件名 秋の読書週間について(4)

『サピエンス全史』という本がある。サピエンスとはこれ、ホモ サピエンス。すなわち我々ヒトの学名を指しており、つまりこの本には我々ヒトが地球に誕生してから今日までの歴史がつづられているのである。内容はセンセーショナルであり、かつ、説得力に満ちているのでお勧めだ。とはいえ、ベストセラーの本なのだから、私になんか言われなくとも、とっくに読んだ人も多いだろう。

著者ハラリによれば、ホモ サピエンスが登場したのは20万年前。東アフリカでのことだ。我々の歴史で、文字をつづるようになったのは高々数千年前のことなのだから、我々の歴史の9割以上の期間は文字としての記録が残されていない。

文字として残された記録が無いのだから、文字の無い時代の考証は困難を極めるのであるが、ハラリはこの時期の出来事を適当に議論しているわけではない。人体に残された遺伝的/身体的な証拠や考古学的な資料、地球科学的な知見を整理し、科学的な蓋然性の高い物語をつづっている。このアプローチが私に、「この物語は史実を忠実に語っているのではないか」と思わせてくれるのである。

で、本の内容もさることながら、この本を開くといつも驚かされることがある。印字された紙の白さだ。いや、本が白い紙に印字されるのは当たり前のことだから、私の感想に戸惑うものもいることだろう。

「本に使われる紙は白い」

それ自体には激しく同意する。週刊少年ジャンプみたいに、緑やら赤やらのざらついた紙に印刷された本なんか、ほとんど無いもんね。だけど、皆さんの書架にある本を適当に開いてみてほしい。真っ白と言うより、少し黄みがかった紙に印字されていることに気がついてもらえるだろう。これらの紙に比べて、『サピエンス全史』の紙の白さは尋常でなく、他書では見たことが無いレベルだ。

『サピエンス全史』は、これ以上ないくらいの真っ白な紙に印字されている。目が痛いほどの真っ白の紙に印字された『サピエンス全史』のページを開くたびに、「ああ、『サピエンス全史』だな」という感想が打ち寄せる。

「適当に紙を発注したら、あらびっくり、真っ白な紙が届いちゃいました。まぁ、いまさら紙のキャンセルもできないから、これに印刷しておこう」と言うわけではないだろう。『サピエンス全史』のクリエイターが狙ってやった白さにちがいない。文字とのコントラストを重視したのだろうか?電気を消した寝室でも読める配慮だろうか(これについてはためしに電気を消して読んでみましたが、当然読めませんでした)?

こういったよく分からんこだわりをもったクリエイターが関わっているのならば、と、本のカバーをむくと、中から真っ黒な本表紙が現れる。真っ黒な本表紙と真っ白な中身……どこにどうこだわっているのか、常人の私には全く分からないのだが、重厚な感じがするし、とにかく作り手、クリエイターのこだわりが感じられる一冊なのである。

もし、もしである。私が将来、ハードカバーの本の出版がかなうのならば、こういうこだわった本を作りたいな。

アディオス

2019年09月30日