お礼茶会


裏千家茶道を学んでいる人たちで作っている青年部と呼ばれる
グループに入会して2年が過ぎようとしている。
普段は,それぞれの先生について稽古をしているけど,
年に何回か自分たちで茶会を開催する。
レベルの差が大きいので(初心者からプロまで混在している。)
まとめる立場にある方々の苦労は果てしなく大きいらしいが,
斬新な発想と大胆な企画が,とても楽しい。
一年の終わりは例年,日頃お世話になっている先生方をお招きしての
お礼茶会で締めくくる。が,これがまた,毎年・・・・・。

前日の準備
今回の会場となる,牛田の不動院を始めて訪れた。
広々とした境内には,モミジがたくさん植えてありはらはらと散っていた。
ちょっと,いや〜な予感・・・。
茶室の畳や廊下のぞうきんがけから準備は始まる。
が,30畳以上のスペースもあっという間に終わってしまう。
さすがに,手慣れたもんだ。

玄関のまわりって・・・
茶道具がどんどん運び込まれてくる段階になると,仕事の量に比べて
人手の方が多い状態になる。
「みとさーん,手が空いていたら外をお願いしますー。」
と,やさしくお願いされて,ちょっとはりきる。
外にでてみると孤独に一人で掃除している人がいた。
掃いても,掃いても,紅葉が降ってくる。
「玄関の周りってここら辺まできれいにすれば,いいですかねー?」
と聞かれて
「門から境内に入って来てみて,きれいに見えたらいいんじゃない?」
と答えた。
その人は,「いい考え。」などと言いながら門へ向かって歩いて行った。
しかし,門で振り向いた瞬間
「あー。こっちもー!!!」
どうも,清掃範囲が広がったらしい・・・・。

藁灰(わらばい)
師匠が手あぶり(小型の火鉢)を準備していた。
今ではすっかり珍しいものの仲間入りをしてしまった藁を燃やしてその灰を
手あぶりの中にいれるそうだ。
「空気の通りを良くして,手あぶりの中の炭のおこりを良くするのよ。」
と,部長が説明しながら藁に火をつけるのを何人かの部員が遠巻きに見ていた。
藁を燃やす火の勢いはかなり強くて,普段ガスレンジの火しか馴染みのない
身には,ちょっとおっかない。
出来上がった藁灰を手あぶりに入れてみたけど
「師匠,なんだかめざすものと違うんですが・・・。」
「そうじゃのー。」(それはやり直し,という目つき。)
何度か藁を燃やしてみると,コツが分かってきた。
藁をねじって燃やすと,形の良い灰が出来上がる。
火箸で,形が崩れないようにそーっとすくい上げると
思っている以上に軽い。
「藁灰って,軽いねー。」
と,手あぶりに灰を入れている人が口々に言った。
「やってみんと,分からんことは多いのー。」と師匠が呟いた。

当日
お客になった先生は全部で16名。
迎えた青年部員は約40名。
料理も菓子も手作りの茶会は,11時に始まった。
もっとも,10時30分には,先生はほぼ揃っていたらしい。
さすが,お茶人。
お客が待合(まちあい)から茶席へ入られたら狭い水屋から脱出して
部員が待合へ流れでる。
着物姿が40人は,結構壮観だ。
「ひとり,一回は必ず席へ何かを運んでいただきます。」
と,担当が決まってしまったので
煮物椀とか,湯桶(ゆとう)とか,普段の茶会では馴染みのない
ものを持ってでる人が多くて,「どーやって渡すのー???」
とみんな緊張。
私は,八寸(はっすん)デビューでかなり緊張。
八寸とは,文字通り約24センチ四方の杉の器(三方の上の部分と同じ形)に
酒のつまみにおいしそうな一口で食べられる料理を載せて茶席に持ち出し
客の前で,取り分けて渡す,という役目。
海のものと山のものと2種類載せるのがきまりだそうだ。
「まず,海のもので,次に山のもので・・・。」
と,その順番すら分からなくなりそうな自分が怖い。
八寸の上には鮭の磯部巻きと松の葉に刺してあるむかごが載っていた。

一瞬の美
「弟子,この瞬間を見ておきなさい。」
と師匠が示したものは火入の炭。
上から覗くと,一番外側はうっすら白くなっていて,割れ目から炭の奥が真っ赤に
なっているのが見えた。
黒い炭を浸食するように広がる赤い色合いが,なんともいえず美しい。
火山から噴き出す溶岩のようだ。
20分くらいすると炭が白くなった。燃え尽きてしまったようだ。
あの一瞬を楽しむために準備したのか,と思わせるような印象的な光景だった。

おみやげ
ねり香は,半年以上ねかせておくと香りがよくなるそうだけど,
一年の感謝の気持ちを表すために渡すおみやげにねり香を選んだのは
今年の2月の終わりで,半年以上前から今日のために準備していたものだ。
おみやげ担当のひとたちが,かわいい雪うさぎの香合を手作りして
ねり香に添えて,先生方にプレゼントした。

無事終了
14時30分頃,無事に茶会は終了した。
今回は客の前に持って出る,という最後の華やかな部分だけを
させてもらった茶会だった。
おかげで,席に一歩足を踏み入れた時に,足元にばっ
突き刺さる視線を経験することができた。
精神を鍛えなければ,茶席へは入れないぞ。
と確信した1日だった。

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