微小トンネル接合の2次元アレイでは、電極の自己静電容量が無視できる場合、電極上の余剰電荷間には距離の対数に比例する相互作用が働き、電荷のKT(Kosterlitz-Thouless)転移が起こることが予測されている。 われわれは電子線リソグラフィーと斜め蒸着法を用いてアルミニウムの微小トンネル接合(接合面積0.01(mm)2、常伝導抵抗60kW)の2次元アレイを作製し、その電気伝導の温度依存性を測定した。その結果、ゼロバイアス抵抗の温度依存性は、ある温度範囲でsuqare-root-cusp型の振る舞いを示し、それよりも低温で電流電圧特性が非線形になることを見い出した。これらの結果は、電極の自己静電容量が無視できないために対数的相互作用が有限範囲でしか働かない場合の、電荷KT転移的振る舞いとして解釈できることを明らかにした。
超伝導体電極をもつ微小トンネル接合列では、トンネル接合の 抵抗値に依存して超伝導の位相がコヒーレントかどうかがきま る。これは微小ジョセフソン接合の超伝導絶縁体転移として知 られるものである。超伝導絶縁体転移の臨界抵抗値はほぼ h/4e2=6キロオーム 付近にある。 われわれは、アルミニウムの微小トンネル接合の 二次元ネットワークの試料Wを段階的に変化させて超伝導絶縁体転移の臨界抵抗を 測定した。その結果、Wを小さくすると 臨界抵抗値は二次元の値(10数キロオーム)から減少し、 最終的に1次元で観測されている約3キロオーム付近になることが 観測された。 微小超伝導接合の二次元のネットワークの場合には、 超伝導絶縁体転移は、電荷ソリトンおよび渦糸ソリトンの Kosteritz-Thouless(KT)転移の競合でしばしば論じられるが、 この結果は、電荷ソリトンと渦糸ソリトンの試料の端で満たすべき 境界条件の違いから生ずる相互作用の変化が KT転移の競合に影響し ていると解釈される。
微小トンネル接合列を用いて三端子素子である 単一電子トランジスタを作ることができることが知られている。 微小トンネル接合などの研究においては、環境の影響が非常に大きく 結果を左右するが、単一電子トランジスタなどを用いた測定をするとこの 影響を最小限にすることができる。 われわれは単一電子トランジスタの製作に成功し、 良好な性能を確認した。今後はこれを物性測定に応用する予定である。
表面を酸化した導電性の基盤の上に蒸着した金属微粒子をSTM(走査型トンネル顕微鏡)で観測すると、STMの探針-微粒子-基盤という二重微小トンネル接合が実現できる。このような系では接合の容量が10-18F程度と非常に小さいため、低温で帯電効果による電子のトンネルの抑制(クーロン閉塞)が起こる。我々は探針を微粒子に近づけることで、クーロン閉塞がなめらかに消えていくことを見い出した。これは、探針-微粒子間の接合の抵抗が、量子抵抗と呼ばれる6.5kΩ程度の値よりも小さくなったためと解釈できる。この抵抗値以下では微粒子上の電子が十分に局在しないため、クーロン閉塞が消える。境界領域における振る舞いは未だよく理解されていないが、この実験はなめらかに変移がおこることを示唆している。
金属微粒子の電子状態に関しては、STMによる研究は今まで行われていなかった。これはクーロン閉塞が支配的になり、電子状態の観察を妨げるためである。我々はSTMの探針を微粒子に近づけてクーロン閉塞を消すという方法により、この困難を解決した。超伝導微粒子を用いてこの実験を行ったところ、クーロン閉塞が消えた後に超伝導エネルギーギャップが単独で現われた。単一の微粒子のトンネル分光としてはこれが初めてである。この手法を用いてInの超伝導微粒子のトンネルスペクトルのピークの間隔2Δp-p(BCS理論ではエネルギーギャップ2Δに等しい量)の粒径依存性を調べた。粒径を250Åから50Åまで小さくしたところ、直感的な予想に反して2Δp-pは増加の傾向を示した。これらは微粒子では超伝導のゆらぎが起こっていることを示している。粒径が小さくなると超伝導の凝縮エネルギーが温度と同じ程度になるため、オーダーパラメータは熱的に大きくゆらぐ。このゆらぎによって鋭いギャップ構造がぼやけ、同時に超伝導ギャップが大きくなる。曽根のゆらぎの理論を用いて微粒子での2Δp-pを見積もったところ、実験値と定性的に一致した。この実験で超伝導のゆらぎの効果をトンネル分光という、より直接的な方法で確かめることができた。
一次元微小トンネル接合列は低温において常伝導とすると、その両端間の電気伝導特性はクーロン閉塞を示す。ところが接合列内部の特性は、ローカル則かグローバル則のいずれが成り立っているかによって異なった振る舞いをするものと期待される。そこで電子線リソグラフィーを用いて0.01mm2程度の面積を持つ微小接合の一次元ネットワークを作製し、その二端子・四端子特性を測定した。その結果いずれの場合にもクーロン閉塞を示したが、四端子測定に関しては測定プローブの自己容量の影響があり正しい結果とは考えにくい。現在プローブの取付方法を改良し測定を行っている。またクーロン閉塞のしきい値電圧はグローバル則が成立していれば接合列の長さによらず一定になるので、しきい値の接合数依存性についても測定を行ったが、両者の間には正の相関があった。
電子が常伝導体ー超伝導体の界面(NS界面)を通過するとき位相記憶が保持されるかどうかを調べるには常伝導体で作られた微小ループの一部分を超伝導体で置き換えた試料が必要となる。そこで、我々は斜め蒸着の方法を応用してクリーンなNS界面を持った試料を作製した。常伝導体には銀、超伝導体にはアルミニウムを選んだ。超伝導体で置き換える場所は電子の部分波が通過するループの片側、及びループとアームの接合部分の二箇所を選んだ。まず、前者の試料のゼロ磁場付近の磁気抵抗を測定したところ、単一金属微小ループでみられるAAS効果の半分の周期で変動する現象が観測された。このように周期が半分になるのはNS界面で起きるアンドレーフ反射によって生じた正孔が電子波の干渉効果に寄与していると考えれば説明できる。また振幅は、超伝導体のない場合の10倍程度に増幅されており、こちらのほうの原因は分かっていない。一方、ループとアームとの接合部分の片側を超伝導体に置換した試料についても磁気抵抗は振動するが、このときの周期は単一金属微小ループで見られるAAS効果と同じ周期であった。振幅は超伝導体のない場合の100倍程度に増幅された。これらふたつの実験から、超伝導体の存在場所が磁気抵抗の振動周期および振幅に影響を及ぼすことがわかったが、これらの現象がアンドレーフ反射によって説明されうるかどうかはいまのところ不明であり、具体的な原因追及には至っていない。また、これら二種類の試料に対して100ナノアンペアから30マイクロアンペアの範囲で磁気抵抗の電流依存生を調べたところ、電流値を増加さていくにつれてゼロ磁場付近での磁気抵抗が下に凸から上に凸へと変化した。この様子は両試料に共通して見られる現象である。
大きさが100A程度以下の微粒子は、エネルギー準位が離散的で、また電気的な中性が保たれている。このため、熱力学的諸量が、バルクの値から、乖離する。これを、久保効果という。我々は、島状蒸着法を用いてAlの微粒子を作成した。Alは、スピン軌道相互作用が小さいので、久保効果の解析が容易であるという利点がある。そして、直径が60Aと、26Aのものについて、ナイトシフトの温度依存性を測定した。(0.5K-4.2K)その結果、低温部でナイトシフトがバルクの値よりも減少しているのを観測した。ナイトシフトの減少は、超伝導によっても起こるが、それだけでは十分に説明できない。よって、これは久保効果によるものであるとわかった。
高抵抗銅微粒子膜は、微小トンネル接合がランダムなネットワークを組んだ系とみなすことができる。このような系で、抵抗の磁場依存性を測定すると低磁場付近に異常なピーク構造がみられることが数年前にわれわれのグループで発見された。ゼロ磁場付近では正の磁気抵抗が現われ、約2テスラ付近で最大値をとり、その後減少する。 この磁気抵抗のピーク構造は、磁場の方位によらず観測されるため、低抵抗銅微粒子などで見られる弱局在の延長で考えるには困難がある。 この磁気抵抗の起源を解明するために、銅微粒子の粒径を系統的に変化させ、磁気抵抗の磁場依存性をトンネル抵抗、温度をパラメータとして測定した。その結果この磁気抵抗の形は微粒子の粒径に強く依存し、トンネル抵抗および、温度を変化させてもさほど変化しないことがわかった。 現在のところ、磁気抵抗の挙動の原因は不明であるが、微粒子の粒径に依存することから一電子帯電効果や久保効果と何らかの関連があると推測している。
Si:Pの金属絶縁体転移における電気伝導度の臨界指数の問題は、重要であるにもかかわらず現在も未解決であり、いくつかのグループにより、異なる結論を与える実験結果が提出されている。この問題を解決するためには、臨界指数を調べるための最も有効な手段のひとつとされている圧力誘起金属絶縁体転移のメカニズムについて調べることが必要であると考えられる。これを目的として、金属絶縁体転移の起こる臨界圧力と試料の電子濃度の関係を求める実験を進めている。希釈冷凍機を用いた実験で、高い電子濃度の試料では臨界圧力が低いことがみられたが、多くの試料について調べるために、試料交換の容易な新型の加圧クライオスタットを製作した。新しいクライオスタットは試料近くのばねにより一軸性圧力を加える構造であり、ばねの長さを測ることにより試料に加えられた圧力を正確に求めることができる。更に、加圧のための重りや高圧ガスを必要としない構造を採用した。
巨視的なサイズのジョセフソン接合では、電圧がゼロのままある臨界値までジョセフソン電流が流れるが、接合の面積が微小になり帯電エネルギーが熱エネルギーやジョセフソン結合エネルギーよりも大きくなると、1電子帯電効果の影響が顕著に現れると考えられる。単一もしくは小数の超伝導微小トンネル接合系において、有限のジョセフソン電流が存在するためには臨界的なトンネル抵抗値があることが理論的に予想されているが、それについて調べるために、トンネル抵抗の異なる微小トンネル接合列を電子線リソグラフィーによって製作し、ジョセフソン電流値とトンネル抵抗の関係を求める実験を進めている。 最初に、0.1μmx0.1μmのAlトンネル接合が1次元的につながった試料の作製条件について調べた。数10Ω以下の小さいトンネル抵抗をもつ試料について電流電圧特性を測定したところ、いくつかの試料において、磁場に対して超伝導転移にリエントラントな振る舞いがみられた。この原因について検討中である。
金属微粒子膜を用いて、微小トンネル接合における帯電効果について調べている。金属微粒子膜とは酸化膜でおおわれた金属微粒子をランダムに2次元的に配列したもので、微小接合の2次元ネットワークとみなせる系である。このような系では接合間の静電容量Cが微粒子の自己容量C0に比べ十分大きいと、電荷から生じる電気力線は2次元面内に閉じこめられる。このため電荷間の相互作用は距離に対し対数関数的になり、低温で電荷のKosterlitz-Thouless(KT)転移が起き絶縁体になる可能性がある。また、超伝導微粒子膜では渦糸間の相互作用も距離に対し対数関数的であるので、渦糸のKT転移が起こりうる。渦糸のKT転移が起こると系は超伝導になるので、電荷と渦糸のKT転移は競合関係にある。このような描像を用いることにより、以前より研究がされている超伝導微粒子膜における超伝導-絶縁体(S-I)転移を解明したいと考えている。
本研究では、スズ微粒子膜を用い、微粒子の粒径を変えることにより接合の静電容量をコントロールしS-I転移を調べた。昨年度までは、温度T=0に外挿したS-I転移臨界抵抗のジョセフソンエネルギーEJと帯電エネルギーEC=e2/2Cの比EJ/EC依存性を実験的に得、上述の描像を基礎にした理論に良く一致することを得た。そこで、本年度は各々のKT転移を直接観測するため、抵抗の温度依存性と電流電圧(I-V)特性を測定した。KT転移とは2次元系に特有の転移で、符号の異なる粒子間の相互作用が距離に対して対数関数的であるときに、温度が下がるにしたがい異符号の粒子は対をつくり、転移温度TKT以下では自由な粒子の数が0になるというものである。このときの自由な粒子の密度の温度依存性は、TKTのごく近傍の高温側でスクエアールートカスプ型になる。渦糸KT転移では渦糸の密度が抵抗に比例し、電荷KT転移では電荷の密度が伝導度に比例するので、それぞれ抵抗および伝導度の温度依存性がスクエアールートカスプ型になる。またKT転移の特徴として、TKTでいわゆるユニバーサルジャンプと呼ばれる秩序パラメタの飛びが現れる。渦糸および電荷のKT転移ではこのユニバーサルジャンプは、I-V特性の非線形性として現れる。つまり、V∝Iαと書くとTKT以上ではαは1であるが、TKT以下では渦糸KT転移では3に、電荷KT転移では1/3にジャンプする。以上の性質を観測するため、抵抗の温度依存性とI-V特性の測定をおこなった。
まず渦糸KT転移についての測定結果を述べる。測定は、微粒子の平均粒径が100Åと950Åの2系統の試料についておこなった。その結果、どちらの系統の試料でも、抵抗のスクエアールートカスプ型の温度依存性と非線形なI-V特性を観測した。また、抵抗の温度依存性とI-V特性から別々にTKTを求め、それらの値が非常に近い値になることを確認した。さらにTKTのトンネル抵抗依存性を調べると、トンネル抵抗が大きくなるに従いTKTが下がることを確認できた。このことは、KT転移をモデルとした理論により予言されている。
つぎに電荷KT転移についての測定結果を述べる。これについても上と同様に、100Åと950Åの2系統の試料についておこなった。しかし今のところ100Åの試料については、抵抗の温度依存性については熱活性化型、I-V特性については線形のものが得られるだけで電荷KT転移を特徴づける振る舞いは観測できない。これに対し950Åの試料では、伝導度のスクエアールートカスプ型の温度依存性を測定した。このような結果はまだ1例だけであり、また、I-V特性からは積極的に電荷KT転移を支持する結果は得られていない。電荷KT転移については、さらに系統的な研究が必要である。