キャンパス俳句
キャンパス俳句
2009
猫の名を尋ぬ文届け秋の風
すっかり家庭欄のようになってしまったこのコーナー。今回も家庭での出来事にまつわる句である。
二ヶ月ほど前から,白猫が訪れるようになった。
山陰に暮らしていたときには,「クロ」が来ていた。その名の通りの黒猫で,毛もぼさぼさ,しっぽは先がちぎれ,片目に傷を負っていた。猫らしい輪郭をくっきりさせた座り方をすることも,ニャーと鳴くこともない。少し離れた日向にべたーっと寝そべるか,草むらの陰からにらむようにいつも隙をうかがっている。えさをドアの前に置いてやると-娘の役目である−,かすめるように食べて,さっと離れる。野良猫とは飼い猫と異なる生態を持つ生き物だということを黒い二つの輪っかを顔に付けて難しそうな顔をして眺める人間に知らしめてくれた,野良猫の中の野良猫だった。
ところが,単身赴任で離れている間に,クロはいつしか猫らしい座り方をするようになっていた。我が家の玄関に寝そべって,餌をあたえれば,おとなしく食べた。しかし,ぼさぼさの黒い毛は薄く灰色になり,生命力は目に見えて失われていた。そして,やがて姿を見せなくなった。私たちが転居する,1ヶ月ばかり前のことであった。
白猫は,そんな私たちの新居をはじめはちらっと通り過ぎ,やがて訪れるようになった。首輪を付け,優雅にたたずむことのできる,かわいらしい飼い猫だ。窓の外からニャー,ニャーと呼びかけながらちょこんと座る。クロとの暮らしの中ですっかり猫マニアになりながら,飼わせてもらえない娘は,遠慮がちに煮干しを差し出す。家の中にすばやく入り込み大騒ぎになる。こんなことを繰り返しながら,娘が手紙を書いた。
「わたしは小学5年生の女の子です。最近近くに引っ越してきました。
白猫ちゃんの名前を教えてください。お願いします。」
家族で煮干し作戦を立て,首輪に手紙を結ぶ。猫は首についたカサコソするものが気になるようだ。手紙がとれてしまわないうちに早く飼い主さんに届いて・・・。そんな会話をしながら,ふとクロの声が聞きたいと思った。
2009年10月11日日曜日