現代建築はロココ期から新古典主義ミニマリズムへ

       

 

 

 建築史研究の過程で私は18世紀中期から建築のスタイルがおよそ120年の周期で変遷していることを見出した。それを理解してもらうには、各時代の時代精神のようなものと建築スタイルの間の独特の関係を見る目が養われなければならない。これまでの著書でその一端を示しているのだが、あまり理解していただいていないようである。そこがわかれば、実は現代、そして近未来の建築スタイルの変遷がある程度予測できる。

 

 このHPにそのエッセンスを乗せるつもりなのだが、時間がなくて、まとめる余裕がない。とりあえず、結論だけを紹介しておこう。

 120年周期の過程で、1970年代に始まった20世紀のネオ・マニエリスム期は、次第にネオ・バロック期への移行し、今、ネオ・ロココ期にさしかかっている。ヘルツォーク&ド・ムーロンのプラダ、ヌーヴェルの電通、そして妹島の各作品は、現代のロココの代表である。これですぐにわかる人は建築史の神髄を理解できている人である。

 

 様式論といえば、機能主義の登場とともに否定されてしまったとお考えの方々が多いと思う。今、新しい様式論の理論が可能となってきているというのが、私の信条となっている。建築スタイルは人間の生理現象のように周期的な変化を刻々と行っている。これから10年、20年先の予測もある程度は理論面では可能である。ただし、技術や個別の手法は予期せぬ進歩や変化を遂げるので、現実にどのようになるのかを占い師のように神がかった予言をできるものではないので、誤解のないように。あくまでの歴史理論をもとにした推論である。

      ***  (3年経って、以下を追記) ***

 ザハ・ハディドの設計した近作ナポリ近郊の駅、サレルノの波止場を見ることができた。現代のアール・ヌーヴォーがコンピューターを通して実現されている。20世紀パラダイムは極まった感があり、オーガニックな形態に踏み込んだ。これは終局か。パラダイム転換を図るしか次の段階はない。かつて20世紀初期には、ベーレンスがアール・ヌーヴォーから新古典主義へと大転換した。その際にラウエリクスの幾何学デザインが仲介した。今、ミニマリズムが普及しているのだが、この目立たないミニマリズムには何らかの正統性を付与する必要がある。ベーレンスは古代ギリシャ神殿を背景にするF.ジリーやシンケルの新古典主義装束をかぶせてクリアした。今日のミニマリズムも正統性の装いが必要だろう。再び古代神殿が出てくるのか、新古典主義が出てくるのか。それとももはやモダニズムは古典と化しており、その幾何学形態が新しい権威となって使われるのかもしれない。根強いミース・ファン・デル・ローエの人気は、ポスト・モダニズムを知らない若い建築家たちにも移ってきている。新古典主義は歴史上、何度も繰り返してきている。それはルーツへの回帰という情動を伴い、弁証法的である。ミニマリズムの正統性は、18世紀新古典主義、15-16世紀のルネサンス、初期ロマネスク、古代ローマ、古代ギリシャ、古代エジプト、さらにはストーンヘンジやメンヒルの新石器時代まで遡ることができる。アドルフ・ロースが仕掛けたような還元主義がキーワードになるだろうが、何をどう還元するか見えた人が時代を牽引する。

 

   
 (c) Toshimasa Sugimoto