件名 ヤマカガシとコブラ

マレーシアに住んでいたころの話。

住んでいたアパートは、その当時の職場のであった大学のすぐ横に立っていて、大学へは歩いて通っていた。

大学とアパートの間は、金網のフェンスで仕切られていたけれども、一部破れていて、大学生たちの通学路になっていた。私もその破れた部分を使って通学していた。

その辺りだったと思う。排水路が掘ってあって、排水路の三面はコンクリで固めてあった。普段は水はほとんどなかったけど、雨が降った時だけ水が流れていた。

ある日、排水路に目をやると、そこにヘビがいやがった。ネズミでも取っていたのだろうか? 黒い、大きなヘビだった。見た目、普通のヘビだった。大きいけど。

私は排水路の上にいる。あいつは排水路の中にいる。

この位置関係から、ヘビに逆襲される心配は少ない。私は排水路に守られたセーフゾーンにいるということだ。

で、私は、そのヘビにちょっかいを出して遊ぼうと思った。

近くにあったアカシア マンギウムの枝を拾ってきて、その枝でヘビをつついて遊んでみた。

ヘビは最初、いやんいやんと枝から逃げていたけれども、排水路には逃げ場はなかった。

そのうちに、そのヘビは勇敢にも、枝に攻撃を仕掛けようとしてきた。

「おっ」と思って見ていると、にわかにヘビは鎌首をもたげた。

「あれ? 普通のヘビって、鎌首をもたげたかなぁ?」

と思って見ていると、それまで普通の頭だったのに、みるみる首が広がっていった。

怒り狂って鎌首をもたげた、フード付きの頭……その姿はまさにコブラ。

コブラじゃん!

それまで私は、コブラは四六時中フーディーな首をもっていたと思っていた。思い込んでいた。だからこそ、排水路にいた黒くて大きなヘビは、(そういう首の形じゃなかったから)コブラじゃないと思い込んでいた。

しかし、「コブラ、四六時中フーディー説」という認識は誤りだった。コブラは怒ったときだけ首の部分をフードにして威嚇するようだ。

ザ・コブラのいでたちに変わった黒いヘビを見て腰を抜かし、急いでその場から逃げ出した。30歳くらいの私。

先日、大学でヤマカガシを怒らせて遊んでいた50歳になった私は、首の部分がくびれていく様を見ながら、マレーシアでのコブラの甘酸っぱい思い出がよみがえってきた。

アディオス

 

黒っぽいヤマカガシ

2021年05月08日