論文作成の道具の変遷
若い同僚に昔はどのように論文の原稿を作成していたのかと聞かれて、
そのときに話した内容を元に今まで私が使ってきた論文作成の道具を
まとめてみました。
1980年代終り頃にTeXを使い始める前までは二編くらい論文を書いたら
論文の原稿を作成する道具が変わっていたように思います。
TeXを使い始めるようになってからは、入力するコンピュータは
だんだんと変わってきていますが、
作成したTeXのファイルはずっと保管していますので再利用可能です。
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1980年代:電動タイプライタ
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初めて論文を書いた頃はまず下書き原稿を手書きで作成しました。
手書き原稿を推敲してこれで完成と思ったら電動タイプライタで
投稿用の原稿を作成しました。
最初に使った電動タイプライタはIBM製のもので、
表面に文字がある半球体が回転して紙を打ってタイプするように
なっていました。
タイプライタのリボンは昔のインクを染み込ませたリボンではなく、
薄いカーボンの膜が裏についていて半球体にある文字が打つと
文字の形だけが紙に貼り付いて印字できていました。
文字を消すときはリボンの裏に接着剤がついているものに取り換えて
同じ文字を打ちます。
すると、紙に貼り付いていたカーボンの薄い膜が剥ぎ取られ、
文字を消すことができました。
ですから、しばらく書き進んでから前のほうの文字を消そうとすると、
文字を消す操作がぴったりと合わなくてうまく文字を消すことが
できませんでした。
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同じIBM製の電動タイプライタにデータを磁気カードに保存できる
装置のついたものを次に使いました。
これで一度入力したデータは再利用できるようになり、
原稿の書き直しも少しは楽になりました。
ただデータを保存できるといっても、
一枚のカードの容量はA4用紙一枚分くらいだったので、
ページをまたいだ変更をするときはまだ手間がかかりました。
ここまでは大学院生の頃のことなので、
電動タイプライタは大学で借りて使っていました。
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就職してからは、自分専用の電動タイプライタを使えるようになりました。
このとき選んだのはBrother製の電動タイプライタで、
一行分のデータをディスプレイに表示し編集して印字できるようになっていました。
さらにデータをフロッピーディスクに保存できるものでした。
よほど長い論文でない限り一枚のフロッピーディスクに原稿が収まりました。
先のIBM製とは違ってこの機種ではデイジーホイールと呼ばれていた
花のはなびらのように並んだ一つ一つが文字を打つキーになっているものが回転して
文字を印字するようになっていました。
ここまでは電動タイプライタで論文原稿を作成していました。
データが保存できても機種が異なればまったく認識されませんので、
後々そのデータを再利用するというわけにはいきませんでした。
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1980年代終り頃以降:パソコン
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パソコンを利用して最初に論文原稿を作成したときに利用したソフトは、
C-formと呼ばれるものでした。
数式の上付き下付き分数等の文字の上げ下げを制御するコマンドを
本文に直接書き込むことで数式を出力するようになっていました。
ただし数式の上付き下付き文字の大きさは変らないので、
C-formで出力した原稿は
タイプライタで作成した原稿と見ためは変りませんでした。
ファイルはテキストファイルに文章も制御コマンドも書き込む形になっていて、
今から見るとTeXの簡易版といえるようなものでした。
原稿ファイルの編集はどんなエディタでもいいわけです。
パソコンのエディタで原稿を編集するようになって、
手書きで下書きを書くということはなくなってきました。
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論文を投稿していた雑誌の編集方針が変更になって、
原稿をTeXのファイルで提出すればページチャージはいらないが、
それ以外の場合はページチャージをとるということがありました。
当時、TeXは広まりつつありTeXで原稿を作成すれば
将来長く原稿を再利用できそうだと感じたことと、
自由にできる研究費が少なかったことや、
共著者の勧めもあってTeXで原稿を作り直すことにしました。
この投稿論文は上に書いたC-formで最初は作成していたので、
文章の部分はそのまま使えて数式に現れる制御コマンドをTeX用に
書き換えればよかったので、
TeXのコマンドを学べばあまり手間をかけずに原稿を作り直すことができました。
論文の原稿作成にTeXを使うようになってからは、
TeXのバージョンは少し変り使っているコンピュータも変化してきていますが、
原稿のファイルはTeXで最初に書いたものからずっと今書いているものまで、
すべてのファイルが現在使っているパソコンのハードディスクに保管されています。
これらはいつでも参照できます。
論文の原稿だけでなく勉強したことをまとめたノートや、
講義のときに準備したノートなどもTeXで作成するようにしました。
そんなことをしていたら手間がかかって大変でしょうと
笑っていた同僚もいましたが、
論文の原稿やノートを同じTeXの形式で作成し保管してきたおかげで、
色々と助かることがありました。
1980年代の終り頃に始めた論文の原稿やノートを同じTeXの形式で作成すると
いうことは現在まで続けてきました。
今後もこれは変らないだろうと思っています。
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