分子細胞情報学セミナー
◎平成28年2月12日(金) 16:00~17:30 総合研究棟7F 共同セミナー室(701号室)
「小胞体ストレスと腎臓病」
稲城 玲子 先生
(東京大学大学院医学系研究科 慢性腎臓病(CKD)病態生理学 特任准教授)
【要旨】
慢性腎臓病(chronic kidney disease, CKD)は新たな国民病といわれている。その医学的、社会的問題点として、CKDは遠隔臓器の機能恒常性(臓器連関)を破綻させ、心血管病や脳梗塞など死亡リスクの高い疾患の発症率を高めることや、CKD末期には血液透析に至るため生活の質や生産性の低下の原因となることが挙げられる。これは高齢社会の健康長寿を目指すうえで解決すべき課題であり、そのためCKD撲滅が世界的に提唱されているが根本治療薬はまだない。
我々はCKD病態生理学を学ぶ中で、腎臓細胞において小胞体の機能低下(小胞体ストレス)が発信するストレスシグナル(unfolded protein response, UPR)が細胞障害表現型(形態変化、細胞増殖、細胞死など)に深く関与することや、病的なUPR活性化が生じる要因やそれを改善することによる腎保護効果について研究を進めてきた。本講演では腎臓における小胞体ストレスシグナルの病態生理学的役割、それら成果に基づいて新しいCKD治療戦略が確立できるかについて論じたい。