COE組織班研究会レジュメ(2003.5.9)

21世紀の大学像

‐‐「企業的大学」をどう理解するか‐‐

成定薫


 世界の大学は、1990年代以降、大きく変貌しつつある。その変化をどのように理解し評価するか。代表的=典型的な研究として次の四つの報告書・書物を挙げることができる。

M. Gallagher, The Emergence of Entrepreuneurial Public Universities in Australia (Paper presented at the IMHE Conference of the OECD Paris, September 2000).

B.R.Clark, The Entrepreneurial Universities: Oraganizational Pathways of Transformation, IAU Press, Pergamon, 1998

S. Marginson and M. Considine, The Enterprise University: Power, Governance and Reinvention in Australia, Cambridge University Press, 2000.

S. Slaughter and L.L. Leslie, Academic Capitalism: Politics Policies, and the Entrepreneurial University, Johns Hopkins University, 1997.

 

1. ガラハーの報告書

 データ:オーストラリアの公立大学

 オーストラリアの公立大学は次のような意味で企業的になりつつある。

a) 数百万ドル規模の大学企業として

b)国家的な改革システムに対する知的貢献者として

c)適切な能力をもった卒業生を生産する場として

d)新しい形態をとりつつある萌芽的な組織として

 

2.クラークの分析:肯定的・楽観的

 データ:ヨーロッパの五つの大学

 全般的認識

「世界の大学は終わりのない混乱の時代に突入した。20世紀の最後の四半世紀を通じて、大学をめぐる困難さが地球規模になるにつれ、高等教育はかつて保持していたかもしれない安定した状況を失ってしまった。要求の拡大は弱まることはないだろうから、定常状態に戻ることはできない。学生の要求の拡大は果てしなく続いている。より多くの、そしてあらゆる世代の学生が、改革され増大した教育科目やプログラムを通じて多様な教育を繰り返し受けようとして大学の門に押し寄せている。知識に基礎をおいた企業は、経済社会の中で拡大し急速に変化する専門職の労働市場を作り出し、大学は有能な卒業生を送り出すように期待されている。政府は、大学が社会のために経済的社会的問題の解決にもっと努力するよう求めるが、同時に政府は財政的支援についてはぐらついており、信頼できないパトロンとなった。最も重要なことは、大学世界の研究基盤が急速に新しい知識や技術を作り出し、着実に専門分野を増大させ、専門分野と学際的分野の範囲を押し広げていることである。大学は知識に基礎を置いているが、いかなる大学も大学群も国際的な成長を止めることはできず遅れることさえできない。豊かな大学でさえ、知識生産の増大に巻き込まれ、古い分野と新しい分野を取り揃えることはできない。

大学は、拡大し相互に絡み合った要求に翻弄され、カリキュラムを変えるよう、教員を変えるよう、どんどん高くなる設備や装置を新しくするよう迫られている‐‐そして、これまで以上に急いでそうするように迫られている。伝統的な研究分野のいくつかは脇に追いやられ、また別の分野は混乱させられる。今や人文分野は非常に攻撃されやすくなり、批判者は、大学は自分がどこに向かおうとしているのか分からなくなっていると批判し、大学は自分の魂を失ってしまったとまで批判している。大学は新しい可能性を探求し、新しい活動を付け加える一方で自らの責任を見失ってはならないとしても、大学は伝統的に提供してきたものの多くを維持するだけでなく作り直す必要があると思われる。」(pp.xiii-xiv)

Entrepreneurial University (企業家的大学=進取の気性に富んだ大学)

 「進取の気性に富んだ大学は、自らの仕事(business)にいかに取り組むかについて、自ら積極的に革新しようと努める。進取の気性に富んだ大学は、組織の性格を実質的に変化させようと努め、その結果、未来により適した状態に到達する。進取の気性に富んだ大学は、 “自立した”大学となろうと努め、自分の条件を言える重要なアクターとなろうと努める。組織が進取の気性に富んでいることは過程と結果の両方から見ることができる。」(p.4)

 

3.マージンソンらの分析:中立的

 データ:オーストラリアの17大学に関する事例研究(特に大学における管理運営システムの変化に注目)

 Enterprise University(企業的大学=企業経営的な大学)の特徴:

○大学の目的は幹部が決める

○大学の使命や管理組織は企業的特徴(corporate character)をもち、マーケッティングや数値目標が設定される

○旧来の組織に代わって学長諮問委員会(vice-chancellors' advisory committees)が実権を握る

○研究は二重構造となる(伝統的な部分と企業と連携しソフトマネーをもった部分)

○財源不足の中、大学の内部経済が変化する(授業料収入に対する擬似市場、特定目的への予算配分、競争的研究資金獲得など)

○留学生獲得競争

○説明責任(accountability)の対象が公的部門から私的部門、消費経済的文化へ

○パラドックス:外部からの資金調達と競争を通じて多くの大学が同じような大学になっていく(isomorphistic closure) 

(p.4)

 

4.スローターらの分析:批判的・懐疑的

 データ:オーストラリア、カナダ、イギリス、アメリカにおける高等教育財源と政策

 Academic Capitalism(大学資本主義)

「中心的な概念として大学資本主義という用語を用いることによって、公立の研究大学で生じつつある環境、すなわち、教員と専門スタッフが競争的な状況に自らの人的資本を費やすという矛盾に満ちた環境の現実を定義したい。このような状況の中では、大学に雇われているものは、公的部門に雇用されていると同時に公的部門から次第に自律するようになる。彼らは、公的部門出身の資本家として振る舞う学者(academics)である--彼らは国家から補助金を受ける企業家である。」(p.9)