件名 職場の安全衛生について

夏休みはフィールド活動の期間です。今月は夏休みを前にして、フィールドに潜むリスクについて紹介、解説していこうかと思っています。




マレーシアに来ているの、お仕事で。

我が研究地にはヒルという血を吸う動物がいらっしゃる。半端ではない位いらっしゃる。
9月に調査した時には、
「吸いたければ、どうぞ」
という男らしい態度とともに丸腰でヒルに挑んだところ、見事に返り討ちにあい、一日にうちに10カ所近くもかまれ、30を超えるヒルが体の上を這いまわる己の姿にさすがに気持ちが悪くなり、
「吸いたければ、どうぞ」
等と言ってしまった今朝の自分を激しく恨んだものであった。

さて、ヒルにかまれるとどうなのかというと、まず短期的には血が止まらなくなる。このため、血を吸われた部分に接触する服は真っ赤に染まる。逆に、真っ赤に染まったTシャツを見て、「さっき違和感を覚えたのだが、ヒルだったのか」と、はじめてヒル被害を認識することも多い。そして、その後数日間は噛まれた場所が激しくかゆくなる。

さて、それ以上のこと、例えばヒルにかまれた後に感染症に冒されるリスクなどについては、私は詳細を存じ上げないのであるが、マレーシアから大学事務にヒルに噛まれまくっている旨を報告したことがあるのだが、その際、大学事務からは「ヒルにかまれた後、川に入るとレプトスピラ症なる、なんだか怪獣の名前のような病気にかかるので注意したまえ」という旨の返信があり、
「もう既に、毎日毎日、景気よく川をジャバジャバと横切っとりまんがな」
と、ガクブルした記憶が生々しい。まぁ、レプトスピラ症にはならなかったのだけれども…

で、次の日は、如何にも体に悪そうな凶悪な殺虫剤を体に振りかける、などの考えられるあらゆるすべての措置を講じてジャングルに入ったのだが、そのかいあって、「どうやら今日はかまれなかった。さすが、これだけの邪悪な力を持つ殺虫剤ならば、きっと私の体にも悪影響あるだろうね。殺虫剤のせいで寿命が全うできなかったりしてね」、なんて鼻歌を歌いながらシャワーを浴びるために下着姿になったところ、あろうことか下着が真っ赤に染まっており、もちろん、「とうとう初潮を迎えてしまったか」などと冗談を言えるほどの精神の余裕などなく、ただただシャワー室の中で、「なんでここなん?」「なんでここなん?」と二回、誰に向けて放ったか分からない突っ込みを大声で上げることしかできなかったのであった。突っ込みを上げながらも、自分の将来を酷く、酷く悲観した…そりゃ、やっぱりかゆくなるんだよなぁ…と(信じてもらえないかもしれませんが、幸いにも全くかゆくなりませんでした)。

こんな苦い体験をしているのだから、そりゃあ今回はしっかりヒル対策をしているのだろう、と多くの人が思っただろうけれども、それに対する答えは「否」だ。なぜならば、私は調査地を知り尽くしているからである。つまり、今回の調査は乾期であり、乾季にはヒルのような体がぬれぬれの動物は機嫌が悪くなり、どっかで身を潜めて、ただただ雨季が来るのを待っているはずであり、私の血を吸うほど彼らには余裕はないからである。だから、特に何か策を講じるまでもなく、いわば、この時期はヒルの被害には合いたくたって合えないのである。

……合えないのであるはずだったんだけどね……朝からじゃんじゃん降る雨を、「おかしいなぁ。乾期は雨が降らないはずなんだけどなぁ」と首をかしげて見ていたのだが、雨の降る中ジャングルの中を40分くらい歩いただけで、体中を這いまわるヒルは軽く20匹を超える事態に遭遇し(24匹おりよった)、急激にテンションが下がったのであった。こっちは再び丸腰だし、今回は20kg以上の荷物を背負って、10km以上ジャングル内を歩き回るという類の調査なので、荷物が重すぎて、目的地が遠すぎて、なかなかヒルに気を向けることなどできないやしない。いじわる。

初日は、2カ所の被害に抑えられたが、二日目は14カ所。今回も全身血だらけなのである…

ひとことだけ言わせていただけないだろうか。
「しっかりしろ、乾季!」

アディオス

2018年07月02日