件名 野外調査心得 水俣(9)

えらく羽音が騒がしいなぁ

と思いながら見上げると、スズメバチが飛び回っている。

雨は降っているものの、気温は低くないので、変温動物の彼らには過ごしやすい日なのかもしれない。

キイロスズメバチっぽいので、どこかの枝に巣でもあるのかなと探すが見当たらない。そうこうするうちに襲われたらたまらないので、その場を離れることにした。

少し歩くとスズメバチが数匹、地面をはいつくばっているのが見えた。しかもこの辺り、羽音も一層大きい。上空にもたくさんのスズメバチが飛んでいるらしい。

地面をはいつくばっているのを見ると、大きなスズメバチ一匹と小さなスズメバチ数匹が群がっていた。

「オオスズメバチとキイロスズメバチの喧嘩かな?なら、オオスズメバチの楽勝じゃん。 キイロスズメバチが数匹束になってもオオスズメバチには勝てないでしょ」

と様子をうかがっていると、どうも変。

小さいほうが優勢で、大きいほうが息絶え絶え。しかも、すでに上手に飛べなくなっている。

「キイロスズメバチのほうが勝つことあるんだな」

と思ったところで、別の考えが浮かんできた。

「オオスズメバチと思ってたのは、キイロスズメバチの女王で、小さいスズメバチがオスのキイロスズメバチ。で、交尾中」

スズメバチの生態なんて知らないし、キイロスズメバチの女王がこんなに大きくてオオスズメバチサイズなことも知らないし、いつの時期に交尾するのかも知らないし、そもそも巣の外で交尾するかどうかも全く知らないけど、そういう考えもアリだなと思った。

で、観察して確かめることにしたけれども、どうやら仮説を支持するように、彼らの行動は交尾のような気がする。お尻をひっつけあっているし。

とは言え、喧嘩の時は、大あごとともに針も使うだろうし、喧嘩をしているといわれても納得は行く行動ではある。

で、交尾だった場合、見ての通り女王は這う這うの態でヒトを襲う余裕などなさそうだし、オスはそもそも針がないはずだから、私を襲う能力をもたないはず。

「よって安全」

という結論になる。

でも、喧嘩だった場合、殺気立った彼女らが襲ってきてもおかしくない。

結局、腰が引けながらの観察。

で、たぶん交尾だろうなぁとおもいながら、交尾?の終わった女王のあとをつけると、なんと女王は川に落ちて、そのままどこかに流されて行ってしまった。

……繁殖の成功は、案外低いのかもしれないと思った。

アディオス

 


2020年12月24日