■第12回例会報告
目 次
1 概要
2 質疑(第10章)
3 例会報告資料
■概要
●2003年12月20日(土)午前10時〜午後5時
●場所:早稲田大学西早稲田キャンパス14号館8階会議室(804室)
●検討文献:Symbolic Species:The Co-evolution of Language and the Brain Terrence W.Deacon(邦訳:『ヒトはいかにして人となったか;言語と脳の共進化』金子隆芳訳 新曜社 1999)
文献について:この文献は、人がシンボルを獲得し、霊長類をはじめとする他の種と異なる独自の文化を構築したことに対して、人類の進化史と最新の脳・神経科学、心理学の成果を縦横に用いた理論(言語と脳の共進化説)を展開しています。著者テレンス・ディーコンは、ボストン大学医学部で教鞭をとる碩学で、神経生物学、進化人類学では世界的な研究者として知られているとのことです。担当幹事(小島)は、2001年のピアジェ学会(バークレー)でディーコンの招待講演を興味深く聴いたものの、未だその重要性について十分認識していませんでした。2003年、日本心理学会第67回大会(東大)における公開シンポジウム「心の進化学と考古学」(長谷川一寿氏企画)で、二人の話題提供者(内田亮子氏、松本直子氏)がともに高く評価したのがディーコンの当該著書でした。と同時に、発達心理学者にとって進化と文化の関係に関する基本文献とされてきたMerlin DonaldのOrigins of the Modern Mind-Three stages in the evolution ofculture andcognition に対する批判的評価もなされました。Donald説は、今夏、国際ワークショップで講師を務めたキャサリン・ネルソンや、来年3月に来日する予定のマイケル・コールら、発達心理学者が依拠する基本理論と考えられます。したがって、ディーコンの文献を読むにあたり、ドナルド説との相違に注目して検討する必要があります。
●例会当日の時間割および報告者 司会:小島康次(担当幹事)
10:00−11:10 第9章
シンボル・マインド 報告者:坂田陽子(愛知淑徳大学)
11:10
−11:20 小休憩11:20
−12:30 第10章報告者:藤原善美(教育学研究科教育基礎学専攻博士後期課程)
12:30
−13:20 昼休み13:20
−14:30 第11章報告者:山村卓(教育学研究科教育基礎学専攻博士後期課程)
14:30
−14:40 小休憩14:40
−15:50 第12章報告者 李和貞(教育学研究科教育基礎学専攻博士後期課程)
15:50
−16:00 小休憩16:00
−17:00 ショートレクチャーおよび全体討論前半
30分は、川畑先生によるショートレクチャーテーマは、「認知発達研究における文化と進化の問題
共進化の観点から」 ●コメンテイター川畑秀明先生のプロフィール■質疑(第10章)
<言語野は実は別の適応のために進化した組織が,新しく言語機能のために動員された皮質領域である>という主張について
中垣:この主張の根拠はあるのか。言語野に相当するものがエイプにないといけないわけだが。
川畑:ミラーニューロンの問題と関連があります。ミラーニューロンF5はブローカー野に相当するとか。人間の脳とエイプの脳のあいだに,写像とまではいえないものですが,何らかの関係性があるとはいえます。
小島:エリザベス・ベイツの講演の中でキリンの首のアナロジーを使っていました。キリンの首は高いところにあるものを食べるために進化したのではなく,たまたま長い首を持っていたのを利用して,高いところにあるものを食べるようになったということです。
<図10.2の鏡映対象について>
中垣:あまり聞かない話だが? 前頭葉は後頭葉や側頭葉を反映しているのか?
川畑:脳を刺激したときの反応というレベルではそういうことですね。
中垣:それは,前頭葉が他の部位とつながっているから,にすぎないのでは?
小島:そうなら,損傷の場合も同じになるはずですね。脳損傷の場合,このような現象は見られないわけでしょう。
筑摩:そもそも,電気信号って何なのでしょうね。損傷状態を作り出しているわけではありませんよね。
川畑:TMSというものがあり,脳の機能を部分的に抑えるということができる。
中垣:それで,鏡映対象というのは一般的に言われていることなのですか?
川畑:いいえ,一般的ではありません。
<言語野の局在について>
中垣:大脳の左半球と右半球というのは左右対称なのか?右にも左の言語野に相当する組織があるのか?
川畑:解剖学的には右脳も左脳も同じ。左側を言語に使ったということに過ぎない。バイリンガルの場合では左側と右側にそれぞれの言語中枢を作る人もいる。必ずそのようになるということではなく,人によって異なる。
中垣:モノリンガルの場合,左の言語野に相当する部分の右脳は何をしているのでしょう?
川畑:ブローカー野もウェルニッケ野も言語のためにあるのではなく,もともとあったものを言語のために使うようになったに過ぎない。それらに相当する右脳の部分を言語のために使う必要がないなら,脳というのは可塑性の高いものですから,空間認知に使われたりすることもあるわけです。
加藤:モノリンガルでも完全に片方のみで言語を司るわけではない。Taking sideというのは意味深長な言い方で,左も右も同じ脳だがどちらかに決めないといけない,そしてどちらかに言語中枢ができるということでしょう。言語を使うようになることで,脳がそれに合わせて左で言語を多めに担う。
小島:脳のどこかが言語を担うわけなので,個体発生の中では個人差(言語中枢が右になるなど)がある。けれどどこかが担うということは決まっている。このことを作り上げるメカニズムが必要なわけだが,これだけの自由度のあるメカニズムって???
川畑:自由度が高いといっても,普通ならこう,という程度のことは決まっているわけです。何か事情があれば柔軟に対応できるということでしょう。
(文責:西垣)
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