広島大学 大学院先進理工系科学研究科 応用化学プログラム 物質機能化学研究室 今榮グループ
Ichiro Imae's Innovative Green Research for Environmental and Energy Nanomaterials

研究目的

当グループでは、持続可能な社会の実現に貢献することを目的として、π共役高分子やオリゴマー、有機色素といった有機材料の研究を行っています。特に、構造が明確に制御されたオリゴチオフェン骨格をもつ新しい機能性材料の開発に取り組んでおり、これらの材料をSDGs(持続可能な開発目標)に関連する分野へ応用することを目指しています。さらに、グラフェンやカーボンナノチューブなどの炭素材料や、シリカ、シルセスキオキサン、各種ケイ素系化合物を用いた高機能な複合材料の開発にも力を入れています。これらの研究を通じて、エネルギーや環境分野への応用を見据えた、環境にやさしく持続可能な材料作製プロセスの確立を目指しています。

主な研究内容 ※クリックで詳細

有機熱電変換

未利用熱を電気に変える ― 環境調和型有機熱電材料の開発

スマートウィンドウ

光を制御して快適空間へ ― スマートウィンドウ材料開発

CO₂ アップサイクル

分解して価値を生む ― カーボン材料の創製

水浄化

捕集と分解 ― 水浄化材料研究

有機熱電変換
Thermoelectric conccept

石油、石炭、天然ガスなどの天然資源から得られる一次エネルギーは、発電所、自動車、工業設備、ごみ焼却施設などで広く利用されています。しかし、その約3分の2は最終的に熱として環境中へ放出され、有効に利用されないまま失われています。

特に、この廃熱の約80%は200 ℃以下の低~中温熱であり、給湯や温水プールなどに一部再利用されているものの、有効活用の機会は依然として限られています。

このような背景から、熱電変換は廃熱回収技術として近年大きな注目を集めています。

熱電変換は、蒸気タービンなどの機械部品を必要とせず、熱を直接電気に変換できるという特長を有しています。そのため、シンプルで小型、かつ高い信頼性を持つデバイス設計が可能です。また、ウェアラブルデバイスやスマートフォン、さらには人体のような小さな温度差を利用した発電にも適しています。

space probe

Image credit: NASA

これまでの熱電変換技術では、主に無機材料が使われてきました。実際に、無機熱電発電はボイジャー探査機などの宇宙探査ミッションで実用化されています。しかし、低~中温域の廃熱を高効率に変換できる材料は依然として不足しており、さらにテルルなどの希少元素や有害元素を含む材料も多く、持続可能な社会実装において課題が残されています。

これらの課題を背景に、有機化合物を使った新しい熱電変換材料への関心が高まっています。

熱電変換デバイスでは、材料に温度差を加えることで、内部の電荷が偏り(冷たい側に電荷が集まる)、その偏りを利用して電力を取り出します。このとき、電荷がスムーズに移動する(電気を通す)性質も 重要です。

有機化合物は長らく電気絶縁体と考えられてきましたが、1970年代に電気を通すプラスチック「導電性高分子」が発見されたことで認識が大きく変わりました。これを契機として、有機熱電材料に関する研究は1990年代以降着実に進展し、現在では世界中の大学・研究機関・企業で活発に研究が行われています。

私たちの研究グループでは、導電性高分子の分子構造や分子内の電荷の分布(電荷密度)を精密に制御することで、熱から効率よく電気を生み出せる材料の開発に取り組んでいます。

また、導電性高分子にカーボンナノチューブグラフェンといったナノ炭素材料を組み合わせることで、熱電性能のさらなる向上を目指した研究にも取り組んでいます。

oligothiophenes

高性能有機熱電材料を実現するための研究戦略

研究紹介動画(YouTube)

研究紹介動画(YouTube)


スマートウィンドウ

スマートウィンドウとは、光や電気などの外部からの刺激によって色が変わる「賢い窓」のことです。中でも、電気を通すことで色が変化する現象は「エレクトロクロミズム」と呼ばれ、この仕組みを利用したスマートウィンドウでは、電気信号によって色の濃さや透明度を自在かつ素早く制御できます。さらに、電気をかけて色を変えた後は、電源を切ってもその色が保たれるメモリー性があるため、省エネルギーであることが大きな特長です。

このような特性から、エレクトロクロミズム型のスマートウィンドウは、すでにボーイング787の窓や自動車のサンルーフなどに実用化されています。

Boeing 787

(左)広島空港で撮影したボーイング787機、(右)同機内から撮影したスマートウィンドウの色変化の様子

このしくみでは、電気をかけることで材料の電子の状態が変わり、特定の色の光(可視光)を吸収したり通したりすることで、見た目の色が変化します。

私たちはこのしくみを利用して、導電性高分子を電極の表面に塗って使うスマートウィンドウの開発に取り組んでおり、分子の構造を工夫することで、さまざまな色を自由に出せるようになりました

EC properties

私たちのグループで開発したポリチオフェン誘導体のエレクトロクロミック特性

一方で、長時間の繰り返し駆動によりポリマー膜が電極からはがれてしまうという課題も明らかになりました。 そこで私たちは、「シロキサンネットワークポリマー」という材料に注目しました。この材料は、電極に使われるインジウム酸化錫(ITO)と化学的に強く結びつく性質を持っています。 これを使うことで、ポリマー膜が電極からはがれにくくなり、長期間安定して色の変化を続けられるようになりました。

現在は、見た目の色だけでなく、赤外線(熱線)を吸収して夏の強い日差しを防ぐ新しい材料の開発も進めています。快適で省エネな未来の窓をめざして、材料の設計に挑戦しています。

siloxane network

(左)シロキサンネットワークポリマー、(右)導電性高分子とシロキサンネットワークの複合体形成


CO2 アップサイクル

本研究では、地球温暖化の原因とされる二酸化炭素(CO2)を資源として活用する研究を行っています。 本テーマは産学連携のもとで進められており、詳細は公開できませんが、環境調和型材料の創製を通じて持続可能社会の実現に貢献することを目指しています。

CO2 Upcycling

水浄化

近年、水環境中に残留する医薬品や化学物質による汚染が深刻な問題となっています。たとえば、鎮痛薬として広く使用されているアセトアミノフェンは、使用後に体外へ排出され、下水処理を経ても完全には分解されず、環境中に残留することが報告されています。また、PFAS(有機フッ素化合物)は、防水剤や消火剤などに広く用いられてきましたが、極めて分解されにくく、生体への蓄積や発がん性などが懸念されています。

waste water

最近、酸化グラフェンが水中汚染物質を除去する性質があることが報告され、注目を集めています。 私たちはこれまで、エネルギー材料の研究として酸化グラフェンを扱ってきました。具体的には、酸化グラフェンとシリカの原料を混合するだけで、簡便に複合体を合成する手法を確立しています。この複合体は、酸化グラフェンのみを還元することで高強度の透明導電膜に、酸化グラフェンとシリカの両方を還元することで高容量・高耐久性のリチウムイオン二次電池として活用できることを実証しています。

そこで私たちは、この簡便に合成できる酸化グラフェンとシリカの複合体が、水中のアセトアミノフェンやPFASを除去できる技術に応用できるのではないかと考え、海外の大学機関と国際共同研究を進めています。

GO composite

酸化グラフェンとシリカの複合体の簡便合成


これまでに携わってきた研究テーマ

  • エネルギー変換
    • 有機薄膜太陽電池 (OPV)
    • 色素増感太陽電池 (DSC)
  • エネルギー貯蔵
    • リチウムイオン二次電池 (LIB)
    • 電解コンデンサ (EC)
  • 生体関連
    • 細胞デバイス
    • バイオセンサー
  • その他
    • 有機ELディスプレイ (EL)
    • 有機電界効果トランジスタ (OFET)
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