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自己回帰モデル

自己回帰モデル(Autoregressive model)は、時系列信号の解析によく用いられ る回帰分析手法であり、音声認識や制御等の信号処理のための基本的な道具の 一つである。画像処理やコンピュータビジョンでもテクスチャの特徴抽出、動 画像の処理、輪郭点列の処理などのようにデータに何らかの順序関係がある場 合の信号処理手法として利用できる。

今、 $\{x(t)\vert t=0,\ldots,N-1\}$ を時系列データとすると、$m$ 次の前向き 自己回帰モデルは、$m$ 個前までのデータから現在の信号 $x(l)$ を線形予測 するモデルであり、

\begin{displaymath}
x(l)=\sum_{i=1}^{m}a^m(i) x(l-i) + \epsilon_f^m(l)
\end{displaymath} (22)

のように定義される。ここで、 $\{a^m(i)\}_{i=1}^{m}$ および $\epsilon_f^m(l)$ は、それぞれ、前向き自己回帰係数および前向き予測誤差 である。同様に、$m$ 次の後向き自己回帰モデルは、
\begin{displaymath}
x(l-m-1)=\sum_{i=1}^{m}b^m(i) x(l-i)+\epsilon_b^m(l)
\end{displaymath} (23)

のように定義される。ここで、 $\{b^m(i)\}_{i=1}^{m}$ および $\epsilon_b^m(l)$ は、それぞれ、後向き自己回帰係数および後向き予測誤差 である。

前向き自己回帰係数 $\{a^m(i)\}_{i=1}^{m}$ は、実際の信号 $x(l)$ と自己回帰モ デルによる推定値 $z(l) = \sum_{i=1}^{m}a^m(i) x(l-i)$ との平均2乗誤差

\begin{displaymath}
\varepsilon^2 = \frac{1}{N} \sum_{l=m}^{N-1} (x(l) - z(l))^2
\end{displaymath} (24)

が最小となるように求められる。具体的には、前向き自己回帰係数を要素とす るベクトルを $\mbox{\boldmath$a$} = (a_{1}, \ldots, a_{m})^T$ とすると、最適な係数 は、
\begin{displaymath}
\mbox{\boldmath$a$}=R^{-1} \mbox{\boldmath$r$}
\end{displaymath} (25)

となる。ただし、$R$ および $\mbox{\boldmath$r$}$ は、それぞれ、自己相関関数を要素と する行列およびベクトルであり、
$\displaystyle R$ $\textstyle =$ $\displaystyle \left[
\begin{array}{rrrr}
r(0), & r(1), & \ldots, & r(m-1) \\
r...
...m-3) \\
& & \ldots & \\
r(m-1), & r(m-2), & \ldots, & r(0)
\end{array}\right]$  
$\displaystyle \mbox{\boldmath$r$}$ $\textstyle =$ $\displaystyle (r(1), r(2), \ldots, r(m))^T$ (26)

のように定義される。後向き自己回帰係数 $\{b^m(i)\}_{i=1}^{m}$ について も同様である。

PARCOR(偏自己相関)係数は音響特性と密接な関係があり、声道断面積関数の予 測を与えるなどの優れた利点があることが知られており、音声信号処理で良く 利用されている。$m$ 次のPARCOR係数 $P^m$ は、$m-1$ 次の前向き予測誤差 $\epsilon_f^{m-1}(i)$$m-1$ 次の後向き予測誤差 $\epsilon_b^{m-1}(i)$ の相関係数として定義される。つまり、

\begin{displaymath}
P^m = \frac{\sum_{i=m}^{t-1}\epsilon_f^{m-1}(i)\epsilon_b^{...
...{t-1} \{ \epsilon_f^{m-1}(i)\}^2 \{ \epsilon_b^{m-1}(i)\}^2}}.
\end{displaymath} (27)

である。したがって、PARCOR係数は線形予測係数と違ってモデルの次数には依 存しない量となる。

PARCOR係数は、自己回帰係数と密接な関係があり、$m$ 次のPARCOR係数は、実 は、$m$ 次の自己回帰モデルを当てはめたときの $m$ 次の自己回帰係数 $a^m(m)$ あるいは $b^m(m)$ に一致する。

自己回帰係数やPARCOR係数は、$R$ の逆行列を計算することにより求めること ができるが、$1$ 次のモデルからはじめて次数を次第に大きくする再帰的な アルゴリズム(Levinson-Durbinのアルゴリズム)[14]を用いること により高速に計算することができる。このアルゴリズムでは、$1$ 次から $m$ 次までのすべての自己回帰係数とPARCOR係数を $O(m^2)$ の計算量で求めるこ とができる。



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平成14年7月19日