kan Tanaka, Yuuki Hayashi, Munehito Arai, Dario Leister, Haruko Okamoto, Matthew J. Terry, Tatsuru Masuda    Proc Natl Acad Sci U S A. 2019 Dec 3; 116(49): 24900–24906. Published online 2019 Nov 15. doi: 10.1073/pnas.1911251116   PMCID: PMC6900522

GUN1 は暗所ではフェロキラターゼ I と結合している。またヘムと結合している。その状態ではミトコンドリアなどで使うためのヘムが主に合成される。ヘムが結合しているとプラスチドシグナルが出なくなる。明所では GUN1 は分解してヘムがシグナル分子として働く。

2018年

ATX5, HY1

Trithorax-group protein ATX5 mediates the glucose response via impacting the HY1-ABI4 signaling module   Liu Y, et al. Plant Mol Biol 2018. PMID 30406469

ATX5 という因子はヒストン H3 lysine4 trimethylation を促進する。グルコースが少ない条件ではこの因子が HY1 遺伝子に働き、HY1 遺伝子の発現を上昇させる。 グルコースが過剰になると ATX5 が HY1 遺伝子の発現を活性化しなくなる。 すると何らかの仕組みで ABI4 の発現が上昇して糖シグナルが強く働く。 「何らかの仕組み」については書かれていない。 「Further studies should be performed to elucidate how HY1 activity affects the ABI4 expression mechanistically」と書かれている。HY1 はヘムオキシゲナーゼをコードしているので、普通に考えるとヘムが多くなって ABI4 を強く働かせるように作用していることになる。 しかしヘムの合成はフィードバックによって強く制御されているので hy1 変異体でもヘムの量はそれほど増えない。そのときクロロフィルが大きく減っている。 またヘムが分解した産物からはフィトクロム色素が合成される。hy1 変異体はフィトクロム色素が減少して光応答が悪くなり下胚軸が長くなる。 様々なことが起こりうるので、仕組みを推定しても単なる憶測 speculation にしかならない。

bZIP3

Sugar-responsive transcription factor bZIP3 affects leaf shape in Arabidopsis plants.   Sanagi M, Lu Y, Aoyama S, Morita Y, Mitsuda N, Ikeda M, Ohme-Takagi M, Sato T, Yamaguchi J.   Plant Biotechnol (Tokyo). 2018 Jun 25;35(2):167-170. doi: 10.5511/plantbiotechnology.18.0410a.   PMID: 31819719

https://www2.sci.hokudai.ac.jp/dept/bio/research/2614    At5g15830 AtbZIP3 basic leucine-zipper 3 は転写因子で、その発現量は糖によって抑制される。データベースを見ると窒素源処理で逆に上昇している。若い芽生えの子葉は普通凸型になっているが、この変異体では逆に凹型になっている。これはアンモニアを過剰に与えてストレスがかかっているときにも見られる。

2013年

TOR とグルコースシグナル

http://www.nature.com/nature/journal/v496/n7444/abs/nature12030_ja.html?lang=ja    植物科学:グルコース–TORシグナル伝達はトランスクリプトームを再プログラム化し、分裂組織を活性化する Yan Xiong など Nature 496, 181–186 (11 April 2013) doi:10.1038/nature12030

グルコース → 解糖系、ミトコンドリアによるエネルギー生産 → TOR タンパク質による制御 というメカニズムが働いている。その標的として、基盤的な代謝だけでなく、様々な重要な過程が制御される。

「タンパク質ホメオスタシスにおける栄養シグナル伝達:質を代償にして量を増やす」   http://www.cosmobio.co.jp/aaas_signal/archive/ra-20130416-1.asp   TOR タンパク質の活性が変化することで、「翻訳が効率よく起きるがエラーが多い」と言う状態と、「翻訳速度は遅いがエラーは少ない」と言う状態が切り替わると言うことが報告された。前者では成長は早いが、エラーを起こしたタンパク質の除去などにエネルギーを大量に必要とするだろう。熱力学になぞらえると、準静的過程でなくなってしまうので仕事に変換されない熱(翻訳以外の物事に使われるエネルギー)の割合が高くなるだろう。後者は成長は遅いだろうが、準静的過程に近いのでほとんどのエネルギーが翻訳に使われて効率が高いだろう。それによって栄養条件の変化に対応できるのかもしれない。

AtRH57

AtRH57, a DEAD-box RNA helicase, is involved in feedback inhibition of glucose-mediated abscisic acid accumulation during seedling development and additively affects pre-ribosomal RNA processing with high glucose.   Hsu YF, Chen YC, Hsiao YC, Wang BJ, Lin SY, Cheng WH, Jauh GY, Harada JJ, Wang CS.   Plant J. 2013 Nov 1. doi: 10.1111/tpj.12371.   PMID: 24176057

この DEAD-box RNA helicase は、核で働くものである。オルガネラで働く RNA helicase もある。この論文も、rRNA が出てくるので翻訳に関わるものである。翻訳は細胞内でエネルギーを大量に消費する過程でもある。

2012年

SCARECROW (SCR)

SCARECROW has a SHORT-ROOT-independent role in modulating the sugar response.   Cui H, Hao Y, Kong D.   Plant Physiol. 2012 Apr;158(4):1769-78. Epub 2012 Feb 6.   PMID: 22312006

SCARECROW (SCR) は At3g54220 http://atted.jp/data/locus/At3g54220.shtml   転写因子をコードする。scr 変異体は糖、ABA に感受性が高い。これにも ABI4 が関わっている。

PAA1

Analysis of Arabidopsis glucose insensitive growth Mutants Reveals Involvement of the Plastidial Copper Transporter PAA1 in Glucose-induced Intracellular Signaling.   Lee SA, Yoon EK, Heo JO, Lee MH, Hwang I, Cheong H, Lee WS, Hwang YS, Lim J.   Plant Physiol. 2012 May 11. [Epub ahead of print]   PMID: 22582133

いくつかの報告 (2004 年の S21 、2010 年の plastid hexokinase など)ですでに示されているが、糖シグナルにプラスチドが関係している。銅のトランスポーターの関与は、この論文が最初に示したものだろう。

2011年

糖シグナルと全RNA 量の増加

Mg-protoporphyrin, haem and sugar signals double cellular total RNA against herbicide and high-light-derived oxidative stress.   Zhang ZW, Yuan S, Xu F, Yang H, Chen YE, Yuan M, Xu MY, Xue LW, Xu XC, Lin HH.   Plant Cell Environ. 2011 Jun;34(6):1031-42. doi: 10.1111/j.1365-3040.2011.02302.x. Epub 2011 Apr 7.   PMID: 21388419

「全RNA 量の増加」という、ユニークな性質に着目している。

2010年

sis3

SUGAR-INSENSITIVE3, a RING E3 ligase, is a new player in plant sugar response.   Huang Y, Li CY, Pattison DL, Gray WM, Park S, Gibson SI.   Plant Physiol. 2010 Apr;152(4):1889-900. Epub 2010 Feb 10.   PMID: 20147494

RING ドメインを持つ E3 ligase が糖応答に関わっている。2009年の CNI1/ATL31 と似たものである。この変異体は ABA に対しては感受性が変化しないと書かれている。このことも CNI1/ATL31 と似ている。

gun1 と糖応答

GUN1 については2019年にすばらしい成果が発表された。

The retrograde signaling protein GUN1 regulates tetrapyrrole biosynthesis    Takayuki Shimizu, Sylwia M. Kacprzak, Nobuyoshi Mochizuki, Akira Nagatani, Satoru Watanabe, Tomohiro Shimada, Kan Tanaka, Yuuki Hayashi, Munehito Arai, Dario Leister, Haruko Okamoto, Matthew J. Terry, Tatsuru Masuda    Proc Natl Acad Sci U S A. 2019 Dec 3; 116(49): 24900–24906. Published online 2019 Nov 15. doi: 10.1073/pnas.1911251116   PMCID: PMC6900522

それ以前の論文に、糖との関係が示されている。

The Arabidopsis plastid-signalling mutant gun1 (genomes uncoupled1) shows altered sensitivity to sucrose and abscisic acid and alterations in early seedling development.   Cottage A, Mott EK, Kempster JA, Gray JC.   J Exp Bot. 2010 Aug;61(13):3773-86.    PMID: 20605896

若い明所芽生えでの、主要な糖応答の一つにクロロフィルに関する変化がある。培地に糖を適当量入れると子葉の緑色が濃くなる。しかし入れすぎるとかえって阻害し子葉は黄化する。

葉緑体にダメージを与えるいくつかの処理は子葉を白化させる。そのとき光合成に関する遺伝子の発現抑制が起きる。それはプラスチドシグナルと呼ばれる。研究が進んでいて、変異体に gun1~6, hon5, hon23 などがある。GUN1 は、プラスチドに局在する PPR タンパク質をコードし、プラスチドシグナルを統合する重要な遺伝子である。しかしプラスチドシグナルをどのように伝達しているか、よくわかっていなかった。2019 年の Shimizu らのすばらしい論文でヘムとの関係が示された。

Cottage らの論文では、Fig.6 で糖による LHCB1 遺伝子の発現抑制を調べている。野生型では糖によって LHCB1 遺伝子の発現抑制が起きている。

gun1 では、糖による抑制が、もっと強くなっている。

この結果は、Zhang ZW ら (2010) による結果と相反している。

野生型に糖を与えた条件で、LHCB はプラスチドシグナルを起こす薬剤処理 (lincomycin・オルガネラタンパク質合成阻害剤) によって、さらに強く発現抑制される。その発現抑制は、gun1 変異体ではおきず、糖のみの時よりもかえって発現が強くなっている。オルガネラタンパク質合成阻害剤が糖シグナルを強めることは、Zhang ZW ら (2010) によっても指摘されている。

この場合は、GUN1 が「糖+lincomycin」による抑制を打ち消すと言うことだから、Zhang ZW らの結果と一致している。

このことは、プラスチドシグナルと糖シグナルに複雑な相互作用があることを示す。ABI4 が ABA-mediated sugar signaling に関わっていることはコンセンサスになっているようだが、ABI4 はプラスチドシグナルの研究にも重要因子として登場する。ABI4 を介して両者に関係が出てくることは、reasonable 合理的である。 と論文を見て推測していたが、ABI4 とプラスチドシグナルは関係がないことが 2019 年に示された。   Plastid-to-Nucleus Retrograde Signalling during Chloroplast Biogenesis Does Not Require ABI4.   Kacprzak SM, Mochizuki N, Naranjo B, Xu D, Leister D, Kleine T, Okamoto H, Terry MJ.   Plant Physiol. 2019 Jan;179(1):18-23. doi: 10.1104/pp.18.01047. Epub 2018 Oct 30. No abstract available.   PMID: 30377235

プラスチドからのシグナルは、ヘムを介したしくみで核へ伝わることが 2019 年の Shimizu らのすばらしい論文で明らかになった。

糖のシグナルはどうやって ABI4 につたわるのか? まず糖がプラスチドになんらかの影響を与え、それがプラスチドシグナル(テトラピロール合成系と深い関係がある)と干渉して ABI4 に伝わるということもありえなくはない。糖はテトラピロール合成系にどのような影響を与えるのだろうか。芽生えの場合子葉が黄色くなるのだから暗所に近い状態になるのだろう。

Fig.8 では、gun1 は糖を含む培地で(ほんの少し)成長が遅れることを示している。

SR45

The plant-specific SR45 protein negatively regulates glucose and ABA signaling during early seedling development in Arabidopsis.   Carvalho RF, Carvalho SD, Duque P.   Plant Physiol. 2010 Oct;154(2):772-83. Epub 2010 Aug 10.   PMID: 20699397

SR45 遺伝子産物の局在性については調べられていない。ATTED-II によると、クロロプラストまたはミトコンドリアまたは核である可能性がある。 http://atted.jp/data/locus/At1g16610.shtml   plant-specific であることから、オルガネラで働いている可能性もある。

Plastid hexokinase

The plastid hexokinase pHXK: a node of convergence for sugar and plastid signals in Arabidopsis.   Zhang ZW, Yuan S, Xu F, Yang H, Zhang NH, Cheng J, Lin HH.   FEBS Lett. 2010 Aug 20;584(16):3573-9. Epub 2010 Jul 23.   PMID: 2065027

ヘキソキナーゼの局在性については、いまひとつクリアにはなっていない? 複数のヘキソキナーゼがあり、生育条件や細胞、組織の種類次第で局在はいくらでも変化するだろう。この論文では、プラスチド局在型のヘキソキナーゼに着目している。

この論文にも GUN1 遺伝子が出てくる。また、糖(グルコース)とクロラムフェニコールを同時に与える(オルガネラのタンパク質合成を阻害)すると相乗的に LHCB1等の発現を抑えると書いてある。このことは、「オルガネラでのタンパク質合成能の低下は、糖に対する感受性を高める・糖シグナルが強く効くようにする」と解釈できる。そう考えると、2004年の S21 の論文の結果をうまく説明できる。

この論文の著者らも、糖シグナルとプラスチドシグナルの関係に注目している。

Fig.2 では、糖による LHCB1 の発現抑制は、gun1, abi4 では起きにくいというデータがある。GUN1 、ABI4 遺伝子産物は、糖による LHCB1 の抑制に必要な因子であると解釈できる。LHCB1 の発現に関しては、糖シグナルはプラスチドシグナルと合流していると推定できる。

この結果は、Cottage A らによる結果の一部と相反している。Zhang ZW らの結果の方がうまく説明しやすい。

さらに、糖による LHCB1 の発現抑制はプラスチド型ヘキソキナーゼ phxk の変異によっても起きにくくなる。

Fig.3 では、LHCB1 の発現に対する CAP (クロラムフェニコール)、lincomycin, norflurazon の影響を見た結果がある。WT はどの処理でも大きく落ちる。gun1 はとても強くて、どの処理の効果もほとんどなくなる。abi4 でも、程度は低いが、すべての処理の効果を打ち消している。

しかし、2019年に「ABI4 はプラスチドシグナルと関係ない」ということになった。

phxk は CAP, lincomycin の効果は打ち消すが、NF の効果は打ち消せない。gun5 (Mg chelatase H subunit の変異)は、その逆になっている。プラスチドシグナルと言っても、NF と lincomycin では部分的に異なるらしい。

2009年

SnRK1

SnRK1 (SNF1-related kinase 1) has a central role in sugar and ABA signalling in Arabidopsis thaliana.   Jossier M, Bouly JP, Meimoun P, Arjmand A, Lessard P, Hawley S, Grahame Hardie D, Thomas M.   Plant J. 2009 Jul;59(2):316-28. doi: 10.1111/j.1365-313X.2009.03871.x. Epub 2009 Mar 19.   PMID: 19302419

SnRK2 はアブシジン酸シグナル伝達の重要因子であることがよく知られている。SnRK1 も重要な役割を果たしていることが知られている。 SnRK1.1 を過剰に発現すると Glucose sensitive になる。

CNI1/ATL31

CNI1/ATL31, a RING-type ubiquitin ligase that functions in the carbon/nitrogen response for growth phase transition in Arabidopsis seedlings.   Sato T, Maekawa S, Yasuda S, Sonoda Y, Katoh E, Ichikawa T, Nakazawa M, Seki M, Shinozaki K, Matsui M, Goto DB, Ikeda A, Yamaguchi J.   Plant J. 2009 Dec;60(5):852-64. Epub 2009 Aug 21.   PMID: 19702666

単なる糖シグナルではなく、炭素/窒素比率に対する応答を指標として研究されている。そのほうが浸透圧の変化などの副作用が少なくてよいのかもしれない。 RING-type ubiquitin ligase CNI1/ATL31 が原因遺伝子として単離されている。この遺伝子が過剰発現する (FOX-hunting line) ことで、高い C/N 比の条件でも子葉が緑化している。abi4 などの変異体では、この条件で野生型と同じく緑化できなくなっている。この遺伝子が機能を失うと C/N ratio 変化に感受性が高まる。この変異体は ABA に対しては感受性が変化しない。

何か CNI1/ATL31 の標的があって、CNI1/ATL31 の過剰発現でその標的が分解しやすくなると、高い C/N 比の条件でも子葉が緑化できるようになると推測されている。標的分子自体が高い C/N 比の条件では分解しにくくなるようになっていて、それがたくさん蓄積すると緑化を抑える。

すでに標的が 14-3-3 protein であると報告されている。Identification of 14-3-3 proteins as a target of ATL31 ubiquitin ligase, a regulator of the C/N response in Arabidopsis.   Sato T, Maekawa S, Yasuda S, Domeki Y, Sueyoshi K, Fujiwara M, Fukao Y, Goto DB, Yamaguchi J.   Plant J. 2011 Oct;68(1):137-46. doi: 10.1111/j.1365-313X.2011.04673.x. Epub 2011 Jul 27.   PMID: 21668537

Fig.6 を見ると、野生型芽生えでも糖を過剰に与えると 14-3-3 タンパク質がたくさん蓄積している。変異体でさらに増える。きわめてうまく仮説が証明されているすばらしい結果である。

Carbon and nitrogen metabolism regulated by the ubiquitin-proteasome system.   Sato T, Maekawa S, Yasuda S, Yamaguchi J.   Plant Signal Behav. 2011 Oct;6(10):1465-8. Epub 2011 Oct 1.   PMID: 21897122

14-3-3 タンパク質は、ABA の作用にも関わっている。SnRK2 の一つである OST1 でリン酸化される ABF3 という因子に結合すると書いてある。糖と ABA は関係が深いが、そのことと何か関連があるのかもしれない。佐藤博士らによって示されたように、糖をたくさん与えると 14-3-3 タンパク質が蓄積する。その結果 ABA 作用でリン酸化された ABF3 と 14-3-3 が結合して安定化する頻度が高くなる(平衡が結合型に傾きやすくなる)。そのため少ない ABA でも ABF3 が蓄積しやすい? 考えるだけならいくらでもできるが、本当にそうかどうかはわからない。

The Arabidopsis ABA-activated kinase OST1 phosphorylates the bZIP transcription factor ABF3 and creates a 14-3-3 binding site involved in its turnover.   Sirichandra C, Davanture M, Turk BE, Zivy M, Valot B, Leung J, Merlot S. PLoS One. 2010 Nov 10;5(11):e13935. doi: 10.1371/journal.pone.0013935.   PMID: 21085673

様々な変異体が寒天培地上の緑化芽生えの段階でスクリーニングされている。その際には培地に糖を入れる・入れないの選択肢がある。「糖を過剰に与えると 14-3-3 タンパク質がたくさん蓄積する」ということは、14-3-3 が関わる過程が大きく変化すると言うことで様々な影響が出てくるのかもしれない。

BTB domain protein, BT2 (At3g48360)

BT2, a BTB protein, mediates multiple responses to nutrients, stresses, and hormones in Arabidopsis.   Mandadi KK, Misra A, Ren S, McKnight TD.   Plant Physiol. 2009 Aug;150(4):1930-9. doi: 10.1104/pp.109.139220. Epub 2009 Jun 12.   PMID: 1952532

BTB/POZ ドメインは植物動物問わず数多くのタンパク質に保存されたドメインである。Cullin と言うタイプの E3 ubiquitin ligase と結合することが知られている。他の重要な因子と結合する例もある。NPR1 という、植物ホルモン SA に関わる因子にも BTB/POZ ドメインがある。Keap1 という動物のストレスセンサー因子にも存在する。

BT2 の場合は、それが欠けると糖感受性が高くなる。それ以上のことは何も書かれていない。

また ABI4

The Arabidopsis ABA-INSENSITIVE (ABI) 4 factor acts as a central transcription activator of the expression of its own gene, and for the induction of ABI5 and SBE2.2 genes during sugar signaling.   Bossi F, Cordoba E, Dupré P, Mendoza MS, Román CS, León P.   Plant J. 2009 Aug;59(3):359-74. Epub 2009 Mar 26.   PMID: 19392689

ABI4 の重要性が、ここでも示されている。

2008年

トレハロース6リン酸 Tre6P は糖シグナルに関与する

Trehalose 6-phosphate: a signal of sucrose status.   Paul MJ. Biochem J. 2008 May 15;412(1):e1-2. doi: 10.1042/BJ20080598. PMID: 18426388

これも ABI4

The Arabidopsis GSQ5/DOG1 Cvi allele is induced by the ABA-mediated sugar signalling pathway, and enhances sugar sensitivity by stimulating ABI4 expression.   Teng S, Rognoni S, Bentsink L, Smeekens S.   Plant J. 2008 Aug;55(3):372-81. Epub 2008 Apr 12.   PMID: 18410483

ABA-mediated sugar signalling pathway における ABI4 の重要性が示されている。

sis7, sis10

Identification, cloning and characterization of sis7 and sis10 sugar-insensitive mutants of Arabidopsis.   Huang Y, Li CY, Biddle KD, Gibson SI.    BMC Plant Biol. 2008 Oct 14;8:104.   PMID: 18854047

2007年

細胞壁ストレスと糖応答

Signaling from an altered cell wall to the nucleus mediates sugar-responsive growth and development in Arabidopsis thaliana.   Li Y, Smith C, Corke F, Zheng L, Merali Z, Ryden P, Derbyshire P, Waldron K, Bevan MW.   Plant Cell. 2007 Aug;19(8):2500-15. Epub 2007 Aug 10.   PMID: 17693536

やけに複雑で、何を言いたいのかわかりにくい論文だったような気がする。

2006年

ABI4とSugar response に関する記載がある総説

Sugar and ABA response pathways and the control of gene expression.   Rook F, Hadingham SA, Li Y, Bevan MW.   Plant Cell Environ. 2006 Mar;29(3):426-34. Review.   PMID: 17080596

糖応答と ABA に関係があることはよく知られている。ABI4 は ABA の研究から見いだされた転写因子だが、糖応答似も深く関与していると記載されている。ABI4 は、他にも様々な研究に登場する、興味深い因子である。

核に局在するヘキソキナーゼの働き

Regulatory functions of nuclear hexokinase1 complex in glucose signaling.   Cho YH, Yoo SD, Sheen J.   Cell. 2006 Nov 3;127(3):579-89.   PMID: 17081979

2004年

Plastid ribosomal protein S21

Knock-out of the plastid ribosomal protein S21 causes impaired photosynthesis and sugar-response during germination and seedling development in Arabidopsis thaliana.   Morita-Yamamuro C, Tsutsui T, Tanaka A, Yamaguchi J.   Plant Cell Physiol. 2004 Jun;45(6):781-8.   PMID: 15215513

オルガネラと糖応答の関係は、わかったようでわからないことが多い。この変異体ではプラスチドにおける翻訳に関わるリボソームタンパク質 S21 が変異している。

現在では、「オルガネラでのタンパク質合成能の低下は、糖に対する感受性を高める・糖シグナルが強く効くようにする」ことを示す結果が複数提示されている。それを考えると、S21 の変異の効果はプラスチドにおける翻訳効率の低下によるものであることが推測できる。

プラスチド翻訳に関係する変異体はいくつか報告されている。 hon23   At5g13650 http://atted.jp/data/locus/At5g13650.shtml  elongation factor family protein   ‘happy on norflurazon’ (hon)   norflurazon (NF) を低濃度含む培地で、白化を免れることを指標にして見いだされた。    ’happy on norflurazon’ (hon) mutations implicate perturbance of plastid homeostasis with activating stress acclimatization and changing nuclear gene expression in norflurazon-treated seedlings.   Saini G, Meskauskiene R, Pijacka W, Roszak P, Sjögren LL, Clarke AK, Straus M, Apel K.   Plant J. 2011 Mar;65(5):690-702. doi: 10.1111/j.1365-313X.2010.04454.x. Epub 2011 Jan 5.   PMID: 21208309   hon5 は、At4g17040 http://atted.jp/data/locus/At4g17040.shtml

ABI8(セルロース合成と関連する)

The Arabidopsis thaliana ABSCISIC ACID-INSENSITIVE8 encodes a novel protein mediating abscisic acid and sugar responses essential for growth.   Brocard-Gifford I, Lynch TJ, Garcia ME, Malhotra B, Finkelstein RR.   Plant Cell. 2004 Feb;16(2):406-21. Epub 2004 Jan 23.   PMID: 14742875

ABI8 については、研究が進んでいる。

Glycosyltransferase-like protein ABI8/ELD1/KOB1 promotes Arabidopsis hypocotyl elongation through regulating cellulose biosynthesis.   Wang X, Jing Y, Zhang B, Zhou Y, Lin R.   Plant Cell Environ. 2015 Mar;38(3):411-22. doi: 10.1111/pce.12395. Epub 2014 Aug 5.   PMID: 24995569

2003年

ABI4, ABI5

Three genes that affect sugar sensing (abscisic acid insensitive 4, abscisic acid insensitive 5, and constitutive triple response 1) are differentially regulated by glucose in Arabidopsis.   Arroyo A, Bossi F, Finkelstein RR, León P.   Plant Physiol. 2003 Sep;133(1):231-42.   PMID: 12970489

Hexokinase (gin2)

Role of the Arabidopsis glucose sensor HXK1 in nutrient, light, and hormonal signaling.   Moore B, Zhou L, Rolland F, Hall Q, Cheng WH, Liu YX, Hwang I, Jones T, Sheen J.   Science. 2003 Apr 11;300(5617):332-6.   PMID: 12690200

1997年

Hexokinase

Hexokinase as a sugar sensor in higher plants.   Jang JC, León P, Zhou L, Sheen J.   Plant Cell. 1997 Jan;9(1):5-19.   PMID: 9014361

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