認知発達理論分科会第27回例会のご案内

27回例会を下記のように開催いたします。今回は,次の文献を取り上げます。Neuroconstructivism - I & II: v. 1 & 2 (Developmental Cognitive Neuroscience) (Paperback) 2007  by Denis Mareschal, Mark H.Johnson, Sylvain Sirois, Michael Spratling, Michael S. C. Thomas, Gert Westermann, Oxford Univ. Press. 

開催地は東京(早稲田大学)で,コメンテーターには菊池吉晃先生(認知神経科学、首都大学東京)をお迎えします。多数の皆様のご参加をお待ちしております。テキストに関する情報については、次のサイトをご覧下さい。

http://www.amazon.com/Neuroconstructivism-Volumes-Developmental-Cognitive-Neuroscience/dp/0199214824

 

日時:2008126日(土)午前1000分~午後5時30

場所:早稲田大学 西早稲田キャンパス14号館716号室

 

会場へのアクセス

会場の早稲田大学西早稲田キャンパスまでの交通案内は,以下のホームページをご覧ください。西早稲田キャンパスまでの交通:http://www.waseda.ac.jp/koho/guide/univ18.html
西早稲田キャンパス内の校舎の配置 14番の建物が会場です:
http://www.waseda.ac.jp/koho/guide/nisiw.html

 

●例会当日の時間割

  司会:月本 洋(担当幹事・東京電機大学)

 10:00 開会

 10:0011:20 第1巻、第1章 

  報告者:伊藤朋子さん(早稲田大学大学院博士課程)

11:2012:40 第1巻、第4章 

報告者:阪脇孝子さん(早稲田大学大学院博士課程)

12:4013:50 昼休み

 13:50~15:10 第2巻、第7章 

  報告者:小野木洸さん(東京電機大学大学院修士課程)

 15:1016:30 第2巻、第8章 

  報告者:森田晋一郎さん(東京電機大学大学院博士課程)

 16:3017:30 ショートレクチャー

  講師:菊池吉晃 先生(首都大学東京教授、医学博士、工学博士)

 

講師紹介

1995年から今日にいたるまで、脳磁界(MEG)や機能的磁気共鳴画像法(fMRI)などの脳機能イメージング法による認知神経科学的研究を継続。最近では、感動、母性愛・母性行動、視覚・運動の統合から自他識別に関する脳内メカニズムなど人間の脳に関する幅広いテーマに関心をもつ。とくに、母性の神経基盤に関する研究は世界的に大きな注目を浴びており、サイエンティフィックアメリカン(Scientific American)誌からreviewの執筆依頼を受けたり、フランスの科学雑誌「Le monde de l’enfance」誌で本研究の特集が組まれるなど、世界中で大きな反響を呼んでいる。また、Router共同通信、UPI共同通信をはじめ世界300を超える媒体で報道される他、CBS evening newsNew York Timesでも報道された。現在、Reviewer of The National Science Foundation(全米科学財団, NSF)、Editorial Board of Journal of Physiological Anthropology and Applied Human Scienceなど。

最近の研究論文には、『Distinct neural correlates underlying two- and three-dimensional mental rotations using three-dimensional objects (Brain Research 1144; 117-126, 2007), The functional neuroanatomy of maternal love: mother’s response to infant’s attachment behaviors (Biological Psychiatry 63; 415-23, 2008), Spatio-temporal brain activity related to rotation method during a mental rotation task of three-dimensional objects: an fMRI study (NeuroImage 37; 956-965, 2007)』などがある。著書は、『脳機能画像解析入門』(医歯薬出版株式会社, 2007)、など。

 

ショートレクチャーの概要

演題:「母性愛」の神経機構-ひとの母の「愛」の高次脳機能-

母性行動の発現やコントロールの機構については、これまで主に動物を対象とした研究から、オキシトシンやプロラクチンのようなホルモンが大きな役割を果たすことが明らかにされてきた。これに対して、人間の母親の母性行動に関する神経機構についてはほとんど未知のままである。最近、fMRIを用いた母親を対象とした研究がようやくなされるようになってきたが、これらは、母親の子どもではなく一般の子どもを刺激とする研究や母親自身の子どもを刺激としてはいるが子の年齢にはなんら統制がなされていない研究などであった。いずれも、単なる子の普通の表情の写真を用いた研究などであり、母親のわが子に対する愛情や感情が自然に誘発される条件下での脳活動についてはまったく検討されてこなかった。

これに対して、最近、講演者ら(The functional neuroanatomy of maternal love: mother’s response to infant’s attachment behaviors (Biological Psychiatry 63; 415-23, 2008))は、母親に対して明確な愛着行動を示す1歳半前後(16.5±3.8ヶ月齢)の子どもをもつ母親を対象とし、わが子が母親に対して示す強い愛着行動を動画刺激として用いることで、母性愛と母性行動の背景にある神経基盤を明らかにすることに成功した。子どもの状況は2種類とし、子どもが母親と笑顔で遊んでいる場面(Play Situation)と母親からの分離により子どもが泣いて母親を求めている場面(Separation Situation)2つの状況におけるわが子と他人の子を動画刺激として用いた。これは、従来の研究にはまったくなかった独自の視点による研究であった。この研究の主要な結果は2つあり、母性愛の神経基盤を明らかにしたこととわが子の泣き場面でみられる母親の保護的認知・情動・行為準備に関する脳活動を明らかにしたことであった。

脳活動、主観評価および両者の相関に関する詳細な解析から、筆者らは、母性愛に関与する脳領域を、眼窩前頭皮質(orbitofrontal cortex)、島前部(anterior insula)、中脳水道周囲灰白質(PAG: periaqueductal gray)、被殻(putamen)背側部のわずか4つの脳領域に絞ることができた。左半球の眼窩前頭皮質の活動はとくに母親の「喜び」や「幸せ」の感情と有意な正の相関を示し、右半球の眼窩前頭皮質の活動は母親の「心配」と有意な正の相関を示したことも大変興味深い結果であった。眼窩前頭皮質は脳のいわゆる報酬系の中でもとくに高次の中枢であることから、わが子が自分に示している強い愛着行動に対してその報酬価に関する高次の評価をしている、すなわち、母親は我が子の愛着行動をみることで大きな喜び(報酬)を実感するとともに、「喜び」、「幸せ」、「心配」といった母性愛においてきわめて重要な感情が誘発されていると解釈できるのかもしれない。これに加えて、中脳水道周囲灰白質にはオキシトシンの受容体が豊富にあり、この部位の損傷によって母性行動は抑制されてしまう。また、島前部は抱擁のような心地よい肌と肌(skin-to-skin)との触れ合いの感覚と深い関係があり、被殻は報酬期待に基づく母性反応(行動)に関与すると推測される。

わが子の泣き場面において有意な活動を示した脳領域は、前述の母性愛の神経基盤との関連で認められた眼窩前頭皮質の部位より背側の前頭眼窩皮質のほか、両側半球の背外側前頭前野皮質、背内側前頭前野皮質、上側頭溝(後部)/側頭頭頂接続部、楔前部、右半球の前帯状回、後帯状回、下前頭回、中側頭回、左半球の下側頭回、尾状核、視床、黒質、上頭頂回、前中心回、楔部など多くの脳領域の活動が認められた。さらに、左上側頭溝の活動は母親の「愛情」と有意な正の相関を示し、右上側頭溝の活動は母親の「興奮」と有意な相関を示した(p<0.05)。これらの脳領域は、協調的に活動し、我が子を慈しみ保護するための認知、運動(行動)シミュレーション、情動などの脳内表現と考えられる。この知見は、「ヒトの種の保存(preservation of the human species)」という人類普遍の最重要テーマに対するひとつの見解を与え得るものであると同時に、母親のわが子に対する虐待や無視といった現代社会の抱えている深刻な病理を考える上でもきわめて重要であり、今後もさらなる研究の進展が望まれる。

 

参加申し込み・参加費・問い合わせについて

 事前の参加申し込みは必要ありません。また参加費に関しましては日本発達心理学会認知発達理論分科会員の皆さんは,規約にありますように年会費(今回のみの参加費ではありません)として千円徴収しますが,院生など定職のない人は無料です。

問い合わせ 本例会について内容に関してのお問い合わせは月本洋(第27回例会幹事:東京電機大学)E-mail:tsukimoto@c.dendai.ac.jp,その他に関しては山名裕子(事務局:秋田大学)E-mail: yamana@gipc.akita-u.ac.jpまでお願いいたします。

 また認知発達理論分科会の紹介や過去の例会に関しましては下記のホームページをご覧ください。

http://home.hiroshima-u.ac.jp/shinsugi/t_cd/

懇親会 研究会終了後、キャンパス内の会場にて懇親会を開く予定です。こちらもご参加を歓迎いたします。なお、学生会員・参加者には参加費の割引があります。

以上です。

担当幹事

月本洋 tsukimoto@c.dendai.ac.jp

東京電機大学工学部情報通信工学科