はじめに ― 生命のふしぎを、数学とコンピュータで読み解く
生き物の体の中では、目に見えないほど小さな分子たちが、揺らぎながらも驚くほど精密に働いています。
藤井研究室では、こうした「自然の中にひそむルール」を、
- 数学
- コンピュータシミュレーション
- 物理・化学の原理
を使って解き明かす研究をしています。
大きな装置がなくても、自分のコンピュータで「生命の仕組み」を再現したり予測したりできるところが、この研究の大きな魅力です。
研究テーマ ― 3つの柱
1. 分子のゆらぎと生命の情報伝達のしくみ
細胞の中には、数十〜数百個ほどの「とても少ない分子」しかない場所があります。
普通ならノイズ(ゆらぎ)が大きな問題になりそうですが、実際の生命はこのゆらぎを上手に利用しています。
研究の例
- 神経細胞の「スパイン」の中で、なぜ弱い信号でもうまく伝わるのか?
- タンパク質が「揺らぎながら機能する」仕組みはどう生まれるのか?
ポイント
数学モデルや分子シミュレーションを用いて、生命の「精密さ」の秘密を探ります。
2. 反応ネットワーク・代謝系の数理モデリング
生体内では、酵素反応やホルモン応答が複雑に絡み合いながら、環境の変化に対応しています。
研究の例
- グルコース摂取パターンによる血糖値の変化を数学的に最適化する研究
- 肝臓・筋肉の代謝を、トランスオミクス解析と数理モデルで理解する試み
- 反応速度やフィードバック機構の「ロバスト性(頑健さ)」の解析
ポイント
「もし食事の仕方を変えたら?」「揺らぎが増えたら?」といった問いを、コンピュータ上で自由に試すことができます。
3. 形が自発的に生まれる現象の理解(chemical gardenなど)
自然界には、外力を加えなくても形が勝手に作られる不思議な現象があります。
その代表例が chemical garden です。
研究の例
- 金属塩とケイ酸ナトリウムの溶液が触れたときに生じる管状構造の成長メカニズム
- 浸透圧・膜の破壊・反応・拡散を含む構造形成モデルの構築
- ネットワーク構造が自発的にできるしくみを、簡単なモデルで解析する研究
ポイント
生命現象だけでなく、材料科学や地球化学など多方面へつながる「自発秩序の数学」を探求しています。
研究室では何ができる?(学部生・大学院前期向け)
数学で現象を表現する
微分方程式・確率過程・反応ネットワークなどを用いて、生命現象を「数式で扱う力」が身につきます。
C言語・Python・MATLABでシミュレーション
はじめての人でも大丈夫です。
簡単なモデルから始めて、将来的には論文レベルのシミュレーションまで取り組めるよう、丁寧に指導します。
実データとの比較や可視化
公開されている実験データなどを使って解析したり、細胞や分子がどう動くかを「見える化」することも行っています。
アイデアをすぐ試せる研究環境
「もしこうだったら?」「この条件を変えたら?」という疑問を、数理モデルとシミュレーションでその場で試すことができます。
自分の仮説を、自分の手で形にできるのがこの研究室の大きな魅力です。
どんな人に向いている?
- 数学・物理が好きな人
- プログラミングに興味がある人(未経験でも歓迎)
- 自然のしくみを深く理解したい人
- 実験よりも理論や計算が好きな人
- 自分のアイデアを数理モデルで確かめてみたい人
研究室に入る段階で、高度な知識は必要ありません。
「おもしろそう!」という気持ちがいちばん大事だと考えています。
メッセージ ― 好奇心が研究のはじまり
藤井研究室は、「生命や自然の不思議を、自分の手で解きたい人」を歓迎します。
難しそうに見える方程式やシミュレーションのコードも、最初は誰もできません。少しずつ学びながら、
世界の見え方が変わっていくプロセスそのものが、研究の醍醐味です。
あなたの「なぜ?」という疑問を、一緒に探求してみませんか。
学生時代の研究テーマとキーワード
学部期
アリの走化性によるカーナビゲーションシステムの考察
大学院期(修士)
渋滞を取り入れた自己駆動粒子系のダイナミクス 渋滞する模型アリの採餌経路選択 走化性を考慮した複数車線双方向交通流
分子動力学法による2種混合粉体のパターン転移
非平衡粒子系の混み合いによる輸送現象とパターン形成(修士論文題目)
大学院期(博士)
様々な混雑を含む粒子群の挙動の解析と普遍性の解明 (学振研究課題・博士論文題目)
興味のあるもの
現象: 生体内・細胞内環境,少数性 ,混雑・混み合い, Molecular Crowding,化学反応,渋滞,(人などの)行列,パターン
分野: 理論生物学,システム生物学,非線形動力学,統計物理学,統計学,計算物理学
対象: 分子,生物集団,自己駆動粒子集団,粉体,コロイド,etc...
キーワード: 数理モデリング,模型,分子動力学,格子ガス,確率論的シミュレーション,Gillespie,セルオートマトン,粗視化,情報伝達,etc...
これまで受けた科研費・助成金
日本学術振興会 科研費 基盤研究(C) 令和6年度−令和11年度 「粗視化分子動力学法による大規模分子運動シミュレーションのためのフレームワーク構築」(代表)
武田科学振興財団 特定研究助成 令和3年度−令和5年度 「核膜障害を起源とする細胞・個体老化の分子機構解明と治療戦略の基盤構築」(分担、研究代表者:広島大学 齋藤敦)
日本学術振興会 科研費 若手研究 平成31年度−令和4年度 「細胞に学ぶ環境の違いを感知する応答ネットワークの網羅的解析」(代表)
日本学術振興会 科研費 挑戦的萌芽研究 平成28年度−平成30年度 「神経に学ぶゆらぎを利用したロバストな情報コード」(代表)
日本学術振興会 科研費 特別研究員奨励費 平成22年度−平成24年度 「様々な混雑を含む粒子群の挙動の解析と普遍性の解明」(代表)