ミャンマーで調査してるの、お仕事で。
で、ミャンマーにあまり長く居れないこともあり、大体は短期決戦。2週間くらいで結果を出さないとならない。
こういったとき成功を左右する肝は、どれだけ現地の協力者の支援を得られるか、に尽きる。幸い現地の協力者たちは、みな働き者で協力的。しかし、実を言うとこうして皆が協力的であるのは、私の人徳に負うところが大きい。
というのも、私は常々人の名前を覚えるのが苦手にしているんだけど、こと協力者に関しては話は別で、極力、名前を覚える努力を払っているからである。なぜかというと、人は名前を覚えてもくれない人に親近感を抱くわけもなく、そう言う場合は、「名前も覚えてくれん奴と働くのはまっぴらごめんである。まぁ、適当に働いたふりだけしておいて、お給金だけもろときましょか」となってしまう。そうならないために、名前を覚えるのは最低のマナーなのである
で、今回の協力者の名前はジージージョー。まぁ、日本語のアルファベット(カタカナ)でつづると、ジージージョーなんだけど、現地の人がジージージョーを呼ぶ場合には、全くジージージョーには聞こえず、それは、ジゥェウィージゥェウィーチョァウェなのである。
こういった場合、聞こえたとおりに発音すべきで、つまり、ジージージョーではなく、ジゥェウィージゥェウィーチョァウェの発音が正解。
で、ここで皆様にお願いがあるのですが、ジゥェウィージゥェウィーチョァウェと発音してみてください。そう、なかなか難しい。しかし、困難であることを理由にあきらめるのは、根性が足りません。
そこで、私はジージージョーに用事があろうがなかろうが、ジージージョーに向けて、ジゥェウィージゥェウィーチョァウェと言うようにしていたのだが、現地の発音に近い音、つまり聞こえたとおり発音するためには、顔の筋肉を全開で動かす必要があり、そうすることでやっと、自分の納得のいくジゥェウィージゥェウィーチョァウェに達するのである。
さて、こうした努力を持って繰り出されるジゥェウィージゥェウィーチョァウェなのだが、ジージージョー本人には全く自分の名前とは聞こえないらしい。なぜならば、私がいかにジゥェウィージゥェウィーチョァウェと声を張り上げようが、ジージージョーは知らんぷりをするからである。いじわる。
しかし、努力というものは必ず報われるものであり、だからこそ我々は努力を惜しまない生き物なのであるが、私のジゥェウィージゥェウィーチョァウェも報われる日が来たのである。つまり、数日のジゥェウィージゥェウィーチョァウェを経て、ジージージョーがどうやら、
「このおっさん、ジゥェウィージゥェウィーチョァウェ、ジゥェウィージゥェウィーチョァウェ、うるさいあるね。うるさい、うるさい思うてたけど、もしかしてこのおっさん、私のことジゥェウィージゥェウィーチョァウェとよんどるん、ちゃーいまーすかーぁ!?」
と気づいてくれたのである。それ以降、ジージージョーは、私がジゥェウィージゥェウィーチョァウェと呼ぶ度に、きっとそれは私のことを呼んでいるのだろうと忖度し、応えてくれるようになったのである。
では、私は今でも、ジージージョーをジゥェウィージゥェウィーチョァウェと呼んでいるのかというと、否である。なぜかというと、調査を一緒に行っている大学院生が、
「先生?ジゥェウィージゥェウィーチョァウェって何すか?それに、ジゥェウィージゥェウィーチョァウェっていうときの先生の顔、やばいっすよ」
と言いやがるからである。顔がやばいのは、なるべく現地の音に近づけるために、顔をこわばらせているためであり、こうした努力が外国語を習得するうえで重要なことに、彼はまだ若すぎて気が付いていないのである。
で、大学院生にその通り伝えると、なんと意外にも大学院生は
「ジージージョーって普通に言えば、ジージージョーには伝わりますよ」
などと言うではないか。これは外国語を日本語の範疇としてとらえようとする全く誤った理解であり、現地人が言うように、つまり聞こえたとおり発するのが鉄則、つまりそうしなければ通じるはずがないのである。大学院生が持つ類の誤った認識を矯正することも高等教育機関の定めである。つまり私の仕事。
しかし、私自身、常々、凝り固まった思考は禁物だと考えている。ありえない大学院生の見立ても、一刀両断に切り捨てるのではなく、一度評価する必要もある。これが大人の対応。
物は試し。おそるおそる、大学院生が言う通り、ジージージョーにジージージョーと呼びかけることにした。試しにね。
すると、なんと不思議なことでしょう。ジージージョーは普通に、返事をするのでは、ないでしょうか。
つまり、ジージージョーにはジゥェウィージゥェウィーチョァウェではなく、ジージージョーと言ったほうが普通に通じることがわかったのである。それ以来、このおじさんは、変顔をしてジゥェウィージゥェウィーチョァウェと呼ぶ努力を、やめてしまったとさ。めでたしめでたし。
アディオス!