件名 (お願い)野外活動を安全に行うために(2)

まえーはーうーみ、うしろーは、はーとーやーの、たいーりょーえ

大丈夫だ。前回の魚釣りの続きの記事だ。

愛知県における知多半島、その付け根で育った私にとっては当たり前のように見たコマーシャルは、原始人が出てくる関ヶ原鍾乳洞、「ほんとにほんとにほんとにほんとにらいおんだー」の富士サファリパーク、そして前出のハトヤだ。40年位前の話だから、今もそうかは分からないけど。ちなみに、どこにも連れて行ってもらっていない。

さて、ハトヤには「たいりょーえん」なる釣堀があるようで、確か、謳い文句は、「三段逆スライド方式」。「釣れば釣るほど安くなる」というナレーションを聞くにつけ、子供の頃の私は、「いっぱい釣れたら、ただになっちゃうじゃーん?」と、射幸心を刺激され、飛び跳ねて喜んだものだった。ハトヤ、行ったこと無いけどね。

浅はかな子供の私は、釣れば釣るほど全体の料金が無料に近づくと認識していたのだが、高度な知恵を大量に詰め込んだ大学教授、ウォーキングコンピュータたる現在の私は、「三段逆スライド方式」に対して、違う認知の仕方をしている。つまり、まぁ、たぶん「三段逆スライド方式」とは、魚の一匹あたりの値段表が三枚あって、釣れた数に応じて値段表がより安いほうにシフトするといった類のもので、釣れば釣るほど全体の料金はもちろん高くなるけれども、お得感が増すといったものだろう。まぁ、間違っていたら、許しくれ。この通りじゃ。

で、私たち家族が訪れた釣堀は、三段逆スライド方式を採用していない。釣れば釣るだけ、それに見合ったお金を正比例で払うという、まぁ、普通の釣堀なのだ。で、この釣堀には食堂が併設されていて、追加料金を払えば、食堂で、釣った魚を調理してくれて、我々はそれを食べることができるのだ。もちろん、釣った魚を持ち帰ることも可能だが、未熟な調理技術しか持たない私は、「アマゴの南蛮」とか、作れるはずも無い。釣った魚は、うちには持ち帰らず、その場で食べると決めていたのである。

で、家族の大きさから割り出した魚の数が12匹。12匹までならば、みんなで協力し、おのおのがベストを尽くせば、おいしく食べられるはずだ。これを超えたら危険である。せっかく釣り上げた魚が、せっかくの命が無駄になってしまうのだ。だから、一人6匹。合わせて12匹ルールなのである。

2本の竿をゲットし、まずは、上の娘の竿の準備をしてやった。そして、そのあと直ぐに下の娘と竿の準備をしている時、異変が起こった。

上の娘が、
「パパ釣れた!パパ釣れた!」と騒ぎ始めたのである。まさかと思いながら見てみると、確かに釣れている。入れ食い状態だ!

上の娘が釣り上げた魚の口から、針を外す作業のために、下の娘から離れると、下の娘がブーブー言う。なんせ、お姉ちゃんの魚を釣り上げた勇士を見てしまったのだから、自分もやりたくてうずうずしているのである。でも、この場合は魚の口から針を外す方がプライオリティが高い。だって、魚がかわいそうだから。

で、なんだかんだでやっと下の娘の準備が整うと、下の娘もすぐに釣った。下の子が釣った魚から針を取っている間に、上の娘も釣る。バケツの中の魚は、見る見る増えていった。

途中、上の娘と下の娘の糸が絡む。釣り糸がはるか遠くの木の枝に引っかかる。つり針がトイレの屋根に引っかかる。といった、まず普通、起こらないだろうという事態が頻発した。私はというと、もつれた糸をほどいたり、木に登ったり、トイレの屋根に登ったりと、大車輪の働きだった。こうしてハプニング続きにもかかわらず、20分そこらで、バケツの中の魚は10匹になっていた。

私は、
「二人ともあと1匹ずつ釣ったら終わりだからね」
と、最後通告を行った。

程なくして、下の娘が最後の一匹を釣り上げた。そして、その直ぐ後に、上の娘も釣り上げた。

「あー楽しかったねぇ」
と言いながら、上の娘が釣った魚の口から針を外していると、そこには信じられない光景が!!下の娘が次の一匹を求めて釣り糸を池にたらしているのである。私は激しく非難した。
「約束が違うじゃろーが。今すぐ、釣るのをやめんさい!野外をなめるんじゃなーい!」
と。すると下の娘は、


「分かっているの。約束は分かっているの。でも、私は自分が抑えられないのー」


と言いながら、釣りを続けよる。ようやくお姉ちゃんの魚から釣り針を外し、そのまま妹の釣竿を取り上げようと妹のほうに近づくと、背後で不穏な動きが……振り返るとおねえちゃんも釣り糸をたらし始めている!
「なにしとるんじゃぁ。貴様、自分がやっとることわかっとるんくわぁ」
と上の娘を非難すると、一言だけ、


「妹だけずるい」


とだけ言い放ち、涼しい顔でつりを続ける。二人に釣竿を持たせてしまったがため、二人の動きを掌握できないのだ!

結局、予定を4匹オーバーしたところで、何とか両者から釣竿を取り上げ、強制的に終了させてやった。

食べきれるだろうか?と不安になりながらも、全ての魚、計16匹の魚の調理を依頼した。娘たちは、がむしゃらに自分らが釣った魚をぱくついた。そして、見事全てを平らげたのである。魚は激しくおいしかった。そう。インドネシア東カリマンタン州で食べたイカンバカールくらいおいしかった。

……野外では、適切な判断と無謀な挑戦との境界は、時として悲しいほどに薄くなる。

アディオス!

マラリアに罹った稀有な経験の連載が、WebマガジンBuNa誌上で始まりました 。 ぜひ、遊びに行ってください。

2018年07月13日