この面積保存写像については次のようなことから かかわりを持つようになりました。 論文リスト20の研究ではユニタリ群上の具体的な積分の計算を 2 次元球面上の具体的な積分の計算に帰着させ、 三角関数による球面座標系を使って積分の計算をしました。 この研究に続く論文リスト25でも同様の計算が必要になり、 今度は上記の面積保存写像に気がついてこれを利用して 積分の計算をしました。 この論文を書いた後で、 アルキメデスが二千数百年前にすでにこの写像が面積を保つことを 示していたことを知りました。 アルキメデスが基本的な立体図形の体積や表面積を求めていたことは ある程度は知っていたのですが、 この球面と円筒の間の面積保存写像には改めて驚きました。 その後も積分の計算にこの面積保存写像をしばしば利用しています。 時代、文化、人種、言語などの違いを越えて正確な数学の主張が アルキメデスから伝わっていると考えることもできます。 それを利用して我々は積分幾何学に登場するある積分を計算したわけです。 数学の不変性を感じました。 さらに、この成果を著作物に残したアルキメデスはその原稿を書きながら 自分の成果は長く文明の基礎的知識として人類に受け継がれていくであろう と思い描いていたのだろうと想像してみました。 人間は死んでしまえば生命体としてはそれで終わりですが、 自分の死んだ後も研究成果が残って誰かの仕事の役に立つということを 思い描きながら現在の研究を進めてみよう、 と思うようになりました。
アルキメデスの仕事に感激してから、 では現代のどの著作物は今後数千年に渡って受け継がれていくのだろうかと 考えてみました。 それで思い当ったのはアインシュタインの相対性理論に関する論文です。 調べてみたら岩波文庫の一冊になっているんですね。
A. アインシュタイン 「相対性理論 (文庫)」岩波書店内容は相対性理論に関する最初の論文と解説です。 つい購入してしまいました。 パラパラと眺めていると家内が「あら、どうしたの?」と聞くので、 物理の論文が岩波文庫になるなんてすごいことだと力説すると、 「いい目標ができたじゃない」と無邪気に言われてしまいました。 論文が解説付きであれそのまま岩波文庫になることを 目標にするなんて大変なことですよ...。