件名 模造品・偽物に対する注意喚起

おっす!おら、悟空!

嘘である。私は悟空ではない。今回はなぜ私が嘘をついたのか、事の顛末を白状しよう。

うちの娘はドラゴンボールが好きで、土曜の夜には私の寝室に来て、
「明日の朝は8時55分に起こしてほしい」
と、目覚まし時計(=私のこと)をセットする。8時55分とはつまり、ドラゴンボールの開始5分前だ。ドラゴンボールは見逃せられない、しかし、日曜くらいは寝坊したい。このせめぎあいのギリギリの線が8時55分なのである。で、目覚まし時計(=私)は、この時間には起きて、家でグダグダしておる。

で、まぁ、お望みどおりに起こしてやるのだが、この前なんかマラソン中継のためドラゴンボールが中止になっていたことがあり、それを目の当たりにした娘は、「また一週間ドラゴンボールを待たなければならないのか!」と泣き崩れ、それを見るにつけ私は、「こんなに夢中になれることがあって、うらやましいな」と思い至るのであった。

こんな娘であるが、私の色眼鏡を通してみると、毎日結構頑張っているように見えるのである。まぁ、朝起きて、学校に行って、学校から帰ってきて、勉強して、寝る、の繰り返しなのであるが、それだけでも、親からすると「がんばってはりますなぁ」に見えてしまうのである。

で、常々そんな娘に何らかのご褒美を与えたいと思っておった。ご褒美をもらえたのならば、娘もきっとお喜びになるに違いない。しかし、ものを買い与えるといった類の経済力は、残念ながら私には備わっていない。そこで、お金がかからないご褒美の内容について思いを巡らしていたのだが、つい先ほど思いついたご褒美が、「父親が突然、悟空になる」というものだった。

もちろん、私はスーパーサイヤ人どころか、普通のサイヤ人ではないし、かめはめ波すら撃てない…まぁ、かめはめ波が撃てただけでも大変なことではあるが…しかし、努力次第では悟空っぽく話せるようにはなれるかもしれない。もし、父親が悟空っぽく話せたら、娘のテンションもうなぎ上り、滝だって登り切るに違いない。

で、「いつやるの?」のタイミングであるが、実は私は今、海外出張の身。もし、もしである。帰国した父親が実は父親ではなく、悟空だったら…娘は興奮して死んでしまうに違いない。出張期間中にマスターするしかないのである!

で、これを受けての先ほどの「おっす!おら、悟空!」の詐称なのである。いや、正確には詐称ではない、悟空になるための修行なのである。さて、ここで問題なのが悟空たる私に次に何を言わせるかである。熟考、長考の末、持ち時間いっぱいで思いついたのが、

「おっす!おら、悟空!○○ちゃん(娘の名前)のやつ、ちょっとみねぇ間に、すげぇ気が上がってるなぁ。おらぁ、ぶったまげちまったぞ。フリーザよりでっけぇ気じゃねぇのか!?次回、ドラゴンボール○○(娘の名前)!○○(娘の名前)数学で赤点を取る!?ぜってぇ見てくれよな!」
だ。

実際、出張中だってメールでつながっているのだから国内対応の仕事も来るし、もちろん海外にいるのだからここでしかできない仕事、つまり調査、会議、プレゼン、講義、加えてそれらの準備も残されている。準備の方は準備を全くせずに出張に飛び出した賜だ!これらの合間を縫って悟空になるための修行をするのはかなり大変なのであるが、なり切ってやる!!悟空の偽物に!

…こんなに気合が入っていたのに、もうすでに帰国日。もちろん、悟空には寄せきれていない。いわば、全くの別物だ。最初の自己紹介がなければ、「はて?」となることが間違いないレベルに仕上がっている。とは言え、もう修行をする時間は残されていない。一年後に来るって言っていたサイヤ人が思ったより早く地球に到着してしまった感じである。

仕方がないので帰宅に合わせて腹をくくり、
「おっす!おら、悟空…」を玄関で娘に披露したのであるが、マレーシアでありえないほどに刈り上げられた髪形をじっと見つめながら、彼女は一言、
「出張中に、何があったん?」
とだけ、ぼそりといいよった。

アディオス

2018年03月19日