1999年4月29日(木)吉和冠山

春の妖精(スプリング・エフェメラル)
というと,ロマンチックすぎてちょっと気恥ずかしい・・・・。
が,「妖精」の呼び名がよく似合う繊細で儚げなカタクリ(ユリ科カタクリ属)の花で
有名な冠山へ行った。
今回は,普段は関係者以外立ち入り禁止で閉ざされているゲートを開けてもらい
山頂が目の目に見えるところまで林道を自動車で登ったのでまさに,おいしいところ取りだ。
ゲートを越せると登山道入口に着くまでの間にも,スミレサイシン(スミレ科スミレ属)や
ヤマウツボ(ゴマノハグサ科ヤマウツボ属)などがのんびりと道沿いに花を咲かせている。
この日は勤労者山の会に同行して自然観察指導員の勤めをまっとうしている
Rさんとせっちゃんのふろくで参加させてもらったので普段以上にオトナシクしていた(と言っておこう)。

西中国山地国定公園
広島県佐伯郡吉和村吉和西1584−2
面積 174.3ヘクタール
と書いてある立派な看板の向こうには,鳥帽子の形を連想させる冠山の山頂が見える。
鳥帽子の部分はなぜか茶色くて,山を覆っている木はまだ新芽が出ていないようだ。
もう春の真っ只中なのになぜ?
その答えは後で身をもって気が付くハメに陥ったのだが・・・・・。
一歩山を歩き始めるとすぐにニシノヤマタイミンガサが目に入る。
「傘のお化け」だとせっちゃんはいつも説明する。
しかし,私はなんだか中国のお屋敷ででっぷり太った「大人」が周囲の人に傅かれながら
昼寝をしているのんびりした光景を連想してしまう。
イメージで決めるか?!とつっこむ声が聞こえてきそうだけど
だから,ニシノヤマタイミンガサは大好きだ。
高貴でのんびりした人が誰からも愛されるのと一緒だと思う。
けっして,昼寝が好きなわけではない・・・・。
毒にも薬にもなるエンレイソウ(ユリ科エンレイソウ属)も褐紫色の花を咲かせている。
いつにない,たくさんのエンレイソウはちょっと不気味だ。

山の中
1時間も歩くと,川が現れた。
これが太田川の源流だそうだけど,3歩で渡りきれるような橋が架かっているくらいの
川幅だった。
川のそばには,ワサビ(アブラナ科ワサビ属)が白い小さな花を咲かせている。
花びらが4枚なのを始めて知ったぞ。
コチャルメルソウ(ユキノシタ科チャルメルソウ属)は地味だけどなかなか渋くて
現代アートな意気込みを感じさせる花を咲かせている。しかし,葉には個性が感じられなくて
花を見て始めて「あ,いままで見てきた葉はコチャルメルだったのね。」と
言う人が多い。
寂地峡からの登山道と合流する手前でお昼になった。

ブナ林
お昼を食べた場所は,ブナ林の真っ只中だ。
見上げてみるとブナの枝が繊細な模様を空に描いているように見える。
幹の太さが3人がかりくらいでないと手が届かないくらいのブナが多い。
台風のせいか,根こそぎ倒れて苔むしている木もあった。
ミヤザキハヤオ系の光景,と言えば想像しやすいと思うが・・・・・
広島市内では,長袖シャツを着ていると「ちょっと,暑い。」と感じていたけど
標高とブナの日陰の影響で,かなり体が冷えてくる。
リュックの中から年代もののヤッケを引っ張り出して着こんでもまだ寒いぞ。
「そうか,だから冠山の山頂付近はまだ茶色かったんじゃ。」
とやっと思い至った。

カタクリロード
と呼ばれるほどカタクリの多い登山道を冠山の頂上目指して歩いていると
「あー,ジャクチスミレじゃー!!!」と興奮した声が前方で上がった。
白い花の咲くスミレで,名前のとおり寂地峡で始めて発見されたスミレだそうだ。
「これがジャクチスミレじゃ。」となんだかRさんが花を自慢しているように見えてしまう。
自慢されたジャクチスミレがちょっとうれしそうに見えるのは気のせいか・・・・?
本日のメインディッシュ「カタクリ」はというと,
一番見頃の時期からはちょっとだけ遅れをとったようだけど
やはり寒かろーが,しんどかろーが,「これを見ないことにはっ!」
と言うファンが多いのが納得できる可憐さだ。
1年目のひょろひょろと細い葉が生えている。
これに花が咲くのはいったい何年後のことだろうか?
自然の営みって,速さを考えないよなあ。

帰り道でも
帰りの自動車の中で,せっちゃんの奥様のマリコさんが
「あー,エイザンー!!止めて!!」
と突然叫んだ。
なんだ,なんだ??と驚いていると
林道の脇にエイザンスミレ(スミレ科スミレ属)が咲いているというので
自動車を降りて近づいてみると本当にエイザンスミレが咲いていた。
えー,なんで分かるのー???
と聞いたところ
「長年鍛えているのよ!」という返事。納得できるような,できないような。
花の大きさはだいたい1.5センチ。いくらゆっくり走っていても,普通見えんじゃろー。
と花と満足そうなマリコさんを見比べた。

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