日本発達心理学会第15回大会発表論文集, S145.

空間認知発達のミッシングリンクを求めて

企   画:杉村伸一郎(広島大学)
      渡部 雅之(滋賀大学)
      子安 増生(京都大学)
司   会:山本 利和(大阪教育大学)
話題提供者:Gavin J. Bremner(英国ランカスター大学)
      渡部 雅之(滋賀大学)
      杉村伸一郎(広島大学)
指定討論者:鈴木 忠(白百合女子大学)

 空間認知の発達は,乳児期と幼児期以降が別個に研究されることが多く,乳児期から児童期にかけての発達のコースやメカニズムに関して,積極的に検討されることは少なかった。したがって現在のところ,知覚・運動的な空間認知と表象・操作的な空間認知との発達的関係に関しては,ほとんど明らかにされておらず,乳児期と幼児・児童期の間がミッシングリンクになっている。そこで本ラウンドテーブルでは,対象の永続性課題などにより得られた乳児期の知見と,3つの山問題などにより得られた幼児・児童期の知見とを関連づけ,ミッシングリンクを探索することを目的とする。

 乳児における空間定位課題では,子どもが実際に移動させられたりテーブルが回転させられた後に,対象を定位することが求められる。それに対して3つの山問題では,子どもはその場所にいながら,他の地点からの見えを尋ねられる。このように2つの課題は類似しており,研究の問いもかなり重なっている。それにもかかわらず,乳児の空間的能力が幼児・児童の空間的能力にどのように発達していくかに関しては,我々は少しの証拠しか持っていない。このことをBremner氏は既に1982年に指摘しているが,その後の20年間の研究の中にミッシングリンクを見出すことができるのだろうか。

 話題提供としては,まず渡部が視点取得の萌芽に関して,次に杉村が空間定位と空間表象の発達に関して述べ,最後に,乳幼児期における空間認知に関する数多くの実証的研究(例えば,Bremner & Bryant,1977; Bremner, Knowles, & Andreasen, 1994)を行ってきたBremner氏から,ご自身の研究に基づいて,乳児期から児童期にかけての空間認知の発達をどのように捉えるかに関して,今後の課題も合わせて論じていただく予定である。以下に渡部と杉村の発表要旨を記す。

 渡部雅之:空間的視点取得の萌芽を捉えようとした自身の研究(渡部, 2000)に基づいて,本ラウンドテーブルのテーマに関する2つの仮説を述べたい。まず空間的視点取得の意味を整理し,その本質は自己視点の心的移動操作であるとの仮説を述べる。この前提に立つことで,空間的視点取得の発達において乳児期と幼児期との間を結びつける鍵が見えてくる。ミッシングリンクとは結局,3つの山問題などの従来型課題の特性限界に他ならないのかもしれない。では,乳児期と幼児期以降にはまったく違いはないのか。この答えとしてイメージ操作における意図性の問題を取り上げ,第二の仮説として提案する。幼児期以降と異なり,乳児期における自己視点の心的移動は無意図的に,あるいは知覚的に行われるのかもしれない。それはミッシングリンクを,知覚・運動的な空間認知と表象・操作的な空間認知との違いを意味するものとして捉えつつ,同時に両者の共通性を仮定することでもある。

 杉村伸一郎:3つの山問題では,子どもが実際に布置の回りを移動したり,テーブルを回転させたりしないので,それに相当することを心的に行う必要がある。この実際の活動や操作と心的な操作の間にミッシングリンクを求めて,2つの方向から幼児に実験を行ってきた。1つは,Bremnerら(1994)の課題を発展させ定位のプロセスを検討することにより,もう1つは,180度回転する棒に固定された3個の玉の軌道の理解を調べることにより,知覚・運動的な定位に表象や心的操作がどのように重なってくるのかを明らかにしてきた。その結果から,ミッシングリンクに相当するのは,知覚や運動が内面化されつつある状態ではなく,それらが意識化され反省的水準に抽象される活動であると提案する。

 以上の話題提供に対して,「切り取り」という観点から幼児の空間認知に関する研究を行ってきた鈴木氏からコメントをいただき,その後,参加者とともに活発な議論を行いたい。

(京都大学21COE心理学連合後援)