件名 奇跡
きせき【奇跡・奇蹟】
常識では起こるとは考えられないような、不思議な出来事。特に、神などが示す思いがけない力の働き。また、それが起こった場所。グーグル検索より
信心深いほうの反対の端にいる私は、別に無神論などと言うたいそうな立場ではないものの、まぁ、宗教的な信仰心はひっくいのである。そんな私が回心するきっかけになった、奇跡の仔犬のお話をご披露いたしましょう。
もう、10年くらい前のことだ。年の瀬も押し迫ったとある週末、上の娘は通っている幼稚園の行事であるクリスマス会に参加するため、週末にもかかわらず幼稚園に出ておった。下の娘はその頃確か、生まれてから二度目のクリスマスを体験するくらいの大きさで、全然幼稚園児ではないのだから、姉と同じイベントに参加することは許されていなかった。
しかし、この幼稚園は、幼稚園に上がる前の子供たちにもちょっとしたクリスマスイベントを用意してくれていて、姉がクリスマスイベントに参加している間、下の娘はそれに参加させようということになった。
で、こういったクリスマスイベントでは、大概クリスマスプレゼントが配られる。きっと、下の娘が参加するクリスマスイベントでも、クリスマスのプレゼントがもらえるだろう。そう思った私は、出掛けに、本当に何気なく娘に、
「クリスマスプレゼント、何が欲しい?」
と聞いてみた。すると、娘は、はっきりと
「犬のぬいぐるみ。大きな犬のぬいぐるみ」
と言いよった。この回答に私はかなりの違和感を覚えたので、10年たった今でもすごくよく覚えている。違和感の出どころは、まず、娘が流ちょうに話したことにある。まだ、2歳にも満たなかった下の子は、話せるにしても、まだまだたどたどしいもので、通常は何言っているかわからないことのほうが多かったのに、この時は、はっきりと、意味の分かる文を発話したのである。
違和感の所在はそれだけではなかった。それまでの娘を見ていても、犬が好きなそぶりも、ぬいぐるみが特に好きだというそぶりも見せなかったのだから、私は娘が犬好きだとは思っていなかったし、ぬいぐるみ好きだとも思っていなかった。だからこそ、彼女が犬のぬいぐるみを所望するなどとは全く思いもよらなかったのである。「へぇ、犬好きなんだ、ぬいぐるみ欲しいんだ、意外だね」というのが正直な感想だった。
で、クリスマスイベントだが、私の見立て通り、会の後半でクリスマスプレゼント大会に突入した。ただ、みんなが同じものをもらえるのではなく、くじ引きでもらえるプレゼントが変わるという趣向だった。隣の部屋の壁のところにたくさん紙が貼ってあり、子どもが無作為に一つだけ引っ剥がし、それを先生の所へ持って行く。紙の裏側には数字が書いてあって、実はくじの役割をして、その数字と同じ数字のついたプレゼントがもらえるという仕組みだった。
小さい子からくじを引きに行けたのだけれども、娘は参加者の中でも小さいほうで、かなり初めの方にひかせてもらえて、胸を張って隣の部屋にくじを取りに行く姿が見えた。で、そのくじを先生に渡して、プレゼントに交換してもらうのに時間がかかったのであろう。少したってから娘が、プレゼントとともに私のもとに帰ってきた。
娘を見ると、にわかには信じられないような光景が、、、。
娘は、自分と同じくらいの大きさのスヌーピーのぬいぐるみを抱っこして、それを一生懸命運んでいるのである。
「それもらえたの?」
ときくと、娘は無言で、満面の笑みとともに大きくうなずいた。大きな、イヌのぬいぐるみだ!
「よかったね、欲しかったものがもらえて」
と声をかけると、娘は大事そうにスヌーピーを抱いて、にやにやしていた。神様はいるのではないかと私に思わせた瞬間であった。
さて、そのスヌーピーであるが、意外にも娘はすぐに興味を失ってしまい、スヌーピーが娘の相手をしていた期間は本当に短く、人生のほとんどを第二の人生として、そして今でも、私の抱き枕として奉仕を続けておる。そして、大夫黒ずんでしまったスヌーピーを見るたびに、奇跡の仔犬の物語を思い出すのである。
メリークリスマス。
アディオス