件名 不要になった備品をお譲りします

コロナのせいだろうか?

近所の飲食店が店をたたむらしい。

この飲食店は、前から少し気になっていたものの、一度も利用したことはない。

で、その店の前を通ると、

「早い者勝ちです。もって行ってください」

という指示書とともに、店で使っていたであろう備品の数々、皿茶わんやコップ、ごみ箱の類やその他もろもろが無造作に置かれていた。

「こういうところに、名品・珍品が混じっていることは大いに考えられる!」

普段から週末に、「開運なんでも鑑定団」を見て、真贋を見極める力を磨いていた私のアンチークハンターとしての本能が騒いだ(広島では、この番組は週末の昼下がりに放送されています)。

で、こうして名品・珍品の候補者の前に座り、一つ一つ見て回っているんだけど、プラッチックのコップだの、店で使っていただろう古く傷んだ食器がほとんどで、名品・珍品の片鱗など、みじんも感じられないものばかりだった。

で、リサーチを進めていると、あっちの方から、ご機嫌で千鳥足の酔っ払いが私のほうに向かってくるのが見えた。

……今日は平日。今は午前中。

平日の午前中から酔っぱらっている輩だ。あまりかかわらないほうがいい感じの人かもしれないのだが……(そういう私も、平日の午前中にお宝ハンティングなんだけど)

と思ったのもつかの間、予想した通り、その酔っぱらいは私の方へ向かってきた。で、私のすぐ横に座り、

「お兄ちゃん、何しよんの?」

と、話しかけてきよった。「お兄ちゃんじゃなくて、おじさんなんだけどな」と思ったけれども、そういうところを訂正していると、予期せぬとばっちりを食う可能性があるので、危機管理上、「お兄ちゃん」を受け入れて話を進めることにした。

「ここにあるもの、なんでももっていっていいらしいので、なんかいいものがないかと物色しているところです」

と、これ以上ないくらいの明快な回答をしてやった。これならば、酔っぱらいのおっちゃんにもわかることだろう。

すると酔っぱらいのおっちゃんは、

「んん? んんんんん?」

と言ったかと思うと、

「にいちゃん、いいの見つけて持って帰いりんさいや」

と私を応援してくれた。で、その酔っぱらいのおっちゃんは、そのまま座り続け、持って行っていいもの達をしばらく眺めると、もう一度、

「んん? んんんんん?」

といったかと思うと(何か、名品か珍品を見つけたのか!?)、

「にいちゃん、こりゃ、全部ごみじゃ。こんなもん、わしでもいらん!!」

と言い残し、千鳥足で去っていった。彼の「わしでもいらん!!」は、すごく説得力があった。

その発言を聞いて、我に返った。

「そうだよね。ここにあるのはプラッチックのコップばかりで、名品・珍品はないよね。」

と思い、手ぶらでうちに帰ることにした。

ありがとう。酔っぱらいのおっちゃん!おかげで目が覚めたよ!

アディオス

2020年10月02日