件名 学生実習について

9月のことだっけ、学生実習で大山に登ったのは。
そうだ。ミャンマーから帰国した次の日に、大山に向かったはず。

大山登山の日の天候は快晴。「こんなにいい天気に登れるなんて、それだけで幸せ」的な日だった。

登山は快調。途中、なかなか現れない8合目にイライラしながらも、お昼前に頂上到着。頂上でお弁当タイムとなった。

老眼の私は手元が全く見えない。で、何食べているのかわからない状態での食事はかなり気持ちが悪いので、ご飯を食べるときは必ず眼鏡をかける。だから、お弁当タイムで私は眼鏡をかけていたはずだ。

お弁当を食べた後、3時間くらいかけて下山。
下山後も、湧水を測定するなどのアクティビティが続いた。

そのアクティビティの時だった。資料に目を通す必要があった。当然、老眼の私は、眼鏡をしなければ資料を読めない。で、眼鏡をかけてみたのだが、眼鏡をかけても、うすぼんやりとしか焦点が合わないのである...... まじっ!?

私は激しくうろたえた。登山に目を悪くする効果があるなど知らされていなかったからである。

……本当のことを白状すると、もっと最悪なことを考えていた。登山中に、登山のアクティビティや気圧の変化などにより脳みそに障害が起こり、それが視力低下という症状を引き起こし、そして近い将来にもっと深刻な結末を引き起こすのではないかと……

「……やばい、死んじゃう」
なーんて思いながら資料が見えるようにならないか、いろいろと試みていたのだけれども、そのうちに新しい事実に気が付いた。なんと、左目の焦点はあっている。右目の焦点だけがぼんやりしているのだ!

「これは何かね?脳の半分だけやられちゃったのかね?」

などとさらにうろたえながら、眼鏡に手を当てると、驚愕の事実。右のレンズが……ない……

どうやら、登山中に、右のレンズを落としたらしい。

そんな話を夕食時にしていると、後ろのテーブルに座っていた藍羽田君(仮名)が

「アレ、先生のレンズだったんですね」

なんて告白し始める。藍羽田君が頂上で弁当を食べていた時に、彼の座った場所になぜかレンズが落ちていて、「レンズ落とすバカなんているんだなぁ」とひとしきり感心していたらしい。残念だが、私がそのバカだ!

「でかした、藍羽田!さぁ、そのレンズを今すぐ私にわたしたまえ!」

と藍羽田に言うと、彼は涼しい顔で、

「私は子供のころから、『落ちているものはいろいろなリスクがあるために、不用意に持って帰ってはいけいけない』、という類の教育を受けてきたので、当然レンズは頂上に置いてあります」

と告白してくれた。私は憤慨し、

「藍羽田!いまから懐中電灯持って大山登って取ってきやがれ。手ぶらで帰ってきて『できませんでした』じゃすまされないからな」と指示を与えようとしたけれども、思いとどまった。だって、藍羽田の言い分のほうが正しいから。藍羽田、その判断は人として正しいぞ!君はまっとうな教育を受けてきたんだ! 先生は、君の成長をうれしく感じるぞ!レンズ持ってるって期待しちゃったけど。

ということで、私の眼鏡の右のレンズはどうやら、大山の頂上で私の再登頂を待っているらしい。

アディオス

2019年12月09日