分子細胞情報学セミナー
◎平成25年2月13日(水) 17:00~18:00
「Wntシグナルネットワークによる細胞機能制御とその異常による病態」
菊池 章 先生 (大阪大学大学院医学系研究科 分子病態生化学 教授)
【要旨】
ショウジョウバエの遺伝学に端を発したWnt(ウイント)の研究は、発生生物学や腫瘍医学的アプローチによっても解析が進み、多様な研究領域を包括してきた。Wntは分泌蛋白質で、線虫やショウジョウバエからヒトに至るまで生物種を越えて保存されており、動物の発生に必須である。個々の細胞からみれば、Wntは細胞の増殖や分化、極性、運動の制御に重要である。Wntはヒトやマウスのゲノム上に19種類存在する。Wntが細胞膜受容体に結合することにより活性化される細胞内シグナル伝達機構には、β-カテニン経路とβ-カテニン非依存性経路が存在する。β-カテニン経路は主として細胞の増殖と分化を制御し、その異常は発癌や骨疾患と密接な関係にある。一方、β-カテニン非依存性経路は細胞骨格を調整して細胞や組織の運動や極性を決定する。本セミナーでは、Wntシグナルが他の液性因子と協調しどのように組織を構築するか、上皮管腔組織をモデルとして示したい。また、Wnt研究分野で解析が遅れているWnt自身の分泌制御機構に関する知見も紹介したい。