鳥取県西部地震における災害GIS作成の試み
作野裕司(広島大)高安克己・古津年章(島根大)松永恒雄(東工大)
1.はじめに
2000年10月6日の13時30分頃,鳥取・島根県堺付近深さ約10kmでM7.3(気象庁10月6日発表)の地震が発生した。本地震の被害等に関してはすでにいくつかの速報的な報告がなされている1)2)。しかし,これらの情報を統括的にまとめあげることができるGIS(地理情報システム)研究はほとんど着手されていないのが現状である。
一方,筆者らは最近,約7年間にわたり震源地に近い宍道湖・中海においてリモートセンシングによる水質モニタリング手法の研究を行ってきた。従って,両湖周辺の環境に関して強い関心を持っており,関連の資料も入手しやすい立場にある。このような背景のもと,今回の地震災害を今後の地域防災対策に役立てるために,本地震に関する各種データを収集し災害GISを作成することとした。本日はその作成過程における初期段階の成果を報告する。
2.震源の位置と地震被害の概要
気象庁によると震源はN35.3°,E133.4°の位置である(図1)。気象庁や京都大学防災研究所等の公表データによれば,余震域は,NNW−SSW方向に長さ約25kmにわたり,震度が最も大きかったのは日野町根雨と震源から30km以上も離れた境港で,震度6強を示した。震源地付近の被害は,家屋の全半壊・道路の亀裂・斜面崩壊・墓石の回転や転倒・道路縁石の浮き上がり等である。また最大深度を記録した境港をはじめとする中海周辺での被害は,干拓地の人工地盤の液状化による噴砂や道路の陥没,建物の損壊等が目立った3)。
図1 震源位置と被害分布
3.使用データ
本研究で主に使用したデータは,以下の通りである。まず表層地質データは地質調査所発行の20万分の1地質図幅集(画像),活断層データは国土地理院発行の日本国勢地図を用いた。また液状化現象の把握には,地震直後に境港の彦名干拓地で撮影された航空写真及び地震直後及び地震の約1年前に撮影されたLandsat-5/TMデータを購入し,比較した。さらにこれらの画像に写っている物体を確かめるため,地震の約3ヵ月後現地視察も行った。
4.震源付近の地質と被害の関係
図2は震源付近(図の星印)の地質を示している。これより震源付近の地質は,因美期貫入岩類の根雨花崗岩体からなり,震源付近は比較的硬い地盤が分布していることがわかる。また図3に震源付近の人口分布を示す。これより,震源付近は比較的人口が少ないことがわかる。これらのことが今回の地震で被害が比較的少なかった要因の一つと考えられる。大惨事を招いた阪神・淡路大震災の震源に近い神戸の海岸付近では堆積層の厚さが100mもあり,人口も集中していることから本地震とは対照的である。
図2 震源付近の地質 図3 震源付近の人口分布(★が震源)
5.衛星・航空写真データから推定される液状化被害
図4は液状化が特に激しかった竹之内工業団地におけるLandsat/TMの赤外バンド(バンド4,5,7)の合成図である。右下すみの土地が地震後には暗く写っていることがわかる。これは液状化によって湿った細粒4)の粘土が噴出したためと考えられる。またこの箇所を航空写真で見ると液状化が全体にわたっておきていることが確かめられた。
6.今後の課題
今後はこれらのデータを1つのシステムとして統合し,防災に役立つGISを構築したい。
7.引用文献
1)土木学会鳥取県西部地震調査団:2000年10月6日鳥取県西部地震被害調査報告,2000.
2)小玉芳敬・矢野孝雄・岡田昭明・松山和也:2000年鳥取県西部地震速報-墓石の回転を中心にして,月刊地理,46(2),pp.39-47,2001.
3)島根大学地震災害調査団:2000年鳥取県西部地震の被害,地球科学,54(6),pp.360-362,2000.
4)石賀裕明・道前香緒里・島根大学地震災害調査団・田崎和江:鳥取県西部地震による弓ヶ浜の噴砂,日本地質学会関西支部・西日本支部定例会資料,2000.