
ところで、クロダイの漁獲量は広島県が全国1位を誇っています。でも、彼女たちに波瀾万丈の歴史があったことはあまり知られていません。広島湾におけるクロダイの漁獲量は環境悪化や乱獲により1970年代後半には10トン程度まで減少しました。これに対処するため1980年より放流が始まり、1990年代には最盛期に匹敵する120トンまで漁獲量が回復したのです。放流事業成功の代表例が広島湾のクロダイなのかもしれません。
ただし、現在では漁獲量の増大によって市場価格は暴落し、未利用資源になりつつあります。しかも、カキやアサリに対しては害魚とみなされ、社会問題になっています。これらの理由から、2009年以降、広島県下のクロダイの放流事業は中断されました。
広島湾のクロダイの繁殖は自然界の力に委ねられていますので、これから保全のための研究が必要でしょう。それに、波瀾万丈の歴史を有する広島湾のクロダイは、放流成功の要因を検証したり、未来の放流事業の在り方を再考するため最適な研究材料です。また、増えすぎたクロダイとカキ養殖といった人的バイオコントロールから生じている問題は、保全と環境からなる新たな学問分野を提供しています。
クロダイにつては、産卵生態、初期生態、成長解析、遺伝的多様性や遺伝的集団構造、栄養要求、視覚生理、魚体成分分析、回遊経路の解明など、包括的研究を展開しています。私たちの研究が象徴されているのが「日本人の心の魚」クロダイなのです。