特徴ある診療

特徴ある診療

手術ロボットda Vinciによる内視鏡手術

<人の手では不可能な微細な動きと手ぶれ防止機能、関節機能による極めて高い正確性と安全性がこれまでの腹腔鏡手術を変えました。 >

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           (Intuitive社 公式ビデオから引用)


 da Vinciによる内視鏡手術とは、執刀医の手先の動きを忠実に再現する装置(ロボット)を用いて行う手術です。カメラ、メス、鉗子(かんし;モノをつかんだり牽引したりする器具)を取り付ける4本のアームとコンソールボックスから構成され、執刀医がコンソールボックスで行う操作を手術台に設置したロボットアームが忠実に再現します(上記ビデオ参照)。

<ロボット手術は何が優れているのか >

1. 鮮明な立体画像

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                da Vinciのカメラ

 手術ロボットda Vinciのカメラは内筒に左右2本の高解像度レンズが組み込まれています。このため遠近感のある鮮明な画像が得られ、まるで患者さんの体内に直接、両目を入れてのぞく感覚です。しかも肉眼では見えない細かな神経や血管を10倍の拡大視野で観察できます。

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              通常の腹腔鏡のカメラ

 一方、通常の腹腔鏡は1本のレンズです。これは片方の目に眼帯をあてて手術をするようなものです。このため遠近感のない平面画像であり拡大機能もないため、da Vinciほどの鮮明さは得られません。

2. 鉗子やハサミの関節機能

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     da Vinciの鉗子(Intuitive社 公式ビデオから引用)

 手術ロボットda Vinciの鉗子やハサミには関節機能があります。このため鉗子やハサミの先端を自由に曲げることができます。これは人の手と全く同じ動きです。

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              通常の腹腔鏡鉗子

 一方、通常の腹腔鏡鉗子は回転はできても先端を曲げることはできません。これは手関節を曲げないように手関節に硬い腕輪をはめて手術をしているようなものです。

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        da Vinci              通常の腹腔鏡

 da Vinciの持つ遠近感のある鮮明な立体画像と関節機能がどんなに優れているかを理解するためda Vinciの手術と通常の腹腔鏡手術を比較しましょう。前立腺の前にある血管(静脈)に針糸を通して血管をしばる操作です。da Vinci手術では遠近感があるために針をつかみやすく、関節機能のお陰で結紮(しばる)操作がなめらかなのに対して、通常の腹腔鏡手術では遠近感がないため針をつかみにくく、関節機能がないため結紮操作がぎこちないのがわかります。また、da Vinci手術では鉗子先のブレがないのに対して通常の腹腔鏡手術ではブレているのがわかります。

3. タイムラグのない直感操作

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  コンソールボックスからの操作(Intuitive社 公式ビデオから引用)

 da Vinciの操作はすべて直感的に行えます。タイムラグもありません。これはまるで自分の両手が患者さんの体内に入って操作しているかのような感覚です。

4. 手ぶれ防止機能
 da Vinciには手ぶれ防止機能がついています。手の震えが吸収されて先端がぶれないため手元の狂いがありません。血管など重要な組織を手ぶれのために傷つける心配がないのです。執刀医が1ミリ切開すればアームは正確に1ミリ切開するため1ミリ以下の微細な切開もきわめて正確です。

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これは金沢大学循環器外科石川先生の作品です。
(http://www.youtube.com/watch?v=x9Bjs99A0k0&feature=player_detailpage)
先端がぶれず微細で正確な動きのため細かな作業ができることがわかります。

5. 優れた人間工学
 da Vinciは座って手足だけの操作で手術が可能です。このため術者の疲労が少なく、最後まで集中力を保つことができるため、より完全な手術につながります。

<ロボット手術はどの領域で行われているのか >

 ロボット手術は泌尿器科領域とくに前立腺がんの手術に多く用いられています。

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前立腺は骨盤の一番奥深く狭い空間に位置し周囲には尿道括約筋(尿失禁を防ぐ筋肉)をはじめ勃起に必要な神経や血管が密集しているため周囲組織を傷つけず小出血で前立腺を摘出するのは至難の業です。このため開腹での前立腺全摘除は出血量が多く勃起神経を切れば勃起障害が、尿道括約筋を損傷すれば尿失禁は避けられません。ロボット手術は既述のように優れた機能を持つため、深いところでの糸結び、縫合が容易かつ確実で、縫合不全の予防や手術時間の短縮に大きく貢献します。ロボットは微細な手術操作を少ない出血量でこなすため小さい傷で痛みが少なく尿失禁や勃起障害などの合併症も軽減できるのです。

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 このため米国ではすでに前立腺がん手術の80%以上はロボットで行われています。一方、我が国ではロボットがこれまで医療機器として認められていなかったことや高額(約3億円)のためほとんど行われていませんでしたが、2009年11月に医療機器として認可されました。広島大学病院では2010年3月に中四国地方で初めてダヴィンチS-HDを導入し前立腺がんの手術を行っています(2013年7月現在の症例数102例)。その他、腎細胞がんの部分切除術(2013年8月現在の症例数7例)や膀胱がんの膀胱全摘除術(2013年8月現在の症例数7例)もロボット手術を行っています。ロボットのすぐれた特性によって前立腺全摘除術では出血量が減り(220 ml)、断端陽性率も15%というきわめて良好な成績が得られています(手術時間2.5時間)。腎部分切除術では腎動脈の阻血時間が短縮し(平均18分)、腎機能を良好に保つことができるようになりました。また、膀胱全摘除術では出血が減り、痛みが少ないため、術後回復がきわめて早くなっています。

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腹腔鏡下腎部分切除術

<腎細胞がんを腹腔鏡を用いてがんだけを取り除く手術です。根治性に優れる上に、体に優しく、腎機能を保つことができます。 >

 腎細胞がんの手術は、がんがどんなに小さくても病気の側の腎をまるごと取り除く全摘除がこれまでの標準的治療でした。腎は左右2つあるため、1つをとってもその後の生活には差し支えないと考えられていたからです。しかし全摘除は、がんの部分のみ切除する手術(部分切除術)に比較して慢性腎臓病を引き起こしやすい、心血管系の問題を生じやすい、生存率が悪い、などの欠点があることがわかってきました。このため最近は4 cm以下のがんに対しては部分切除術が標準となっています。

 部分切除術は一時的に腎に血液が流れないよう処置(小さな器具を用いて腎動脈を締める)をした上でがんを切除し、残った正常な腎組織を縫い合わせた(縫合)後、腎動脈の血流を再開させる手術です。開腹と腹腔鏡による2つの方法があります。開腹はがんの切除と縫合が容易ですがお腹を大きく切らなければなりません。このため体の負担が大きく痛みが強いため回復が遅いのが欠点です。一方、腹腔鏡手術は体に優しく回復が早い利点があります。当科では2002年から腹腔鏡を用いて114例(2013年7月まで)の患者さんに部分切除術を行っており良好な成績を収めています(腎動脈阻血時間15-20分、非再発率98%)。

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    ポート:お腹にあける穴        左上:トロカー(ポートに設置する器具)
                       左下:鉗子(ものをつかむ器具)、ハサミなど
                       右下:実際の手術風景          

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    後腹膜鏡下右腎部分切除術

腎動脈を一時的に締めて(阻血)がんを切除した後
正常腎を縫合、阻血を解除、がん組織回収。

前立腺がんの腹腔鏡手術

<体の負担が少なく回復の早い手術です>


 

 

 内視鏡で前立腺を摘除する手術です。下腹部に穴をあけて、炭酸ガスでお腹を膨らまし、内視鏡や手術器具を入れてテレビモニターに映し出された映像を観察しながら複数の医師が行います。開腹はお腹を大きく切らなければならないため体の負担が大きく痛みが強いのが欠点です。一方、腹腔鏡手術は炭酸ガスの圧力が出血を防ぎ、傷が小さいため体の負担が軽く、術後回復が早い利点があります。腹腔鏡の拡大視野のもとに手術ができるためより確実にがんを取り除くことができます。尿禁制や性機能保持にもすぐれた手術です。当科では2009年から79例(2013年3月まで)の患者さんに前立腺がんの腹腔鏡手術を行っており良好な成績を収めています(手術時間2.5時間、PSA再発5%)。最近は、勃起に必要な神経に傷を付けず、勃起力を温存する手術法も行っています。

portprocedure

ポート(お腹にあける穴)の位置    左上:トロカー(ポートに設置する器具)
                   左下:鉗子(ものをつかむ器具)、ハサミなど
                   右下:実際の手術風景 

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        後腹膜鏡下前立腺全摘除術

前立腺の前面にある血管を前立腺・尿道移行部で結紮(出血しないよう締める操作)します。
前立腺と膀胱を切離した後、先ほど結紮した血管を切断、さらに尿道を切断して組織を回収します。

 

会陰式前立腺全摘除術

 

 

 

<痛みや出血、尿失禁が少なく体に負担が少ない手術です、>
 前立腺がんの手術の中で腹腔鏡とならんで体に優しいのが会陰式(会陰とよばれる肛門のすぐ前の部分を小さく切開)手術です。会陰からだと前立腺までは距離が短く浅いため、小さな傷口で手術ができるので痛みが少なくてすみ、手術後は傷がほとんど目立ちません(下図)。米国では入院することなく日帰り手術が行われているほどです。普通の開腹(恥骨後式)と会陰式を受けた男性約200名に手術前後で痛みの強さを点数でつけてもらったところ、会陰式では恥骨後式に比べて術後の痛みの増強が軽いことがわかりました(下図)。会陰式は根治性の面では恥骨後式とまったく同じで、その上、出血がとても少なく(輸血の頻度は1/100人未満)、尿道括約筋への影響が少ないために手術治療のもっとも大きな問題点である尿失禁からの回復が速いのも特徴です。

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<会陰式のできる施設は限られています>
 広島大学病院泌尿器科では1995年から会陰式手術を開始、ご遺体をもちいて詳細に研究するとともに本術式のトップランナーである米国医師に技術を学び、独自の方法を完成させました。最近は、勃起に必要な神経に傷を付けず、勃起力を温存する手術法も積極的に行い、すでに200人以上の男性がこの手術をお受けになっています。この手術のできる施設は世界的にもわずかのため、さまざまな施設の泌尿器科医がこの手術法を見学にこられました。


単孔式腹腔鏡手術 Laparoendoscopic single-site surgery (LESS)

 

 

<わずか2 cmの小さな1つのポート(手術器具を入れる穴)から手術を行うため傷の目立たない究極の低侵襲(痛みや出血の少ない)で、整容性(美容)にも優れた手術です>
 私たちは、これまで副腎腫瘍、腎細胞がん、腎盂・尿管がん、前立腺がんなど多くの泌尿器疾患に腹腔鏡下手術を行ってきました。これは、お腹にあける小さな3〜4個の穴で手術がすむため、痛みが少なく回復が非常に早いことから、患者さんに大変喜ばれております。
 単孔式腹腔鏡手術Laparoendoscopic single-site surgery (LESS)はこれをさらに発展させ、1か所の穴(2 cm)から内視鏡カメラや鉗子などの手術器具の全てを入れて手術を行う腹腔鏡手術のことです。小さな創部から先端の湾曲した特殊な鉗子を用いて操作するため高い技術が必要ですが、傷が目立たたず、従来法よりさらに疼痛が軽減するなどの利点があり、近年普及しつつある優れた手術法です。

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 広島大学病院泌尿器科では2009年から副腎腫瘍、腎細胞がんを対象に単孔式手術(LESS)を行い優れた成績が得られています(手術時間:2時間、出血量:20 ml、入院期間:術後1週間)。2013年7月までの症例数は副腎46例、腎14例です。2010年末までに行った患者さん20名に術後の痛みの強さを点数でつけてもらったところ、単孔式手術では従来法に比べて術後の痛みが軽いことがわかりました(下図)。

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    単孔式内視鏡手術の術後創部

泌尿器の腹腔鏡手術

 

<腹腔鏡手術の高い技術と確固たる実績>
 私たちは1991年から腹腔鏡手術に取り組んでおり、2011年までにその件数は700件をこえました。また、広島大学病院泌尿器科出身の泌尿器科腹腔鏡手術技術認定医数は、我が国の認定医全体のおよそ5%を占め、1県あたりの平均技術認定医数の2倍を超えています。

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<3次元CT画像によるイメージング、過去に行われた豊富な手術DVD・ビデオの利用、トレーニング>
 その背景には、高い安全性への取り組みがあります。私たちは、腹腔鏡手術に先立ち、放射線科の協力のもとに高性能CT(コンピュータ断層撮影)装置を用いて、臓器やがんの位置関係、血管の走行などを手術時の体位に合わせて立体的に再構築します(3Dイメージ構築)。たとえば直径1mm以上の動脈であれば、正確な描出が可能です。これによって、手術時のがんの位置や細かな血管の走行を仮想イメージとして得ることができるため、不用意な血管の損傷やがんを切り込むことなく、出血の少ない安全で確実な手術操作が可能となっています。
 また、小さな腎細胞がんにおける腹腔鏡下腎部分切除において尿路の損傷は、縫合不全や術後感染の原因となるため、3Dイメージ構築によってがんと集尿系との距離や位置関係を解析し、尿路損傷を防ぐ工夫にも応用しています。

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                 CTをもとに構築した3D画像    実際の手術時の状態

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 さらにライブラリーとして保存している過去の豊富な手術ビデオ/DVDを用いてイメージングを行うとともに、万一トラブルが発生した際の対応法も考えておきます。 そして、ドライボックスを用いて鉗子操作のトレーニングを十分に行います。 これらの努力によって当科における出血などの術中合併症による開放手術への移行の割合は約2%にとどまっています。これはメイヨークリニック、クリーブランドクリニックなど世界的トップクラスの施設での成績(2%)と同じです。

密封小線源治療

<初期のがんでは手術をせずに根治できます>
 非常に弱い放射線を出す線源(長さ4.5mm、直径0.8mmのカプセル)を前立腺の中に埋め込む治療です。埋め込む個数は前立腺の大きさによりますが、通常60個から80個程度です。麻酔は脊椎麻酔(半身麻酔)、入院は3泊4日ですむため社会復帰が早いのが特徴です。早期のがんでは手術にほぼ匹敵する効果が得られます。

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 米国では15年以上前から広く行われていますが、我が国では2003年に初めて導入されました。広島大学病院泌尿器科では2004年にこの小線源治療を開始、2012年6月までに194名の治療を行い、全てに重篤な合併症なく良好な治療効果を得ています。現在、治療成績に加えて治療前後のQOL(生活の質)について追跡調査を行い、診療にフィードバックすることでさらに質の高い治療をめざしています。

光線力学的診断(Photodynamic diagnosis; PDD)狭帯域光観察(Narrow Band Imaging;NBI)i-scan

<光線力学的診断(PDD)とは?>
 PDDとは、がんに親和性を有 する蛍光試薬を内服し、がん組織に選択的に蓄積さ せた後、特定波長の光を照射して発せられる蛍光色 を観察することによって、がんの部位を特定する 診断方法です。PDDは簡便で診断時間も短く、さ らに生体侵襲性が少ない診断方法として注目されています。
 根の浅い表在性膀胱がんは、経尿道的内視鏡手術 (TUR-Bt)によって切除可能で、5年生存率も90%以上と予後良好です。しかし、術後の膀胱内再発が 50~70%以上と高いのが問題です。特に、手術時に通常の膀胱鏡では確認することが困難な小さながん、平坦ながんや前がん病変の残存が、術後早期の膀胱内再発に大きく関与することが知られており、治療成績の向上にはその確認困難な病変の正確な同定が大きな鍵になります。この問題を解決するのがPDDです。
 PDDは、欧州では臨床試験での良好な成績をもとに医療承認され、European Association of Urology (EAU)のガイドラインにおいて膀胱がんの診断に推奨されています。具体的には、手術前に光感受性物質 (アミノレブリン酸(ALA)溶液)を内服または尿道内にカテーテルを用いて膀胱に注入します。がんや前がん病変は、この光感受性物質を特異的に取り込み、青色光をあてると赤色蛍光として発光します。麻酔をかけて、蛍光膀胱鏡による観察下にその蛍光部位を切除することで、より精度の高い治療効果が得られます。 この診断・治療で使用するALAという光感受性物質は現在のところ薬事未承認ですが、欧米や国内の多くの施設で使用され、重篤な副作用は認めていません。本診断は、安全かつ有意に膀胱がんの再発予防に寄与し、がん再発に苦脳する患者さんにとって大きな福音になると考えられます。

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Karl Storz EndoscopyのHPより引用

<狭帯域光観察(NBI)、i-scanとは?>
 膀胱鏡は、膀胱、尿道のスクリーニング、精密検査、治療に おいて欠かすことが出来ない診断・治療機器です。しかし、従 来の膀胱鏡は小さな腫瘍、特に平坦型の腫瘍を見つけたり、悪 性と診断することは得意ではなく、より精密な診断が可能な次 世代の膀胱鏡が求められています。 それがi-scanとNBI(狭帯域光観察)です。通常、がんができ ると栄養を運ぶため非常に細い血管(新生血管)ができたり、 がん細胞の周りには正常粘膜には見られない不整形な模様ができ ます。i-scanは撮影された画像をコンピューター処理すること で明るさと色を変化させ、血管や粘膜の構造を明瞭に表示する 画像処理機能です。一方、NBIは血液の中に含まれるヘモグロ ビンに吸収されやすい2つの波長の光を照射することにより、 がんによってできた新生血管や粘膜の微細模様を強調して表示する 画像強調技術です。いずれも、下咽頭、食道、大腸、胃などあ らゆる分野の検査で研究されておりますが、膀胱を中心とする 尿路での研究はまだ多くありません。  われわれは、これら最新膀胱鏡を用いて、より正確に、より 早期に膀胱がんを見つけることを心がけております。また、これ ら最新膀胱鏡は治療においても有効であると考えられ、今後、 再発率の低下や癌の進行の防止についても検討を行っていく予 定です。

NBI

経尿道的前立腺核出術

<出血の少ない安全な内視鏡手術-大きな前立腺肥大でも対応可能->

 前立腺肥大に対しては、尿道から内視鏡を用いて前立腺を削る経尿道的前立腺切除術(TUR-P)が標準手術として行われてきました。TUR-Pは泌尿器科医が慣れ親しんだ手術で、手術時間の短さなどの長所もあり、現在も泌尿器科でも多く行われている術式です。
 しかし、肥大の大きな前立腺の場合、手術時間の延長に伴い出血量は増加し、輸血を必要とする可能性も増加します。また、手術時に使用する潅流液が原因でTUR症候群(血中の電解質異常に伴い、悪心・嘔吐・血圧異常が生じてしまう病態)と呼ばれる重篤な合併症を発症する危険性もあります。そのため、前立腺肥大症の強い患者さんには開腹による前立腺摘出術が必要でした。しかし、開腹術は体に与える影響(侵襲度)が大きく、入院期間も比較的長いことなどが問題です。
 近年、医療機器などの進歩・開発により、体に優しい(低侵襲)安全な内視鏡手術(経尿道的前立腺核出術=TUEB)が可能となりました。TUEB(チューブ)は、TUR-Pのように前立腺を「削り取る」のではなく、肥大した前立腺組織(腺腫:せんしゅ)を、前立腺を包んでいる皮(被膜:ひまく)から剥がし落とし(核出:かくしゅつ)、一かたまりの状態で一旦膀胱内に入れ、最後に専用の器械を用いて細かく切り刻んで吸い取り、体外に取り出すという最新の低侵襲手術です(ミカンの内側をそのままくり抜く感じです)。くり抜く手術のため肥大した前立腺組織の残存がほとんどなく、合併症を減らしつつ治療効果が高い方法と言えます。
 広島大学病院泌尿器科ではTUEBを2009年に導入し、受診される皆様に最先端の安全で効果的な医療を提供しています。「前立腺が大きいため手術が必要だが、高齢で無理」、「開腹手術が必要」、「輸血を行う可能性が高い」と診断された患者さんでも対応可能な場合があります。是非、一度ご相談下さい。

 

骨盤臓器脱

【こういった症状はありませんか?】
・おなかの何かが下がった感じ(下垂感)で、気持ち悪い。
・お風呂で何か丸い異物が出てきているのに触れる(脱出)。
・いすに座るときに、陰部のあたりで何か押し込まれるような違和感がある。
・残尿感があり、すっきりしない。
・排尿困難、残尿感がある。

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【何が下がってくるの?】

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 臓器としては、膀胱が多く、おしっこがちかくなったり、出にくくなったり、尿がもれたりすることがあります。

【骨盤臓器脱は多いの?】
・日本での調査はありませんが、スウェーデンの調査では、出産経験者の44%に骨盤臓器脱が認められています。
・仮に、40歳以上の女性人口の10%が骨盤臓器脱とすれば国内の患者数は約350万人となります。(我が国の高血圧患者は約700万人と言われています。)

【骨盤臓器脱の原因は?】


【骨盤臓器脱はどのような病気?】

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女性の骨盤内には子宮や膀胱、直腸などが収まっています。骨盤臓器脱はそれらの臓器の位置が下がって膣の中に落ち込み、外に飛び出す病気です。下がってきた臓器によって「子宮脱」、「膀胱りゅう(瘤)」、「直腸りゅう(りゅう)」などと言い、それらを総称して『骨盤臓器脱』と呼びます。

【治療は必要なの?】
・骨盤臓器脱の患者さんの全てが治療しないといけないわけではありません。
・臓器が下がることで「困るなぁ」「嫌だなぁ」「気持ち悪いなぁ」「今後が心配だなぁ」と思われる方で、治療を希望される方が対象になります。
・ただし、骨盤臓器脱は、進行することはあっても、自然によくなる病気ではありません。
症状でお困りの方が治療の対象になります。

【骨盤臓器脱の治療は?】
手術以外の治療としてペッサリーによる治療がありますが、根治的な治療ではありません。
また、出血・感染などのリスクもあり、長期的な使用は困難です。

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【骨盤臓器脱の手術とは? ー従来法ー】
子宮をとってしまい、のびきった膣粘膜を切り取って、縫い縮めたり、膣を閉鎖したりする方法。
従来の問題点
・子宮をとらなければいけない。
・体の負担が大きい(出血、長時間の手術や入院)。
・もともと弱かった組織を縫い縮めるため、再発率が高く、海外での報告では29〜58%再発率。

【骨盤臓器脱の手術とは? ーメッシュ手術ー】
安全で効果の高いメッシュ手術(TVM手術)
メッシュを膣から埋め込む方法がフランスで開発されました。
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[メッシュを埋め込む場所]
図のように埋め込みます。膀胱瘤の時と(青)、直腸瘤(オレンジ)では、埋め込む場所が違います。
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[メッシュ手術のポイント]
・子宮を取らなくてもよい。 ・従来法に比べて体の負担が小さい。
 (出血や合併症が少なく、翌日から食事や歩行が可能)
・傷が小さく、術後の疼痛が軽く、入院が短い。
・再発率が低い。
・保険適応である。
従来の方法と比べて、子宮の摘出が必要なく、手術の合併症が少なく、術後の再発率が低いことが大きな違いです。

[メッシュ手術の合併症は?]
・術中合併症
 膀胱損傷1%前後、直腸損傷1%以下、出血0.2%、血腫形成1.6%など
 まれに、輸血、血管塞栓術、メッシュ除去、人口肛門などの処置が必要になります。

・術直後合併症
 排尿障害18.5%、術後疼痛など
 自分で管を用いて、膀胱に残った尿を取ってもらう手技(導尿)を覚えてもらうことがあります
 (大半は一時的です)。

・術後合併症
 メッシュ露出1.4%、腹圧性尿失禁-高頻度、再発-低頻度など
 尿失禁に対して、薬物治療や失禁の手術が必要になることがあります。

【さいごに】
骨盤臓器脱は、以前はおもに婦人科が診察していました。
しかし、現在では子宮を温存することが可能であるため、術後の尿失禁や排尿障害、頻尿などに対しても適切に対応できる泌尿器科が治療にあたることが多くなっております。私たちは広島県内でいち早くメッシュ手術を導入し、その手術件数は広島県内トップクラスです。

子宮や膀胱の下垂や脱出による会陰部や下腹部の不快感、牽引感、排尿困難などに対して、お困りの方、ご心配な方、治療を希望される方は、広島大学病院泌尿器科にご相談ください。

間質性膀胱炎の有効な新しい治療=膀胱水圧拡張術

<間質性膀胱炎とは>
 間質性膀胱炎とは、頻尿および膀胱痛を特徴とする原因不明の慢性有痛性膀胱疾患のことです。頻尿、尿意切迫感、強い尿意、排尿困難や膀胱充満時に増強する下腹部、膀胱、膣、会陰など骨盤の慢性疼痛が主症状です。膀胱症状以外にも精神疾患や全身疾患の合併症が多く、診断は困難で、症状出現から間質性膀胱炎と診断されるまでに数年以上を要することが多いのが現状です。

<患者数は>
 間質性膀胱炎の患者数は、欧米では一般女性10万人あたり67-450人と高く、‘ありふれた病気;common disease’と考えられています。しかし、わが国では女性泌尿器科患者の10万人あたり4-5人と低く、非常にまれな疾患と考えられてきました。私たちが行った大規模アンケート調査から、診断基準や症例数、治療法が医療施設により大きく異なることや、一般女性における頻度の調査では実際は多くのひとが本疾患で悩まれていると考えています。また、私たちは間質性膀胱炎が、若年者、男性、小児においても認められることをわが国でもいち早く報告しました。現在、男性の難治性の慢性前立腺炎や前立腺肥大症と間質炎膀胱炎との関連性や、小児の難治性の尿失禁と間質性膀胱炎との関連性についても検討中です。

<診断は>
 間質性膀胱炎の診断には、1987年NIDDKクライテリアが使用されていましたが、現在では日本間質性膀胱炎研究会により間質性膀胱炎診療ガイドラインが作成されており、間質性膀胱炎の診療に役立つと考えられます。

<治療は>
 治療には、診断的意義を含め治療効果がもっとも確実な膀胱水圧拡張術を、まず行なうことが薦められています。しかし、水圧拡張術は先進医療と認定されているため、認定された医療施設でしか治療できません。広島大学泌尿器科は認定施設であり、いままで60例以上の症例を治療してきました。また、早期診断や治療に有益と考えられる外来で行なう膀胱水圧拡張や間質性膀胱炎の尿中マーカーに対する研究も、わが国においていち早く取り組んでおり、良好な成績を上げています。その他、膀胱内にDMSOという薬剤を膀胱内に注入して、症状を緩和させる治療も行なっています。
 日本間質性膀胱炎研究会はホームページ(http://sicj.umin.jp/)で間質性膀胱炎についての情報と間質性膀胱炎の診療を引き受けることができると意思表示している医師氏名、病院名を示しており、診療の参考になると考えられます。頻尿、尿意切迫感、強い尿意、排尿困難や膀胱充満時に増強する下腹部、膀胱、膣、会陰など骨盤の慢性疼痛でお悩みのかたや、間質性膀胱炎についてご不明な点があるかたには、一度このホームページを参照されるか、または広島大学泌尿器科を受診することをお勧めします。

(参考論文)
梶原 充ほか:持続性身体表現性疼痛障害に合併した間質性膀胱炎の1例. 西日泌尿.68:60-63, 2006.

加藤昌生ほか:広島県内泌尿器科専門医教育施設における間質性膀胱炎の実態調査. 広島医学 57:847-849,2004.

Y. Inoue et al.: Prevalence of painful bladder syndrome (PBS) symptoms in adult women in the general population in Japan. Neurourol Urodyn. 2009;28(3):214-8.

M. Kajiwara et al.: Safety and pathological findings of prostate biopsy in male interstitial cystitis patients with an elevated PAS level: What dose an elevated PSA level mean? 29th Congress of the Societe Internationale d’Urologie. Paris, Palais des congres de Paris.

M. Kajiwara et al.: Clinical evaluation of interstitial cystitis in Japanese men: Dose interstitial cystitis overlap with chronic prostatitis and/or prostate carcinoma? 2nd International Consultation on Interstitial Cystitis, Japan (ICICJ), Kyoto, Japan.

M. Kajiwara et al.: Glomerulations observed in children with overactive bladder- Are glomerulations possible diagnostic hallmarks of interstitial cystitis in children?-. 35th. Annual meeting of the International Continence Society. Canada, Montreal.

加藤昌生ほか: 間質性膀胱炎に対する外来仙骨硬膜外麻酔下水圧拡張の臨床的検討. 西日泌66: 129, 2004.

小児の夜尿症と尿失禁

 

 

<疫学と病態>
 夜尿症(おねしょ)や尿失禁は、幼小児や学童児において高い頻度で認められる排尿障害のひとつです。夜尿症や尿失禁はひとつの原因で生じるのではありません。様々な要因が複雑に絡まりあって‘尿もれ’という‘ひとつの症状’が引き起こされるわけであり、それらを解きほぐして原因を見つけ、原因にあった治療を行なうことが大切です。夜尿症の全体うち、‘夜間、睡眠中の尿もれ’だけの夜尿症は約6割であり、その場合は背後に大きな基礎疾患が隠れている可能性は少なく、自然に軽快、治癒することが期待されます。しかし、夜尿症に昼間の尿失禁や頻尿、尿路感染症、便秘などを合併している場合(過活動膀胱と呼びます)、泌尿器科的疾患が隠れている可能性もあり、専門的な治療や検査が必要となることがあります。
 広島大学泌尿器科では、以前から小児排尿障害外来(おねしょ外来)を設立しており、幅広い研究、治療を行なっております。疫学調査として、8000名以上のわが国の小中学生の排尿、排便状態を調査し、夜尿症が小学生の5.9%に認められ、男児に有意に多く(男児7.6%、女児4.2%)、それらは欧米の結果とほぼ同等であること、過活動膀胱を合併する夜尿症が‘夜間、睡眠中の尿もれ’だけの夜尿症と異なり、泌尿器科的疾患が隠れている可能性が高いことを報告しています。それは小児の過活動膀胱の疫学、自然史についての世界で初めての大規模疫学調査でした。

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<診断と治療>
   診療においては、小児の夜尿症や過活動膀胱の病態解明、原因検索のために、ビデオウロダイナミックスという特殊検査を行い、正確な診断、適切な治療に役立てています。
 治療としては、夜尿症に対してはガイドラインに基づきデスモプレッシンと夜尿アラーム治療を第一選択とし、良好な治療成績を上げております。また、昼間の尿失禁などの過活動膀胱に対しては行動療法や抗コリン薬を用いて治療をおこなっております。また、夜尿症や過活動膀胱は、自尊心(self-esteem)や生活の質(QOL)に大きく関係する症状であるため、治療効果のみならず症状や治療がself-esteemやQOLに与える影響、効果についても研究しております。

(参考論文)
M. Kajiwar et al. Urol Int. 80:57-61, 2008.
M. Kajiwara et al. J Urol.171:403-407.2004.
M. Kajiwara et al. Int J Urol. 13:36-41, 2006.
M. Kajiwara et al. Acta Urol. Jpn. 52:107-111, 2006.
M. Kajiwara et al. Int J Urol. 14: 156-160, 2007.
梶原 充・他. Urology View 5巻1号: 78-81, 2007.
梶原 充・他. 排尿障害プラクティス 15(1): 56-61, 2007.

腹圧性尿失禁の新しい治療

 

 

 

<腹圧性尿失禁とは>
 腹圧性尿失禁とは、せき、くしゃみや重いものを持った時など腹圧がかかったときに起こる尿失禁のことであり、中高年の女性で最も頻度が高率です。

<治療>
 軽度の腹圧性尿失禁に対しては、骨盤底筋訓練や膀胱訓練、生活指導があり、いずれかを単独、または組み合わせることで行なわれる理学療法があります。現時点では、理学療法が腹圧性尿失禁に対してまず行なわれる治療法と考えられています。効果が乏しい場合は、薬物療法もあります。しかし、中等度から重度の腹圧性尿失禁の場合、治療希望者に対しては外科的治療が選択されることがあります。また、腹圧性尿失禁のある方は、子宮脱や膀胱瘤などの骨盤臓器脱を合併していることもあります。

< 外科的治療 (TOT手術について)>
 いままでは腹圧性尿失禁に対して、コラーゲン注入やTVT手術(tension-free vaginal tape)を行なってきました。TVT手術は、効果的で低侵襲な手術法でしたが、ごくまれに膀胱損傷や出血、腸管損傷などの合併症があることが問題となっていました。近年では、より安全で施行可能なTOT手術が海外において主流となっており、広島大学泌尿器科はTOT手術を広島県内においていち早く導入し、施行しております。

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< 麻酔方法と手術方法>
 手術は下半身麻酔後に、膣壁を1~2cm切開して行ないます (経膣式手術)。開腹手術ではなく、15分~30分の手術で、体に与える影響が少なく (低侵襲)、手術日夕方から食事開始で、多くの方は術後2~5日程度で軽快退院となります。

< さいごに>
 腹圧性尿失禁は、生死に関与する疾患ではありませんが、生活の質を著しく低下させ、健康で健全な生活を送る上で大きな支障になる症状と考えられております。腹圧性尿失禁や骨盤臓器脱にお困りの方、ご心配な方、治療を希望される方は、広島大学病院泌尿器科にご相談ください。