ここでは、認識実験の対象として、図7.3に示す図形を用いた。これは、 文献[24]で用いられている2値図形をコピーして得たものである。これらの 図形は、重心を原点とする極座標 上で輪郭を等角度標本化したと き、同一角度で が多価となるため、文献[24]でも認識しにくい図形 となっている。文献[24]では、識別方式として Feature Weighting (FW) 法 [155]、 Rotated Coordinate System (RCS)法、および Hyperplane 法を用い て実験をおこなっているが、このうち RCS 法が最も高い識別結果を与えている。 RCS 法は、各クラスの共分散行列を対角化した後に、 FW法を適用してクラスの平均 特徴ベクトルとのユークリッド距離が最小となるクラスへ特徴ベクトルを識別する手 法である。 FW法は、空間の座標軸を伸縮させて、各クラスの体積を一定にするとい う条件のもとで各クラス内の分散を最小にする手法である。
ここで用いた図形は、大きさに関して , , 倍の変動を、回転に関 して約 [rad] の変動をもたせた。これらの変動は、複 写機の倍率を変えたり、手で図形を回転させたり、平行移動させたりして与えたもので ある。各図形当たりのサンプル数は ( 大小 回転)であり、 合計 ( 図形 サンプル)である。
複素自己回帰モデルに基づく特徴を用いた実験では、図形の輪郭を時計回りに追跡し、 データ点列を抽出した。大小伸縮に不変とするために、輪郭の全周長を 等分 する区間に分割し、各区間内のデータ点を平均値で代表させた。また、平行移動に対 して不変とするために、重心が原点となるように輪郭点列の複素座標を定めた。こう して得られた輪郭点の座標値(複素数)に対して、高速算法を用いて 次から 次までの複素自己回帰係数と複素 PARCOR係数を計算した。識別法としては、比 較のために RCS 法を用いた。正識別率を少数サンプルから推定するための手法とし て、leave-one-out method を用いた。つまり、各クラス当たり 個ずつテストサ ンプルとし、テストサンプル以外の残り サンプルを学習サンプルとして識別実 験を行ない、テストサンプルを順次替えて平均正識別率を計算した。
認識実験の結果を表7.1に示す。複素PARCOR係数を用いた識別では、 次から 次までの全てのモデルで % の識別率が得られている。また、 複素自己回帰係数では、 次のモデルのとき 個誤認識されて識別率が % となったが、それ以外の次数では、 % の識別率が得られている。一方、従 来の実自己回帰モデルの係数を特徴として RCS 法によって識別した場合の識別率は、 次から 次までのモデルでは、 % であるが、それ以外では % 以下である。また、モデルの次数を大きくしても必ずしも識別率が増加していない。 これらの結果から、従来の実自己回帰モデルに基づく方法では認識しづらかった複雑 な図形に対しても、複素自己回帰モデルを用いることによってより高い識別率が得ら れる見込みが得られた。