Yariv ヤリブ によって開発された化合物
アラビノガラクタンタンパク質 (AGP) と特異的に結合する化合物として、様々な実験に用いられている。 AGP と Yariv 試薬の複合体が不溶性の沈殿を形成するのを利用して、AGP を精製、検出するのに使われる。
アラビノガラクタンタンパク質に関して優れた解説が円谷、小竹両先生によって書かれている。 植物のプロテオグリカン，アラビノガラクタン-プロテインの構造と機能 円谷 陽一，小竹 敬久 生化学 89(4): 498-507 (2017) https://seikagaku.jbsoc.or.jp/10.14952/SEIKAGAKU.2017.890498/index.html ヤリブ試薬についても解説されている。
アラビノガラクタン糖鎖はタンパク質部分のヒドロキシプロリン（水酸化されたプロリン）に結合する。動物細胞ではコラーゲンにヒドロキシプロリンが含まれていて、病気との関係も示されている。 Complex regulation of prolyl-4-hydroxylases impacts root hair expansion. Mol Plant. 2015 May;8(5):734-46. doi: 10.1016/j.molp.2014.11.017. Epub 2014 Dec 17. PMID: 25655826 という論文では、プロリン水酸化が細胞壁と根毛形成に重要な役割を果たしていることが示されている。ethyl-3,4-dihydroxybenzoate プロトカテク酸エチルという化合物がプロリン水酸化阻害剤として使われている。Wikipedia にも書かれていた。 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%97%E3%83%AD%E3%83%88%E3%82%AB%E3%83%86%E3%82%AF%E9%85%B8%E3%82%A8%E3%83%81%E3%83%AB
Yariv 試薬を生きた植物に与えることにより、細胞表層での AGP の機能を阻害することができる。様々な効果が報告されている。
・ 増殖阻害作用
・ ジベレリンの作用を阻害する働き この作用には、「ヤリブ試薬が細胞表層のAGPに吸着する → そのことを感知するセンサーが働き、防御応答が引き起こされる → その結果ジベレリンのシグナルが抑制される」という仕組みがあるそうである。 Defense-related signaling by interaction of arabinogalactan proteins and beta-glucosyl Yariv reagent inhibits gibberellin signaling in barley aleurone cells. Mashiguchi K, Urakami E, Hasegawa M, Sanmiya K, Matsumoto I, Yamaguchi I, Asami T, Suzuki Y. Plant Cell Physiol. 2008 Feb;49(2):178-90. Epub 2007 Dec 20.
・ 根の表皮細胞、BY-2細胞を肥大させる。その際に、それらの細胞の表層微小管の配向がランダム化していることも観察される。取り込みが悪いせいだろうが、根に与えた場合表皮細胞しか肥大しない。
・ 花粉管の成長を阻害する。その際に細胞質のカルシウム濃度が上昇する。
細胞表層のAGPが細胞内の表層微小管の配向に影響を与えることは、多くの研究者によって認められた事実（consensus）となっている。細胞膜の外側の AGP、内側の表層微小管をつなぐ仕組み、因子が存在することが想定され多くの研究者によって解明されようとしている。
Yariv 試薬は和光純薬から購入することもできるが非常に高い。様々な改良された合成法が発表されている。
Beta-D-glucosyl and alpha-D-galactosyl Yariv reagents: syntheses from p-nitrophenyl-D-glycosides by transfer reduction using ammonium formate. Basile DV, Ganjian I. J Agric Food Chem. 2004 Dec 15;52(25):7453-6.
アラビノガラクタン蛋白質は食品の成分でもある。アラビアゴムはアラビノガラクタンが主成分である。様々な研究が行われている。
