1.生理心理学と精神生理学

生理心理学は,生理学と心理学とにまたがる学問領域で,行動の心理的機能と生理的機能の対応関係を研究する科学です. 例えば,ある心理状態の時は脳のどこが働いているのかといったことを研究する学問です.

生理学的心理学(physiological pshchology)の起源は,ヴント(Wundt)の『生理学的心理学提要』(1874)であるとされています. それ以来,生理学と心理学に密接な関係が認められるようになり,生理学的心理学が形成されてきました. 心理学の研究対象がヒトだけでなく動物を含むようになったため,生理学的心理学の対象も広く行動の生理学的機構の研究に向いてきました. パブロフ(Pavlov)の条件反射やヘス(Hess)の脳内刺激などの研究は,生理学的心理学を一層活発なものとしました.

現在の生理心理学は,神経科学(neuroscience)と呼ばれる広大な研究領域の一部門として扱われています. その中でも研究目標や方法は多くの変化を示し,生理心理学や精神生理学などが個々の明確な区別なく存在しています. 今後はさらに領域の多様化が進むと思われます. このような現状を受けて,スターン(Stern)は生理学的変数が独立変数となり,心理及び行動的変数が従属変数となる研究領域は生理学的心理学であるとし, 逆に心理及び行動的変数が独立変数となり,生理学的変数が従属変数となる研究領域を精神生理学であるとして,両者を区別しています. 例えば,脳の特定の部位を破壊したら,記憶ができなくなった実験は生理心理学的研究で,覚醒時と睡眠時では脳波活動が顕著に異なることを示した実験は精神生理学的研究になります. しかし,近年では独立変数と従属変数の区別が明確でない研究も多く,生理心理学と精神生理学の境界は非常にあいまいであるようです.

2.生理心理学及び精神生理学の方法

生理心理学や精神生理学では行動及び主観的変数と中枢神経系や末梢神経系の生理的変数との関連を検討します. 脳と行動の関連を明らかにする方法は以下のように大別されます.

  • 電気生理研究
    初めてヒトの頭皮上から電気的活動を記録したのはベルガー(1929)である. その後脳の疾患に関する研究や睡眠の研究は著しく進展している. 動物では,脳定位固定装置により,脳の深部の様々な部位に電極を埋め込んで,それらの部位の脳波を記録することによって,動物の睡眠,情動,学習との関連を検討する研究も行われるようになってきました.
  • 損傷研究
    この方法は,事故や疾病で脳の一部を損傷したヒトを対象とする研究と,動物の脳を損傷させて行動を観察する研究とがあります. 前者は神経心理学とよばれる分野を形成しています. 海馬及び側頭葉連合野を損傷したH.M.の記憶障害の臨床研究が有名です. 後者では様々な動物が用いられており,その方法も吸引除去,電気的破壊,ナイフカットなど多様です.   
  • 刺激研究
    脳の特定の部位を電気刺激したり,化学物質を注入して行動の変化を観察する方法です. フリッチェとヒッツィヒがこの方法で大脳皮質の運動野を発見しています. また,ペンフィールドの機能局在図の研究も有名です. 化学的刺激としては,カニューレを脳内に埋め込み,薬物を脳内に直接投与して,脳の特定の部位を刺激することができます.

3.生理心理学及び精神生理学のこれから