与えられた線形の制約条件のもとで,
ある一つの線形の目的関数を最大あるいは最小にするという線形計画問題に対する数理的最適化手法として,
1947年に,米国の数学者ダンツィグ(G.B. Dantzig)が提案した線形計画法は,
産業界においても,利潤の最大化や費用の最小化などのための最適化手法として幅広く利用され,
すでに半世紀が過ぎようとしている.
この間に,非線形の制約条件のもとで,
非線形の目的関数を最適化するという非線形計画問題の最適性条件を与えるキューン・タッカー(Kuhn-Tucker)条件が登場するとともに,
非線形計画問題を解く計算手法として,線形計画法の非線形への拡張と見なされる一般縮小勾配法や,
キューン・タッカー条件を非線形連立方程式と見なして,
準ニュートン法で解くことにより最適解を求めるという準ニュートン法などが開発されてきている.
しかし,第2次大戦後の経済成長過程に対して,1970年代の初め頃から,環境破壊が全世界的問題として深刻化してくると,
開発と環境破壊などに対する,価値観の多様化に基づく相競合する複数の目的を同時に考慮する必然性に迫られてきた.
このような社会的要請の多様化にともなって,単一目的の線形計画法や非線形計画法などの従来の数理計画法よりはむしろ,
与えられた制約条件のもとで,複数個の相競合する目的をも同時に最適化するという多目的計画法への需要が高まり,
理論面と実用面からの数多くの研究が活発になされてきた.
多目的計画問題においては,複数個の相競合する目的関数を同時に最適化するという(完全)最適解は一般には存在しないので,
ある目的関数を改善するためには少なくとも他の一つの目的関数を犠牲にせざるを得ないような解として,
パレート(Pareto)最適解(非劣解)の概念が導入されている.
パレート解は,もとの問題をなんらかの方法で変換して得られる一目的の問題を解くことにより求めることができるものの,
一般には,無限個の点からなる解集合を形成するので,現実の意思決定においては,人間として意思決定者が,
自己の選好に基づいてパレ−ト最適解の集合の中から最終的に合理的な解を選択することになる.
このような意思決定者との対話により得られる局所的な選好情報により,
パレート最適解の集合の中から意思決定者の満足解を導出するというマンマシーン対話型最適化手法が,
1970年代に出現したことは,最適化アルゴリズムの中に人間を初めて取り入れたという意味においても画期的な試みであり,
さらなる発展がなされてきている.
多目的計画法に対して,さらに,人間の判断のあいまい性を考慮すれば,
問題の定式化に携わった専門家の判断のあいまい性を目的関数と制約式に反映させるとともに,
定式化された問題に対する意思決定者の判断のあいまい性をも考慮した満足解を求めるという筆者らの対話型ファジィ満足化手法を含む,
広い意味でのファジィ多目的計画法へのニーズが拡大するものと思われる.
また,多目的計画法では,個々の目的の間での競合はあるものの,
意思決定主体は,通常,なんらかの意味で1人であることを前提としている.
これに対して,1944年のノイマン(J.von Neumann)とモルゲンシュテルン(O. Morgenstern)の画起的な大著
「ゲームの理論と経済行動」(Theory of Games and Economic Behavior)以来,
急速に理論の発展をみたゲーム理論は,決定主体は1人ではなく,複数の決定者の間に何らかの意味で対立のある,
いわば競争の理論であり,あいまい性と多目的性を考慮した筆者らのファジィ多目的ゲーム理論を含め,
今後とも益々重要となる研究課題である.
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