認知発達理論研究会    2001年6月16日(土曜)    発表者:西垣順子(京大教育) 第4章:如何にして領域一般的なプロセスが領域固有のバイアスをつくりだすのか 0.はじめに 中心的な考え「領域一般的なプロセスが特定の学習文脈において働くとき,それは文脈固有の学習 バイアスを形成する」 1.新奇語の一般化 ・ 初期の語彙学習における有能性を説明するために→人工単語学習課題“This is a dax(例示刺激). Is this a dax ?(テスト刺激)”を使用 ・ 語彙学習において固有に見られる形への選択的注意(形バイアス):Figure4-1での実験(2,3 歳)…素材や大きさには関わりなく,同じ形のものをdaxと判断した。さらにこの形への選択的 注意は命名課題においてのみ見られ,類似性判断課題では見られなかった。 ・ 一般に幼児は刺激の特定の特性に注目することが難しいが,語彙学習における形バイアスは例外的 な現象=領域固有のメカニズムの存在?→しかし,実際のところ何に注意が向くかは命名される物 体の性質と言語学的な文脈(linguistic context)に大いに依存する。 1.1.命名される物体の性質 1.1.1. 目 Figure4.2.の研究(3歳児) 結果:@目がついている場合は,素材が異なると形が同じでも一般化の対象とならなかった。目が なければshape biasだが,目があるとshape-plus-texture bias。A目が存在するかどうかは命名 課題においてのみ影響があった(類似性判断課題では影響なし) 考察:命名は選択的注意を喚起するが,喚起するのは1つの特性のみではない。目があることで形 バイアスが変容 1.1.2. 堅さ Figure4.3.の研究(2歳〜2歳半)…堅条件(粘土,木材)と軟条件(砂利をまぜたシェービングクリ ーム) 結果:@堅条件…同じ形のものに一般化(形バイアス)。軟条件…同じ素材のものに一般化(素材バ イアス)。Aこの条件差は命名課題においてのみ見られた 1.1.3. スニーカー Figure4.4.の研究(3歳児)…Figure4.2.の研究(3歳児)と同様の結果 ⇒命名における幼児の優れた注意は,恣意的な影響に開かれたメカニズムから引き出されるもの 1.2.文法の役割 ☆Figure4.5の研究(3歳児)…新奇語が(数えられる)名詞であるか,形容詞であるかによる対比。 形と色が異なる刺激(色はラメをつけて示す)。通常照明条件とスポットライト条件(ラメが光って 目立つ) 結果:(Figure4.6)スポットライトの効果は形容詞条件でのみ見られた。名詞条件では形バイアス がスポットライト(色を目立たせる)によって妨害されない。形容詞条件では色が目立つかどう かによって,形と色のどちらにバイアスがかかるかが変わる。 ☆Soja(1992)の研究(2歳児)…物質名詞と普通名詞。Figure4.3を使用 結果:@普通名詞では形バイアスが生じる。A統語文脈と物質の特性の交互作用。堅条件ではどち らでも形バイアスが生じたが,素材バイアスが生じたのは軟条件の物質名詞のみ ⇒注意のバイアスは,命名されるものの性質と言語文脈の両方に依存する。 1.3.注意バイアスは発達とともに変化する Figure4.7. ・ 24ヶ月までに初期の形バイアスが存在している,それは発達とともに徐々に強くなりより文脈固 有になる。これは他のバイアスが,漠然とした形バイアスから分化・成長するため 2.注意学習による説明attentional learning account ☆幼児が示す新奇語の選択的一般化を説明するために→注意学習の一般的メカニズム(連合学習によ る注意の自動的コントロール) 注意学習研究…ある手がかりが規則的にある特性をもつものと連合され,その手がかりの存在が 連合される特性への注意を喚起する ・ この説明によると,子どもは単語がカテゴリーにどう対応するのかについて多くのことを知ってい ることになる。しかしこの説明は,領域固有の内容を持たない大変一般的な学習と注意のプロセス において,この知識を実行する 3.注意学習による説明の検証 注意学習の原理から,Figure4.7を説明すると…@This is a ---という文脈と堅い物の形への注意が連 合される(このような場合はよくあることだから)。A形バイアスは他のバイアスよりも最初に形成 されるバイアスになる(形の類似とカテゴリー範囲の相関は子どもの語彙学習においてもっとも一 般的だから)。Bより局所的なバイアスが発生する(目の存在,堅いものと柔らかいものなどに分化) ☆以下において,堅い物に対する命名文脈での形バイアスの起源について検証する 3.1.縦断研究 仮説:十分な数の名詞を学習することによって,命名という行為が,形への注意を自動的に引き起こ す文脈手がかりとなる 予測:言語に固有の形バイアスは言語獲得前には現れず,いくつかの名詞が獲得された後に生じる 縦断研究を実施: ・ 15ヶ月から20ヶ月の乳児8人を対象 ・ 結果はFig.4.9.…@形バイアスは研究の後半に出現。A形バイアスが出現したのは名詞を50語(単 語全体では約80語)を獲得したあとであり,これは語彙爆発よりも後である。 <結論>形バイアスは語彙を学習した結果として生じるものだ 3.2.横断研究 方法:64人の乳児(18ヶ月から24ヶ月)。生成語彙によって4グループに分けた(0-25語,25-50 語,50-75語,75語以上)。各グループの半数の乳児は人工語彙一般化課題に参加。残りの半数 は非命名課題(“これ(例示刺激)を見てください。ひとつわたしにちょうだい”)に参加。 結果:@形バイアスはそれなりの数の語彙(名詞50語)を獲得した後に出現。A形バイアスは語彙一 般化課題でのみ見られた <結論>(縦断研究と同じで)形バイアスは語彙を学習した結果として生じるものだ 3.3.訓練研究 目的:形によって組織化されている言語カテゴリーを教えることで,形バイアスを形成する 方法:17ヶ月の乳児(人数?)。平均の名詞獲得状況は12語。7週間実験室でトレーニングを受けた (間隔?)。訓練材料はFig.4.11.(4つの新奇カテゴリー) 訓練の概要:@2つの形のみ同じの例示刺激が提示され,それで乳児と実験者が遊ぶ。“これはZupで す。こっちはもう1つのzupです。”“箱にzupをいれようね。車にzupを乗せようね。”A途 中で非例示刺激(形が異なる)を提示し,“これはzupではない!”と言って,取り除く。B7 週間のトレーニングの後,第8週にテスト1.第9週にテスト2を行った。 テスト1:訓練中に用いた例示刺激を使って,語彙一般化課題。(Fig.4.11, 8 week参照) テスト2:訓練中に使っていない刺激を用いて,語彙一般化課題。(Fig.4.11, 9 week参照) 結果:Fig.4.12参照。実験群でのみ形バイアスが見られ,かつそれは訓練されたカテゴリー以外にも 一般化した。 <結論>テスト2でみられた形バイアスは,学習されたバイアスである。 4.自己体制的なバイアス “学習された注意バイアス”による説明の強み ・ 注意学習の般化=オリジナルの学習と類似している文脈におけるほど起こりやすい(Fig.4.13参 照) ・ 「数えられる名詞」と「堅い物体」と「形への注意」の間に連合が学習されれば,新奇語が形容詞 文脈(形バイアスが生じる文脈とは異なる文脈)で登場した場合には,他のバイアスが生じること になる(例えば色への選択的注意)→そして形容詞についても新しい学習が起こる ・ 特定の文脈において特定の連合が学習されることは,他の文脈ではその連合を使用しないことを学 習することにつながるわけで,このメカニズムによって領域固有説で説明されるような洗練された 発達過程を説明できる 5.発達過程 @ 本章においては,基本的で普遍的なプロセス(注意学習)が,領域固有の発達を生み出すことを示 してきた。この考え方は生物学から出てきたものである。 <生物の体の各部位が受精後1週間で発生するプロセスについての説明> A −1心理学における同様のストーリー(O'Reilly & Johnson,1994)…生まれたばかりの鳥におけ るインプリンティングに関するリカレントネットワークモデル(Fig.4.15) A−2  O'Reilly & Johnsonがリカレントネットワークに与えた経験 =個々の物体を10分,または1時間見させるというもの ―結果は→最初に見た物体への選好と,自己決定的な敏感期の出現=インプリンティング (初期経験が十分な時間持続するものであればそれに対する選好は覆されない。持続しな い刺激から初期経験が構成されていると,選好は生じない) この例のポイント…一般的なプロセスから特殊なものが発達してくるということ ☆人間が持つ体系的な信念のシステムや意識,反省的思考は,このような説明で説明できるのか? →人間認知が生物学的な過程であり,身体的な(神経的な)原因をもつものであるならば,人間 の認知はプロセスから,いくつかの事柄とその結合から成立するはずだ。そしてそれらの事柄は それらが生み出しているものよりも小さいものだ。 ☆領域固有説をpreformationistと並べて批判