件名 生物多様性に関する調査について(4)

上の娘が小学生に入りたての頃だったはずだ。もう何年前のことになるのやら、時間の流れの速さにはいつも驚かされる。

その年の夏、私は子供を引き連れて、とある場所に遊びに行っていたのではあるが、そこにはちょっとした小川が流れる場所があり、そこで水遊びをすることにした。

小川には、結構大きめの岩やらの礫が転がっていた。水は冷たかった。きっと近くに伏流水が流れ込むところがあるのだろう。

川底をよく見ると、4本足の3cm位の黒いのが、ゆらゆらしているのが見えた。きっと幼生のサンショウウオだ。何サンショウウオか同定するだけの能力は持っていないのではあるが。

そこで娘に、
「川底をよく見てごらん、サンショウウオがいるよ。まだ赤ちゃんだよ」
と教えてやると、一生懸命川底を眺め、やがて彼女の目はサンショウウオを補足したのだろう。にやーっと笑って。
「ほんとだ。ちっちゃいのがいる。つかまえていい?」
と聞いてきた。
「危険な生き物じゃないけど、触ったら死んじゃうくらい弱い生き物なんだよ。あなたが優しく捕まえているつもりでも、サンショウウオにとってはとっても苦しいんだよ。死んじゃうかもしれないよ」
と教えてやると、娘はそれを理解してくれた。そして、川底のサンショウウオを一心に眺めていた。「もう帰ろう」と言っても、「うん」と言うだけで立ち去ろうとしない位一心に眺めていた。

帰りの車の中で、
「あれ、なんていう生き物だったっけ?」
と娘が聞くので、
「サンショウウオ」
と教えてやった。娘はそれを聞くと
「サンショウウオ?」
と確認してきた。
「そうだよ、サンショウウオ」
すると再び、
「サンショウウオ?」
という同じ質問。
大丈夫か?と思いながら、
「うん、サンショウウオだよ」
というような会話を延々と続けた記憶がある。

娘の夏休みの宿題には、夏休みの思い出を綴った絵日記があった。
娘の書いた絵日記を見せてもらうと、そこにはサンショウウオを眺める親子の姿が描かれていた。

「ああ、絵日記にするくらい特別な思い出になったんだ」と思いながら文章に目をやると、そこには、

「川でサンショウゴを見つけました…」
と書かれていた。なるほど、"ウオ”のところがよく聞こえなかったんだね。

その時以来、ちょいちょいのタイミングで私は、サンショウウオのことを“サンショウゴ”と言っている。たぶん、気が付いた人はいないと思うが……

アディオス

2018年05月30日