件名 生物多様性に関する調査について(2)

毎年5月22日は、国連が定めた「国際生物多様性の日」になっています。本ホームページでも国際生物多様性の日にちなみまして、5月中は生物多様性に関する記事を提供いたします。



毎年、この時期には卒業研究発表会が開催される。学生たちが、少なくとも一年かけて行ってきた研究の成果を公表する重要なイベントだ。つい先日(2月中旬)、今年度の卒業研究発表会が開催されたのだけれども、今年の卒論生たちもとても良い研究をしていた。

その中にオオサンショウウオを研究した者がいた。彼の研究発表を聞くたびに、幼き日のオオサンショウウオの思い出が蘇ってくる。当然、私の思い出は彼の研究内容とは全く関係ない。それでは本日は、私の「少年の日の思い出」を披露しよう。

愛知県における知多半島、その付け根にある我が故郷は、大都市では全然なかったけれども、代わりに手付かずの大自然が広がっているというわけでもなく、里山的な自然が広がっている田舎町だった。つまり、私の周りにはザリガニやらカブトムシやら半自然状態を好む生物はたくさんいたけれども、オオサンショウウオがいれるような類の自然は決して残されていなかったのである。…まぁ、たとえ大自然が残っていたとしても、もともとオオサンショウウオが知多半島いたかどうかは知らないけれども。

私は、結構子供のころから生物Loveだった。しかし、ザリガニやカブトムシ、ミヤマクワガタ、ノコギリクワガタなんかまでは野外で捕まえてきて愛でる対象だったのだけれども、オオサンショウウオレベルになると、それは全然身近な生き物ではなく、私にとってはライオンやエリマキトカゲと同じような、世界のどこかにいるはずの幻の珍獣という認識のされ方であった。

しかし、私はかなりの子供のころからオオサンショウウオのことを認知していた。というのも、親が買い与えてくれた学研の図鑑、『爬虫・両生類』にフィーチャーされていたからである。図鑑を買い与えてくれるということはどうやら、私の両親は結構な教育熱心だったようである。

学研の図鑑は何冊か持っていたんだけれども、その中でも『爬虫・両生類』は特にお気に入りで、そこには私にはウルトラマンに倒される怪獣にしか見えない動物たちがたくさん紹介されており、怪獣図鑑を見るような気持ちで夢中でページをめくったものだった。あるまじき図鑑の読み方であるが、まぁ、こらえてくれ。小学校低学年の頃なんだから。

小学校低学年で転出してしまった森実君の家に遊びに行った時だから、1年生の頃だっただろうか。その時の私は森実君と世界で一番大きな動物について協議を重ねていた。森実君は、「それはゾウじゃないだろうか?動物園で見たゾウは、それはそれはとても大きかった」と持論を唱えていた。自分の経験から帰納的に考察できる森実君は結構賢かった。それに対して私は、「そんなもん、オオサンショウウオに決まっとるがや」と名古屋弁全開で主張した。私は頑なで、持論を曲げることを拒んだ。というのも、私には強力な根拠があったからだ。学研の図鑑だ!

1973年に刷られた学研の図鑑、『爬虫・両生類』でのオオサンショウウオであるが、そこに描かれたイラストのオオサンショウウオの頭でっかちの姿は、子どもの頃の私のハートを鷲掴むには十分以上のフォルムを持つ、迫力満点の“怪獣”そのものであった。私はそのイラストを眺めるのが好きだった。そして、「いったいどこが目なのだろうか?」といぼだらけの頭部を注視するのが常だった。そして、そのイラストともに記載されていた数行の文章には「・・・世界最大の両生類。・・・」とはっきり、しっかりと書かれていたのである!

小学生低学年であっても、「世界最大の」という意味は読み取れた。これは、要するに世界で一番大きいという意味だ。問題は“両生類”の方であるが、その意味はその頃の私にはさっぱり不明であった。そこで小学校一年生の私は工夫を凝らし、「両生類は単純に動物と読み替えればよい」というミラクルな解法で、この難局を乗り越えることに成功していたのであった!!……完全な読み間違えだ!その頃の私は“両生類”が網の分類階級の一分類群であることなど、夢にも思わなかったのである。さて、この読み間違いをもって私の中では、「世界最大の動物はオオサンショウウオ」ということにあい成ったわけである。こうして、根拠は捏造されたのだ。

さらに性質が悪いのは、この根拠のソースが学研の図鑑であったことである。私の中では学研の図鑑は、嘘をつくことなど万が一にもあるわけがないほど確実性の高いものだったので、私の「世界最大の動物はオオサンショウウオ」に関する自信は確固たるものだった。……勝手に読み間違えられて誤解されるのだから、図鑑もたまったものではないだろう。

小学校1年生の私だって、世の中にゾウという体が大きい生き物がいることは知っていた。しかし、ゾウをも凌駕するほどの大きい体を持つオオサンショウウオが、日本のどこかにいると本気で思い込んでいたのである。だって、学研の図鑑に書いてあるんだもん。つまり、つまりである。私の中では、あのイラストのいぼいぼのフォルムのオオサンショウウオは、原寸ではゾウ以上の体格を持っているというわけである。

結局、森実君との間の「ゾウかオオサンショウウオか問題」は平行線をたどるしかなかった。二人は一向に合意に達さない協議に苛立ち、第三者の意見、つまり森実君のお母さんにどちらが正しいか聞いてみようということになった。森実君のお母さんは我々の問いに対して、「それはクジラよ!」とはきはきとした口調で第三案を提案し、私と森実君はさらに途方に暮れてしまった記憶がある。今思えば、誰も傷つけることのない森実君のお母さん対応は、賢かった。

卒論生のオオサンショウウオの研究を聞くたびに、「世界最大の生物、それがオオサンショウウオ。ゾウよりでかいオオサンショウウオ」という幼き日の思い出が懐かしく蘇る。そして、「ゾウよりもでかいってどんだけなんじゃ」と、自分の愚かさに笑いが込み上げてきてしまうのである。

卒論発表会で、ニヤついていたのは、奇しくもこの思い出がよみがえっていたためであり、発表者を挑発していたわけでは決して無いので、この点はぜひご理解の上、容赦してほしい。この通りである。「まことにすみまめーん」

アディオス!

2018年05月10日