5.要約と提言
これまでになされた将来予測の方法を検討しつつ、2010年までの教員の需給予測を試みた。これまでにも指摘したように、この予測はいくつかの場合を想定しておこなったところに一つの特徴がある。出生数が今後どのように推移していくのか、1998年に区切りを迎える教員定数改善計画のあとに新しい改善計画がスタートするのか否か、そうした点とも関連してPT比がどのように変動するのか、これらの変数によって将来予測の数値は少なからずの制約を受ける。また、細かくみれば児童生徒数の転出・転入が都道府県の採用数に影響を与えるし、期限付講師の枠を増減して採用数の安定確保を図るという政策が採用されていることも予想できる。小学校と中学校との人事交流が活発になれば、学校種別の採用数に修正を余儀なくさせる。そうした政策的な要因を実際には無視できないが、需給予測のモデルに組み込むことはできない。その意味では限定付きの需給予測であることは、言うをまたない。
結果を簡単に要約しよう。
1.今後、PT比改善に関する政策に大きな転換がないとすれば、少なくても現状の教員採用数と比較して、極端な落ち込みはない。教員採用数は、小学校では2001年、中学校では2004年、高校では2007年から、増加に転ずると予測される(将来人口の中位推計に よる予測)。低位推計でも、2010年の採用数は、中学校を除いて、91年の水準以上に回復すると予測される。
2.採用数をPT比設定A、中位推計で計算した結果、小学校と中学校を合わせて2005年 に25,000人を越え、2009年には33,000人に達する見込みである。PT比設定B、中位推計で計算すると2005年に 30,000人を越え、2010年には 44,000人程度の採用を予測することができる。
3.現在の教職員改善計画が終了した時点で継続的な政策が展開されなければ、換言すれば1998年の時点でのPT比で固定すれば、小学校では設定Aや設定Bの場合よりも多くの教員採用が望める(設定Aも設定Bも児童生徒数の増加期にはPT比が上昇することを前提にしているため)が、中学校では1999年からの5年間、高等学校では2002年からの5年間、極めて限定された教員採用数しか望めない恐れがある。
4.現在の教員需要数は全国的に少ない状況にあるが、今後の回復は大阪、京都、兵庫などの関西圏、東京、神奈川、埼玉、千葉などの首都圏を中心に始まり、それが周辺の都道府県に拡大していくものと推測される。また、学校種別に見れば、小学校での回復から始まり、中学校、高等学校へと波及していく。
以上の要約から若干の政策的な提言を付け加えて本稿を終えたい。
眼前の教員採用数減少だけでなく、将来の採用数増加への対応を考えることが重要である。教育養成大学・学部卒業者だけでは教員供給が大幅に不足する事態も予想されるからである。地域別にみれば、関東と近畿でこの事態が起こる可能性が高い。それに備えて、教育学部における教員養成の強化に加え、一般学部・短大教職課程の充実、教員免許・採用制度の再検討、など今から手を打つことが必要である。せっかく教員養成の充実を図っても、教員不足の事態になれば〃猫も杓子も〃採用せざるをえなくなるから、それまでの努力が水泡に帰してしまうことにもなりかねない。
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