「現代社会と技術倫理」(2005.5.30)

科学技術における「不正」の問題


◎ 科学技術は現代社会で非常に大きな存在

→その影響ははかり知れないほど大きい

→不正などあってはならないし、あるはずもないのだが……

◎ 科学技術における不正とは

虚偽の報告(データの捏造・改竄)

他人の業績の剽窃(盗用)

◎事例1 科学研究における不正

★「第一製薬 がん論文撤回・謝罪 米誌掲載 実験に再現性ない」(「朝日新聞」2001年6月1日)、「がん論文取り消しスキャンダル 背景に一流誌信仰 内容より本数重視 「批判」少ない風土」(「朝日新聞」2001年6月7日)

「“世界一重い元素”ウソでした 米国立研究所 「製造」を撤回」(「朝日新聞」2002年7月17日)

「論文に捏造のデータ 米医学誌に「取り下げを」」(「朝日新聞」2005年5月20日)

◎事例2 技術の現場における不正

「法令順守徹底できず」(「朝日新聞」2005年5月28日)

「来島海峡大橋 寸法間違い無断溶接 橋げた部分で 施工業者、補修へ」(「朝日新聞」2003年11月15日)、「橋げた無断溶接 技術者のモラル低下?施工業者すぐミス認めず」(「朝日新聞」2003年11月15日)

「重なる不正 失った信頼 止まらぬ原発損傷隠し」(「朝日新聞」2002年10月9日)、「原発損傷隠しで、プルサーマル計画中断 回らぬ核燃料サイクル」(「朝日新聞」2002年11月13日)、「東京電力・原発損傷隠し発覚から半年 変わるか隠蔽体質 風土・意識 改革難しく」「朝日新聞」2003年3月18日)

★「データ流出 管理者の責任は重大だ」(「朝日新聞」社説、2004年2月26日)

「三菱のタイヤ脱落 隠ぺい体質直視せよ」(「中国新聞」社説、2004年3月26日)

 

◎ 不正はなぜ起こるか

個人の功名心

「報奨」rewardsをめぐる競争、「愉快犯」的不正もある

組織(企業・国家)の圧力と情報操作

不正発生の可能性は常に存在する

 実験データの「処理」と「改竄」との間には、明確な一線があるわけではない

 →都合の悪いデータを(改竄はしないまでも)無視する

◎ 不正をどのように防ぐか

科学技術者の見識、自覚、プライド(「歯車・ネジ」の一つではない)

説明責任の重視と内部告発を可能とする制度の構築

◎参考文献

W.ブロード、N.ウェード(牧野賢治訳)『背信の科学者たち』化学同人、1988年。

アレクサンダー・コーン(酒井シズ、三浦雅弘訳)『科学の罠--過失と不正の科学史』工作舎、1990年。

山崎茂明『科学者の不正行為--捏造・偽造・盗用』丸善、2002年。

NPO法人 科学技術倫理フォーラム(編)『説明責任 内部告発』丸善、2003年。

 


エコール・ポリテクニクから工部大学校へ

◎工学の成立

 技術は古来より存在する←生活と生産に不可欠

 18世紀末から19世紀を通じて、技術は学問化・知識化され、工学が成立する。

◎フランス

 エコール・ポリテクニク:フランス革命のさなか、1794年、旧体制下に存在していた各種の技術学校(土木学校、鉱山学校、工兵学校など)を再編して創設された。数学、物理学など基礎的な教育および画法幾何学(製図)を重視し、近代的な工学教育のモデルとなる。(大学よりもエリート的な学校)

◎ドイツ諸国

 TH(高等技術学校、工科大学):フランスにおけるエコール・ポリテクニクの成功を受けて、19世紀にドイツ諸国に技術学校が開設された。入学年齢、教育内容など次第に大学と同等になるが、長く学位授与権を認められなかった。

◎イギリス

 産業革命が、伝統的な徒弟奉公(apprenticeship, OJT)の中から育った職人たちの努力で成し遂げられたため、かえって近代的な技術教育・工学教育は大陸諸国に立ち遅れた。

←大陸諸国の国家主義とイギリスの個人主義

◎アメリカ

 ランド・グラント・カレッジ(土地付与大学):モリル法(1862年)によって、全米各地に設立され、工学を含む実践的な教育が行われるようになった。

→後に州立大学となり、アメリカの発展を支える。

◎日本

 工部大学校工部省の幹部養成のため、1873(明治6)年設立。教師はイギリスから招聘。

→ダイアーの構想(理論と実践のサンドイッチ方式)

→工部省の廃止に伴い、1886(明治19)年、帝国大学の工科大学に併合

→帝国大学は法、文、医、理の他、工、農を擁し、当時としては世界的に見ても先進的な大学であった。(「遅れてきたもののメリット」) 

◎広島大学工学部

1920(大正9)年、広島高等工業学校、1944(昭和19)年、広島工業専門学校

1949(昭和24)年、広島大学工学部、1977(昭和52)年、大学院工学研究科(博士課程)

◎参考文献

村上陽一郎『工学の歴史』岩波書店、2001年。

鈴木淳(編著)『工部省とその時代』山川出版社、2002年。

旧工部大学校史料編纂会編『旧工部大学校史料・同付録』青史社、1978年。

堀内達夫『フランス技術教育成立史の研究--エコール・ポリテクニクと技術者養成』多賀出版、1997年。


広島大学工学研究科共通講義「現代社会と技術倫理」(2004.4.19/26)講義レジュメ