ある日の調査の帰り、いつものように“ぶなのしずく”を汲んでいた時のことであります。
ふと顔を上げると、川の上流のほうが二股に分かれているではないでしょうか。そして、水が流れていないほうの水路に目をやると、なんということでしょう。そちらの方向に、人工的に石で組んだ、そう、祠のようなものが見えるのではないでしょうか(実際、山の中で突然、祠に出会うことは、まぁまぁある)。
私は、連れてきた二人の部下に、あの祠的なものが見えるか? つまり、あの祠的なものが私だけに見えている幻像でないかを確認しました。
するとどうでしょう。
部下1が
「先生、私にもはっきり見えます。あれは、古墳です!」
とはっきりと、しっかりと、自信に満ちた声で、それが見えるだけでなく、それがなんであるかということさえ答えてくれるではないでしょうか。
……あれは祠ではなく、古墳なのか……
確かに、古墳と言われれば古墳のような、例えば、古代アステカ文明のピラミッドのようにも見えないこともありません。
そうすると、私が祠と思った正方形の空洞は、ご遺体を出し入れするための構造物となるでしょう。
私は、ブナ林のふもとに古代アステカ文明が繁栄していた事実に感動し、打ち震えながら、
「ちょっと、近くに行って確認してくる」
と告げました。続けて、
「あれが古墳なら、アレだね。古今東西の伝統の様に、近づいたものが古の魔力によって呪い殺されるっていうふうに決まってるよね。俺たち、呪い殺されちゃったりしてね」
とうそぶきながら、当然後ろから二人の部下がついてきていることを期待し、探検を進めました。
すぐに古墳に到着しました。間近に見る古墳は、まさに人工物。興奮を超える出来栄えであり、私は振り返りながら、
「やはり……」
と言ったところ異変に気が付きました。
……部下二人がついてきていない!
私は、部下のいるところまで急いで降りて行って、
「くおぁら! おまえらぁ! よくも俺様ちゃん一人で、古墳探検に差し向けてくれたなぁ! お前らが着いてこなかった理由はだいたい察しがつくんだが、改めて言葉で言い表させていただくならば、古墳の魔力によりもだえ苦しみながら呪い死ぬのは俺様一人で十分であり、それに巻き込まれるのは真っぴら御免。貴様らは私のもだえ死ぬ姿を高みの見物。それを肴に将来、「ムー」に東広島市の古代文明に関する寄稿を企てようって魂胆だろうが、そうはいかないよ! 俺が呪い死んだ暁には、お前たち二人を、今度は俺様の呪いでもだえ殺してやるからなぁ!」
と心の丈を吐き出したところ、部下1が
「で、何でしたか? 古墳でしたか?」
と涼しげに、何もなかったように聞くもんだから、
「いや、どうやら古墳とか祠とかの類じゃなくて、今はもう森に返っているあの場所にはかつて道が走っていたようで、その道が川を横切るために石で組んだ橋の遺構だよ。石橋。四角い祠?古墳?に見えたところは、川の水が滞りなく流れるようにする工夫だよ」
と、さっき観察したもの自分なりに解釈した答えをお伝えした。
かつて、こんな山奥に人が住んでおって、石橋を建築していたとはねえ……
アディオス