件名 通学時における特別配慮について

週末になると電車、バスの便が減るので、公共交通機関を利用して通学する私には不便だけど、まぁ、週末は電車もバスもガラガラなんだから、文句を言うよりもむしろ、動かしてくれていることを感謝する方が正解。

で、この日も片道2時間くらいかけて大学へ行き、同じくらいかけて帰ってきた広島駅のことだった。

ちょうどシェラトンホテル前のペディストリアンデッキを歩いている時のことだった。数十メートル前がさわがしい。

誰かが大声を出して騒いでいるようだ。

通勤途中、時々、こういうのがあらわれるんだけど、君子はこういうのには近づかない。君子を偽称する私は、近づかないようにしたいんだけど、近づかないためには近づかない対象をしっかりと認知する必要がある。

前をじっと見て、騒いでいる者の同定作業に入った。

数十メートル先にはご婦人が二人いて、お二人はお互い数メートル離れて歩いていた。この距離から、一組のご婦人ではなく、ご婦人が一人ずつ、別々に歩いている構造が読み取れた。

ということは、このうちどちらかが騒いでいる張本人。

で、ご婦人を一人ずつ凝視し、どちらのご婦人が騒いでいるのか同定に入ったのだが、一人は腰の曲がったおばあちゃんらしく、手押し車に荷物を入れて前かがみで歩いている。

もう一人はおばあちゃんというほどの年には見えないのだが、「若い」という概念にはそぐわないご婦人。有名スポーツメーカーのロゴがデカデカと入ったショッキングピンクのバックパックを背負っていた。

こっちだ!

あまり同世代のご婦人たちが利用しないであろうショッキングピンクのバックパックを理由に本能的にそう判断した。そして、ショッキングピンクの動きを注視し、ショッキングピンクと一定の距離を保ちながら進行することにした。さすが、危機管理のできる男は違う!

で、ショッキングピンクは広島銀行の方へ行く階段を降りて行ったので、私は胸をなでおろし、それとは別の階段、つまり、マックスバリューへ向かう階段のほうを降りようとした時だった。

私の後ろに腰の曲がった、手押し車を押しているご婦人が付いてきた。手押し車を押しているのだから、てっきりエレベータのほうに行くと思ったのに。

ん!?

……この先階段だし、手押し車を押しているおばあちゃんは進めないはず。目が悪いのかな? 見えていないのかな? このまま気が付かないで階段に落ちたら大変だな。声をかけようかな? 

と振り返った時だった。その腰の曲がったご婦人は私に向かい、

「○○○○○!」

と、とてもここに書けない凶悪な言葉を大声で言い放った。

こっちの方だったのか....

気にする必要なんてこれっぽっちもないとは理性的にはわかっているけど、投げつけられた言葉が強すぎで、感情のほうが完全にダウン。呪いの言葉をぶつけられた時の気持ちが初めて、身をもって分かった。

真っ暗な気持ちになって、家に帰った。

言葉にはこんなにも強力な破壊力があるのか……。これは、暴力だ。

アディオス

2021年03月27日