イラク戦争私はこう見る 吉村慎太郎・広島大助教授 (http'//www.chugoku-np.co.jp/Iraq/Ki03032301.html)
'03/3/23

 中東地域研究が専門で、在イラン日本大使館専門調査員も務めた広島大総合科学部の吉村慎太郎助教授は「戦争は短期で終わるが、米国は長期間にわたりテロに苦しめられるだろう」とみる。イラク戦争が中東に与える影響などを聞いた。(吉原圭介)

 ■中東に反米感情高まる/安全保障構築、国連を中心に

 ▽米、石油確保を優先

 ―米国は国連決議を経ないまま武力行使に踏み切りました。イラクに固執する理由は。

 フセイン政権はクウェートなどの小国にとっては脅威かもしれないが、イランやトルコ、エジプトなどにとってはそれほどでもない。しかも湾岸戦争後、経済制裁で国力が落ちた。あえて介入するのは、将来的な石油の安定供給に、この政権が邪魔だから。その意味で明らかに動機先行の戦争と言える。

 中東で現状を変革しようとする思想は二つある。一つは「イスラム原理主義」で、もう一つがフセイン大統領のバース党が掲げるアラブ民族主義だ。米国が覇権を維持するには、この二つを抑えることが必要になる。攻撃対象を、フセイン大統領と家族に絞っていることを見ると、戦後に党内穏健派を次期政権に参加させても構わないと考えているのだろう。

 ―中東への影響は。

 戦争が終われば、一時的に解放を喜ぶ民衆は多い。そして中東諸国は親米路線や米国への従属姿勢を打ち出すだろう。

 戦争は数週間から一カ月程度で終わるかもしれない。ただ政府の意向と裏腹に、民衆の反米感情は強まる。露骨な米国の覇権に向けた攻撃と、サウジアラビアなどの親米政権であれば、非民主的国家でもいいのかというダブルスタンダード(二重基準)を目の当たりにしたからだ。米国が長期的にテロに悩まされる可能性は逆に強まるだろう。

 ▽標的になりうる日本

 ―国際テロ組織アルカイダと、フセイン大統領が共闘する可能性は。

 基本的に両者は思想的に違うが、「反米」を旗印に、助け合うことは考えられる。9・11(米中枢同時テロ)のような惨事の再発の可能性も否定できない。今回の攻撃でイスラム、アラブ世界で「反米」に共感する人が増え、より過激な行動を生みやすい状況が強まったと言える。米国への追従を表明した日本もその標的になりうる。

 ―日本が果たすべき今後の役割は。

 今の戦争を見て、どちらが脅威か分からない。イラクの側からは、ある意味弱い者いじめ的な米国の方がよほど脅威だ。これに対抗するために軍備拡張をするなど、悪循環もある。それを断ち切るには米国の単独行動主義を抑えるため、国連の存在価値をいま一度高めることが必要だ。一方でイラクの大量破壊兵器の査察も継続すべきだ。

 戦後には、中東地域の安全保障を国連中心で構想し、米国とフランス、ロシアとのギクシャクした関係を調整する仕事が重要となる。日本にその役割が期待される。また中東の不安定要因に、パレスチナ問題がある。この早期解決も国連中心で行うようにすべきだ。

 よしむら・しんたろう 55年神奈川県生まれ。東京大大学院社会学研究科博士課程後期単位取得退学。在イラン日本大使館専門調査員を経て88年広島大総合科学部講師。92年から現職。専門は中東地域研究。

【写真説明】「米国がイラクに介入するのは、将来的な石油の安定供給にフセイン政権が邪魔だから」と話す吉村助教授

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