研究紹介

【研究の成果】
1)尿路性器癌に関する研究:
 @前立腺癌については,線維芽細胞成長因子(FGF)とその受容体(FGFR)が増殖に関与し,FGFR1,FGFR2の発現様式が前立腺癌の悪性化に伴って変化すると共に,発現様式を正常に戻すことが前立腺癌治療に結びつくことを示した。また,Matrix metalloprotease (MMP)およびtissue Inhibitor of metalloprotease(TIMP)などのプロテアーゼは前立腺癌の浸潤,転移と密接に関係し,前立腺癌組織中のMMP-7/TIMP-1比が病期の進行と共に上昇することを報告した。臨床的には,根治的前立腺全摘除術は前立腺内限局癌が適応であり,そのためには正しい診断と微小浸潤の阻止が重要である。前者に対しては腹腔鏡下骨盤内リンパ節廓清術による診断が,後者には術前抗男性ホルモン療法が役立ち,さらに手術法として従来の恥骨後式に対して会陰式摘除術が術後の侵襲軽減に役立つことを報告した。

 A腎細胞癌については,マウス腎細胞癌で,retroviral vectorにて遺伝子を導入,IL-2,IL-12分泌細胞を作成して抗腫瘍効果を検討,これら遺伝子導入細胞による治療の可能性を報告した。進行腎細胞癌に対し,転移巣を含めた積極的な外科的摘除とインターフェロン,IL-2を用いたbiotherapyを併用,転移巣が摘除可能な症例は予後良好なことを報告した。

 B膀胱癌について,県内多施設の共同のもとに浸潤性膀胱癌の抗癌化学療法の効果と副作用を検討した。Cisplatinを主とする多剤併用療法は約半数の症例に部分緩解以上の効果を認めたが,長期的には再燃が問題となり,副作用としては敗血症が重要で,この防止にはG-CSFが有用な事を報告した。

2)尿中細菌の抗菌剤耐性機序の研究:各種抗菌化学療法に抵抗を示す緑膿菌バイオフィルムは,慢性複雑性尿路感染症の主因の1つである。この耐性機序に,バイオフィルム中細菌の増殖速度の低下や抗菌剤のバイオフィルム透過度の特性が重要な要素であり,それらの抗菌効果は薬剤の種類によって異なることを明らかにした。

3)下部尿路機能障害の診断・治療:小児昼間遺尿症の機能的異常の病態の検討,神経因性膀胱に伴う低容量膀胱に対する新しい膀胱拡大術の評価,および膀胱尿管逆流症に対する内視鏡下逆流防止術の効果と安全性を明らかにした。

<膀胱癌に関する基礎的研究>
*尿路癌患者におけるカテプシンB様物質の検討(上田光孝)
  1)尿路癌患者尿中にカテプシンB様酵素活性あり。
  2)免疫組織学的に腫瘍細胞で産生。
  3)高度の染色性は予後不良。
  4)カテプシンB様物質の分子量;
     非癌組織の28,000、高浸潤度癌は35,000。
*尿路上皮癌における化学療法前後の細胞動態とP53遺伝子の発現(嘉手納一志)
  1)腫瘍細胞の増殖は化学療法奏功例で低下する。
  2)p53の過剰発現と予後、化学療法奏功度に関連なし。
  3)MDR geneの変化
*膀胱腫瘍における細胞増殖動態とレクチン結合性に関する研究. ラット膀胱発癌過程における検討(植木哲裕)
 
*尿路癌の浸潤・転移におけるTIMPの意義(矢野 明)

<前立腺に関する基礎的検討>
*SV40形質変換ラット前立腺上皮細胞系の樹立と増殖機構 (田丁貴俊)
  ラット前立腺上皮および間質細胞を形質転換させ、新しい細胞系を樹立。
  この細胞の増殖機構を検討し、TGF-aーおよびTGF-bの産生を確認。
*ヒト前立腺肥大症における線維芽細胞増殖因子とその受容体。(松原昭郎)
  ヒト前立腺肥大症の上皮細胞と間質細胞の初代培養法を確立。
  上皮細胞は間質細胞培養液・抽出液によって増殖促進。
  上皮細胞にはKGF受容体が存在、間質細胞にはなく、KGFが産生される。
  間質によって上皮細胞の増殖が調節される(上皮ー間質相互作用)。
*前立腺癌の浸潤・転移におけるuPA と PAI-1(田辺徹行)
  浸潤・転移へのuPAとPAI-1の関与。N-Retinamideによる前立腺癌細胞株に対するuPAとPAI-1産生阻害作用の有無。uPA と PAI-1産生増加を来すが、両者の総活性値は10-6M濃度で有意な阻害。
*ヒト前立腺癌細胞におけるFGF受容体の変異(高橋宏明)
  前立腺癌のホルモン非依存性増殖機構におけるFGF受容体の構造変化。
  FGFR-2には構造上3つのvariant(III a, b, c)があり、IIIbは前立腺肥大症、ホルモン依存性前立腺癌に、IIIcはホルモン非依存性前立腺癌。
*前立腺癌の浸潤・転移おけるマトリライシンの意義(橋本邦宏)

*ヒト前立腺癌細胞におけるインスリン様成長因子(IGFs), レセプター(IGF receptors) およびその結合蛋白の発現. (三田耕司)

<腎細胞癌の臨床的研究>
1) 腎細胞癌の特性:疫学、免疫能、予後因子、血液学的指標
2)外科的治療:根治術後の再発予防、V2腎癌、転移巣の外科的切除
3)進行期腎細胞癌に対する免疫療法
*Gene therapy for murine renal cell carcinoma using genetically engineered tumor cells to secrete interleukin-12.(笠岡良信)

*Anti-tumor effect of murine renal cell carcinoma cells genetically modified to express B7-1 combined with cytokine secreting fibroblasts.
(王 堅)

<尿路感染症に関する研究>

*緑膿菌、セラチア菌、変形菌の付着と薬剤耐性に関する研究(藤原政治)

*抗菌剤感受性と緑膿菌バイオフィルムの増殖率に関する研究(田中学)

<下部尿路機能障害の診断・治療>

*膀胱尿管逆流症に対する内視鏡下逆流防止術の効果と安全性(井上勝巳)

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